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2023-02-27

論文 🏆 フィジカルとはあまり関係ありませんが...

  • 当院の初期研修医であった梶先生が循環器内科で経験した症例が出版されました
  • 転落後の胸痛で当院のERに搬入 ➜ 右側気胸+前壁心筋梗塞と診断して順に治療
  • 本例のポイントは気胸は外傷性ですが心筋梗塞は外傷によるストレス誘発の疑い


😀 おまけ
  • 本例の主訴は胸痛と呼吸困難感でした.もちろんともに外傷性気胸で説明は可能です.ER搬入時に心電図も記録していますが,大きな問題はないと判断しています(ただし後から見返すと僅かにST上昇?)
  • 胸痛が持続するため心電図を再検(受傷後120分後/来院40分後)➜ 全胸部誘導で明瞭なST上昇が判明しました.胸腔トロッカーを挿入後に緊急カテーテル治療(ヘパリンや抗血小板薬は通常通り投与)
  • 精神的ストレスが心筋梗塞を誘発するの機序として,血行動態の過負荷・自律神経機能障害・神経内分泌活性化・炎症反応・血小板活性化などによる冠動脈プラークの破壊と血栓形成が提唱されています(

👿「論文」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

松下記念病院 川崎達也)

2023-02-23

言うは易く行うは難し Easier said than done  

労作時の息切れで来院した症例(端座位)

🐤 解説
  • 端座位の状態で頸部の下1/2に周期的は拍動(隆起)を認める
  • 陽性波 ➜ 頸動脈(コリガン脈)または頸静脈(ランチシ徴候
  • 頸部下端の用手的圧迫で同拍動は消失した ➜ 内頸静脈の拍動
  • 本例は最終的に慢性左心不全の増悪によるランチシ徴候と診断

 🐦 つぶやき
  • 頸部で陽性波を見た時,静脈性か動脈性かの鑑別が必要です.そのポイントとして,①触診による拍動の強さ,②呼吸性変動の有無,③脈触知を併用した時相判定,④圧迫による消失の有無,などが知られています.
  • しかしこの鑑別は"Easier said than done"(言うは易く行うは難し)と思っています.陽性波を示すほど高度に上昇した中心静脈圧の拍動はまるで動脈です(自験例).もちろん呼吸変動なんてありません.
  • 本ビデオでは圧迫で消失していますが,強く抑え込まないと消えてくれませんでした(3度撮り直し😅).時相の違いも僅かだし...動脈性なら収縮期 vs 静脈性(巨大v波/cv merger)ならⅡ音ピーク(収縮後期〜拡張早期)

松下記念病院 川崎達也)

2023-02-20

閉塞性肥大型心筋症の身体所見:まとめ


😀 実際の所見

 😙 独り言
  • 頸静脈の増高a波や心尖のダブルインパルス力強い第4音の存在は(閉塞機転の有無に関わらず)肥大型心筋症の画像検査診断に間違いなく役立ちます.
  • 頸動脈のスパイク・ドーム波形は有名ですが僕は自信がありません.一方,偽駆出音は稀ですが独特のリズムなので,耳コピしておけば一発診断が可能です.

松下記念病院 川崎達也)

2023-02-16

拍動する怒張

心不全と診断され入院した症例

😄 解説
  • 臥床で外頸静脈が怒張している ➜ 中心静脈圧の上昇あり?
  • 吸気負荷で外頸静脈怒張は改善なし(クスマウル徴候陽性)
  • よく見ると👀怒張した外頸静脈に拍動あり(周期的な隆起)
  • 外頸静脈の下にある胸鎖乳突筋の拍動 ➜ 内頸静脈の拍動!
  • 端座位で内頸静脈の陽性波(ランチシ徴候/Lancisi's sign
  • 座位で吸気負荷 ➜ 内頸静脈の陽性波+外頸静脈の隆起出現

😃 コメント
  • プレゼンで多用されている表現「頸静脈の怒張」は,拍動や呼吸性変化を伴わないパンパンに張った状態と考られます.この表現は頸静脈にのみ適応されるべきです(実例).頸静脈が怒張するような病態では循環動態を保てません(生存困難).
  • 本例の外頸静脈は拍動していますが,今回は怒張と表現してもいいと思います.これは外頸静脈自らの拍動ではなくて,他の要因(内頸静脈の拍動)を反映しているに過ぎないからです.ただし怒張は仰臥位でのみで,座位は単なるクスマウル徴候です.

