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2025-08-14

Ⅳ音の深堀

心電図異常を指摘された無症候例

😎 解説
  • 漸増・漸減する収縮期の駆出性雑音あり
  • 前収縮期(拡張後期)に大きな過剰心音
  • 低調成分が主体であるためS4(赤四角)
  • 本例の最終診断は閉塞性肥大型心筋症

😛 追加コメント
  • 洞調律の肥大型心筋症では肥大部位にかかわらずS4を高頻度(約70%)に認める(Circ J  2023;87:1068-74)。
  • なおS4の生じる前提として、心室コンプライアンスの低下あるいは拡張末期圧の上昇に対する心房機能の亢進が必須
  • 増高した心室流入血流が硬い心室を振動させてS4が発生(Tavel ME. Year Book Medical Publishers;1971:44-63)
  • この振動はA波として触知でき(下図),抬起性拍動と合わせて二峰性心尖拍動(double apical impulse)と呼ばれる.
  • なお心房細動ではⅣ音(第4音)は記録されない.また洞調律であっても心房機能が低下すればS4は減弱~消失(


松下記念病院 川崎達也)

2025-07-14

もし座位で認めれば…(フィジカルの高み)

心電図異常+労作時の息切れ(座位)

👼 解説
  • 安静呼吸時には頚部に拍動を視認せず
  • ただし稀に陽性波? ➜ キャノンa波
  • 深吸気保持で陽性波が連続出現(矢印)
  • 脈触診併用で同波は収縮期直前(a波)
  • 本例の最終診断は両心室肥大型心筋症

👳 独り言
  • 肥大型心筋症ではa波が明瞭になることが多いと思います.当院の研究でも7割以上の症例でa波を視認しています.ただしこの数値は臥床であって(典型的な自験例),座位でa波を認める症例は10%にすぎません.座位のa波視認は,HCMのフィジカル診断に対して感度10%ながら特異度は100%
  • 座位でa波を認める他疾患は3度房室ブロック(自験例)や期外収縮(自験例)によるキャノンa波です.その機序は右房収縮時に三尖弁が閉鎖しているためです(この場合はa波が規則正しく出現しないので視診でも鑑別可能).三尖弁狭窄では規則正しいa波ですが超稀(腫瘍による類似病態の自験例
  • HCMでa波が目立つ機序は右房の後負荷増大(≒右室のコンプライアンス低下)です.よって右室肥大を有する肥大型心筋症ではa波が目立ちやすいと思います(左室肥大のみでもベルンハイム効果のため右室コンプライアンスは低下).右室肥大を伴うHCMの頻度は1~2%と稀ですが(PLoS One 2017;12:e0174118),ぜひ右心系HCMのフィジカル診断に挑戦してみてください.

松下記念病院 川崎達也)

2025-01-20

第21回 循環器Physical Examination講習会より


循環器Physical Examination講習会は故・吉川純一先生が2003年に立ち上げられた身体所見に関する研究会です.「生きた physical examination」を体感・習得して,「感動できる」ものにしていきたいと思っています.毎週情報発信をしているので,よければSNSでフォローしてみてください.


👻「フィジカル講習会」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

松下記念病院 川崎達也)

2024-09-23

心音クイズ(Q3・Q4)

  • 持田製薬さんと作成している心音クイズの第二弾です(GROUP T inc.さんにも感謝 🙏).今回は過剰心音を呈した2症例で,5領域(2R, 2L, 3L, 4L, 心尖部)の実際の心音+2領域の心音図です.前回同様,基本解説と踏み込んだコメントです.
  • 今後も3ヵ月毎に2症例ずつアップする予定です(次回は2024年10月の予定).無料なのでよろしければ是非ご覧ください(ただしQ3・Q4以降は簡単な登録が必要).一緒に聴診学の高みを目指せれば作成者としては嬉しい限りです 😁


松下記念病院 川崎達也)

2024-09-02

第21回 循環器Physical Examination講習会より


循環器Physical Examination講習会は故・吉川純一先生が2003年に立ち上げられた身体所見に関する研究会です。「生きた physical examination」を体感・習得して、「感動できる」ものにしていきたいと思っています。毎週情報発信をしているので,よければSNSでフォローしてみてください.


