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2025-07-14

もし座位で認めれば…(フィジカルの高み)

心電図異常+労作時の息切れ(座位)

👼 解説
  • 安静呼吸時には頚部に拍動を視認せず
  • ただし稀に陽性波? ➜ キャノンa波
  • 深吸気保持で陽性波が連続出現(矢印)
  • 脈触診併用で同波は収縮期直前(a波)
  • 本例の最終診断は両心室肥大型心筋症

👳 独り言
  • 肥大型心筋症ではa波が明瞭になることが多いと思います.当院の研究でも7割以上の症例でa波を視認しています.ただしこの数値は臥床であって(典型的な自験例),座位でa波を認める症例は10%にすぎません.座位のa波視認は,HCMのフィジカル診断に対して感度10%ながら特異度は100%
  • 座位でa波を認める他疾患は3度房室ブロック(自験例)や期外収縮(自験例)によるキャノンa波です.その機序は右房収縮時に三尖弁が閉鎖しているためです(この場合はa波が規則正しく出現しないので視診でも鑑別可能).三尖弁狭窄では規則正しいa波ですが超稀(腫瘍による類似病態の自験例
  • HCMでa波が目立つ機序は右房の後負荷増大(≒右室のコンプライアンス低下)です.よって右室肥大を有する肥大型心筋症ではa波が目立ちやすいと思います(左室肥大のみでもベルンハイム効果のため右室コンプライアンスは低下).右室肥大を伴うHCMの頻度は1~2%と稀ですが(PLoS One 2017;12:e0174118),ぜひ右心系HCMのフィジカル診断に挑戦してみてください.

松下記念病院 川崎達也)

2025-03-03

第21回 循環器Physical Examination講習会より


循環器Physical Examination講習会は故・吉川純一先生が2003年に立ち上げられた身体所見に関する研究会です.「生きた physical examination」を体感・習得して,「感動できる」ものにしていきたいと思っています.毎週情報発信をしているので,よければSNSでフォローしてみてください.


👻「フィジカル講習会」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

松下記念病院 川崎達也)

2025-01-30

今週の一枚 🎯

胸痛で来院した中年男性



松下記念病院 川崎)

2024-12-09

第21回 循環器Physical Examination講習会より


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松下記念病院 川崎達也)

2024-12-02

心不全の身体所見

  • 心不全の本体は左室充満圧の上昇(左室拡張末期圧ではない)あるいは左房圧の上昇と理解できます.よって肺動脈楔入圧(pulmonary capillary wedge pressure: PCWP)と強い関連を有する指標が心不全管理には有用です.
  • どうやら身体所見(自覚症状を含む)の中では頸静脈の膨隆(≠怒張/回避したい用語)が一番強い関連だったようです.これは個人的な肌感覚にも合っているかなと思います(もっともPCWPは滅多に測定していませんが...)

👀 おまけ
  • 上記論文はDr. Mark Draznerのグループからの報告です.ドレズナー先生はテキサス大学サウスウェスタン医療センターの内科教授で,心臓病学の臨床主任です.
  • 専門は心臓移植を含む重症心不全の治療などと思われます.特に心不全症例での右房圧と左房圧の関係では他の追随を許さない程の業績を挙げられています.
  • ただしX(旧Twitter)ではフォロワーが3,112名と寂しい限りです.あまり発言されていませんが... 2017年3月から計765ポストで,最近では月に一回くらい
Xより(@MarkDrazner

松下記念病院 川崎達也)

2024-07-08

第21回 循環器Physical Examination講習会より


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松下記念病院 川崎達也)

2024-06-20

漏斗胸:V1 ≒ aVR

検診で心電図異常を指摘された男性(無症状)

👶 解説
  • 前胸部に陥凹があり漏斗胸と判断
  • 心窩部に周期的陥凹もあり(矢印)
  • 橈骨動脈の拍動と一致し右室拍動
  • 本例は無症状で心エコー図も正常

😃 追加コメント
  • 漏斗胸では胸郭の前後径が小さくなり,右心系の異常がなくても明瞭な右室拍動をしばしば経験します(他の自験例:コチラ).三尖弁や僧帽弁の逆流を伴うこともありますが,本例くらいの漏斗胸で問題になることは少ないと思います.
  • 本例の受診契機は心電図異常でした.漏斗胸26例の手術前後での心電図検討:II誘導のP振幅とV1のP陰性振幅が減少,平均QRS幅の減少,Sokolow-Lyon指数の減少,V4-V6のJ波が増加(J Electrocardiol 2016;49:174-81)   
  • 漏斗胸の心電図にはもっとピンポイント判定法があるようです.それはV1の陰性P+Qrパターン+陰性T波です(北海道医報 第1249号).V1電極がaVRと同じ角度になるからだそうです(なるほど&何事もその道の匠はすごい😳)


松下記念病院 川崎達也)

2024-05-09

有名も役立たず?