松下記念病院 川崎達也)

2023-02-13

カルチノイド心疾患 Carcinoid Heart Disease

👽 カルチノイド症候群(Carcinoid syndrome)
  • 概念 カルチノイド腫瘍(神経内分泌腫瘍)から活性物質の放出(同腫瘍の約10%)
  • 機序 活性アミン(セロトニン・ヒスタミン),タキキニン,プロスタグランジンなど
  • 部位 消化管に発生することが多く,次いで肺や気管支,稀に卵巣や胸腺にも発生
  • 疫学 世界的なカルチノイド年齢調整発生率は10万人当たり約2人(小児期は極稀)
  • 症状 下痢や皮膚潮紅,喘鳴,ペラグラ症状(rough scaly skin,舌炎,口角炎)など
  • 心臓 稀に右心系の心内膜や弁の線維化で三尖弁逆流や狭窄など(カルチノイド心疾患) 
  • 診断 セロトニンの代謝産物である尿中5-HIAAの測定(24時間蓄尿)+各種画像検査
  • 治療 大原則はリンパ節郭清を伴う外科手術による根治的切除(有効な化学療法なし)

カルチノイド心疾患の72歳男性
顔面の潮紅+(心不全による)チアノーゼ+毛細血管拡張

松下記念病院 川崎達也)

2023-02-09

油断禁物:否定の証明は常に困難

🕗 朝の病棟詰所で...
  • 指導医「胸部X線は立派な心不全だよ」
  • 専攻医「確かにBNPも上昇しているし...」
  • 指導医「頸静脈はどうなの?」
  • 専攻医「頸静脈は見えないんです」
  • 指導医「マジ? ちょっくら見てくるわ」

👥 現場実況
  • 臥床(枕なし)では頸静脈拍動は視認せず(動画前半)
  • 臥床のまま深吸気負荷を追加しても拍動なし ➜ 脱水?
  • しかし座位で明瞭な内頸静脈の拍動が出現(動画後半)
  • 深吸気負荷で拍動は消失せず(広義のクスマウル徴候
  • 患者さんが協力的であったため病棟の皆で所見を共有

 👤 追加コメント
  • 臥床(枕あり)では正常の中心静脈圧でも頸静脈の拍動(少なくともx谷)を観察できます(自験例).枕なしではなにも見えないこともありますが,吸気負荷を追加すればなんからかの変化が出現すると思います.
  • 一方,本例のように中心静脈圧が極端に上昇した症例では,臥床では内頸静脈の拍動が観察できないことがあります(つまり判定上限を超過).このような場合では半座位や座位にする必要があります(判定上限の引き上げ).
  • もっとも臥床で内頸静脈が視認できなくても,外頸静脈が怒張していることから中心静脈圧の著増を推定することができる場合もあります(自験例).しかしやはり外頸静脈は信頼性が高くないため過信は禁物です(理由).

松下記念病院 川崎達也)

2023-02-06

COPD+るい痩

COPD症例ではるい痩が目立(%IBWはideal body weight=基準体重比)

👽 るい痩が目立つ理由
  1. 呼吸筋のエネルギー消費増大(健常者36~72kcal/日,COPD 430~720kcal/日)
  2. TNF-αなど炎症性サイトカインでエネルギーの消費量増加(健常者の1.3~1.5倍)
  3. 肺過膨張による腹部臓器の押し下げや咀嚼や嚥下に伴う呼吸困難感による食欲減弱
  4. レプチン(満腹中枢刺激)やグレリン(食欲中枢刺激)など食欲関連ホルモン異常


💀 追加コメント
  • COPD症例では糖尿病や心疾患がなければ積極的なカロリー摂取を推奨.例えば間食(1日5食),高脂肪食(蛋白質や炭水化物より呼吸商が少ない),プルモケアExなど
  • COPDでは栄養障害が非常にゆっくり進行するため,体重や脂肪,筋肉の減少に比べて,血清アルブミンなど血液データの異常遅延に要注意(典型的なマラスムス型栄養障害


※ 以前に松下ERランチカンファレンスに投稿した内容の更新版です 🎶

松下記念病院 川崎達也)

2023-02-02

ミノサイクリンによる色素沈着

👤 Minocycline-induced hyperpigmentation
  • 頻度:有病率は2.4〜41%で,治療期間や累積投与量と相関(顔面を除く)
  • 病理:基底ケラチノサイトでのメラニンの増加および真皮メラノファージ
  • 鑑別:アジソン病,甲状腺機能亢進,ヘモクロマトーシス,悪性腫瘍など
  • 治療:ミノサイクリン中止,日光への露出回避,色素特異的レーザーなど


繰り返す創部感染症でミノサイクリン200 mg/日を6年服用していた症例

👹 追加情報
  •  薬剤性色素沈着にはミノサイクリン以外にも,アミオダロンやブレオマイシン,プロスタグランジン,経口避妊薬,フェノチアジン,抗マラリア薬などが知られています.
  • 特にアミオダロンによる色素沈着は”Blue man”として知られています(下図).ちなみに”Red man”といえばバンコマイシンによる過敏反応のレッドマン症候群です.


松下記念病院 川崎達也)