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2022-12-29

BOSI: bending oxygen saturation index

💟 前向き臨床研究Eur J Heart Fail 2022;24:2108-17
  • Bendopnea=前屈時呼吸困難(例:前かがみで靴をはく)で心不全を示唆
  • BOSI=端座位の状態から前かがみになった時に低下する酸素飽和度の程度
  • 安定した外来心不全症例でBOSI3%以上の低下は独立した予後予測因子
  • しかし前かがみ時の息切れ症状は心事故とは関連せず (95% CI 0.83–1.31)

👤 独り言
  • 前屈時の呼吸困難の出現が予後と関連しなかったことは意外でした.しかしなんとなく分かる気がします.実はつい先ほど,ビールを飲みながら椅子に座ってこのコンテンツを作成中,下に落ちたペンを拾おうとしたら胸が圧迫され息苦しさを感じたからです(僕は心不全に罹患していないはず 😅).自覚症状ってあまりあてにならないことがあります.

🉐 心不全に関する過去の投稿 ➜ コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可))

松下記念病院 川崎達也)

2022-12-26

タンジール病 Tangier disease

  • 先日,Twitterで印象的な咽頭所見を見かけました.一度見たら決して忘れない身体所見です.若年の狭心症で循環器内科を受診する可能性もあります.臨床現場でまだ経験したことはありませんが,将来困らないように調べてみました.
(そのツイッター/オリジナルはココ

🧡 タンジール病(Tangier disease)
  • HDLコレステロールとアポリポタンパクA-I濃度が著しい低値を示す常染色体劣性遺伝疾患
  • アメリカ東海岸のバージニア州タンジール島で初めて発見されたことから名付けられた病気
  • 原因はATP binding cassette transporter A1(ABCA1)の遺伝子異常で稀(日本で10家系程度)
  • HDL-Cが10mg/dL未満で,鑑別疾患にはLCAT欠損症や二次性低HDLコレステロール血症など
  • オレンジ色の咽頭扁桃腫大(上図)、肝脾腫、角膜混濁、末梢神経障害,若年性冠動脈疾患
  • 遺伝子治療などの根本的な治療はまだない(合併する動脈硬化性疾患の予防・治療が中心)

参考)難病情報センター タンジール病(指定難病261)


🉐 オレンジに関する過去の投稿 ➜ コチラ松下ERランチ・カンファレンスに移動)

松下記念病院 川崎達也)

2022-12-22

耳ウインクサイン Winking earlobe sign

下腿浮腫とBNP上昇で紹介受診した症例(端座位)

💛 解説
  • 顎下に周期的な拍動(陥凹)を認める ➜ 内頸静脈の拍動
  • 耳朶も拍動あり(winking earlobe sign,耳ウインクサイン)
  • 座位であることを考慮すると中心静脈圧は高度上昇の疑い
  • 耳垂に45度の皺(earlobe crease,フランク徴候)もあり
  • 心エコー図で心肥大と肺高血圧あり ➜ 最終診断はHFPEF

💜 追加情報
  • 身体所見はマスクの着用で過小評価されることがあります(マスクでマスクと勝手に命名:自験例1自験例2).本例ではマスクを外しても,あまり変わりませんでした.マスクのゴム紐などには影響を受けない「強い静脈拍動」と思われます.
  • 本例ではフランク徴候を認めましたが,その後の精査で冠動脈狭窄はありませんでした.耳垂皺の3万例以上のメタ解析(Int J Cardiol 2014;175:171-5)では冠動脈疾患に対する感度は62%,特異度は67%と報告(臨床的には今ひとつ😐)
  • ちなみに本例は息切れなどの心不全症状は乏しかったのですが,これは認知症によると思われました.システマティックレビュー(J Card Fail 2017;23:464-75)では,心不全患者の認知機能障害の合併頻度は43%(95%信頼区間30~55)

松下記念病院 川崎達也)

2022-12-19

モンドール病 Mondor’s disease

  • 概要:体表に触知可能な紐状の硬結構造物を呈するかなり稀な良性の血栓性静脈炎
  • 初報:仏外科医 Mondor(Mémoires de l'académie de chirurgie 1939; 65: 1271-1278)
  • 症状:索状の触知可能な硬結(稀に痛み,こわばり,紅斑,発熱,不快感などを伴う)
  • 診断:身体検査(+血管エコー)/ただし他の基礎疾患に関連した二次性は除外必要
  • 原因:特発性45%,外傷性22%(きついブラジャーを含),医原性20%,乳がん5%
  • 部位:前外側胸腹部壁(オリジナル),陰茎,および腋窩(別名は腋窩ウェブ症候群)
  • 疫学:病変は主に片側性で,女性と男性の比率は9:1〜14:1と女性に多い(特に中年)
  • 経過:原発性は治療不要で4~8週間で自然治癒し再発は稀(二次性は基礎疾患による)

