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2023-09-28

ホーマンズ徴候 Homans's sign


  • 深部静脈の血栓(性静脈炎)の有無を判定するのに有用な身体所見のひとつ
  • 足首の強制背屈時に膝の屈曲あるいは下腿の疼痛が出現すれば陽性と考える
  • 米の外科医 John Homans (1877–1954) に由来(N Engl J Med 1944;231:51-60
  • 診断能は必ずしも高くないため,Dダイマーや静脈エコーと組み合わせて使用
  • 感度10-54%,特異度39-89%(McGee. Evidence-Based Physical Diagnosis 2012)


Homan's Sign by siom916 より)

😶 おまけ+独り言
  • ガイドラインには「末梢型DVTには画一的に抗凝固療法を施行しない」(推奨クラス I  エビデンスレベル B)と記載されています(表33).(追記:中枢型=腸骨・大腿・膝窩静脈の血栓).本文中にも「末梢型は,中枢型にくらべてPTEのリスクは約半分と低く,2週間以内に血栓の中枢伸展がなければその後の伸展はない.超音波検査で1週ごとに中枢伸展の有無を経過観察するのがよい.中枢伸展があり,症候性で出血リスクが低い場合には,中枢型に準じた抗凝固療法を行う.」とも書かれています.つまり無症候性の遠位部血栓はエコーによるフォローで良さそうです.
  • ガイドラインには「Homans徴候は足関節を強く背屈させると腓腹部に強い疼痛が生じる所見で,Lowenberg徴候は腓腹部に血圧計のカフを装着し,60~150 mmHgに加圧すると疼痛を生じる所見であるが,特異性がなく,あまり使用されなくなっている524)」とも記載されています.しかしここでの引用524)は半世紀以上前の論文です(Br J Surg 1968;55:822-4).Homans徴候とLowenberg徴候の説明のための引用かもしれませんが,それならば 524) の記載位置が少しずれていると思います.いずれにせよ個人的には今でもHomans徴候を活用しています 😁

松下記念病院 川崎達也)

2023-09-25

第102回(2013)看護師国家試験より

問題 心音の聴取部位を図に示す。肺動脈弁領域の聴診部位はどれか。ただし、点線は心臓を示す。

 
 
 
 
 

判定

😉 聴診部位(覚え方は ➜ コチラ
  1. 第2肋間胸骨右縁(2RSB)は大動脈弁領域
  2. 第2肋間胸骨左縁(2LSB)は肺動脈弁領域
  3. 第3肋間胸骨左縁(3LSB)はErb領域
  4. 第4肋間胸骨左縁(4LSB)は三尖弁領域
  5. 心尖部は僧帽弁領域

😳 独り言
  • 上記領域は単なる命名で個人差もあるから特にこだわる必要はないと思うけど、肺動脈領域とErb領域がごっちゃになっている方も少なくないのでは...
  • 聴診順は ① ➜ ⑤ でも ⑤ ➜ ① でもどちらでもOKです。心尖部に多い重要音(過剰音やランブル)をすぐ聞きたいか後に取っておきたいかの違いかな

松下記念病院 川崎達也)

2023-09-21

ビンビン来ます

心電図異常(ST-T変化)で受診した高齢者

👻 解説
  • 胸骨頸切痕の上部に規則的に隆起する明瞭な拍動あり
  • 手指で圧迫できず(指先まで拍動がビンビン伝わる)
  • 呼吸負荷を追加しても拍動上縁の変動は観察できない
  • 本例には心電図変化を説明する明らかな心疾患はなし
  • 拍動は加齢に伴う動脈蛇行と判断(=偽コリガン脈

💚 追加コメント
  • 頸静脈の評価は左側の鎖骨上〜頸部で行いますが,前頸静脈(Anterior jugular vein)が目立つ症例もあるので注意が必要です
  • 頸動脈の拍動が明瞭ならコリガン脈ですが通常は頸部側面に認めます.前頸部のみなら動脈蛇行による偽コリガン脈かも(自験例

松下記念病院 川崎達也)

2023-09-18

心雑音の性状(quality, character)

👤 篠山重威先生が25年ほど前にまとめられた心雑音の日本語表現
  • rumbling(遠雷様,輪転様)
  • blowing(吸気性)
  • machinary(機械様)
  • musical(音楽的)
  • rustling, rippling(流水様,さらさら)
  • grating(すり砕くような,きしるような)
  • rasping(やすりをかけような)
  • sawing(鋸をひくような,曳鋸性)
  • pouring(液水性)
  • scratching(爬くような)
  • whistling(吹鳴性)
  • harsh(荒い,ざらざらした)
  • soft(やわらかい)


- 種々の心雑音の典型的な形 -

松下記念病院 川崎達也)

2023-09-14

上肢挙上負荷は慎重に

慢性心不全の増悪症例(体位は座位)

