労作時の動悸感を訴える症例(端座位)
😀 解説
- 安静時や吸気時に鎖骨上にわずかに拍動あり??
- 前屈で周期的拍動(隆起)が明瞭になった(矢印)
- 隆起を触ってみると明らかに動脈性拍動であった
- 本例は最終的に心不全の状態ではないと判断した
😎
追加コメント
- 前屈で頸静脈所見が悪化する症例は少なくありません.陥凹から隆起になることが多いと思いますが(自験例),吸気陰性なのに前かがみでいきなり陽性波を示す症例もあります(自験例).前屈は吸気負荷よりも心臓への負担が大きいと思います
- 本例も一見,中心静脈圧の上昇が疑われましたが,最終的には体位変換に伴って顕性化した動脈拍動でした.大脈を示す病態(大動脈弁逆流や甲状腺機能亢進,発熱,貧血など)はないため,加齢に伴う動脈蛇行(=偽コリガン脈)と診断しました.
- 鑑別すべき病態に肥大型心筋症のa波の顕性化があります(自験例).触診で静脈を確認したら次は脈や心音を併用した時相確認が必要です.隆起のタイミングが前収縮期なら硬くなった心室(HCMなど)や不整脈(キャノンa波)などを考えます.
下腿症状で来院した男性
☆ 解説
- 皮膚の肥厚と境界不明瞭な色素沈着,鱗屑,苔癬化
- 右下腿前面の中央付近にびらんまたは潰瘍の治癒跡
- 本例に下肢静脈瘤を示唆する所見は明らかではない
- 男性にもかかわらず下腿に体毛をほとんど認めない
- 最終的に慢性両心不全によるうっ滞性皮膚炎と診断
★ 鬱滞性皮膚炎(Stasis dermatitis)
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ヒト下肢静脈は,深部静脈・表在静脈(伏在静脈)・深部と表在をつなぐ穿通枝・ポンプ作用を担う静脈洞から構成される.なんらかの原因で静脈圧の上昇を生じて皮膚炎をきたした病態がうっ血性皮膚炎で,重症化すると下肢静脈性潰瘍を生じる.
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下肢静脈高血圧のため慢性的に血管透過性が亢進して,フィブリノーゲンや赤血球が血管外に漏出して炎症を惹起し,ヘモジデリン沈着や結合織の増生と硬化を生じる.組織レベルでの動脈血流入が減少して栄養状態が障害されると皮膚潰瘍に至る.
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通常は50歳以上の方に多く,男性よりも女性の方が罹患頻度は高い.原因には静脈瘤,肥満,(多胎)妊娠,下肢静脈血栓,心不全,腎不全,高血圧,特定のライフスタイル(例:少ない身体活動や長時間の立位・座位),下肢の外傷後などがある.
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松下ERランチ・カンファレンスの名物コーナー)
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心不全の本態:左室拡張期圧の上昇(心臓が広がりきったときにかかる圧を逃がしきることができない状態)
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診断時にアクセスの容易な所見:①心尖拍動,②両肺ラ音,③傍胸骨拍動
- 経験を要するが特異性の高い所見:①III音,②頸静脈怒張
😗 独り言
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「心不全かも?」と思った時に心尖拍動や傍胸骨拍動がアクセス容易な所見であることにはとても同意します.しかし残念ながら心不全診療の現場で活用されているとは(全く)思えません.とにかく触ってみるという一歩を踏み出してみることが大切でしょうか(難しいことは考えずに)
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本論文では頸静脈所見が経験を有する所見に分類されています.これは従来から行われてきた方法論に起因する問題だと思っています(ルイス法).例えば45度の半座位なんて臨床現場では困難です.是非とも簡易定性法(座位で鎖骨上に見えるか否か)を試してください.ハマります😊
肥大型心筋症による慢性心不全例(座位)
😎 解説
- 安静座位で鎖骨上に内頸静脈の陥凹あり(矢印)
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クスマウル徴候陽性:吸気で陥凹 ➜ 隆起(矢印)
- 前かがみで内頸静脈の陽性拍動が明瞭化(矢頭)
👟
Bendopnea(前屈時呼吸困難症)
- 前かがみになると通常,頸静脈拍動がより明瞭になります.その機序は,前屈による胸腔内圧の上昇に伴い左室拡張末期圧や肺動脈楔入圧,右房圧などがさらに高くなるためと考えられてれます(JACC Heart Fail 2014;2:24-31).
- 上記の心内圧の増加に加えて,体位変換による物理的な距離の変化もその一因かもしれません.本例の動画からも分かるように,前屈時には心臓と内頸静脈の垂直距離が短縮します(いわば首から上だけの[逆]半座位のような感じ?)
- いずれにせよ吸気や左上肢挙上と同様に簡便な負荷に違いありません.患者さんに「ちょっと前かがみになってもらえませんか」と言うだけです.そして「普段の生活でこういう体勢はしんどくありませんか?」と続けてみてください.