参考)Intern Med 2018;57:2607–12,ほか

胸壁モンドール病(52歳・男性)
胸痛と柵状構造物の触知で来院.右上肢の挙上時に出現(図1)して,上肢を降ろすと消失(図2)が特徴的.(Intern Med 2019;58:3349) 

陰茎モンドール病(28歳・男性)
1週間前に妻と激しいセックス.性的禁欲だけで2週間以内に病変は解消し2年間の追跡期間中,再発も勃起不全も観察されず.(Intern Med 2018;57:2607–12

腋窩モンドール(腋窩ウェブ症候群)(32歳・男性)
疼痛で来院して腋窩の柵状構造物とエコー所見から診断.無治療で4週間以内に改善.(Intern Med 2019;58:1805

松下記念病院 川崎達也)

2022-12-15

漏斗胸と右室拍動

心電図異常の精査で来院した無症候例の座位

🐤 解説
  • 左右対称の胸骨および肋骨の陥凹 ➜ 漏斗胸と診断
  • 心窩部に出現と消退を繰り返す拍動を認める(矢印)
  • 拍動は吸気時には明瞭であるが,呼気時には不明瞭
  • 頸静脈は座位陰性クスマウル左上肢挙上も陰性
  • BNP値は正常内で心エコー図や冠動脈CTも異常なし

 🐦 つぶやき
  • 心窩部の明瞭な拍動は,拡大した右室が前胸部と広い範囲で接するために顕性化した右室拍動が多いと思われます(稀に肝拍動のこともあり)
  • しかし心疾患(特に右室負荷)を認めない症例で,明瞭な拍動を呈することは稀です.本例ではやはり漏斗胸が関連していると考えられます.
  • 漏斗胸では吸気時の胸郭容積の増加が制限されます.吸気時には右室への静脈還流も増加するため本例では右室拍動が目立ったと理解しました.

松下記念病院 川崎達也)

2022-12-12

ポーランド症候群 Poland's syndrome

  • 最近,久しぶりに(正確には2年1月ぶりに)ポーランド症候群の症例をTwitterで見かけました(ココ).以前に松下ERランチカンファレンスに投稿した内容ですが心臓フィジカル広場にもアップしておきます.

  1. 片側胸筋の発育不良や欠損,肋骨・肋軟骨異常,合短指・短指症などを特徴とする先天性疾患
  2. 英国の外科医 Sir Alfred Poland(1822–1872)が初報(Guy's Hospital Reports 1841;VI:191–3
  3. 頻度は2万~3万人に1人/75%が男性で75%は右側に出現/治療は豊胸術などの形成外科手術


(Indian J Hum Genet 2014;20:82–4/本例は左が患側)

  👾 トリビア調査隊
  • Sir Alfred Polandはロンドン生まれ・ロンドン育ちでポーランド人ではありません.ポーランドという姓は英語化されたアイルランド姓で,アイルランド以外では英語とドイツ語が起源のようです().ちなみにポーランドの国名は西スラヴの部族ポリャーネ族が由来で,ポリャーネの由来はスラヴ祖語でfieldを意味するようです().本邦にも日本という苗字の方がおられることを今回初めて知りました.読み方はひのもと・ひもと・にほん・にっぽん・やまとで,およそ150人の方がこの貴重な姓を持っておられるようです().

松下記念病院 川崎達也)

2022-12-08

首問題:動脈 vs 静脈

収縮期雑音で循環器内科を紹介受診した症例(端座位)

🍙 解説
  • 頸部に周期的拍動あり ➜ 動脈性あるいは静脈性の判断が必要
  • 動脈性なら頸動脈のコリガン脈 ➜ 大動脈弁逆流(拡張期雑音
  • 静脈性なら頸静脈のランチシ徴候 ➜ 三尖弁逆流(収縮期雑音
  • 外頸静脈は見えず+左側にも拍動あり(矢印)➜ 動脈性を示唆
  • 本例の最終的な診断は大動脈弁逆流による頸動脈のコリガン脈