息切れ症例の心尖拍動

😐 偽ブロードベント徴候(Pseudo Broadbent's sign)
  • 臥床(20度ヘッドアップ)で心尖部拍動を視認(矢印)
  • 拍動は陥凹で時相は収縮期(背後のモニター音に注目)
  • 最終的に本例は心房中隔欠損による心不全と診断した

😕 独り言
  • 心尖拍動の収縮期陥凹は,収縮性心膜炎で出現する所見(ブロードベント徴候/Broadbent sign)として有名です.しかし本例ではクスマウル徴候や心膜ノック音はありませんでした(フリードライヒ徴候は微妙に陽性?)
  • ベットサイド心エコー図では右心系の拡大が少し目立ちましたが,明らかなシャント疾患を検出できませんでした.その後にハイエンド機で再検して,心房間のシャントを認めたため心房中隔欠損による心不全と診断しました.
  • この収縮期陥凹(systolic retraction)は,様々な病態で認めます(自験例1自験例2).収縮性心膜炎で欠くことも多く,個人的には臨床現場であまり役立たない所見(感度も特異度もともに低い)と思っています.

松下記念病院 川崎達也)

2024-05-02

今週の一枚 🎯

右心カテーテルで意外な疾患が判明した症例

👿 カテ後に身体所見を確認

👾 臨床現場
  • 本例はⅡ音の肺動脈成分が亢進していたため肺高血圧が疑われた.しかし右心カテーテル検査で肺高血圧はなかった.右室の内圧は想定外のdip and plateauを示していた.
  • その後に身体所見を見直すと収縮性心膜炎の軽症〜中等症に合致する所見(重症度分類).明瞭なⅡ音の肺動脈成分は,肺動脈弁領域に限局したノック音であったようだ.
  • いつもながら収縮性心膜炎は一筋縄ではいかない.本例は利尿薬等で安定したため心膜剥離は未施行.ちなみに本例には心尖の収縮期陥凹(ブロードベント徴候)はなし.

👻「今週の一枚」の過去の投稿は コチラ松下ERランチ・カンファレンスの名物コーナー)

松下記念病院 川崎達也)

2024-04-08

フィジカル忘備録:第21回循環器Physical Examination講習会より

  • 心房中隔欠損では肺高血圧がなくてもⅡ音の肺動脈成分が亢進する(肺動脈の基部が拡大し胸壁に近づく+肺血流が増加するため)
  • 心房中隔欠損では相対的PSによる収縮期駆出性雑音に加えて三尖弁拡張期ランブルを聴取することがある
  • 循環器フィジカルイグザミネーションの実際(2005/9/1,吉川純一編集,文光堂)は青本と言われている
  • Dr.水野のうたう♪心音レクチャー /ケアネットDVD(ケアネット,2017/1/1)がいい
  • 心不全の心機能分類 NYHA ではⅡ度はⅡs(slight limitation of physical activity)とⅡm(moderate limitation of physical activity)に細分するが,Ⅲ度はⅢa(慢性)とⅢb(最近の症状出現:Patients in NYHA class IIIb closely resemble those with a recent history of dyspnea at rest)
  • 心不全の身体所見の要は低還流,肺うっ血,体液貯留の3つである
  • 敗血症の低灌流は膝を見るとより(一番冷たい)
  • 下肢挙上は自己輸血(補液500mlと同じCRT改善効果)
  • 大動脈のRCCとLCCの間に左脚枝があるので手術時には慎重に行う
  • Prosthesis-patient mismatch (PPM) は患者の体格に対して不適切に小さい人工弁が留置され十分な有効弁口面積(EOA)が得られない状態
  • functional MRは雑音が聞こえにくい


当日の風景(少数の現地聴講+全国にWEB配信)

👻「忘備録」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

松下記念病院 川崎達也)

2024-03-28

ベルンハイム症候群 Bernheim's syndrome

  • 右室内腔の狭小化のため右心不全を呈する左心系の疾患.Bernheim が100年以上前に報告(De l'asystolie veineuse dans l'hypertrophie du coeur gauche par stenose concomitante du ventricule droit. [仏語:右室狭窄を伴う左心肥大の静脈性不全収縮] Rev de WV 1910;30:785-801).
  • ただしベルンハイム症候群に懐疑的な報告も少なくないようで,最近では目にすることはほとんどないと思われる.2000年以降でGoogle scholarの検索ではわずかに33件がヒット(実際の検索).日本語では全期間を通してもわずか数編程度でしょうか?

