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2022-12-29

BOSI: bending oxygen saturation index

💟 前向き臨床研究Eur J Heart Fail 2022;24:2108-17
  • Bendopnea=前屈時呼吸困難(例:前かがみで靴をはく)で心不全を示唆
  • BOSI=端座位の状態から前かがみになった時に低下する酸素飽和度の程度
  • 安定した外来心不全症例でBOSI3%以上の低下は独立した予後予測因子
  • しかし前かがみ時の息切れ症状は心事故とは関連せず (95% CI 0.83–1.31)

👤 独り言
  • 前屈時の呼吸困難の出現が予後と関連しなかったことは意外でした.しかしなんとなく分かる気がします.実はつい先ほど,ビールを飲みながら椅子に座ってこのコンテンツを作成中,下に落ちたペンを拾おうとしたら胸が圧迫され息苦しさを感じたからです(僕は心不全に罹患していないはず 😅).自覚症状ってあまりあてにならないことがあります.

🉐 心不全に関する過去の投稿 ➜ コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可))

松下記念病院 川崎達也)

2022-12-26

タンジール病 Tangier disease

  • 先日,Twitterで印象的な咽頭所見を見かけました.一度見たら決して忘れない身体所見です.若年の狭心症で循環器内科を受診する可能性もあります.臨床現場でまだ経験したことはありませんが,将来困らないように調べてみました.
(そのツイッター/オリジナルはココ

🧡 タンジール病(Tangier disease)
  • HDLコレステロールとアポリポタンパクA-I濃度が著しい低値を示す常染色体劣性遺伝疾患
  • アメリカ東海岸のバージニア州タンジール島で初めて発見されたことから名付けられた病気
  • 原因はATP binding cassette transporter A1(ABCA1)の遺伝子異常で稀(日本で10家系程度)
  • HDL-Cが10mg/dL未満で,鑑別疾患にはLCAT欠損症や二次性低HDLコレステロール血症など
  • オレンジ色の咽頭扁桃腫大(上図)、肝脾腫、角膜混濁、末梢神経障害,若年性冠動脈疾患
  • 遺伝子治療などの根本的な治療はまだない(合併する動脈硬化性疾患の予防・治療が中心)

参考)難病情報センター タンジール病(指定難病261)


🉐 オレンジに関する過去の投稿 ➜ コチラ松下ERランチ・カンファレンスに移動)

松下記念病院 川崎達也)

2022-12-22

耳ウインクサイン Winking earlobe sign

下腿浮腫とBNP上昇で紹介受診した症例(端座位)

💛 解説
  • 顎下に周期的な拍動(陥凹)を認める ➜ 内頸静脈の拍動
  • 耳朶も拍動あり(winking earlobe sign,耳ウインクサイン)
  • 座位であることを考慮すると中心静脈圧は高度上昇の疑い
  • 耳垂に45度の皺(earlobe crease,フランク徴候)もあり
  • 心エコー図で心肥大と肺高血圧あり ➜ 最終診断はHFPEF

💜 追加情報
  • 身体所見はマスクの着用で過小評価されることがあります(マスクでマスクと勝手に命名:自験例1自験例2).本例ではマスクを外しても,あまり変わりませんでした.マスクのゴム紐などには影響を受けない「強い静脈拍動」と思われます.
  • 本例ではフランク徴候を認めましたが,その後の精査で冠動脈狭窄はありませんでした.耳垂皺の3万例以上のメタ解析(Int J Cardiol 2014;175:171-5)では冠動脈疾患に対する感度は62%,特異度は67%と報告(臨床的には今ひとつ😐)
  • ちなみに本例は息切れなどの心不全症状は乏しかったのですが,これは認知症によると思われました.システマティックレビュー(J Card Fail 2017;23:464-75)では,心不全患者の認知機能障害の合併頻度は43%(95%信頼区間30~55)

松下記念病院 川崎達也)

2022-12-19

モンドール病 Mondor’s disease

  • 概要:体表に触知可能な紐状の硬結構造物を呈するかなり稀な良性の血栓性静脈炎
  • 初報:仏外科医 Mondor(Mémoires de l'académie de chirurgie 1939; 65: 1271-1278)
  • 症状:索状の触知可能な硬結(稀に痛み,こわばり,紅斑,発熱,不快感などを伴う)
  • 診断:身体検査(+血管エコー)/ただし他の基礎疾患に関連した二次性は除外必要
  • 原因:特発性45%,外傷性22%(きついブラジャーを含),医原性20%,乳がん5%
  • 部位:前外側胸腹部壁(オリジナル),陰茎,および腋窩(別名は腋窩ウェブ症候群)
  • 疫学:病変は主に片側性で,女性と男性の比率は9:1〜14:1と女性に多い(特に中年)
  • 経過:原発性は治療不要で4~8週間で自然治癒し再発は稀(二次性は基礎疾患による)

参考)Intern Med 2018;57:2607–12,ほか

胸壁モンドール病(52歳・男性)
胸痛と柵状構造物の触知で来院.右上肢の挙上時に出現(図1)して,上肢を降ろすと消失(図2)が特徴的.(Intern Med 2019;58:3349) 

陰茎モンドール病(28歳・男性)
1週間前に妻と激しいセックス.性的禁欲だけで2週間以内に病変は解消し2年間の追跡期間中,再発も勃起不全も観察されず.(Intern Med 2018;57:2607–12

腋窩モンドール(腋窩ウェブ症候群)(32歳・男性)
疼痛で来院して腋窩の柵状構造物とエコー所見から診断.無治療で4週間以内に改善.(Intern Med 2019;58:1805