😗 余談
  • 頸静脈拍動は陥凹することが多いのですが,中心静脈圧が高度に上昇すると陽性波を形成することがあります(典型例).陽性波が動脈性か静脈性かは拍動の触診で鑑別できますが,なんとか視診のみで診断したいといつも思っています(本ページでは様々な方法で鑑別に挑戦しているので検索窓から探してみてください)
  • 本例のポイントは収縮期雑音として紹介受診した点です.臨床現場では,大動脈弁逆流例が拡張期雑音で紹介されてくることはむしろ稀だと思います.拡張期雑音はとても見逃しやすい音です.本例も大動脈弁狭窄はありませんが,相対的な大動脈弁狭窄によると思われる収縮期雑音が目立ちました(厳密には往復雑音でした)

松下記念病院 川崎達也)

2022-12-05

👴 歴史クイズ




松下記念病院 川崎達也)

2022-12-01

これなら安心

拡張型心筋症+アブレーション後の症例
診察前の心電図検査で心房細動が再発していることが判明した

🐦 解説
  • 端座位で鎖骨上に内頸静脈の拍動なし ➜ 中心静脈圧の高度上昇なし
  • 吸気負荷でも拍動は出現せず ➜ 中心静脈圧の中等度〜高度上昇なし
  • 左上肢の挙上でも拍動は視認せず ➜ 中心静脈圧の中等度の上昇なし
  • 息切れなどの心不全症状なく聴診でもⅢ音を聴取せず ➜ 1月後再診

🐳 独り言
  • 以前は吸気負荷で内頸静脈の拍動が出現しなかったら(広義のクスマウル徴候陰性),「これなら一安心」と判断していました.しかし最近では心不全(新規または再発・増悪)が疑われる症例では,吸気負荷が陰性の場合に吸気と左上肢挙上の同時負荷を行うようにしています.
  • 実は本症例は診察室に入ってきて椅子に腰掛けた直後の検査で,左上肢挙上負荷は陽性でした.しかしスマホを取り出して撮影許可を得た後の上記記録では陰転化していました.1〜2分の座位で視認できなくなる静脈圧の上昇なら,急いで介入しなくても大丈夫だろうと判断しました.

松下記念病院 川崎達也)

2022-11-28

🏆 論文:ちょっとフィジカルとは違いますが…

🎉 当院の循環器内科で経験した症例が NEJM に掲載 🎉

  • ウェレンス症候群の1例ですがポイントは心カテ待機中にST上昇
  • 緊急カテーテル検査では前下行枝近位部の完全閉塞でした(下図)
  • 最近では高度狭窄よりも血栓が関与した病態と考えられています

😀 追加コメント
  • 命名はオランダの循環器内科医 Wellens らの報告に由来します(Am Heart J 1982;103:730-6).よって英語表記はWellen's syndromeではなくてWellens' syndromeあるいはWellens syndromeが正しいと思われます.しかしWellen's syndromeの誤記も散見されます(一流誌の実例:Circulation 2019;140:1851-2).
  • 日本語の発音ではェレンスと呼ばれることが多いと思います.でもオランダ語ではヴェレンスと濁ることを友人から教えてもらいました(例:).それ以降,当院でも研修医に濁音のェレンス症候群と教えていました.しかしNEJMのAudio Summaryではェレンスと濁っていないことを同じ友人から教えてもらいました.よって最近は再度ェレンスと指導しています.
  • 本論文は今年の2月に投稿して4月に修正の返事がありました.たった150語なのに文言の修正を計3回,図の修正を計3回(解像度など)も指示されました.8月に採択の連絡があり9月に掲載です.当院の戦績(NEJMイメージ論文)は25戦して3勝22敗で採択率🏆12%です.大学病院や有名病院でないわりには善戦かも...😅

💁 論文の過去投稿は コチラ(ウェブ版なら画面右の分類からも選択可)

(投稿者 川崎)

2022-11-24

🎯 今週の一枚

倦怠感で来院した慢性心不全症例



松下記念病院 川崎達也)

2022-11-21

結膜環蒼白 👀 Conjunctival rim pallor

  • 貧血の有無は眼瞼結膜の蒼白で判断することが多いが,主観に大きく影響される.そこで推奨されるのが眼瞼結膜の手前(縁=rim)と奥を比較する客観的手法
  • 正常例では眼瞼結膜は手前(縁)は赤で,奥はやや薄い(下の図1).結膜環蒼白とは眼瞼結膜の手前(縁)と奥の色が同じ状態(下の図2)で,貧血の存在を示唆

(図1:正常例=結膜の手前が赤くて奥が薄い)

