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2022-03-31

足背も地味ですが語っています

無症候性の大動脈弁逆流(高度)でフォロー中の症例の左足背

😁 コメント
  • 中等度以上の大動脈弁逆流では大脈・速脈を反映した動脈拍動を認めることがある
  • コリガン脈や水槌脈,反跳脈などと呼ばれ定番部位は頸部(実例)や肘部(実例
  • 同病態では下肢動脈の血圧と脈圧も上昇する(ヒル徴候)が動脈拍動は目立たない
  • しかし高感度の圧センサーである指先の腹部を使えば,動脈拍動をビンビン触れる
  • もちろん足背動脈は通常でも触知できるが拍動を感じるのに少し圧迫が必要である
  • ポイントは指先で軽く触れるだけで動脈の拍動を感じることができるか否かである
  • 心尖部で有名?な”触ってナンボ”の法則自験例1自験例2)を是非応用してみて

松下記念病院 川崎達也)

2022-03-28

肥大型心筋症の頸静脈a波

🔍 a波の復習
  • 頸静脈波は3つの陽性波(a,c,v)と2つの陰性波(x,y)で構成(復習
  • a波は心電図のP波直後(QRS直前)に出現する陽性波で右房の収縮を反映
  • 診断は陽性波の視診+時相を触診(動脈拍動前)や聴診(Ⅰ音直前)で確定
  • a波は通常では不明瞭:頸静脈は陥凹として視認されることが多い(特にx谷)
  • 大きなa波は完全房室ブロック心室期外収縮などで有名(Cannon a wave)
  • 三尖弁狭窄でも認めるが,日常臨床では肥大型心筋症が最多(下図:典型例

ー 肥大型心筋症での検討(自験例)ー

👶 独り言
  • 肥大型心筋症で認めるa波は,右室への流入障害(コンプライアンス低下)を反映していると予想されます.ただしこの機序には,必ずしも右室肥大を伴う必要がないことに要注意です.左室の肥大が心室中隔を介して右室の拡張能にも影響していると考えられるためです(ベルンハイム効果
  • 日常外来には,検診で心電図の左室肥大を指摘されて受診される方が少なくありません.無症状で血圧も正常なら是非,臥位で頸静脈のa波を探してみてください.肥大型心筋症をフィジカルで診断して,心エコー図で確認するスタイルは十分に可能です(たま?に失敗しますが 😅 実例

松下記念病院 川崎達也)

2022-03-24

肘も語っています

二尖弁による高度の大動脈弁逆流を有する症例


💪 解説
  • 肘伸展時に左肘窩内側に拍動(矢印)➜ 肘屈曲で拍動はより明瞭になっている
  • 拍動は触知で明らかに動脈性 ➜ 水槌脈反跳脈コリガン脈と呼ばれる所見
  • 大脈・速脈を示唆し大動脈弁逆流で有名(甲状腺機能亢進症や高度貧血でも有)

😉 独り言
  • 高度の大動脈弁逆流ではほとんどの症例で観察可能だと思います.軽く曲げると描出が容易になります(別の自験例
  • 加齢に伴う動脈の蛇行+表在化による偽コリガン脈には要注意.この場合は肘なら伸展した方が見やすいと思います

🉐 関連投稿(大動脈逆流に関連する他の身体所見)

フィジカル 広場 心臓 physical exam examination
松下記念病院 川崎達也)

2022-03-21

肥大型心筋症のⅣ音

🔍 Ⅳ音の復習
  • 心尖部で聴取するⅠ音の直前の低調成分で,聴診器のベル部を軽くあてて聴取
  • ベル部を強く胸に押し付けたり膜部では通常,Ⅳ音は聞こえない(実際の感じ
  • 心房収縮に伴う血流が(主に)左室を拡張させる時に発生する音と考えられる
  • よって心房細動はⅣ音なし(心電図でP波があっても心房収縮がなければ同じ)
  • 心尖拍動のA波と概ね一致するため,視診や触診でも判定することが可能(
  • Ⅳ音との鑑別は駆出音Ⅰ音の分裂(Ⅳ音以外は膜部でも聞こえることで鑑別)
  • Ⅳ音は一番聴取困難な音と言われることもあるが肥大型心筋症ではとても明瞭
  • 肥大の部位や閉塞機転の有無にかかわらずHCMではⅣ音を聴取(頻度は下記)
  • 逆に洞調律の肥大型心筋症でⅣ音がなかったら心事故のリスク(当院の研究

ー 肥大型心筋症での検討(自験例)ー

👶 独り言
  • 聴診よりも心音図の方がⅣ音の検出率が高いことにはいくつかの理由があります.一つはⅠ音に近接するⅣ音は聞き取りにくいという問題です.これはベル部の押し込みによる幅広Ⅰ音の変化で認識可能です.もう一つは大動脈弁狭窄のような大きな雑音を伴う症例です.無意識に耳にフィルターがかかりるため(音響隠蔽),Ⅳ音だけでなくⅠ音の認識すら難しくなります(自験例).こんな時は触診の活用が望まれます.指先(超高感度圧センサー)で二峰性心尖拍動(ダブルインパルス)を感じてみてください(触ってなんぼの法則).

