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ラベル 肺疾患 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
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2025-08-04

フィジカルクイズ(No. 15 & 16)

  • 循環器Physical Examination講習会は故・吉川純一先生が2003年に立ち上げられた身体所見に関する研究会です.「生きた physical examination」を体感・習得して,「感動できる」ものにしていきたいと思っています.
  • 2025年4月から毎週金曜日に循環器に関するフィジカルクイズを2題ずつX(旧Twitter)で発信しているので,よろしければフォローしてみてください(@PhysicalExamin1).こちらにも2週分ずつまとめてアップします.



👻「フィジカルクイズ」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

松下記念病院 川崎達也)

2025-06-05

息切れ:心 vs 肺

労作時の息切れで受診した症例(座位)

解説 💨
  • 胸鎖乳突筋の肥大・発達(他部は陥凹)
  • 吸気で頚部が全体的に陥凹(陥没呼吸)
  • 気管短縮と呼気時間延長もありそう?
  • 通常呼吸で内頚静脈の拍動は視認せず
  • 吸気負荷でも内頚静脈の拍動は見えず
  • 最終診断は肺疾患(非心原性)息切れ

肺疾患の身体所見 💦
  • 慢性閉塞性肺疾患 COPD などの肺疾患では,胸鎖乳突筋の肥大・発達,気管短縮,呼気時間延長,陥没呼吸フーバー徴候などが知られています.
  • 経過の長い例では胸はビール樽状胸(barrel-shaped thorax)や後彎(kyphosis)を伴うこともあります.もっとも日本人では稀なようですが...
  • 胸郭の伸展性低下も重要だそうです.親指を棘突起に向けて手をあて深吸気による可動性を確認(正常では4~6cmは拡大するがCOPDでは低下します)


松下記念病院 川崎達也)

2025-04-24

二重罠

息切れでERに搬入された男性(座位)

😐 解説
  • 頚部に周期的に陥凹あり(矢印)
  • 呼吸と同調しているため陥没呼吸
  • 頚静脈の明らかな拍動は視認せず
  • 最終診断は初発心不全(PEF, CS1)
👺 つぶやき
  • 本例の肥満の程度は軽度ですが,顎下や顎のラインが不明瞭なことに要注意.このような症例では,内頚静脈の拍動が観察困難なことが少なくありません(同様の自験例).これは内頚静脈が深部静脈であり,胸鎖乳突筋を介した皮膚面の拍動として描出される以上,不可避です.
  • 陥没呼吸は努力呼吸時に出現する身体所見の一つで,喘息発作時(自験例)や慢性閉塞性肺疾患(COPD)症例(自験例)などの呼吸器疾患で出てくることが多いと思います.本例ではしっかり見ないと「頚部の陥凹で心不全」となり結果は正解ですが...(プロセスは🙅)


松下記念病院 川崎達也)

2025-03-31

第21回 循環器Physical Examination講習会より


循環器Physical Examination講習会は故・吉川純一先生が2003年に立ち上げられた身体所見に関する研究会です.「生きた physical examination」を体感・習得して,「感動できる」ものにしていきたいと思っています.毎週情報発信をしているので,よければSNSでフォローしてみてください.


👻「フィジカル講習会」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

松下記念病院 川崎達也)

2024-03-14

傍胸骨拍動の吸気負荷

CTEPH外来通院中の症例(仰臥位で左が頭側)

🐳 解説
  • 傍胸骨に置いた聴診器に明らかな拍動なし
  • 吸気に伴い聴診器に上下運動が出現(矢印)
  • 拍動は数拍持続しその後に不明瞭になった
  • 本例は状態は安定し日常生活で息切れなし
  • ただし心エコー図で軽度の肺高血圧は残存

🐟 復習
  • 抬起性の傍胸骨拍動は肺高血圧に伴う右室圧負荷を示唆します.稀に左房負荷(自験例)や肺動脈拍動(自験例)もあります.本例で認めた吸気負荷に伴う傍胸骨拍動の出現は潜在的な肺高血圧を示唆していると思っています.
  • 吸気中は中心静脈圧に加えて肺動脈圧や体血圧も上昇するため(過去の投稿),理論的には吸気負荷で傍胸骨拍動は増強されるはず.しかし同時に胸腔容積も増大して右室と胸骨の密着度の低下から相殺される可能性もあり?