(図2:貧血例=結膜の手前と奥が同じ色調)

🉐 関連投稿(貧血編:松下ERランチ・カンファレンスに移動します)

※ 以前に松下ERランチカンファレンスに投稿した内容の更新版です 🎶

松下記念病院 川崎達也)

2022-11-17

耳:変幻自在

胸痛症例(仰臥位)


🚑 現場実況
  1. ERで看護師さんが心電図を記録中 ➜ 問診しながら素早く頸部と耳をチェック
  2. 頸静脈から中心静脈圧の上昇を示唆する所見なし ➜ 非代償性心不全は否定的
  3. 両側に耳垂皺を確認(念のため左側はマスクを外す) ➜ 虚血性心疾患の疑い
  4. 心電図はST上昇 ➜ 急性心筋梗塞と診断 ➜ 緊急カテーテルで閉塞部位を治療

😎 変幻自在
  • PCIが成功してカテ台の上にいる患者さんに説明時に耳をチラ見すると皺は消失
  • 「そんなアホな...」と思いマスクを外すと皺が出現(ただし左側のみで右側なし)
  • 耳垂皺は体位で変化するが(過去の投稿),暫く臥床で耳垂浮腫(特にマスク時)?

松下記念病院 川崎)

2022-11-14

😱 恐怖の上肢挙上負荷試験:頸静脈

慢性心不全 (HFpEF) の増悪が疑われる症例

👴 解説
  • 安静時には座位で外頸静脈を明瞭に視認可能(ただし上縁は拍動あり)
  • よく見ると内頸静脈の陥凹も確認できるため中心静脈圧はかなり上昇
  • 左上肢を肩上まで挙上 ➜ 外頸静脈の拍動消失+内頸静脈の陥凹出現
  • 左上肢を垂直に挙上 ➜ 呼吸困難感が出現(患者さんの荒い息切れ!

👵 ひとり言
  • 座位で内頸静脈の拍動が見えない時には吸気負荷を行いクスマウル徴候の有無を確認するようにしています.これは中等度までの中心静脈圧上昇を見逃さないためです.
  • 最近は左上肢の挙上負荷を併用しています(肩痛で無理なことも少なくありませんが).前負荷の増加程度は上肢挙上 ≒ 吸気負荷と思っていました(以前の投稿).
  • ただし本例では急に息遣いが荒くなり少し怖くなりました.上肢挙上負荷は,少なくとも座位で内・外頸静脈が全く視認できない症例に限定する方が安全かも...😑

松下記念病院 川崎達也)

2022-11-10

🎯 今週の一枚

端座位の慢性左心不全例(ステージD)




松下記念病院 川崎達也)

2022-11-07

あなたは猫派? 犬派?

  • 循環器内科医にはネコ派が多い気がします.飼い主が忙しくて散歩に連れて行かなくても文句を言わないから?
  • ネコの心音で興味深い論文が最近,2編出版されたのでまとめておきます.ネコを飼っておられる方は挑戦?

Ferasin L, et al. Prevalence and Clinical Significance of Heart Murmurs Detected on Cardiac Auscultation in 856 Cats. Vet Sci. 2022 Oct 13;9(10):564.

  • 結語 心雑音特性 (タイミング・音量・および最大強度のポイント) が潜在的に心疾患の存在を予測できる.
  • 個人的感想 仰せの通り 🙇 もっと精進せねば


Howell KL, et al. Prevalence of iatrogenic heart murmurs in a population of apparently healthy cats. J Small Anim Pract. 2022 Aug;63(8):597-602.

  • 結語 Iatrogenic heart murmurs(おそらく臨床的な意義のない雑音)は猫によくみられる所見であり,高齢のやせた猫で有病率が増加しいる.特に胸壁を少し押して発生する柔らかい収縮期の右心系雑音では医原性雑音を考慮
  • 個人的感想 聴診の一致率がすごい 😲 下図


松下記念病院 川崎)

2022-11-03

論文 🏆 if you miss the goiter…😱

  • 当院の初期研修医 熊田先生が循環器内科で経験した症例が出版されました
  • 労作時の息切れで受診 ➜ 心エコー図で肺高血圧(推定収縮期圧50 mmHg)
  • 頻脈はないが甲状腺の軽度びまん性腫脹あり ➜ 最終的にバセドウ病と診断
  • 心肺疾患や血栓症なし ➜ 肺高血圧症のダナポイント分類第1群または第5群
  • 本例は甲状腺治療のみで肺動脈収縮期圧は経時的に低下して最終的に正常化