👀
前屈に関する過去の投稿 ➜
コチラ
労作時の息切れで来院した男性(座位)
😎 解説
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吸気時の肋間陥凹(フーバー徴候:矢印)➜ 後に慢性閉塞性肺疾患 COPD と診断
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男なのに乳房の発達(女性化乳房:矢頭)➜ 前立腺ガンでホルモン療法中が判明
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心尖拍動の外方偏位+抬起性拍動(○)➜ 肥大型心筋症による慢性心不全と診断
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検診で心電図異常を指摘された無症候例
👥 ダブルインパスルス(二峰性心尖拍動)
- 左半側臥位で抬起性(持続時間の長い)の心尖拍動(矢印)
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よく見るとグググといった(スムーズでない)隆起パターン
- 付箋をつけるとその立ち上がりが一峰性でないことが分かる
- 最終診断は肥大型心筋症(非閉塞性かつ非対称性中隔肥大)
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コメント
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Double apical impulseとは小さな振れ(atrial kick=A波=心房収縮波)の後に大きな振れ(抬起性)が続く心尖拍動で,肥大型心筋症にかなり特異的です(感度27%・特異度98%)(当院の研究).つまりあればおそらく肥大型心筋症と確定可
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問題はダブルインパスルスを認識できるか否かです.視診・触診・聴診の中では視診が最も難しいと思いますが,これは慣れで克服できると思います.本ページには肥大型心筋症の二峰性拍動が多数アップされているので確認してみてください(ココ)
- 視覚の時間分解能は低いと思われますが,指先は超高感度の圧センサーです.何かギクシャクした隆起だと思ったら是非,指先で感じてみてください(触ってなんぼの法則).ポイントは指腹でなくて指先でしょうか.ズズンと伝わってくるでしょう.
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個人的にはⅣ音が好きかつ得意なので,ダブルインパスルスよりも巨大Ⅳ音(心房収縮波の音版)を信頼しています.ただし閉塞生の肥大型心筋症では収縮期雑音が過剰心音の聴診を難しくすることが少なくありません(自験例).この時は指先に全集中
深部静脈血栓症の疑いで循環器内科を紹介された症例
🔍
臨床経過
- 両側の下腿にゴム跡(sock marks)が目立つ(右側<左側)
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左足関節以遠は発赤・腫脹・疼痛・熱感(ケルススの四徴)
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Dダイマーは低値でホーマンズ徴候(Homans's sign)も陰性
- 念のために行った下肢静脈エコーでも小さいヒラメ血栓のみ
- 採血で炎症マーカーが上昇していたため蜂窩織炎と暫定診断
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抗菌薬で改善なし(培養陰性)➜
膠原病・リウマチ内科紹介
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最終的には偽痛風(CPPD症)と診断されて NSAIDs で改善
😅
独り言
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最近,循環器内科を紹介受診された方でうまく診断ができないときに,膠原病・リウマチ内科の先生に相談する機会が増えています.
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我々循環器内科医とは違う視点からの診察であるためか,うまく診断に辿り着くことが多いと思います.本当にありがとうございます.
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😀
先日の学会で...
- 友人のフィジカル匠からナイスな論文を教えてもらったのでまとめておきます
🎼 楽音様雑音(Musical murmur)
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心エコー図と心音図を行った3,255例中93例(2.9%,男49例・女44例,平均55歳)
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出現時相は収縮期が77例(83%)で,拡張期が16例(17%)(拡張早期雑音は8例)
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大動脈弁由来が43例:31例が弁の石灰化で,その他には疣腫,術後の変化,弁逸脱
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僧帽弁由来が26例:17例が弁逸脱,他は弁輪石灰化,疣腫,術後変化,弁輪拡大
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三尖弁由来が10例:弁石灰化1例,2次性閉鎖不全5例,ペーシングリード関連4例
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弁膜症はAS 14.3%,AR 8.7%,A弁石灰化 5.0%,MR 6.3%,連合弁膜症3.1%,MSなし
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先天性心疾患ではVSD 4.7%のみで,他はHCM 5.1%,ペースメーカ植込み例が10.5%
😃
追加コメント
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本論文内の楽音様雑音の定義は「聴診上純音で,楽器の音や鳥の鳴き声に代表されるような特徴的な雑音を聴取し,心音図で規則正しい正弦波形を呈したもの」です.なお正常心に認められる若年者の Still's
murmur(収縮期前半の低調なブンという無害性(機能性)雑音)は除外されています.
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楽音様雑音でも比較的短い雑音なら"honk"(自動車のクラクション)や"whoop"(フクロウなどのホーホーと鳴く声),大動脈弁逆流雑音の長い持続なら"seagull
cry"(カモメの鳴き声)などと称されているとも記載されています."seagull
cry"は"dove-coo
murmur"(ハトのクークー鳴く音)や"cooing murmur"(乳児のア〜 or ウ〜という発語)とも言われます.