👿 解説
  • 内頸静脈を視認(矢印)➜ 中心静脈圧は高度上昇
  • その拍動は陥凹波ではなく陽性波(ランチシ徴候)
  • 吸気負荷でも虚脱せず ➜ 広義クスマウル徴候陽性
  • 左上肢の挙上に伴い外頸静脈の明瞭な拍動が出現
  • 中心静脈圧の上昇程度:上肢挙上負荷>吸気負荷

💀 独り言
  • 座位での頸静脈評価の問題点は軽度〜中等度の中心静脈圧の上昇を見逃す場合があることです(安静座位で視認すれば推定15 cmH2O以上).この見落としを防ぐオススメの手技が負荷頸静脈評価法です(45度座位も有用ですが実施困難)
  • 負荷頸静脈評価法で最も簡便な方法が,前負荷を増やす吸気負荷だと思います.同負荷は簡便に加えてとても安全です.安静時に内頸静脈が陽性拍動を呈している症例でも,負荷後に自覚症状が悪化した症例を経験したことはありません.
  • 左上肢挙上による頸静脈負荷法も診察室で簡便に追加できる負荷で重宝しています.しかし自覚症状が明らかに悪化する症例を稀ならず見かけ要注意です(症例1:動画中の音声に注目/症例2:ビデオでは少し分かりのですが顔が真っ赤に)

🉐 上肢挙上負荷の過去投稿 ➜ コチラ

松下記念病院 川崎達也)

2023-09-11

🏆 論文

  • 当院初期研修医の間瀬先生が循環器内科で経験した症例が出版されました🎉
  • 薬剤性体液貯留による過収縮から流出路狭窄を伴う心不全を生じた症例です
  • LVOTの改善にはベータ遮断薬ですが,著明な全身浮腫もあり躊躇しました
  • トルバプタンは効果なし ➜ 最終的には利尿薬の調整で徐々に改善しました

🚀 告白
  • 本例では身体所見から心不全であることは容易に診断できました(推定の中心静脈圧は18 cmH2O).しかし心エコー図のレポートを見てびっくり 😳 なんと左室流出路狭窄が記載されているではありませんか.
  • 改めて身体所見を取り直すと頸動脈拍動はスパイク&ドームで,座位から立位で音量が増加する収縮期雑音でした.超反省 😰 その後は(主治医ではなかったのですが)毎日聴診してエコー(連日計測)と対比

👉「論文」の過去の投稿は コチラ(ウェブ版なら画面右の分類からも選択可)

松下記念病院 川崎達也)

2023-09-07

手抜きではありません 😤

倦怠感を訴える高齢男性(体位は座位)

😀 解説
  • 端座位で心尖拍動は左乳輪の左外側へ偏位 ➜ 心拡大の疑い
  • 心尖拍動は2肋間で観察でき長い隆起時間 ➜ 心肥大の疑い
  • 吸気保持で心尖拍動はより明瞭に(通常は吸気時に不明瞭)
  • 心エコー図で遠心性肥大あり ➜ 最終診断は慢性の左心不全

😑 自白
  • 最近は心不全が疑われる症例では,頸静脈評価はほとんど座位でのみ行っています.もちろん脱水を疑う症例では臥位で拍動消失を確認しますが...
  • 同様に心尖拍動も座位でのみ確認しています.もちろん肥大型心筋症が疑われる症例では臥位や左側臥位でダブルインパルスを探しにいきますが...
  • 実は腹部大動脈瘤を確認するための初診時の腹部触診も座位で済ませることが増えてきました.背中とお腹を両側の手掌で挟み込むようにして...
  • なんでも簡略化することが良いとは思っていません.しかし時間をかける身体所見の評価は必要な症例のみでいいのではと感じる今日この頃です

松下記念病院 川崎達也)

2023-09-04

電紋 Lichtenberg figure

  • 落雷直撃で体表を這う沿面放電による皮膚の樹枝状所見(下図)
  • 英名は分岐放電を研究した独の物理学者 リヒテンベルク に由来
  • 機序は体表面の放電で血管透過性が亢進して血液の血管外漏出
  • 落雷は雷雲と地表の間に2百万V/m以上の電圧差の形成時に発生
  • 本体は数ns以内に最高値3万Aに達して,約40nで半減する衝撃波
  • 世界中で100万人あたり0.2〜1.7人/年間の頻度で雷撃死が発生
  • 発生頻度は女性よりも男性が5倍ほど多く,好発年齢は10〜29歳
  • 雷撃症の瞳孔散大や対光反射消失は予後と無関係で蘇生が必要
  • 雷撃症の死亡率は10〜30%で生存者でも約70%に重大な合併症


左即腹部の電紋(リヒテンベルク図形)

雷撃症による皮膚病変のイメージ図
線状熱傷(左):点状熱傷(中, 矢印):樹枝状電紋(右)

💔 心臓への影響
  • 脱分極による心停止,不整脈,心筋挫傷,心筋梗塞,心膜炎,たこつぼ心筋症など
  • 原因は冠動脈攣縮,血中カテコラミン上昇,直接温熱障害,不整脈に伴う虚血など
  • 不整脈では心房細動や心室性不整脈が出現しやすいが通常24時間以内に正常化する


松下記念病院 川崎達也)