😀 臨床現場
  • 肺高血圧のガイドラインには第5群として①血液疾患(慢性溶血性貧血,骨髄増殖性疾患,脾摘出),②全身性疾患(サルコイドーシス,肺組織球増殖症,リンパ脈管筋腫症),③代謝性疾患(糖原病,ゴーシェ病,甲状腺疾患),④その他(腫瘍塞栓,線維性縦隔炎,慢性腎不全,区域性肺高血圧)の4つが記載されています.
  • 本例では「甲状腺疾患をたまたま合併した第1群肺高血圧」(共に若い女性に多い)と「甲状腺疾患が誘発した第5群肺高血圧」が考えられました.甲状腺の治療と並行して,肺高血圧の特異的薬物治療(プロスタサイクリン経路・エンドセリン受容体拮抗薬・一酸化窒素経路)の導入の要否を判断する必要があります.
  • 本例では(患者さんと協議の上)甲状腺治療のみを開始しました.肺高血圧が特異的薬物治療なく消失したため,「甲状腺疾患が誘発した第5群肺高血圧」と考えられました.肺高血圧と甲状腺疾患が合併した場合,17症例中16例で甲状腺治療のみで肺高血圧が正常化したという(すごい😮)報告があります(Angiology 2006;57:600-6).

👿「論文」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

松下記念病院 川崎達也)

2022-10-31

耳垂皺の病理

  • 耳たぶの皺(フランク徴候/Frank's sign)と動脈硬化の関連を検討した報告は散見されます(過去の投稿).しかし耳垂の病理学的に検討した論文はほとんど見かけません.
  • 先日たまたま "The Histological Basis of Frank's Sign" という魅力的なタイトルの研究を見つけました.あまりクリアカットな結果ではなかったようですがまとめておきます.

フランク徴候(白矢印)部分には,間質の線維化はないが筋弾性線維症を伴うコルク栓抜き様のねじれた動脈血管がある(黒矢印).A:HE染色(×200),BとC:その拡大

皺部分の組織学では末梢神経は好酸球性封入体を伴うウォーラー様の変性を示す.A:HE染色(×40),B;拡大(×400)

本論文の結語(日本語訳)
  • 我々のデータは,心筋の形態学的変化と耳たぶのしわの存在との間に有意な相関関係があることを示唆する.心不全における低酸素/再酸素化の提案されたモデルと,観察された変化の原因である耳小葉の生理学的に低い酸素飽和度と発生学的発達は,フランク徴候の発達と臨床的に観察可能な変化との相関を説明する最初のモデルである.

松下記念病院 川崎達也)

2022-10-27

"Locomotive" pulse ”機関車” 脈

CTで偶然,深部静脈血栓を指摘された症例の上腕

😋 解説
  1. 上腕動脈の力強い規則正しい拍動を視認
  2. 肘部の屈曲に伴って動脈の蛇行が明瞭化
  3. 1回拍出量の増加した大脈・速脈を反映
  4. 心エコー図で重症の大動脈弁逆流を確認

👶 深掘り
  • これは水槌脈(Water-hammer pulse),反跳脈(Bounding pulse),コリガン脈(Corrigan pulse)などと呼ばれています.最近,機関車脈Locomotive pulse)とも呼ばれていることを知りました.
  • 確かに力強い拍動は蒸気機関車のパワーを感じさせます.初めての記載はDr. Toddのようですが(The British Medical Journal Vol. 1, No. 58, Feb. 8, 1862),同論文にはDr. Toddが一体誰なのか記載がありません.
  • 論文にDr. Toddと記載するだけで皆が認識できるなんすごいと思います.予想では皮膚科学の大家でロンドン大学の初代教授 Anthony Todd Thomson(1778–1849)ですがミドルネームって変かも?

松下記念病院 川崎)

2022-10-24

心尖拍動の収縮期陥凹

慢性左心不全の症例(端座位)

🐦 解説
  • 左乳輪の下内側に明瞭な心尖拍動 ➜ 乳輪外側でなく心拡大とは言えず
  • 乳輪の上にも僅かに拍動あり ➜ 2肋間以上の拍動で心拡大の可能性あり
  • 本例の心尖拍動は脈触知や聴診との組み合わせで収縮期の陥凹と判明
  • 陥凹時間は十分に長いため抬起性の拍動(ただし本例に心肥大はなし)

🐳 ひとり言
  • 心尖拍動の収縮期陥凹(systolic retraction)は収縮性心膜炎で出現することが有名ですが,臨床現場では稀で固執すると診断を誤ります(自験例).
  • 本例にように通常の左心不全に加えて右心の反映(自験例),肥大型心筋症(自験例),慢性閉塞性肺疾患(自験例)など様々な病態で出現します.
  • 代表2疾患は限局した収縮性心膜炎と右室拡大を伴う三尖弁逆流(特に僧帽弁狭窄合併)ですが,健常者にも少しは生じると報告されています().