松下記念病院 川崎達也)

2023-10-12

今週の一枚 🎯

労作時の息切れで来院した男性(座位)

😎 解説
  1. 吸気時の肋間陥凹(フーバー徴候:矢印)➜ 後に慢性閉塞性肺疾患 COPD と診断
  2. 男なのに乳房の発達(女性化乳房:矢頭)➜ 前立腺ガンでホルモン療法中が判明
  3. 心尖拍動の外方偏位+抬起性拍動(○)➜ 肥大型心筋症による慢性心不全と診断

😁 追加コメント
  • COPDでは肺容積が増加して滴状心になるので,心拡大は一般的ではありません.しかし心不全(NT-proBNP上昇や肺水腫,胸水貯留)を合併するようになると心胸郭比(CTR: cardio thoracic ratio)は増加してきます(Int J Chron Obstruct Pulmon Dis 2018;13:217-29).
  • 肥大型心筋症では硬い心室が特徴のため心室拡大は稀です(拡張相・エンドステージHCMを除く).しかし心不全を伴うHCMでは心房拡大の結果,心拡大を呈することが決して少なくありません.左房容積は心尖拍動の左方偏位に最も関連する因子です(J Cardiol 2021;78:136-41).

👻「今週の一枚」の過去の投稿は コチラ松下ERランチ・カンファレンスの名物コーナー)

松下記念病院 川崎達也)

2023-06-15

左上肢挙上:

前日にERで喘息と診断された咳嗽症例

😈 解説
  • 座位で右頸部に内頸静脈の拍動(陥凹)あり(凹矢印)
  • 咳嗽が強いため吸気負荷の代わりに左上肢の挙上負荷
  • 負荷後は頸部陥凹が(おそらく)隆起に変化(凸矢印)
  • 心音で明瞭なギャロップを確認して急性心不全と診断

👾 コメント
  • 深吸気止めで内頸静脈の陥凹が隆起に変化(ランチシ徴候)する症例は散見されます(自験例).本例の主訴は咳嗽であり呼吸負荷が難しいため(多くは咳き込む),代わりに左上肢負荷を行いました.もちろん肝頸静脈逆流(Hepatojugular reflux test)も施行可能ですが,臥床になるためやはり患者さんは咳き込んだと思います.
  • 本例は前日の救急外来で喘息による咳嗽と診断されていました.重症喘息例の頸静脈拍動の代わりに陥没呼吸を認めることがあります(自験例).重症COPDでは下位肋間に内方陥凹(フーバー徴候)を認めます(自験例).もちろん肺疾患を合併した心不全症例もありますが(自験例),安易な咳喘息の診断は慎む必要があります.

👿 上肢挙上負荷の過去投稿 ➜ コチラ

松下記念病院 川崎達也)

2023-05-18

扁平胸郭とフーバー徴候

激しい運動時に息切れを訴える症例

👾 解説
  • 漏斗胸ではないが胸板は薄くで呼吸は腹式
  • 吸気(腹部が膨らむ)時に肋間陥凹(矢印)
  • 心機能や冠動脈に問題はなくCOPDも認めず
  • 最終的に自覚症状は扁平胸郭に関連と判断

独り言 💤
  • フーバー徴候(Hoover's sign)は吸気時に下位肋間が内方に陥凹する現象で,通常はCOPDなどの肺疾患を示唆します(自験例).
  • 心不全でも出現することがありますが(自験例),その頻度は息切れ症例の3%程度と稀です(Rev Clin Esp 2005;205:113-5
  • 本例では扁平胸郭があり吸気時の胸郭の拡張が不十分であるため,本人が以前から無意識に腹式呼吸を行っていたのかもしれません.
  • ただし自転車エルゴメータでは運動耐容能は年齢相応に保たれていたため,特に追加加療(呼吸指導を含む)は行いませんでした.

