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2023-11-30

身体所見普及委員会:循環器部門 担当

  • 心エコー図が臨床応用されたのは,たかだかこの50年です.一方,身体所見(特に循環器領域)は紀元前から活用されてきました(例:アリストテレス).画像診断学の目覚ましい発展を見れば,身体所見学の衰退は致し方ないのかもしれません.しかしフィジカルの知識は日常臨床を色彩豊かな楽しいものに変えてくれます.
  • 以下の表に示すような人名の冠されたフィジカル所見(人名フィジカル)はなおさらです.幾つ知っているのか是非,確認してみてください.自信のない所見はネットで検索してみてください.本ページにも多くの所見がすでにアップされています.これらの人名所見は,明日からの循環器診療を艶やかなものに変えてくれます.


😀 皆で盛り上げよう
  • 勝手に身体所見普及委員会を設立して,勝手に循環器部門担当を宣言しています(X:旧ツイッター @jsbtk).協賛いただける方のご参加をお待ちしております(笑)許可は不要なので自由に宣言して活動を開始してください 😀

松下記念病院 川崎達也)

2023-11-27

胸鎖乳突筋 Sternocleidomastoid muscle

軽労作での息切れで来院した症例(体位は座位)

🐤 解説
  • 座位で内頸静脈の明瞭な拍動を視認可 ➜ 中心静脈圧は高度に上昇
  • 拍動は隆起ではなくて陥凹で不規則と思われる ➜ 心房細動の疑い
  • 吸気負荷の追加 ➜ 胸鎖乳突筋が明瞭化し頸静脈反応は評価できず
  • 患者さんの右側から再度負荷 ➜ 拍動上縁は上昇するが陽性波なし
  • 本例の最終診断は心房細動を合併した非代償性の左心不全(PEF)

🐥 独り言
  • 座位で内頸静脈の陥凹を認めた場合,吸気負荷で陽性波(CV merger)になれば心不全はより重篤と考えられます.本例は負荷後も陰性波のままだったため,そこまで重症ではないと考えられました.ちなみに吸気負荷で拍動が消失する症例を経験することは(ほぼ)ありません(直近の座位陽性12例では吸気で拍動消失例なし).
  • 安静座位で内頸静脈の拍動を認めない症例で,吸気後に拍動が出現すれば中心静脈は中等度上昇していると(個人的には)判断しています.胸鎖乳突筋が安静時から目立っている場合(自験例)や本例のように吸気で目立つ場合(偽クスマウル徴候)があります.しかし筋肉は拍動しないので頸静脈と見間違うことはないと思います.

松下記念病院 川崎達也)

2023-11-23

右心カテーテル

  • 最近では右心カテーテルを行う機会はめっきり減少しました.しかし頸静脈所見を解釈するためには,右心カテーテルで得られる圧波形を知っておくことが重要です.少し前にSNSで目にした論文)が気になったため,右心カテーテルの歴史と代表的な波形を復習してみました.

♻ 歴史
  1. 西ドイツの泌尿器科医フォルスマンWerner Forssmann、1904-1979)が自らの腕を切開して尿道カテーテルを右心房まで到達させレントゲンを撮影した(Klinische Wochenschrift 1929;8:2085). その一件で病院を解雇されたが,これは世界初の心臓カテーテルで1956年にノーベル生理・医学賞を受賞.同じ様な行動をとった医師が他にもいたがフォルスマンのみ写真が残っていたらしい(
  2. フランスの医師・生理学者であるクールナンAndré Frédéric Cournand, 1895-1988)が,右心カテーテルによる圧測定および心拍出量の測定法を確立した(J Clin Investig 1945;24:106).フォルスマンと同時にノーベル生理・医学賞を受賞した.同年は3人の同時受賞でもう1人はリチャーズDickinson Woodruff Richards Jr.,1895-1973)
  3. アイルランドの心臓専門医スワンHarold James Charles “Jeremy” Swan,1922–2005)とスロバキア生まれのアメリカの心臓専門医ガンツWilliam Ganz,1919-2009)が先端にバルーンが付いた肺動脈カテーテル(別名:スワン・ガンツカテーテル/Swan-Ganz catheter)を開発(N Engl J Med 1970;283:447-51

- 圧力波形のピットフォールと異常 -

松下記念病院 川崎達也)

2023-11-20

「アレっ?」と思ったら慎重に

2週間前から息切れが続く症例(座位)

🐥 解説
  • 頸部は右側のみでなく正中,左側も拍動(隆起)
  • 吸気負荷でも陽性波所見に変化なし(動画なし)
  • 同様に左上肢の挙上後にも頸部所見に変化なし
  • 最終診断は大動脈弁逆流のコリガン脈(頸動脈)

