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2023-01-30

心疾患も合併することがあります 😶

💙 アルカプトン尿症(Alkaptonuria)
  • 原因:ホモゲンチジン酸-1,2-ジオキシゲナーゼの酵素欠損による常染色体潜性[劣性]遺伝疾患
  • 診断:尿中ホモゲンチジン酸の増加(24時間尿で通常20~30mgが1〜8gへ増加)➜ 遺伝子検査
  • 頻度:米国の発症率は約25万人に1人,スロヴァキア北西で頻度が高い(およそ19,000人中1人)
  • 三徴:暗褐色尿または放置後に暗褐色尿,色素沈着(30歳〜),脊椎・大関節の関節炎(20歳〜) 
  • 合併大動脈弁や僧帽弁の石灰化・逆流,大動脈拡張,腎結石,前立腺結石,甲状腺機能低下など
  • 治療:対症療法/欧州では進行を遅らせるニチシノン(高チロシン血症治療薬)(日本は未承認)



松下記念病院 川崎達也)

2023-01-26

光と影の活用

肺炎のため総合診療科に入院中の症例:心不全の合併が疑われたため朝に訪床した

🌅 現場実況
  • 患者さんがベットに腰掛けている状態でお話を伺い始めた.対側(患者さんの左側)にある大きな窓から入ってくる朝日がとても眩しかった.
  • ほどなくして,頸部の影が上下に拍動していることに気がついた(動画前半の矢印).もちろん内頸静脈の拍動で中心静脈圧は相当に上昇
  • 今度は逆向きに座り直してもらった(動画後半).眩しさはなくなったが,頸静脈の拍動が不明瞭になってしまった(よくみるとあるのだが...)
  • ちなみに右耳朶皺(フランク徴候/Frank's sign)を認める.冠動脈造影は未施行であったが安静心筋シンチグラフィからは虚血が疑われた.

🌇 独り言
  • ペンライトを用いると頸静脈拍動の評価が容易になることは以前から知られています(自験例).部屋の灯を消さなくてもペンライト点灯のみで十分なコントラストが得られることは覚えておいて損はないとおもいます.
  • 個人的にはペンライトを携行していないため,頸静脈拍動の評価目的に用いることほとんどありません.しかし本例のように,太陽光や部屋のライトでできる自然の影をうまく使えないかと常に意識はしています.

松下記念病院 川崎達也)

2023-01-23

Anthem sign(国歌斉唱サイン)

  • 末梢静脈虚脱法を用いて中心静脈圧の上昇の有無を判定する簡便な方法
  • 開発者であるカナダの循環器医 Rizkallah が自らRizkallah signと命名()
  • 診断特異度は医学生 88%,レジデント 85%,循環器フェロー 85%と安定

🐤 実際の方法
  1. 被験者はベッドの頭を30度上げた仰臥位(オリジナル)
  2. 手背の表在静脈を確認(静脈が見えない時は適用なし) 
  3. 腕を(国歌斉唱時の様に)受動的に胸骨上に置く(下図)
  4. 静脈が拡張している場合は陽性(中心静脈圧が上昇)

🐦 独り言
  • オリジナル報告の体位は30度臥床ですが,座位でも仰臥位でもいいような気がします.末梢静脈は逆流防止弁や筋肉の影響など不確定要素が少なくありませんが,本所見の様に臨床経験に影響を受けにくい特異度の高い(=ルールインできる/確定できる)身体所見は臨床に役立ちそうです.イケた命名も素敵です.
アンサム 徴候
💁 末梢静脈に関する過去の投稿 ➜ コチラ

松下記念病院 川崎達也)

2023-01-19

大動脈弁狭窄 vs 身体所見

😅 少し古い研究ですが...
  • 有意なAS(中等度〜)を身体所見から判定する試み(J Gen Intern Med 1998;13:699-704)をSNS(Twitter)を通じて教えてもらったので簡単にまとめておきます.

📎 関連する因子
  • Ⅱ音の減弱
  • 頸動脈容積の減少
  • 頸動脈圧の緩徐な上昇
  • 雑音が第二肋間胸骨右縁で最大



📢 ステップ判定法
  1. 右鎖骨上の雑音なし ➜ 効果的に除外(尤度比0.10;ASの確率1.4%)
  2. 上記因子が0~2個 ➜ ある程度疑われる(尤度比1.8;ASの確率21%)
  3. 上記因子が3~4個 ➜ 確率が高い(尤度比40;ASの確率86%)

独り言 💨
  • 比較的小規模(心エコーを受けた123人で中等度以上のASは16人)かつ身体所見が厳密に定義されていないなどの問題点はありますが,個人的に好きな研究です.
  • 関連する上記の4つ因子の判定(0~2個 vs 3~4個)では,レジデントとスタッフ内科医の間で判定精度の結果に有意差がなかったことも本文中に記載されています.
  • 大動脈弁狭窄は身体所見で診断すべきですが,その重症度判定は心エコー図に分があります.それでも心エコー図には挑み続けたいと思っています(過去の投稿).