松下記念病院 川崎達也)

2023-05-08

復習

  • Twitterで特徴的な画像を見たのですが(下図),病名を思い出せませんでした.調べてみると前回眼にしたのは2020年秋の循環器内科地方会でした(ココ).ちょっと反省を込めてまとめておきます.

- 息切れで来院した91歳男性 -

⚔ シミター症候群(Scimitar syndrome)
  • 右肺静脈が下大静脈に流出する部分肺静脈還流異常(PAPVR)
  • 初報は1836年のCooperとChassinatであるが命名は1960年(
  • シミターとは,かつてトルコ軍が使用した剣でサーベルの原型
  • 命名は胸部X線で異常肺静脈が刀身と柄のように見えるため
  • 頻度は10万出生あたり1-3人で男女比は2対1,全PAPVRの3〜6%
  • 心房中隔欠損(80%),動脈管開存症,心室中隔欠損症など合併
  • 症状は無症状〜右心系の負荷(心不全),再発性肺感染症など


- 解剖学的シェーマ -

松下記念病院 川崎達也)

2023-04-03

ダール徴候 Dahl's sign

  • 大腿と肘に色素沈着過剰 と肥厚(角化亢進)を認める状態
  • 米国の皮膚科医Dahlに由来(Arch Dermatol 1970;101:117
  • 長期にわたる重度の慢性閉塞性肺疾患を患う患者に発生する
  • 機序は呼吸困難で肘を大腿に置くため接触部に慢性的な刺激

73歳のCOPD女性

👻 命名問題
  • 実はDahl先生に先行すること7年,Rothenbergがこの所見を報告しています(JAMA 1963;184:902-3).よってRothenberg's sign's(ローゼンバーグ徴候)とも呼ばれています.
  • もっともRothenberg先生はこの所見を,その姿勢からThe thinker's sign(考える人徴候)と呼んでいます.またその丸い形からtarget sign(標的マーク)と称されることもあるようです.

💁 COPDに関する過去の投稿 ➜ コチラ

松下記念病院 川崎達也)

2023-03-09

頸部は心のみにあらず

息切れで来院した症例(端座位)

🐦 解説
  • 胸鎖乳突筋と斜角筋の肥大 ➜ 慢性閉塞性肺疾患COPDに合致
  • 明瞭な鎖骨上窩と吸気時の陥凹 ➜ 陥没呼吸もCOPDに矛盾せず
  • 気管短縮(甲状軟骨下縁〜胸骨上縁:通常は>3横指 or 4cm)
  • 鎖骨上窩に呼吸と無関係の周期的な陥凹 ➜ 中心静脈圧の上昇
  • 座位で視認する外頸静脈が吸気負荷で明瞭化(クスマウル徴候)
  • 吸気保持で内頸静脈の拍動上縁も上昇 ➜ 心不全に矛盾しない
  • 本例はCOPDに伴う第3群の肺高血圧症(肺性心)と診断した

😀 ひとり言
  • COPDには多くの身体所見が知られています.本例で認めた所見以外にも,フーバー徴候や樽状胸郭,るい痩,口すぼめ呼吸,呼気相延長などがあります.ただしこれらの身体所見はるい痩を除き重症化するまで出現しにくい点に要注意
  • 肺疾患による心不全を以前は肺性心cor pulmonale)と言っていましたが,最近ではあまり耳にしません.Google Scholar検索でも”肺性心”は1980-2000年に1270件,2000-2020年は800件と減少してます.
  • cor はラテン語も同じ綴りで心臓を意味するそうです.命名はWPW症候群の発見者として有名なPD WhiteJAMA 1935;104:1473-80).最近は第3群PHと呼ぶことが多くなってきましたが,あまり味わいがないような...

