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2025-09-11

頚静脈波形

  • 頚静脈拍動と中心静脈圧、ドプラ波形の関連を概説する論文(Ther Adv Pulm Crit Care Med 2025 Jul 16;20:29768675251359700)を眼にしました。
  • 頚静脈の波形の分かりやすいイラストがあったのでアップしておきます。なお図の説明文はAIによる自動翻訳を活用(説明文中の引用論文は割愛)

頸静脈拍動(JVP)および頸静脈血流速度(JVFV)の生理学
(A) 心電図(ECG)、心音図(PCG)、および右心房圧(PRA)の時間的関係を示す。PCG の SX は心音を表す。PRA または JVP の上昇波は本文で説明される a波、c波、v波 である。下降波は x下降、x′下降、y下降 と呼ばれる。IC は等容収縮ノッチを示す。灰色で塗られた領域は JVFV を表し、s波(収縮期) および d波(拡張期) を含む。図解は心周期における右心の変化を示し、RA は右心房、RV は右心室を意味する。 (B) JVP の波形記録は19世紀半ばに初めて発表され、12 世紀末から20世紀初頭にかけて Mackenzie によりさらに詳細に発展した。JVP の陽性波は、その解剖学的・生理学的な起源に基づいて命名され、a波は右心房、c波は総頸動脈、v波は右心室 を反映するとされた。Mackenzie はまた、三尖弁逆流症における JVP の病的変化を記載しており、初期には a(心房型) から v(心室型) へと移行することを示した。疾患の初期段階では、顕著な v波 は心房細動(すなわち「心房性」)により生じる。心房収縮が失われることで右心房がうっ血し、右心房圧(PRA)が収縮後期に上昇するため、機能している三尖弁(TV)が心基部方向へ戻る際に高い v波が発生するためである。しかし疾患が進行すると、v波はさらに顕著になり、収縮期の早期に出現するようになる。これは逆流性の血液量が機能不全の三尖弁から逆流するためであり、いわゆる「心室型 v波優位」と呼ばれる。 同様の進行は、肺高血圧患者において Ranganathan と Sivaciyan によって内頸静脈(IJV)ドプラ超音波で記録された JVFV でも報告されており、以下で述べる。(C) JVFV は 装着型ドプラ超音波 によって測定され、これについても以下で記載する。

Sivaciyan と Ranganathan が提唱した頸静脈血流速度(JVFV)の分類システムの模式図
詳細は本文を参照のこと。ここおよび図1において、右心房方向への JVFV は y軸の下向きに、頭部方向への血流速度は y軸の上向きに示されている。 仰臥位では、最上段のパターン(s > d)が正常であり、持続的な逆行性 a波は認められない。大きな逆行性 a波および v波は、単相性拡張期パターン(ここでは表示されていない)で観察されることがある。 逆行性収縮期速度(最下段のパターン)は、臨床的に重要な**三尖弁逆流(TR)**を示す典型的な所見であるが、房室解離において心房収縮が閉じた三尖弁に対して生じる場合にもみられる。この場合、逆行性収縮期速度は不規則である。 略語: RA = 右心房 RV = 右心室 TAPSE = 三尖弁輪収縮期移動量(tricuspid annular plane systolic excursion)

😇 おまけ

上記論文では当院で行った頚静脈の臨床研究を4編も引用してもらいました 😊 謝謝
  1. Kasai K, Kawasaki T, Hashimoto S, Inami S, Shindo A, Shiraishi H, Matoba S. Response of Jugular Venous Pressure to Exercise in Patients With Heart Failure and Its Prognostic Usefulness. Am J Cardiol 2020;125:1524-1528 ➜ 日本語の解説
  2. Shako D, Kawasaki T, Kasai K, Sato Y, Honda S, Sakai C, Harimoto K, Shiraishi H, Matoba S. Jugular Venous Pressure Response to Inspiration for Risk Assessment of Heart Failure. Am J Cardiol 2022;170:71-75 ➜ 日本語の解説
  3. Kasai K, Kawasaki T, Hashimoto S, Kanehiro C, Yabu S, Shindo A, Matoba S. Jugular Venous Pressure and Kussmaul's Sign as Predictors of Outcome in Heart Failure. Int Heart J 2023;64:1088-1094 ➜ 日本語の解説
  4. Noguchi M, Kasai K, Honda S, Sakai C, Harimoto K, Kawasaki T. Jugular Venous Response for Risk Stratification in Heart Failure. Cureus 2024;16:e58423 日本語の解説