松下記念病院 川崎達也)

2022-10-20

新しい頸静脈負荷法:上肢挙上

慢性左不全の症例:坂道で息切れあり

🍩 解説
  • 座位で鎖骨上に内頸静脈の拍動は視認できない(中心静脈圧の高度上昇なし)
  • 吸気負荷で二峰性の陥凹が出現(静脈圧は中等度上昇:目安は9-14cm水柱)
  • 吸気負荷の中止で拍動は消失するが,左上肢の挙上で拍動が再度出現(矢印)

😗 独り言
  • 慢性期心疾患の病態評価には負荷検査が必要です(例えば負荷心電図,負荷心エコー図,負荷シンチグラフィ).最近では心臓カテーテル検査中にも負荷を行なっています(冠血流予備能比FFRなど).
  • もちろん頸静脈評価にも負荷を適応できます(当院の研究:6分間歩行負荷吸気負荷).前負荷を増やす方法は多数ありますが(蹲踞姿勢や下肢挙上,肝圧迫など),本例のように上肢挙上も簡便です.
  • 個人的な経験からは左側のみの挙上がいいと思います.右側挙上あるいは両側挙上(前負荷が倍増)では,あたりまえですが右内頸静脈の視認(特に鎖骨上窩の僅かな陥凹出現の判定)が難しくなります.

松下記念病院 川崎達也)

2022-10-17

排便時の怒責と血圧

排便時の怒責中に息切れを自覚してERに搬入されたクリニカル・シナリオ1の心不全症例を経験.おそらく排便中の怒責による血圧上昇のため慢性左心不全が悪化したのだろうと指導医は説明.しかし後で調べてみると「排便中の怒責 ➜ 血圧が常に上昇」などというシンプルな反応ではなかった 😱

👉 原則 排便時怒責に伴う血圧変化は怒責程度や体位に関わらず一定のパターン
  1. 怒責開始で血圧は上昇し最大値(バルサルバ法のI相)
  2. 怒責の持続で血圧は低下し最小値(バルサルバ法のIIa期)
  3. 怒責の終了時で血圧は再上昇(バルサルバ法のIIb期)
  4. 怒責終了後に血圧は一過性低下(バルサルバ法のIII相)
  5. その後に血圧は反跳性上昇(バルサルバ法のIV相)


🉐 関連投稿(血圧編)

※ 以前に松下ERランチカンファレンスに投稿した内容の更新版です 🎶

松下記念病院 川崎達也)

2022-10-13

頸静脈と頸動脈の組み合わせ

消化器系の悪性腫瘍の術後症例

💛 解説
  • 座位の頸部に周期的な拍動(動画の矢印) ➜ 触診で動脈性=コリガン
  • 内頸静脈の拍動なし ➜ 中心静脈圧の高度(目安 >15cm水柱)上昇なし
  • しかし吸気時や深吸気保持中には鎖骨上窩に陥凹性拍動(動画中の*)
  • 大動脈弁逆流があり,なんとか代償されている慢性心不全状態と予想
  • 実際に心エコー図で中等度の大動脈弁逆流症があり,BNP値は200台

💜 ひとり言
  • 頸部の動脈と静脈の組み合わせから,基礎心疾患とその重症度を判定できることがあります.つまり頸動脈拍動から大動脈弁疾患(逆流あるいは狭窄)や閉塞性肥大型心筋症を疑い,頸静脈拍動から心不全の有無や重症度を判定することができます.
  • この動脈と静脈の共演は今まで何度か報告してきました(自験例1自験例2自験例3).しかし目立つ方に気を取られ両者を同時に認識することは稀でしたが(個人的にはスマホの動画を見直し後で気づく),今回は診察室で診断できました 😀

松下記念病院 川崎達也)

2022-10-10

ハリソン溝 Harrison's groove (or sulcus)

  • 胸郭下縁(横隔膜の肋骨付着部に相当)の水平陥凹溝のことで,主に吸気時に出現する
  • 先天性または後天性ビタミンD欠乏症による骨石灰化障害(くる病,Rickets)などで出現
  • 命名はEdward Harrison (1766-1838)に由来/もしくはEdwin Harrison (1779-1847)?(