松下記念病院 川崎達也)

2022-12-15

漏斗胸と右室拍動

心電図異常の精査で来院した無症候例の座位

🐤 解説
  • 左右対称の胸骨および肋骨の陥凹 ➜ 漏斗胸と診断
  • 心窩部に出現と消退を繰り返す拍動を認める(矢印)
  • 拍動は吸気時には明瞭であるが,呼気時には不明瞭
  • 頸静脈は座位陰性クスマウル左上肢挙上も陰性
  • BNP値は正常内で心エコー図や冠動脈CTも異常なし

 🐦 つぶやき
  • 心窩部の明瞭な拍動は,拡大した右室が前胸部と広い範囲で接するために顕性化した右室拍動が多いと思われます(稀に肝拍動のこともあり)
  • しかし心疾患(特に右室負荷)を認めない症例で,明瞭な拍動を呈することは稀です.本例ではやはり漏斗胸が関連していると考えられます.
  • 漏斗胸では吸気時の胸郭容積の増加が制限されます.吸気時には右室への静脈還流も増加するため本例では右室拍動が目立ったと理解しました.

松下記念病院 川崎達也)

2022-12-12

ポーランド症候群 Poland's syndrome

  • 最近,久しぶりに(正確には2年1月ぶりに)ポーランド症候群の症例をTwitterで見かけました(ココ).以前に松下ERランチカンファレンスに投稿した内容ですが心臓フィジカル広場にもアップしておきます.

  1. 片側胸筋の発育不良や欠損,肋骨・肋軟骨異常,合短指・短指症などを特徴とする先天性疾患
  2. 英国の外科医 Sir Alfred Poland(1822–1872)が初報(Guy's Hospital Reports 1841;VI:191–3
  3. 頻度は2万~3万人に1人/75%が男性で75%は右側に出現/治療は豊胸術などの形成外科手術


(Indian J Hum Genet 2014;20:82–4/本例は左が患側)

  👾 トリビア調査隊
  • Sir Alfred Polandはロンドン生まれ・ロンドン育ちでポーランド人ではありません.ポーランドという姓は英語化されたアイルランド姓で,アイルランド以外では英語とドイツ語が起源のようです().ちなみにポーランドの国名は西スラヴの部族ポリャーネ族が由来で,ポリャーネの由来はスラヴ祖語でfieldを意味するようです().本邦にも日本という苗字の方がおられることを今回初めて知りました.読み方はひのもと・ひもと・にほん・にっぽん・やまとで,およそ150人の方がこの貴重な姓を持っておられるようです().

松下記念病院 川崎達也)

2022-12-08

首問題:動脈 vs 静脈

収縮期雑音で循環器内科を紹介受診した症例(端座位)

🍙 解説
  • 頸部に周期的拍動あり ➜ 動脈性あるいは静脈性の判断が必要
  • 動脈性なら頸動脈のコリガン脈 ➜ 大動脈弁逆流(拡張期雑音
  • 静脈性なら頸静脈のランチシ徴候 ➜ 三尖弁逆流(収縮期雑音
  • 外頸静脈は見えず+左側にも拍動あり(矢印)➜ 動脈性を示唆
  • 本例の最終的な診断は大動脈弁逆流による頸動脈のコリガン脈

😗 余談
  • 頸静脈拍動は陥凹することが多いのですが,中心静脈圧が高度に上昇すると陽性波を形成することがあります(典型例).陽性波が動脈性か静脈性かは拍動の触診で鑑別できますが,なんとか視診のみで診断したいといつも思っています(本ページでは様々な方法で鑑別に挑戦しているので検索窓から探してみてください)
  • 本例のポイントは収縮期雑音として紹介受診した点です.臨床現場では,大動脈弁逆流例が拡張期雑音で紹介されてくることはむしろ稀だと思います.拡張期雑音はとても見逃しやすい音です.本例も大動脈弁狭窄はありませんが,相対的な大動脈弁狭窄によると思われる収縮期雑音が目立ちました(厳密には往復雑音でした)

松下記念病院 川崎達也)

2022-12-05

👴 歴史クイズ




松下記念病院 川崎達也)

2022-12-01

これなら安心

拡張型心筋症+アブレーション後の症例
診察前の心電図検査で心房細動が再発していることが判明した

🐦 解説
  • 端座位で鎖骨上に内頸静脈の拍動なし ➜ 中心静脈圧の高度上昇なし
  • 吸気負荷でも拍動は出現せず ➜ 中心静脈圧の中等度〜高度上昇なし
  • 左上肢の挙上でも拍動は視認せず ➜ 中心静脈圧の中等度の上昇なし
  • 息切れなどの心不全症状なく聴診でもⅢ音を聴取せず ➜ 1月後再診

🐳 独り言
  • 以前は吸気負荷で内頸静脈の拍動が出現しなかったら(広義のクスマウル徴候陰性),「これなら一安心」と判断していました.しかし最近では心不全(新規または再発・増悪)が疑われる症例では,吸気負荷が陰性の場合に吸気と左上肢挙上の同時負荷を行うようにしています.
  • 実は本症例は診察室に入ってきて椅子に腰掛けた直後の検査で,左上肢挙上負荷は陽性でした.しかしスマホを取り出して撮影許可を得た後の上記記録では陰転化していました.1〜2分の座位で視認できなくなる静脈圧の上昇なら,急いで介入しなくても大丈夫だろうと判断しました.

松下記念病院 川崎達也)