松下記念病院 川崎達也)

2025-06-30

夢叶う2 Dreams come true 2

  • 心不全臨床では負荷を併用した頚静脈の座位定性法がとても有用です
  • 5-ステップで学ぶ無料アプリ「シンプル頚静脈」を昨年公開しました
  • 日本語版は総説やSNS,講演などで宣伝する機会がある程度ありました
  • 実は海外展開を念頭に英語版も同時にリリースしていました(コチラ
  • 今回,国際誌にアプリが掲載されました(ESC Heart Fail 2025 May 27

😎 舞台裏
  • はじめに米国の雑誌に投稿しましたが,あっさりreject.でもこれは想定内でした.(内容はともかく)アプリの掲載はとてもリスクがあるからです(スパムを組み込むことも技術的に可能).今回の雑誌にも期待せずに投稿しました.3日後に返事があったので「やっぱりダメだな」と思っていたら,ともて高評価.実際にその1週間後(投稿10日後)に出版されました.
  • 本邦の心不全ガイドライン(2025.3更新)への収載が一つ目「夢叶う Dreams come true」で,今回の海外展開が二つ目の「夢叶う Dreams come true」です.そしていつか,海外のガイドライン収載へ…これは三つ目の「夢叶う Dreams come true」になるでしょうか😃

松下記念病院 川崎達也)

2025-04-03

\負荷頚静脈法:新たな心不全評価/

  • 日本医事新報に総説を執筆させていただく機会を得ました(感謝)。頚静脈を用いた心不全診療で、私の知識と経験のすべてを盛り込みました。
  • 選び抜いた動画19点と図15点(自作)を含む全24ページの温故知新です。同時に電子書籍としても発行されました。よろしければぜひご覧ください。


(電子書籍⭐️コチラ) 

😊 追記 
  • 日本医事新報は1921年(大正10年)創刊で、毎週土曜日に発行されています(定価1,100円)。現在する商業医学誌では最古の一つで、発行部数はなんと39,500部(週刊)
  • ちなみに日本内科学会雑誌の第1巻は1913年発行で、毎月10日に刊行(臨時増刊号を含め年間13回の刊行)。発行部数は2022年2月10日時点で10万9,300部だそうです。

松下記念病院 川崎達也)

2025-03-14

🏆 論文

  • 循環器内科の本田先生が執筆されたケースレポートが出版されました
  • 収縮期雑音を呈した動脈管開存(PDA)の一例です(連続雑音なし)
  • 軽度肺高血圧のみでEisenmenger(アイゼンメンジャー)症候群なし
  • 心エコー図では拡張期にも短絡シグナルが描出されますが雑音なし

🎉 PDA雑音
  • PDA患者の典型的な雑音といえばもちろん(第2音で途切れることなく持続する)連続性雑音です。本例のような大動脈-肺動脈シャントに加えて、動静脈シャント(冠動脈動静脈瘻、右心室へのバルサルバ洞動脈瘤破裂など)や動脈および静脈の流れの変化(静脈雑音乳腺雑音甲状腺雑音など)があります。
  • 肺高血圧を伴うと拡張期雑音が消失することは理にかなっています。ただし本例の肺高血圧は軽度でした(平均圧28 mmHg、1.4~2.1 WU)。本例では収縮期雑音のみを聴取かつ記録した正確な原因は不明ですが、貧血や肝硬変などの併存疾患が非典型的なPDA雑音に変化させたと考えるのが妥当でしょうか?
  • Eisenmenger患者にみられるように、大動脈圧と肺動脈圧の平衡例では、雑音が完全に消失し無音性PDAになります(一部の症例では拡張期雑音のみ)。PDA雑音の性状は、肺動脈内のジェットの方向によっても変化するようです。本論文の考察ではこの辺りを(少し)深堀したので興味がある方はご覧ください。