松下記念病院 川崎達也)

2022-03-17

鎖骨上のピコピコ

CTで悪性腫瘍の右心系転移が疑われた症例

🐳 巨大a波(Prominent or Giant a wave)
  • 右鎖骨の頭側(鎖骨上窩)に周期的に隆起する拍動を視認(前半矢印)
  • 手指で容易に圧迫され,時相は動脈拍動やⅠ音の直前 ➜ 頸静脈のa波
  • 深吸気時に右内頸静脈の拍動が出現(クスマウル徴候陽性:後半矢印)     
  • 心エコー図で三尖弁周囲に腫瘍を認め,三尖弁狭窄の病態が疑われた

💣 おまけ
  • ご本人に自覚症状はなく,心音にも特記すべき異常はありませんでした.また座位で頸静脈は視認できず,クスマウル徴候も陰性でした.
  • 同様のa波は不整脈(完全房室ブロック心室期外収縮)で有名です.この場合はCannon a waveと呼ばれます(キャノン音と要区別
  • 日常臨床では頸静脈の大きなa波は肥大型心筋症で視認することが多く,同疾患のフィジカル診断にも有用です(典型例
  • a波は本例のような三尖弁狭窄症など右房圧が上昇した病態で目立ちますが,日常臨床でお目にかかることは稀(他の自験例:心房中隔欠損
  • 頸部の陽性波と言えば一発診断可能なコリガン脈ランチシ徴候(巨大v波)ですが,個人的には地味なa波が大好きです 😊

松下記念病院 川崎達也)

2022-03-14

自覚症状と身体所見の乖離:パート2

慢性左心不全で加療中の症例が息切れで来院



松下記念病院 川崎達也)

2022-03-10

オスラー名言集 William Osler Quotes

  • William Osler(1849-1919)はカナダ生まれの内科医かつ医学者である
  • 医学教育に情熱を持ち数々の名言や格言は100年後も受け継がれている
  • 身体所見を有効活用する(無駄を省く)ためにも彼の語録はとても大切


The art of medicine is in observation.
➜ 医学の本質は観察である.

Fifteen minutes at the bedside is better than three hours at the desk.
➜ 3時間の机での勉強よりもベッドサイドの15分が勝る.

Medicine should begin with the patient, continue with the patient, and end with the patient.
➜ 医学は患者と共に始まり,患者と共にあり,患者と共に終わる.

Listen to your patient, he is telling you the diagnosis.
➜ 患者の言葉に耳を傾けなさい.患者はあなたに診断を告げている.

The good physician treats the disease; the great physician treats the patient who has the disease.
➜ 良き医師は病気を治療し,偉大な医師は患者を治療する.

Medicine is a science of uncertainty and an art of probability.
➜ 医学は不確実の科学であり,確率の技術である.

The practice of medicine is an art, based on science.
➜ 医学は科学に基づいたアートである.

A man is as old as his arteries.
➜ 人は血管とともに老いる.

個人的に共感する順です…👶

🉐 関連投稿

※ 以前に松下ERランチカンファレンスに投稿した内容の更新版です 🎶

松下記念病院 川崎達也)

2022-03-07

病歴聴取と身体所見は表裏一体

息切れで当科を紹介受診した男性

🐦 解説
  • 端座位で頸部に頸静脈の拍動を視認しない ➜ 座位陰性(中心静脈圧の著明な上昇なし)
  • 吸気負荷でも頸静脈を視認しない ➜ クスマウル徴候陰性(潜在的な静脈圧の上昇なし)
  • 臥床(枕あり)で外頸静脈が膨隆し拍動なし ➜ 頸静脈の怒張(中心静脈圧の上昇あり)
  • 本例はⅢ音を聴取し傍胸骨拍動も認めた ➜ 非代償性左心不全と診断され同日入院した

👀 現場中継
  • 症状からは心不全が強く疑われましたが,座位の頸静脈所見に異常はありませんでした.コロナ禍では臥床の診察を省くこともありますが,本例では症状と身体所見の乖離に納得ができませんでした.迷わず臥床の検査を追加し,静脈圧上昇を示唆する所見を見つけました.病歴とフィジカルが合致して一安心
  • 偉大な医学者オスラーは,”Listen to your patient, he is telling you the diagnosis.”(患者の言葉に耳を傾けなさい.患者は診断を告げている)と述べています.初診時(特に心疾患)では,病歴聴取が大切なことは改めて述べるまでもありません.病歴聴取と身体所見は表裏一体.相互に補完し合う仲良しさんです😊

松下記念病院 川崎達也)

2022-03-03

🏆 論文

  • 当院の循環器内科の酒井先生の研究が出版されました
  • 肥大型心筋症のⅣ音の臨床的な意義を調べた研究です
  • 結論は洞調律+Ⅳ音なし=運動耐容能の低下+心事故

洞調律の肥大型心筋症では通常Ⅳ音を聴取(a,矢印)
一方Ⅳ音を欠く症例(b)は17ヵ月後に心房細動になりⅢ音が出現(c,矢頭)

心肺運動負荷で評価した運動耐容能は洞調律Ⅳ音あり>洞調律Ⅳ音なし>心房細動例
心事故(心房細動への移行を含む)もⅣ音なし例でより高率

😀 追加コメント
  • Ⅳ音の発生には心房の強い収縮が必須です.よって心房の頑張り(心房の辛抱 😁 勝手に命名)が終局に近づくと,電気的には(心電図で)洞調律でもⅣ音が消失すると思われます.
  • よってⅣ音を欠く肥大型心筋症は洞調律だからといって安心できません.もっとも本所見を臨床活用するには,肥大型心筋症ではⅣ音が聞こえて当たり前という認識が必要ですが…

👿「論文」の過去の投稿は コチラ(ウェブ版なら画面右の分類からも選択可)

松下記念病院 川崎達也)