※ 以前に松下ERランチカンファレンスに投稿した内容の更新版です 🎶

松下記念病院 川崎達也)

2022-10-06

端座位の心尖拍動から…

弁膜症による慢性左心不全の評価目的で当院を紹介受診した症例

🐤 解説
  • 端座位で心尖拍動の最外側は左乳輪の左外側へ偏位 ➜ 心拡大の疑い
  • 乳輪下の心尖拍動は2肋間以上で観察可能(本例は3肋間)➜ 心拡大
  • 拍動は抬起性で吸気保持で少し明瞭化(ただ呼気保持でも観察可能)
  • 本例は胸部X線で心胸郭比は増加して,心エコー図で遠心性肥大あり

🐦 つぶやき
  • 心窩部にも拍動があり右室の反映と考えられます.よく見ると乳輪下の拍動(左室拍動)よりも右室拍動が少し遅れています(通常でも左室収縮は右室収縮に僅かに先行).
  • 吸気時には左室ー右室のタイムラグが拡大しているようです.おそらく吸気に伴う静脈還流の増加で右室の前負荷が増えて,収縮開始が少し遅延するのかな〜と考えます.
  • さらに吸気時に心拍数(拍動数)が低下しています.バルサルバ負荷で胸腔内圧が上昇すると心拍数は低下しますが,本例では吸気保持早期から心拍数の低下が目立ちます.
  • 吸気時(肺に酸素が多い時)には通常,心拍数が上昇します(より多くの酸素を血中に取り込むため).圧受容体を介する反応ですが,心不全例ではしばしば障害されています.


松下記念病院 川崎達也)

2022-10-03

Rachitic Rosary くる病念珠

  • Rachitic(発音:rəkítik)くる病の/Rosary(発音:róuzəri)宗教の数珠(じゅず)
  • Ca欠乏による石灰化欠如と肋軟骨関節軟骨の過成長で,肋骨骨幹端が増大した状態
  • くる病や骨軟化症,副甲状腺機能低下症などで出現して,肋骨念珠とも呼称される


👿 頭の整理
  1. なんらかの代謝異常によって発症した骨の石灰化障害のうち,成長軟骨帯閉鎖以前に発症するもの(つまり小児)をくる病(rickets),骨端線閉鎖が完了した後の病態(つまり大人)を骨軟化症(osteomalacia)と呼んでいる.
  2. ①ビタミンD欠乏性(摂取 or 日光不足),②ビタミンD依存性(遺伝性:1型=腎臓でビタミンD活性化の酵素異常/2型=ビタミンDの受容体異常),③低リン血症性(摂取不足,腸での吸収不足,腎臓での再吸収不足,血中から骨や細胞への過剰移動)に大別
  3. 英名 rickets の語源はギリシャ語の背骨を意味する rhakhis に由来している.一方,芳名のくる病は,背中が曲がる状態を表す漢字の佝僂または痀瘻からきているらしい.洋の東西を問わず背中に由来している点は興味深い.

松下記念病院 川崎達也)

2022-09-29

番外編:ボー線条 Beau's line

  • すべての指趾の爪甲表面のほぼ同位置に認める短軸方向の溝(隆起とくぼみ)
  • 機序は爪甲を作っている爪母の機能の一時的な低下によると考えられている
  • 名前の由来は初報のフランス人医師 Joseph Honoré Simon Beau (1806–1865)
  • 原因は麻疹,手足口病,川崎病など発熱性疾患や感染症,亜鉛欠乏,薬剤他
  • 爪溝の幅は原因疾患の罹病期間と相関し,その位置から罹病時期も推測可能



💁 に関する過去の投稿 ➜ コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

松下ERランチカンファレンスとのマルチポストです 🎶

松下記念病院 川崎達也)

2022-09-26

🏆 論文:稀な僧帽弁逸脱の雑音

  • 当院の循環器内科の本田先生が執筆された論文が出版されました
  • 僧帽弁逸脱による逆流でフォロー症例の雑音が急に変化しました
  • Ⅱ音まで持続していた収縮期雑音がⅡ音100 ms前に終了(下図)
  • 心エコー図では以前と比較して僧帽弁逆流が減少しⅡ音前に終了
  • 下肢挙上で逆流がⅡ音まで持続したため脱水に伴う音変化と診断