👉「論文」の過去の投稿は コチラ(ウェブ版なら画面右の分類からも選択可)

松下記念病院 川崎達也)

2025-02-27

🏆 論文

  • 初期研修医の西機先生が循環器内科で経験した症例がPubMedに収載
  • 左室中部閉塞の形態を呈したATTR心臓アミロイドーシスの一例です
  • 洞調律なのにⅣ音を欠き,OKサイン(Perfect O sign)も不可でした
  • 心アミでParadoxic Jet Flow(奇異性血流)を描出した世界初の報告

🎉 Paradoxic Jet Flow: PJF(奇異性血流)
  • 拡張早期に心尖部から心基部に向かう血流シグナルで,心尖部ポーチの存在の間接的な証拠です.当科は本所見にとても興味を持つ医師が複数名在籍して,今までにPJFに関連する世界初と思われる症例を報告してきました.
  • 例えばPJF雑音(Tex Heart Inst J 2018;45:102-5),運動誘発PJF(J Cardiol Cases 2021;23:170-2),右心系PJF(J Med Cases 2020;11:57-60)などです.とてもニッチな所見ですが,これからもこだわっていこうと思います.

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松下記念病院 川崎達也)

2024-12-02

心不全の身体所見

  • 心不全の本体は左室充満圧の上昇(左室拡張末期圧ではない)あるいは左房圧の上昇と理解できます.よって肺動脈楔入圧(pulmonary capillary wedge pressure: PCWP)と強い関連を有する指標が心不全管理には有用です.
  • どうやら身体所見(自覚症状を含む)の中では頸静脈の膨隆(≠怒張/回避したい用語)が一番強い関連だったようです.これは個人的な肌感覚にも合っているかなと思います(もっともPCWPは滅多に測定していませんが...)

👀 おまけ
  • 上記論文はDr. Mark Draznerのグループからの報告です.ドレズナー先生はテキサス大学サウスウェスタン医療センターの内科教授で,心臓病学の臨床主任です.
  • 専門は心臓移植を含む重症心不全の治療などと思われます.特に心不全症例での右房圧と左房圧の関係では他の追随を許さない程の業績を挙げられています.
  • ただしX(旧Twitter)ではフォロワーが3,112名と寂しい限りです.あまり発言されていませんが... 2017年3月から計765ポストで,最近では月に一回くらい
Xより(@MarkDrazner

松下記念病院 川崎達也)

2024-06-10

🏆 論文

  • 当院の専攻医の野口先生の臨床研究が出版されました 🎉
  • 慢性心不全症例に対する各種負荷頚静脈の比較検討です
  • 実際の負荷法は吸気・5回立ち上がり・蹲踞の3種類です
  • いずれの負荷も予後予測に有用で予後予測能に大差なし
  • ただ5回立上がりと蹲踞は膝痛や腰痛で実施不能例あり
  • 最終的には負荷頸静脈は吸気が最も実用的な方法と結論


😎 つぶやき
  • これは当院で行ってきた一連の負荷頚静脈研究(①6分間歩行,②吸気負荷,③PEF vs REFなど)の最終報告です.臨床で生じた疑問に対する研究を行い,新たな疑問に対する追試を行うということの繰り返しでした.最終的に「吸気による頚静脈負荷は様々なタイプの心不全で予後予測に有用」というゴールにたどり着けました.
  • 本論文の査読者から負荷の様子を追加するよう指摘されました.実際の動画よりもピクトグラムの方がいいのではと考え,無料画像を検索しました.しかしふさわしいものなかったので自作しました(上記のFigure 1).思ったより簡単で,今ではあらゆる体位や動作を表現できるようになりました.やっぱ何事も挑戦ですね.