ベルンハイムのオリジナル論文からの図の転載

👿 深掘り

仁村泰治先生が「肥大型心筋症に伴う右室流出路狭窄と"Bernheim症候群"」という題でeditorial commentを発表されています(心臓 1992;24:1309-12).ベルンハイムの提案した項目をわかりやすくまとめられています(下記).このベルンハイム症候群に対しては少し懐疑的な見方を示しつつ,ベルンハイム効果とういう観念で考えるならば意味はあると述べられておられるところはさすがです.同効果はこの心臓フィジカル広場でも頻出です(ココ).

  1. 左心系の疾患であって,左室肥大ないし拡張が著しい
  2. 肺うっ血はなく,臨床的にも起坐呼吸,咳など,それに相当する症状はない
  3. 直接に右心不全を来たすような右心,肺循環系の疾患はない
  4. 左室の肥大,拡張ないし心室中隔の肥大のため,中隔は右室腔内に凸に膨隆し,そのため,右室,特にその下半は狭小化している.ロート部はかえって代償的と見られる肥大,拡張を示していることが多い
  5. 頸静脈怒張,肝腫大,下肢浮腫など右心不全症状が見られる
  6. 以上の事柄からこの右心不全は,通常考えられるような左心不全→肺循環負荷→右心不全と言う経過を辿ったものでなく,上述のような右室内腔の狭小化のため,静脈還流が制限され,左心不全,肺循環負荷とは関係なしに,右心不全の状況を来たしたと考えられる

松下記念病院 川崎達也)

2023-11-23

右心カテーテル

  • 最近では右心カテーテルを行う機会はめっきり減少しました.しかし頸静脈所見を解釈するためには,右心カテーテルで得られる圧波形を知っておくことが重要です.少し前にSNSで目にした論文)が気になったため,右心カテーテルの歴史と代表的な波形を復習してみました.

♻ 歴史
  1. 西ドイツの泌尿器科医フォルスマンWerner Forssmann、1904-1979)が自らの腕を切開して尿道カテーテルを右心房まで到達させレントゲンを撮影した(Klinische Wochenschrift 1929;8:2085). その一件で病院を解雇されたが,これは世界初の心臓カテーテルで1956年にノーベル生理・医学賞を受賞.同じ様な行動をとった医師が他にもいたがフォルスマンのみ写真が残っていたらしい(
  2. フランスの医師・生理学者であるクールナンAndré Frédéric Cournand, 1895-1988)が,右心カテーテルによる圧測定および心拍出量の測定法を確立した(J Clin Investig 1945;24:106).フォルスマンと同時にノーベル生理・医学賞を受賞した.同年は3人の同時受賞でもう1人はリチャーズDickinson Woodruff Richards Jr.,1895-1973)
  3. アイルランドの心臓専門医スワンHarold James Charles “Jeremy” Swan,1922–2005)とスロバキア生まれのアメリカの心臓専門医ガンツWilliam Ganz,1919-2009)が先端にバルーンが付いた肺動脈カテーテル(別名:スワン・ガンツカテーテル/Swan-Ganz catheter)を開発(N Engl J Med 1970;283:447-51

- 圧力波形のピットフォールと異常 -

松下記念病院 川崎達也)

2023-06-05

ナクソス病 Naxos disease

  • 概要 羊毛状の毛髪と掌蹠角化症,および心筋症を合併した病態
  • 名称 ギリシャのナクソス島の家系(Br Heart J 1986;56:321-6
  • 原因 デスモソーム蛋白の遺伝子変異(常染色体の劣性遺伝疾患)
  • 心臓 不整脈原性右心室心筋症(多くは小児期に症状が出現する)
  • 疫学 ギリシャの島々で1人/1,000人(他にトルコやイスラエル)
  • 予後 年間の疾患関連死亡率は約3%,突然死は2.3%程度と不良
  • 治療 心不全治療,抗不整脈薬,除細動器植込み,心臓移植など


ナクソス病の皮膚表現型: 羊毛 (A),手掌角化症 (B),足底角化症 (C)

(A) LBBB 形態の心室頻拍,(B) イプシロン波を伴う RBBB (矢印),(C) 拡張した右心室,(D) TAPSE 7 mm(右心室収縮機能が不良)