松下記念病院 川崎達也)

2023-02-06

COPD+るい痩

COPD症例ではるい痩が目立(%IBWはideal body weight=基準体重比)

👽 るい痩が目立つ理由
  1. 呼吸筋のエネルギー消費増大(健常者36~72kcal/日,COPD 430~720kcal/日)
  2. TNF-αなど炎症性サイトカインでエネルギーの消費量増加(健常者の1.3~1.5倍)
  3. 肺過膨張による腹部臓器の押し下げや咀嚼や嚥下に伴う呼吸困難感による食欲減弱
  4. レプチン(満腹中枢刺激)やグレリン(食欲中枢刺激)など食欲関連ホルモン異常


💀 追加コメント
  • COPD症例では糖尿病や心疾患がなければ積極的なカロリー摂取を推奨.例えば間食(1日5食),高脂肪食(蛋白質や炭水化物より呼吸商が少ない),プルモケアExなど
  • COPDでは栄養障害が非常にゆっくり進行するため,体重や脂肪,筋肉の減少に比べて,血清アルブミンなど血液データの異常遅延に要注意(典型的なマラスムス型栄養障害


※ 以前に松下ERランチカンファレンスに投稿した内容の更新版です 🎶

松下記念病院 川崎達也)

2023-01-12

るい痩と右室拍動:COPD症例

息切れで来院した症例の端座位

🐇 解説
  • 心窩部に周期的な拍動(心尖拍動は視認せず)
  • るい痩が目立ち腹式呼吸をしている ➜ COPD?
  • 口すぼめ呼吸はないがフーバー徴候あり(矢印)
  • 頸静脈は座位陰性で心エコー図で右室負荷なし
  • 長期の喫煙歴もありCOPDによる息切れと判断

 🐀 つぶやき
  • 心窩部の周期性拍動は拡大した右室が前胸部と広い範囲で接するために顕性化した右室拍動が多いと報告されている
  • 本例には右室負荷はなく,るい痩で右室拍動が目立ったと思われた(つい先日,漏斗胸の右室拍動も経験 ➜ コチラ
  • COPD例でるい痩が多いのは呼吸筋エネルギー消費の増加(健常者36~72kcal/日の10倍が必要)など(過去の投稿

松下記念病院 川崎達也)

2022-11-03

論文 🏆 if you miss the goiter…😱

  • 当院の初期研修医 熊田先生が循環器内科で経験した症例が出版されました
  • 労作時の息切れで受診 ➜ 心エコー図で肺高血圧(推定収縮期圧50 mmHg)
  • 頻脈はないが甲状腺の軽度びまん性腫脹あり ➜ 最終的にバセドウ病と診断
  • 心肺疾患や血栓症なし ➜ 肺高血圧症のダナポイント分類第1群または第5群
  • 本例は甲状腺治療のみで肺動脈収縮期圧は経時的に低下して最終的に正常化


😀 臨床現場
  • 肺高血圧のガイドラインには第5群として①血液疾患(慢性溶血性貧血,骨髄増殖性疾患,脾摘出),②全身性疾患(サルコイドーシス,肺組織球増殖症,リンパ脈管筋腫症),③代謝性疾患(糖原病,ゴーシェ病,甲状腺疾患),④その他(腫瘍塞栓,線維性縦隔炎,慢性腎不全,区域性肺高血圧)の4つが記載されています.
  • 本例では「甲状腺疾患をたまたま合併した第1群肺高血圧」(共に若い女性に多い)と「甲状腺疾患が誘発した第5群肺高血圧」が考えられました.甲状腺の治療と並行して,肺高血圧の特異的薬物治療(プロスタサイクリン経路・エンドセリン受容体拮抗薬・一酸化窒素経路)の導入の要否を判断する必要があります.
  • 本例では(患者さんと協議の上)甲状腺治療のみを開始しました.肺高血圧が特異的薬物治療なく消失したため,「甲状腺疾患が誘発した第5群肺高血圧」と考えられました.肺高血圧と甲状腺疾患が合併した場合,17症例中16例で甲状腺治療のみで肺高血圧が正常化したという(すごい😮)報告があります(Angiology 2006;57:600-6).