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松下記念病院 川崎達也)

2024-03-21

カメラベースの頸静脈評価:レビュー論文

  • Arrow C, et al. Capturing the pulse: a state-of-the-art review on camera-based jugular vein assessment. Biomed Opt Express 2023 Nov 28;14:6470-92
  • ざっくりまとめると「方法論に改善の余地はあるがカメラベースの頸静脈評価は定量的あるいは定性的な特徴付けが可能」だそうです(下表)

😐 独り言
  • Artificial intelligence(AI)のアルゴリズムにかかれば,顔写真から虚血性心疾患の有無や胸部X線から糖尿病の有無が推測できる時代です(過去の投稿).ただ頸静脈評価に関しては,AIを用いたシステムはまだ開発されていないようです(上記論文の著者が本文で言及).
  • 将来的にはスマホで撮影すればAIがすぐに判定してくれるかもしれません(手ブレは気になりますが背景から完璧に補正と予想).ただし頸静脈の座位定性法は簡便なので,わざわざスマホを使わなくても...とも思います(患者さんもカメラを向けられると構えますし)

松下記念病院 川崎達也)

2024-02-12

🏆 論文

  • 当院初期研修医の大江先生が循環器内科で経験した症例が出版されました🎉
  • 右室拡大があり身体所見は心房中隔欠損に合致するも短絡が見当たらない例
  • 経胸壁心エコー図の攪拌生理食塩水によるコントラスト造影でシャント確認
  • 経食道心エコー図で上大静脈と左房の短絡を確認し上位静脈洞型ASDと診断

🙊 秘密情報
  • 本論文にはWeb版もPDF版も”Published: January 01, 2024”と記載されています.つまり元日に出版されたことになります.実はCureusは採択された論文の出版日を著者がある程度コントロールできるため,日本との時差を考えらがら狙ってみました.
  • Cureusは2009年に創設されスプリンガー ネイチャーから出版されています.投稿方法が従来誌とは異なるため少し慣れが必要ですが査読は迅速です.(うまくいけば)コストはかからずPubMedに収載されインパクトファクターもつくのは魅力的です.

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松下記念病院 川崎達也)

2024-01-18

🏆 論文:ハミングバード徴候

  • 当院で実習された医学部6年生の方が経験した症例が出版 🎉
  • 主訴は1月前から持続する動悸感と継時的に増悪する息切れ
  • 心拍数は123 bpmで頸静脈から判定した中心静脈圧は上昇
  • ユニークなのは頸静脈拍動が肘動脈拍動の倍程あり(動画
  • 脈波図はキャノンa波(下図C矢頭)と通常a波(*)の疑い
  • 最終的な診断は2:1伝導の心房頻拍による頻脈性心不全です


🐝 ハチドリ徴候/Hummingbird sign
  • 本例の頸静脈所見のようにすごい速さの振動を,当院ではハミングバード・サインと呼んでいました(過去の投稿).このフィジカル所見にはまだ名前はない様なので,本論文のタイトルを”Hummingbird-like cannon a-waves”としました.フロッグ・サインの亜型として普及するといいのですが...
  • 身体所見に興味を有する医師にとって,新たなフィジカルを発見し報告することは何事にも勝る喜びだと思います(命名できればなおのこと).当院が関与できた新報告には"Atrial cannon sound"や"Diastolic paradoxical jet flow murmur"などがあります.もっともこの命名が普及しているとは思えませんが...

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松下記念病院 川崎達也)

2024-01-15

論文 🏆 こだわりの塊

  • 非常勤医師の先生が当院で経験した症例(少し前😅)
  • 今まで経験したことがない不思議な拡張早期の雑音
  • 心音心機図と心音心エコー図を駆使して音源を追求
  • 最終診断はHCMの拡張期奇異性血流に関連する音

- 図Bと図Eの*が雑音の本体です -

😀 独り言
  • こんなちっぽけな音にこだわっても意味ないだろう〜という声が聞こえてきそうです.肥大型心筋症の拡張期奇異性血流は心事故と関連することが報告されていますが(J Am Coll Cardiol 1992;19:516-24,心エコー図ですらその検出にあまり力を注いでいない施設が多いのではと思います.
  • 確かにとても微妙な音ですが,心臓フィジカルを追求する1人としては決して看過できない所見でした.よって心エコー図のエキスパートと一緒にその音源を追求してみました.興味がある方は是非,論文を読んでみてください.心音心機図や心音心エコー図の美しさを自画自賛しています.