松下記念病院 川崎達也)

2023-02-13

カルチノイド心疾患 Carcinoid Heart Disease

👽 カルチノイド症候群(Carcinoid syndrome)
  • 概念 カルチノイド腫瘍(神経内分泌腫瘍)から活性物質の放出(同腫瘍の約10%)
  • 機序 活性アミン(セロトニン・ヒスタミン),タキキニン,プロスタグランジンなど
  • 部位 消化管に発生することが多く,次いで肺や気管支,稀に卵巣や胸腺にも発生
  • 疫学 世界的なカルチノイド年齢調整発生率は10万人当たり約2人(小児期は極稀)
  • 症状 下痢や皮膚潮紅,喘鳴,ペラグラ症状(rough scaly skin,舌炎,口角炎)など
  • 心臓 稀に右心系の心内膜や弁の線維化で三尖弁逆流や狭窄など(カルチノイド心疾患) 
  • 診断 セロトニンの代謝産物である尿中5-HIAAの測定(24時間蓄尿)+各種画像検査
  • 治療 大原則はリンパ節郭清を伴う外科手術による根治的切除(有効な化学療法なし)

カルチノイド心疾患の72歳男性
顔面の潮紅+(心不全による)チアノーゼ+毛細血管拡張

松下記念病院 川崎達也)

2022-12-15

漏斗胸と右室拍動

心電図異常の精査で来院した無症候例の座位

🐤 解説
  • 左右対称の胸骨および肋骨の陥凹 ➜ 漏斗胸と診断
  • 心窩部に出現と消退を繰り返す拍動を認める(矢印)
  • 拍動は吸気時には明瞭であるが,呼気時には不明瞭
  • 頸静脈は座位陰性クスマウル左上肢挙上も陰性
  • BNP値は正常内で心エコー図や冠動脈CTも異常なし

 🐦 つぶやき
  • 心窩部の明瞭な拍動は,拡大した右室が前胸部と広い範囲で接するために顕性化した右室拍動が多いと思われます(稀に肝拍動のこともあり)
  • しかし心疾患(特に右室負荷)を認めない症例で,明瞭な拍動を呈することは稀です.本例ではやはり漏斗胸が関連していると考えられます.
  • 漏斗胸では吸気時の胸郭容積の増加が制限されます.吸気時には右室への静脈還流も増加するため本例では右室拍動が目立ったと理解しました.

松下記念病院 川崎達也)

2022-10-06

端座位の心尖拍動から…

弁膜症による慢性左心不全の評価目的で当院を紹介受診した症例

🐤 解説
  • 端座位で心尖拍動の最外側は左乳輪の左外側へ偏位 ➜ 心拡大の疑い
  • 乳輪下の心尖拍動は2肋間以上で観察可能(本例は3肋間)➜ 心拡大
  • 拍動は抬起性で吸気保持で少し明瞭化(ただ呼気保持でも観察可能)
  • 本例は胸部X線で心胸郭比は増加して,心エコー図で遠心性肥大あり

🐦 つぶやき
  • 心窩部にも拍動があり右室の反映と考えられます.よく見ると乳輪下の拍動(左室拍動)よりも右室拍動が少し遅れています(通常でも左室収縮は右室収縮に僅かに先行).
  • 吸気時には左室ー右室のタイムラグが拡大しているようです.おそらく吸気に伴う静脈還流の増加で右室の前負荷が増えて,収縮開始が少し遅延するのかな〜と考えます.
  • さらに吸気時に心拍数(拍動数)が低下しています.バルサルバ負荷で胸腔内圧が上昇すると心拍数は低下しますが,本例では吸気保持早期から心拍数の低下が目立ちます.
  • 吸気時(肺に酸素が多い時)には通常,心拍数が上昇します(より多くの酸素を血中に取り込むため).圧受容体を介する反応ですが,心不全例ではしばしば障害されています.