🐤 つぶやき
  • 右側に限局しない陽性拍動なら動脈性を真っ先に考えるべきでした.呼吸負荷や上肢挙上負荷で変化がないならなおさらです.しかし何故かこの時は頸動脈のことが少しも頭に浮かびませんでした.当日の外来があふれていたことと本例の病歴が典型的な心不全であったためかもしれません(反省😓).前頸静脈(Anterior jugular vein)の拍動って珍しいな〜と思っていました.
  • 上肢の重量は片側で体重の4%程度だそうです(例:体重60 kgなら2.4 kg).2Lのペットボトルを挙上・保持する動作はなかなかの重労働です.挙上に伴う前負荷増大(上肢内血液の心臓への還流)および後負荷増大(上肢が心臓よりも高位に移動)を考えると,上肢挙上は蹲踞姿勢(最強負荷新最強負荷)に匹敵するなかなかの負荷ではないかと思っている今日この頃です.

松下記念病院 川崎達也)

2023-11-16

今週の一枚 🎯

1週間続く胸背部の内部痛(大動脈弁置換術の既往あり)
(左側胸部:少しボケていて🙇)




松下記念病院 川崎達也)

2023-11-13

症状があてにならない時

息切れがあるのかないのかはっきりしない症例

😶 臨床現場
  • 座位では僅かに拍動あり? ➜ 心不全ありとは言えず
  • 吸気負荷で内頸静脈の隆起?(拍動なし)➜ 心不全?
  • 左上肢挙上で周期的な陥凹出現 ➜ 心不全ありと判断
  • 最終診断は慢性左心不全(HEpEF)➜ SGLT2i を投与

🔗 復習
  • 高齢者の心不全例では自覚症状が曖昧なことがあります.加齢に伴う身体活動の低下や各種知覚センサーの鈍化が原因と推測されます.また認知機能障害の合併も念頭に置く必要があります(自験例:ニコニコしている症例).システマティックレビュー(J Card Fail 2017;23:464-75)では,心不全患者で認知症の頻度が43%に達していました(95%信頼区間30~55).怪しければ吸気負荷に加えて左上肢挙上負荷前屈負荷の追加が役立ちます.

松下記念病院 川崎達也)

2023-11-09

今週の一枚 🎯 ゴニョゴニョ

心電図異常(洞調律・ST-T変化)で来院した男性(座位)

😎 診察室中継
  1. 呼吸時の大きな胸壁の動きにめげずに心尖の拍動を探す
  2. 心尖拍動(矢印)を認識したら次はその位置を確認する
  3. 拍動が左乳輪外側とは言えないため心拡大はないと判断
  4. 次に拍動様式を分析:なにか”ごにょごにょ”している?
  5. 触るってみると二峰性拍動(ダブルインパルス)の疑い
  6. 拍動部位で大きなⅣ音を聴診して肥大型心筋症を疑った
  7. その後に心エコー図で心尖部肥大を確認しAPHと診断

😁 楽しい臨床
  • 二峰性心尖拍動(ダブルインパルス)と言えば肥大型心筋症です(特異度98%:当院の臨床研究).心尖部肥大型心筋症に限らず,巨大Ⅳ音を示唆する所見です.視診・触診・聴診のいずれでも診断できますが慣れが必要でしょうか?
  • 最近は,二峰性またはダブルにはあまりこだわらなくていいのではと思っています.リアルの臨床現場では本例の様に胸壁の動きも加わるため細かい判定はより難しく成ります.「なにかゴニョゴニョしているな〜」程度で十分です.
  • 先月に経験した症例はHCMでギクシャクしている心尖拍動でした.視診から肥大型心筋症を疑い,心エコー図で確認する臨床スタイルは机上の空論ではありません.誰にでも可能で,かつ日常臨床を楽しくする知識だと思います.

👻「今週の一枚」の過去の投稿は コチラ松下ERランチ・カンファレンスの名物コーナー)

松下記念病院 川崎達也)

2023-11-06

👴 歴史クイズ

CC BY 4.0



松下記念病院 川崎達也)

2023-11-02

今週の一枚 🎯

慢性心不全でフォロー中の症例(座位)

🔥 解説(個人的見解)
  • 端座位で鎖骨上に内頸静脈の拍動はなし ➜ 中心静脈圧の高度上昇なし
  • 吸気でも拍動は出現せず ➜ 中心静脈圧の中等度上昇なし(ビデオなし)
  • 左上肢の挙上で陥凹が出現(矢印)➜ 中心静脈圧の軽度〜中等度の上昇
  • 新たに出現した陥凹は不規則 ➜ 心房細動の疑い(実際に本例はAFです)

💛 心不全否定のMyパターン
  • 症状で心不全を疑わない症例:安静時に内頸静脈の座位陰性を確認
  • 心不全が否定できない症例:安静時と吸気負荷後ともに陰性を確認
  • 心不全の可能性あり例:安静吸気左上肢挙上すべて陰性を確認

👻「今週の一枚」の過去の投稿は コチラ松下ERランチ・カンファレンスの名物コーナー)

松下記念病院 川崎達也)