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松下記念病院 川崎達也)

2023-10-23

心不全の診断

  • 心不全の本態:左室拡張期圧の上昇(心臓が広がりきったときにかかる圧を逃がしきることができない状態)
  • 診断時にアクセスの容易な所見:①心尖拍動,②両肺ラ音,③傍胸骨拍動
  • 経験を要するが特異性の高い所見:①III音,②頸静脈怒張





😗 独り言
  • 「心不全かも?」と思った時に心尖拍動や傍胸骨拍動がアクセス容易な所見であることにはとても同意します.しかし残念ながら心不全診療の現場で活用されているとは(全く)思えません.とにかく触ってみるという一歩を踏み出してみることが大切でしょうか(難しいことは考えずに)
  • 本論文では頸静脈所見が経験を有する所見に分類されています.これは従来から行われてきた方法論に起因する問題だと思っています(ルイス法).例えば45度の半座位なんて臨床現場では困難です.是非とも簡易定性法座位で鎖骨上に見えるか否か)を試してください.ハマります😊

松下記念病院 川崎達也)

2023-09-11

🏆 論文

  • 当院初期研修医の間瀬先生が循環器内科で経験した症例が出版されました🎉
  • 薬剤性体液貯留による過収縮から流出路狭窄を伴う心不全を生じた症例です
  • LVOTの改善にはベータ遮断薬ですが,著明な全身浮腫もあり躊躇しました
  • トルバプタンは効果なし ➜ 最終的には利尿薬の調整で徐々に改善しました

🚀 告白
  • 本例では身体所見から心不全であることは容易に診断できました(推定の中心静脈圧は18 cmH2O).しかし心エコー図のレポートを見てびっくり 😳 なんと左室流出路狭窄が記載されているではありませんか.
  • 改めて身体所見を取り直すと頸動脈拍動はスパイク&ドームで,座位から立位で音量が増加する収縮期雑音でした.超反省 😰 その後は(主治医ではなかったのですが)毎日聴診してエコー(連日計測)と対比

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2023-08-21

🏆 論文:心アミのフィジカル

  • 当院初期研修医の平野先生が循環器内科で経験した症例が出版されました🎉
  • 身体所見が診断契機になったトランスサイレチン型心アミロイドーシスです
  • このATTR型は高齢者に多く簡便なマーカーがないため診断が遅れがちです
  • 本例は著明肥大にも関わらずⅣ音(S4)なし+ポパイ徴候が診断契機でした

非外傷性の上腕二頭筋腱断裂(ポパイ徴候)がら15年後にATTR型心アミロイドーシスと診断された70歳男性

😀 追加コメント
  • 本例の左室駆出率は55%で左室はびまん性に肥厚し(15 mm程度),左室心筋重量係数は111.9 g/ms2(基準: 56〜92 ms2)でした.ドプラ指標はE/A 2.66,E/e' 32.0とグレードⅢの高度拡張障害でした.しかし通常なら存在が予想されるⅣ音を聴取せず,心音図でも記録されませんでした.
  • 心臓アミロイドでは肥大があるのにⅣ音を欠くことは従来から論文に記載されてきました(Am J Cardiol 2000;86:244-6Clin Cardiol 2021;44:322-31).しかしこれらはエキスパートオピニオンです.友人のフィジカル巨匠が実データを現在投稿中と聞いています(出版がとても楽しみです 😄)
  • 心アミ症例でⅣ音(S4)を欠く機序は心房へのアミロイド沈着と考えられます.本例でもピロリン酸が両心室のみならず両心房に集積していました(下図).以前の投稿「問題硬い左室+Ⅳ音なし=?」はいつも頭の片隅に置いておきたい事です.なお肥大型心筋症の心房の辛抱も忘れずに 😁


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松下記念病院 川崎達也)