松下記念病院 川崎達也)

2022-08-01

肺高血圧のフィジカル診断

🎓 系統的レビューPLoS One. 2014 Oct 24;9(10):e108499
  • 肺高血圧の関連所見:右室拍動,大きなⅡ音肺動脈成分,頸静脈怒張,三尖弁逆流音,右心系Ⅳ音(いずれも安静時および吸気時)
  • もっとも肺高血圧に関連する指標:吸気時の亢進したⅡ音肺動脈成分(陽性尤度比3.2)と吸気時の右心系Ⅳ音(陽性尤度比4.7)
  • ただし身体所見のスペシャリストとその他の検者では診断能の差は小さくなく,また肺高血圧を一貫して除外できる身体所見はない

💁 肺高血圧の過去の投稿は コチラ(ウェブ版なら画面右の分類からも選択可)

松下記念病院 川崎達也)

2022-02-21

傍胸骨版クスマウル徴候 Parasternal Kussmaul's sign

息切れで来院した中年男性(向かって左が頭側)

🐳 解説
  • 胸骨部分がやや陥凹しているが漏斗胸というほどではない.胸骨左縁(動画の奥側)に少し拍動が確認できる(特に電子聴診器を置いた拡大像).よく見ると吸気時にその拍動が明瞭になっている.
  • 傍胸骨拍動は胸壁が薄い若者で認めることはあるが,正常では触知されない.中年である本例の傍胸骨拍動は,触診持続時間の短いタッピング(容量負荷)というより持続時間の長い抬起性(圧負荷)
  • 本例の頸静脈は仰臥位で ”まさしく” 怒張し,心尖部でⅢ音を聴取した(ただし下腿浮腫はほぼなし).引き続き心エコー図で心収縮力の低下と肺高血圧を確認した(現時点では拡張型心筋症の疑い)

🐟 おまけ
  • 傍胸骨拍動は肺高血圧に伴う右室負荷を示唆(ただし稀に左房拍動肺動脈拍動もあり).また吸気に伴う右室拍動の明瞭化は稀ならず経験(他の自験例
  • 明瞭な傍胸骨拍動は稀です.特異度が高い検査なので僅かな所見を見逃さないためにも是非,呼吸時相の意識や吸気負荷の追加(クスマウル徴候の傍胸骨版

松下記念病院 川崎達也)

2021-12-23

沈黙の臓器

息切れで受診した在宅酸素中のCOPD症例

💣 解説
  • 腹式呼吸+ビア樽状胸郭はCOPDに合致(ただしフーバー徴候はなし)
  • 右季肋部〜心窩部(付箋の貼り付け部)に拍動あり ➜ 肝拍動の疑い
  • 拍動のパターンは収縮期に隆起(付箋よりも腹壁の方が分かりやすい)
  • 肝拍動は基本的に頸静脈拍動に類似 ➜ 巨大V波(三尖弁逆流)の疑い
  • 最終的にCOPDによる肺性心に関連した重症の三尖弁逆流と診断した

  • 身体所見は「頸静脈 ➜ 傍胸骨 ➜ 心尖拍動 ➜ 心音」と進めることが多いと思います.よって循環器外来では腹部はついつい忘れがちです(😯僕だけ?)しかしお腹の診察(特に初診時)はとても大切です.これは腹部大動脈瘤を見つけるチャンスだからです(自験例).外来で長年フォローしてる心疾患の患者さんが,腹部動脈瘤の破裂で死亡する悲劇は主治医として何が何でも回避!
  • 実際に肝拍動が診断にとても有用だったケースはあまり経験しません(収縮性心膜炎の自験例).その他の身体所見(頸静脈や心音など)で診断できることが多いからかもしれません.しかしフィジカルを愛する医療従事者としては,肝臓のアピールには是非,気がついてやりたいものです.とてもおしゃべりな心臓(心音・心雑音=心臓語)と違って,肝臓は沈黙の臓器なのですから…

松下記念病院 川崎達也)

2021-07-26

ダブルリトラクション(二峰性陥凹) Double retraction

健診で心電図異常を指摘された無症状の症例

💞 解説
  • 坐位で窩部左側に周期的な皮膚面の陥凹(心尖周囲には拍動なし)
  • 時相解析から収縮期陥凹と判断 ➜ 収縮性心膜炎で有名であるが…
  • よくみると陥凹は二峰性で小さい凹が抬起性の陥凹に先行(付箋)
  • 収縮性心膜炎を示唆する所見なく最終診断は非閉塞性肥大型心筋症

💕 迷?探偵
  • 本例の拍動は部位からも左室心尖の拍動とは考えられず,右室の拍動を見ているものと推測した.実際に本例では明瞭なⅣ音を聴取したが,心尖以外の広い範囲でも確認できた(つまり右心系Ⅳ音の疑い:いわゆるどこでもⅣ音).
  • この聴診所見は,本例のダブルインパルスならぬダブルリトラクション(収縮期の二峰性陥凹)が右心系の由来という推測を支持する.ちなみに本例は右室拡大や右室肥大はなく,左室の心尖拍動の牽引(?)による右心尖周囲の偏位と思われる.

松下記念病院 川崎達也)