👶 追加コメント
  • 僧帽弁逸脱のクリックと逆流音は前負荷や後負荷によって大きく変化することが知られています(本例ではクリックなし).基本は「前負荷が増加 ➜ 左室容積が増加 ➜ 逸脱が遅れる」または「前負荷が減少 ➜ 左室容積が減少 ➜ 逸脱が早まる」です(過去の投稿).
  • これらの変化はクリック出現と雑音開始のタイミングであり,雑音はⅡ音まで持続することが原則です.しかし本例では雑音の開始点ではなく終了点が変化していました.雑音がⅡ音手前で終了する変化を心音図で記録した報告は(検索範囲では)ありませんでした.
  • 本例では逆流程度の減少に加えて,左心室の拡張末期容積や左心房容積指数も減少していました.心音図の提示はありませんが,逸脱による逆流雑音では収縮早期に終了する症例も稀ではないという記載を見つけました(J Am Coll Cardiol 1989;13:1053-61).

👿「論文」の過去の投稿は コチラ(ウェブ版なら画面右の分類からも選択可)

松下記念病院 川崎達也)

2022-09-22

耳クイズ

時折,胸痛を自覚する症例



松下記念病院 川崎)

2022-09-19

稀に左>右

息切れで来院した症例

🐤 解説
  • 安静座位の鎖骨上で内頸静脈の拍動を視認 ➜ 中心静脈圧の上昇
  • その拍動は右側より左側で明瞭(矢印)➜ 呼吸負荷後も左側優位
  • 呼吸音は清であるが心尖部でⅢ音あり ➜ 非代償性心不全と診断

🔗 ひとり言
  • 中心静脈圧の推定には,右房との直線的位置関係から右側の内頸静脈を使用します(解剖図).しかし稀に本例の様に,左側の拍動がより目立つ方がおられます.上記動画では左から光があたっているため右側は少し影になっていますが,それを差し引いても拍動は左側優位でした.
  • 頸静脈拍動が左側優位である経験を内臓逆位の症例で経験したことがあります(過去の投稿).また左上大静脈遺残でも同様の所見をきたす可能性があります.ちなみに本例ではいずれの所見もないと考えられました.

松下記念病院 川崎達也)

2022-09-15

自作聴診器:パート2

  • 本投稿は「自作聴診器:パート1」の続き
  • 8/10の "健康" ハートの日に心臓教室開催
  • 小学生向けに100均グッズで聴診器を作成


🐤 僕も小学生に紛れ込んで自作
  1. 前回の初号機(自作聴診器:パート1)の問題点を認識して改良!
  2. ヘッド部分に肉厚で継ぎ目のない金属漏斗を採用(100均で購入)
  3. チューブも肉厚の太いビニールに変更(ホームセンターで150円)
  4. 100均イアピースは耳に適合せず(左図)聴診器部品を転用(右図)
  5. しかしⅠ音やⅡ音,収縮期駆出性雑音は ”なんとか” 聴取可能レベル
  6. 過剰心音や拡張期雑音は不可(肥大型心筋症の巨大Ⅳ音も認識不能)

😓 独り言
  • 思ったよりもクオリティが低くて少しがっくりしました.奥まったところにある静かな診察室で試したので,単耳式だけが原因とは思えませんが…

(投稿者 川崎)

2022-09-12

自作聴診器:パート1

  • 8/10は "健康" ハートの日で小学生向けの心臓教室がありました
  • その2時限目は図工 ➜ 100均グッズで「聴診器を作ろう」でした


🐤 僕も小学生に紛れ込んで自作
  1. Y型ホースつぎ手が売ってなかったので,単耳式に変更
  2. ヘッドはケーキを作る時に用いる絞り口金を利用(左図)
  3. 実臨床で使用してみるとほとんど聞こえず(耳に合わず)
  4. よってイアピースを聴診器の予備パーツと交換(右図)
  5. Ⅰ音やⅡ音,収縮期駆出性雑音は”なんとか” 聴取可能
  6. 過剰音は全く聞こえず(胸毛があれば通常音も聴取困難)

😅 現場
  • 患者さんに小学生への取り組みなどを説明したら,皆喜んで自作聴診器の機能評価に協力してくれました(中には自分にも聞かせてほしいという申し出あり).本当にありがとうございました.

松下記念病院 川崎達也)

2022-09-08

ポパイ徴候とATTRアミアロイドーシス

心肥大を呈する症例



松下記念病院 川崎)

2022-09-05

👴 歴史クイズ

CC BY-SA 4.0



松下記念病院 川崎達也)