2023-08-07

🏆 論文:HCMのフィジカル意義

  • 肥大型心筋症は多くのユニークな身体所見が知られています
  • 本研究では HCM 症例で身体所見の臨床的意義を検討しました
  • 診断能は臥位の頸静脈a波+Ⅳ音聴診で特異度94%、感度57%
  • Ⅳ音の消失が死亡または入院の増加に繋がることも示しました
典型例(論文の動画 ➜ コチラから下スクロール)

😎 独自路線
  • 肥大型心筋症は心室の肥大が特徴的ですが,フィジカルでは心房が主役です.これは硬い心室に血液を無理やり押し込んでいる心房の頑張り(心房の辛抱)です.この頑張りが続かなくなったとき(例:Ⅳ音の消失)が運動耐容能の低下や心血管事故の増加(本論文)に関係することは理にかなっています.
  • 身体所見から肥大型心筋症を疑い,その後に画像検査で確認する臨床スタイルは,充分に可能で楽しいと思います.「忙しい新患外来でそんなめんどくさいことできないよ~」という意見にも大いに同意しますが...😅 いずれにしても遅ればせながらライフワークの1つが形になって本当に良かったです.

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松下記念病院 川崎達也)

2023-05-25

論文 🏆 HOCMの身体所見

  • 当院の循環器内科専攻医である野口先生が経験した症例が出版されました
  • 典型的なフィジカル所見を示した閉塞性肥大型心筋症(HOCM)の1例です
  • 頸動脈は二峰性拍動(pulsus bisferiens)でspike and dome型の波形でした
  • 心尖もatrial kickと抬起性拍動のダブルインパルス(double apical impulse)
  • 心音は収縮中期の過剰音(偽駆出音/SAM音)およびそれに続く収縮期雑音


😀 追加コメント
  • 僧帽弁が収縮期に前方運動(SAM; systolic anterior motion)して非対称性中隔肥大と接触する時に生じる偽駆出音は是非とも覚えておきたい過剰音です.駆出性雑音が続く音感は独特であり,フィジカル診断の大きな武器になります.
  • 僕自身も外来でフォロー中のHOCM例で心音をもう一度注意して聞きなおしてみると,この音が決して稀でないことが分かりました.論文には音声ファイルが添付されていますが,ダウンロードや解凍が手間なので下記にアップしておきます.

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松下記念病院 川崎達也)

2023-04-20

論文 🏆

  • 当院の循環器内科専攻医である野口先生が経験した症例が出版されました
  • 近医で心雑音を指摘され紹介 ➜ 心エコー図で右室へ突出する瘤状構造物
  • 収縮期に同構造物と右室壁が近接し,右室流出路はモザイク血流シグナル
  • 明らかな短絡血流なし ➜ 最終的に未破裂の右バルサルバ洞動脈瘤と診断
  • 弁膜症なく術後に雑音が消失 ➜ 未破裂の動脈瘤に起因した雑音と確定
  • 論文には実際の音声ファイルがないのでYouTubeにアップ(ココです)


😀 考察
  • PubMed検索で未破裂バルサルバ洞動脈瘤の報告が42例ありました.その診断契機は胸痛,息切れ,併存循環器疾患,房室ブロックの順に高頻度でした.心雑音を有した症例も2例報告されていましたが,いずれもバルサルバ洞動脈瘤とは異なる併存心疾患に起因した雑音です.本例は純粋に動脈瘤によって雑音を来した世界初の症例報告かも知れません.
  • 本例は初診の家庭医の先生(専門は消化器内科)が雑音に気が付かれたため診断に至ることができました.素晴らしいことに,紹介状には「肺動脈領域の収縮期雑音の精査をお願いします」と記載されていました.先日,お会いした時にお話ししていたら,聴診は「ポケット心音」で勉強されてるとお伺いしました.まさに”アプリ開発者冥利”につきます😂

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松下記念病院 川崎達也)

2023-03-27

論文 🏆 黄視症 Xanthopsia

  • 当院の初期研修医である春名先生が循環器内科で経験した症例が出版(少し前😅)
  • 心不全で入院 ➜ ジギタリス中毒(7.3 ng/mL)が判明 ➜ 追加問診で黄視症を確認
  • ポイントは視力や視野の異常はなく網膜電図( electroretinography: ERG)で異常