松下記念病院 川崎達也)

2023-01-16

カロテン血症 Carotenosis

  • カロテノイド色素の過剰摂取で皮膚(特に掌や足底,鼻など)が黄染した状態
  • 同色素が多い食物(ミカンなど)を過食すると生じるため柑皮症とも呼ばれる
  • 黄疸は眼球結膜(強膜)が黄色くなるが,柑皮症ではならないため区別は可能
  • 白眼黄染が生じない理由はカロテンと親和性が高い脂質が強膜には少ないため

マンゴーとオレンジを6週間に渡って何度も食べた19歳女性

👵 もっと詳しくなら...
  • カロテノイドは脂溶性化合物でα-およびβ-カロテン,β-クリプトキサンチン,リコペン,ルテイン,ゼアキサンチンから構成されています.ミカン以外にもリンゴやオレンジ,パパイヤ,豆,モモ,ベリー,パイナップル,マンゴー,ブロッコリー,キャベツ,カボチャ,ニンジン,ほうれん草,トマト,レタス,バター,チーズ,卵黄,肉,牛乳,栄養補助食品,パーム油などに様々な食物に含まれています.
  • カロテノイドは消化管からの受動拡散によって吸収され,一部は腸粘膜や肝臓でビタミンAへ代謝され,残りは汗・皮脂・尿・消化管分泌物として体外へ排出されます.カロテン血症の最も一般的な原因はカロテン過剰摂取ですが,稀に糖尿病や腎疾患(糸球体腎炎やネルフローゼ症候群など),甲状腺機能低下症,神経性食欲不振症,原発性肝疾患などの全身性疾患に起因することもあるようです.
  • 食事誘発性カロテン血症は病歴と身体所見から診断されます.ただし血清ベータカロテン値が高いこと,ビタミンA値が正常またはわずかに上昇していること,および肝機能検査の結果が正常であることによって確認できます.基礎疾患がなければ深刻な結果につながる可能性が低い良性疾患(美容的な問題は除く)で,食事中のカロテン量を減らすことで消失します.ちなみに昔はカロチンと呼んでいました.


松下記念病院 川崎達也)

2023-01-12

るい痩と右室拍動:COPD症例

息切れで来院した症例の端座位

🐇 解説
  • 心窩部に周期的な拍動(心尖拍動は視認せず)
  • るい痩が目立ち腹式呼吸をしている ➜ COPD?
  • 口すぼめ呼吸はないがフーバー徴候あり(矢印)
  • 頸静脈は座位陰性で心エコー図で右室負荷なし
  • 長期の喫煙歴もありCOPDによる息切れと判断

 🐀 つぶやき
  • 心窩部の周期性拍動は拡大した右室が前胸部と広い範囲で接するために顕性化した右室拍動が多いと報告されている
  • 本例には右室負荷はなく,るい痩で右室拍動が目立ったと思われた(つい先日,漏斗胸の右室拍動も経験 ➜ コチラ
  • COPD例でるい痩が多いのは呼吸筋エネルギー消費の増加(健常者36~72kcal/日の10倍が必要)など(過去の投稿

松下記念病院 川崎達也)

2023-01-09

最近学んだこと🐥

  1. その症例がH&P症例(History and Physical)なのかABC症例(Air, Breathing, and Circulation)なのかを判断する.つまりショックバイタル症例では全身を入念に診察する必要はない.
  2. 腹痛症例のclosed eye signとは,腹部触診時に患者さんが閉眼していれば器質的疾患の可能性が低いこと.腹膜炎などがあれば,患者さんは診察中に何をされるかわからず不安で眼を開けていることが多い.
  3. Leriche(レリシュ)症候群の三徴は勃起障害,間歇性跛行,大腿動脈の触知不良
  4. 女性で歯に口紅が付着していれば,シェーグレン症候群による粘膜の乾燥の可能性がある.
  5. コクランのメタ解析()では,急性腹痛に対しオピオイドを投与しても,診断ミスや治療法の決定ミスを増加させないため,問題なく投与していよい.
  6. リンパ節とはリンパ管の途中にある皮膜に覆われた小さな構造物(<1cm)で,全身におよそ600個ある.
  7. 忙しい現場では「病歴 → 検査 → ±身体所見」ということも行われているのではなかろうか.しかし,過去の偉人の苦労の結晶であるclinical signを共有することで病気を実態として感じ取ることはなんとも有益なことではなかろうか.
  8. 神経性食欲不振症では,自らの手で咽頭反射を誘発して嘔吐するため,上の前歯が当たる手の甲にいわゆる”吐きダコ”が生じる.また胃酸による歯牙侵食(エナメル質の神職による象牙質の露出や歯間の間隙拡大)も生じる.
身体診察 Hospitalist 2022;10(1):1-194より

松下記念病院 川崎達也)

2023-01-05

「実は...」

  • 心房細動でワルファリンを長期内服している症例.アドヒアランスは良好でINR値も10年以上安定していた.定期受診で本人は「調子よい」と言うが採血で貧血が進行していた(INRは安定し過延長なし).ご本人に問うと「実は...」と言って服を脱いで見せてくれた.



松下記念病院 川崎達也)

2023-01-02

聴診部位の覚え方

😊 いろいろな語呂合わせがあるようですが...
  • A PET Monkey(ペットのお猿さん:下図)
  • All Pigs Eat Too Much(すべての豚は食べすぎる)
  • APE To Man(猿からヒトへ)
  • ママとパパ(心尖部から心基部の方向でErb領域は含まず)

All Medical Mnemonics on facebook) 

  •  Aを表す大動脈弁の疾患(特に狭窄)では,第2肋間胸骨右縁(2RSB)に限らず,鎖骨〜心尖部のを結んだ「たすき掛け」の広い領域で雑音が聴取されます.
  • ここだけAllにしたAll PET MR(すべてのPET-MRI検査/Mitral Regurgitationも兼ねる)なんかも良かったりして...知らんけど(責任逃れの必殺大阪語 😅)

💁 語呂合わせに関する過去の投稿 ➜ コチラ(松下ERランチ・カンファレンスに移動します)


松下記念病院 川崎達也)