👿「論文」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

松下記念病院 川崎達也)

2022-08-01

肺高血圧のフィジカル診断

🎓 系統的レビューPLoS One. 2014 Oct 24;9(10):e108499
  • 肺高血圧の関連所見:右室拍動,大きなⅡ音肺動脈成分,頸静脈怒張,三尖弁逆流音,右心系Ⅳ音(いずれも安静時および吸気時)
  • もっとも肺高血圧に関連する指標:吸気時の亢進したⅡ音肺動脈成分(陽性尤度比3.2)と吸気時の右心系Ⅳ音(陽性尤度比4.7)
  • ただし身体所見のスペシャリストとその他の検者では診断能の差は小さくなく,また肺高血圧を一貫して除外できる身体所見はない

💁 肺高血圧の過去の投稿は コチラ(ウェブ版なら画面右の分類からも選択可)

松下記念病院 川崎達也)

2022-05-16

🏆 論文

  • 当院の初期研修医である土橋先生が循環器内科で経験した症例が出版されました
  • 労作時の胸痛で紹介受診して身体所見のばち指から肺癌合併の診断に至りました
  • 肺癌 ➜ 狭心症の順に治療を行い,バチ指も経時的に改善しています(下の写真)


😀 追加コメント
  • 本例は右肺尖部の肺癌で,パンコースト腫瘍として胸痛を生じることがあります(パンコースト症候群).しかし本例の胸痛は典型的な労作性でした.実際に肺癌切除後も胸痛は続き,冠動脈の治療後に消失しました.
  • バチ指(Clubbed finger)を生じる機序として,「肺内シャントを通過した凝集血小板や巨核球から放出される血小板由来増殖因子で爪床下の軟部組織が増殖する」ことが推測されています(J Pathol 2004;203:721-8
  • 本例のばち指改善は肺癌の術後から始まりました.しかし冠動脈治療に関連して開始された抗血小板による効果もあったのかもしれません.両者の関係に言及した論文 ➜ J Am Acad Dermatol 2005;52:1020-8

🎉「論文」の過去の投稿は コチラ(ウェブ版なら画面右の分類からも選択可)

松下記念病院 川崎達也)

2022-01-03

動脈並みの静脈拍動?

肺性心による右心不全症例(在宅酸素中)

🐼 解説
  • 座位で右側頸部に腫瘤あり(精査は未ですが長年変化がないようです)
  • 腫瘍が周期性に拍動している ➜ 頸動脈の拍動を反映した腫瘍の拍動?
  • よく見ると腫瘍上部の皮膚面が周期的に陥凹 ➜ 拍動は動脈でなく静脈
  • 吸気保持で頸静脈に怒張の出現はない ➜ 狭義のクスマウル徴候は陰性
  • 左側にも腫瘍あり,こちらは拍動していない(頸静脈陥凹は視認可能)
  • 右側と異なり,左側の頸静脈拍動は吸気時に少し不明瞭になっている

🐶 独り言
  • 右頸部を見て腫瘍があったので頸静脈評価を早々に諦めました.左側で評価しようと思い反対を見たら反対にも腫瘍があってビックリしました.しかしよく見ると右側で腫瘍が拍動していたため,見直して内頸静脈の陥凹に気がついた次第です.
  • 内頸静脈の拍動が腫瘍を振動させていることにチョット驚きました.動脈拍動に比べて静脈拍動は弱々しいと勝手に思っていたことを反省 😑 もっとも左側の腫瘍は拍動していませんでした.おそらく腫瘍が後頭部よりに位置していたためと思います.
  • 右側に比べて左側で,吸気時に内頸静脈の拍動が少し分かりにくくなりました.正確な機序は不明ですが,吸気保持で肺が過膨張して上大静脈と左内頸静脈の間に存在する2つの屈曲(解剖図はココ)が強くなったためと(勝手に)解釈しています.