上段は入院時(ERGの反応低下)・下段は回復1月後(すべて正常化)

😀 おまけ
  • 本例は下腿浮腫に対して他院でジギタリスが0.25 mg/日が処方されていました.腎機能障害はなかったようですが,当院搬入時のeGFRは33.5 mL/min/1.73 m2でした(その後に53.6まで回復).
  • 問診で入院直前にバイクによる数回の自損事故を起こしていたことが判明しました.当初はジギタリス中毒による不整脈(特に徐脈:入院時40 bpm)を考えましたが,入院後に不整脈は検出せず.
  • よくよく聞いていくと,道路横の歩道ブロックが見えにくくなりバイクでぶつかっていたことが分かりました.これは夕方に顕著で信号色も不明瞭だったようです.そこから黄視症に辿り着きました.
  • ジゴキシン関連黄視症はジギタリス効果を発見したWitheringが200年以上前に報告しています().強烈な黄色で知られる画家ゴッホなど多くの人に影響を与えたと考えられているようです().

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松下記念病院 川崎達也)

2023-02-27

論文 🏆 フィジカルとはあまり関係ありませんが...

  • 当院の初期研修医であった梶先生が循環器内科で経験した症例が出版されました
  • 転落後の胸痛で当院のERに搬入 ➜ 右側気胸+前壁心筋梗塞と診断して順に治療
  • 本例のポイントは気胸は外傷性ですが心筋梗塞は外傷によるストレス誘発の疑い


😀 おまけ
  • 本例の主訴は胸痛と呼吸困難感でした.もちろんともに外傷性気胸で説明は可能です.ER搬入時に心電図も記録していますが,大きな問題はないと判断しています(ただし後から見返すと僅かにST上昇?)
  • 胸痛が持続するため心電図を再検(受傷後120分後/来院40分後)➜ 全胸部誘導で明瞭なST上昇が判明しました.胸腔トロッカーを挿入後に緊急カテーテル治療(ヘパリンや抗血小板薬は通常通り投与)
  • 精神的ストレスが心筋梗塞を誘発するの機序として,血行動態の過負荷・自律神経機能障害・神経内分泌活性化・炎症反応・血小板活性化などによる冠動脈プラークの破壊と血栓形成が提唱されています(

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松下記念病院 川崎達也)

2022-11-28

🏆 論文:ちょっとフィジカルとは違いますが…

🎉 当院の循環器内科で経験した症例が NEJM に掲載 🎉

  • ウェレンス症候群の1例ですがポイントは心カテ待機中にST上昇
  • 緊急カテーテル検査では前下行枝近位部の完全閉塞でした(下図)
  • 最近では高度狭窄よりも血栓が関与した病態と考えられています

😀 追加コメント
  • 命名はオランダの循環器内科医 Wellens らの報告に由来します(Am Heart J 1982;103:730-6).よって英語表記はWellen's syndromeではなくてWellens' syndromeあるいはWellens syndromeが正しいと思われます.しかしWellen's syndromeの誤記も散見されます(一流誌の実例:Circulation 2019;140:1851-2).
  • 日本語の発音ではェレンスと呼ばれることが多いと思います.でもオランダ語ではヴェレンスと濁ることを友人から教えてもらいました(例:).それ以降,当院でも研修医に濁音のェレンス症候群と教えていました.しかしNEJMのAudio Summaryではェレンスと濁っていないことを同じ友人から教えてもらいました.よって最近は再度ェレンスと指導しています.
  • 本論文は今年の2月に投稿して4月に修正の返事がありました.たった150語なのに文言の修正を計3回,図の修正を計3回(解像度など)も指示されました.8月に採択の連絡があり9月に掲載です.当院の戦績(NEJMイメージ論文)は25戦して3勝22敗で採択率🏆12%です.大学病院や有名病院でないわりには善戦かも...😅

💁 論文の過去投稿は コチラ(ウェブ版なら画面右の分類からも選択可)

松下記念病院 川崎達也)