松下記念病院 川崎達也)

2021-12-23

沈黙の臓器

息切れで受診した在宅酸素中のCOPD症例

💣 解説
  • 腹式呼吸+ビア樽状胸郭はCOPDに合致(ただしフーバー徴候はなし)
  • 右季肋部〜心窩部(付箋の貼り付け部)に拍動あり ➜ 肝拍動の疑い
  • 拍動のパターンは収縮期に隆起(付箋よりも腹壁の方が分かりやすい)
  • 肝拍動は基本的に頸静脈拍動に類似 ➜ 巨大V波(三尖弁逆流)の疑い
  • 最終的にCOPDによる肺性心に関連した重症の三尖弁逆流と診断した

  • 身体所見は「頸静脈 ➜ 傍胸骨 ➜ 心尖拍動 ➜ 心音」と進めることが多いと思います.よって循環器外来では腹部はついつい忘れがちです(😯僕だけ?)しかしお腹の診察(特に初診時)はとても大切です.これは腹部大動脈瘤を見つけるチャンスだからです(自験例).外来で長年フォローしてる心疾患の患者さんが,腹部動脈瘤の破裂で死亡する悲劇は主治医として何が何でも回避!
  • 実際に肝拍動が診断にとても有用だったケースはあまり経験しません(収縮性心膜炎の自験例).その他の身体所見(頸静脈や心音など)で診断できることが多いからかもしれません.しかしフィジカルを愛する医療従事者としては,肝臓のアピールには是非,気がついてやりたいものです.とてもおしゃべりな心臓(心音・心雑音=心臓語)と違って,肝臓は沈黙の臓器なのですから…

松下記念病院 川崎達也)

2021-09-09

心+肺=心配です

消化器疾患の術前症例:端座位の左前胸部(通常呼吸)

🐌 解説
  • 左乳輪下に周期的な心尖拍動 ➜ 2肋間にわたるため心拡大(基準
  • 心尖拍動(本例は陥凹)の持続時間が長く抬起性 ➜ 心肥大もあり
  • よく見ると心尖とは独立した肋間の陥凹(矢印)➜ フーバー徴候
  • 本例の最終的な診断は陳旧性心筋梗塞+高血圧性心疾患+肺気腫
  • 周術期リスクは低くないが十分に説明し同意を得た上で手術施行

🐑 独り言
  • 心尖拍動が収縮期の陥凹(systolic retraction)であったため収縮性心膜炎が一瞬頭をよぎりました.しかし頸静脈にフリードライヒ徴候クスマウル徴候典型的な自験例)はなく,ノック音も聴取したなかったため今回は冷静でした(前回の失敗
  • COPDに心疾患が合併する場合,心尖拍動は収縮期陥凹が稀ではないかもしれません.肺が過拡張しているため陥凹として視認される方が理にかなっています.ただしCOPDでは心尖拍動は観察されない or 心窩部へ移動していることが基本です(

松下記念病院 川崎達也)

2021-08-23

Ⅱ音の肺動脈成分

👭 再確認
  • 肺高血圧ではⅡ音が分裂して後半成分(肺動脈弁由来)が亢進することあり
  • Ⅱ音はエルプ領域(第3肋間胸骨左縁で別名,心臓の窓)での聴診がお薦め
  • コツは頭で考えずに耳がすぐ反応できるよう聴き込むこと(心音耳の作成

【症例1】 高血圧性心疾患,右脚ブロック



※Ⅰ音が減弱している点にも要注意(心収縮力低下のためと思われる)

【症例2】 陳旧性前壁梗塞,冠動脈バイパス術後



※Ⅰ音も分裂しているがこれは肺動脈駆出音と思われる

※ 以前に松下ERランチカンファレンスに投稿した内容の更新版です 🎶

松下記念病院 川崎達也)