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松下記念病院 川崎達也)

2024-05-20

最近の耳学問 👂

  • 「太った?」の簡単な確認はベルトサイン(穴が一つずれた)や指輪サイン(抜けにくくなった)
  • ミルリノン(医薬品添付文書)は左心不全の治療薬であるが右心機能もサポート
  • 血清hCG(Human chorionic gonadotropin/ヒト絨毛性ゴナドトロピン)が2000以上(+超音波検査で胎嚢なし)なら異所性妊娠を考慮
  • 閉塞性肥大型心筋症の頸動脈所見 spike and dome pattern は dart and dome pattern とも称される(ダーツ矢のdart)
  • 心尖部の血栓が疑われるときはコンパウンドをオフにする(空間コンパウンドは多方向の超音波を合成する画像処理で,デフォルトはオンが多い)
  • Eclipsed MRとは,(左室駆出率が保たれた患者で明らかな誘因なく)一過性にごく短時間生じる急性の機能性僧帽弁逆流(eclipseは日蝕や月蝕の蝕)
  • 感染性心内膜炎の7-8割に貧血を認める(ただしエビデンスとして確認できず...😂)
  • サッケード(saccade)とは高速な眼球運動のことで,物体を網膜中心窩で捉えることに寄与(適切なフィードバックがあるため視界はブレない)
  • 近代哲学の祖であるドイツのカント(1724-1804)は夏も冬も朝4時55分に起きていた(どうでもいいことですが投稿者も全く同じだったので...😅)

💁 耳学問に関する過去の投稿 ➜ コチラ(松下ERランチ・カンファレンスに移動)

松下記念病院 川崎達也)

2024-04-25

今週の一枚 🎯 一発診断

心電図異常の無症候例(座位)

👭 二峰性心尖拍動(double apical impulse)
  • 左乳輪の下内側に心尖の拍動を視認
  • 健常者のタッピングとは異なる動き
  • ”グニョ グニョ”とした不思議な動き
  • 付箋では二段階モーション(矢印)
  • 最終的に心尖部肥大型心筋症と診断

👶 追加コメント
  • HCMは拡張相に移行しなければ,通常は心拡大を来たしません.よって男性なら本例のように左乳輪の内側に拍動があります(女性では正中より10 cm以内).
  • 肥大型心筋症に対する二峰性心尖拍動の診断感度・特異度・正診率は各々27%,98%,66%です(当院研究).これは心尖部型(APH)に限りません.
  • 2峰性心尖拍動は大きなA波と抬起性拍動(左室肥大を示唆)によって構成されます.よってこの部位では明瞭なⅣ音が聴診できます(もちろん触診も可能).
  • Ⅳ音は聴診よりも触診の方が気付きやすいと言われることがありますが(触ってナンボの法則),個人的には大きな雑音がなければ聴診の方が簡単...(雑音症例

👻「今週の一枚」の過去の投稿は コチラ松下ERランチ・カンファレンスの名物コーナー)

松下記念病院 川崎達也)

2024-03-28

ベルンハイム症候群 Bernheim's syndrome

  • 右室内腔の狭小化のため右心不全を呈する左心系の疾患.Bernheim が100年以上前に報告(De l'asystolie veineuse dans l'hypertrophie du coeur gauche par stenose concomitante du ventricule droit. [仏語:右室狭窄を伴う左心肥大の静脈性不全収縮] Rev de WV 1910;30:785-801).
  • ただしベルンハイム症候群に懐疑的な報告も少なくないようで,最近では目にすることはほとんどないと思われる.2000年以降でGoogle scholarの検索ではわずかに33件がヒット(実際の検索).日本語では全期間を通してもわずか数編程度でしょうか?

ベルンハイムのオリジナル論文からの図の転載

👿 深掘り

仁村泰治先生が「肥大型心筋症に伴う右室流出路狭窄と"Bernheim症候群"」という題でeditorial commentを発表されています(心臓 1992;24:1309-12).ベルンハイムの提案した項目をわかりやすくまとめられています(下記).このベルンハイム症候群に対しては少し懐疑的な見方を示しつつ,ベルンハイム効果とういう観念で考えるならば意味はあると述べられておられるところはさすがです.同効果はこの心臓フィジカル広場でも頻出です(ココ).

  1. 左心系の疾患であって,左室肥大ないし拡張が著しい
  2. 肺うっ血はなく,臨床的にも起坐呼吸,咳など,それに相当する症状はない
  3. 直接に右心不全を来たすような右心,肺循環系の疾患はない
  4. 左室の肥大,拡張ないし心室中隔の肥大のため,中隔は右室腔内に凸に膨隆し,そのため,右室,特にその下半は狭小化している.ロート部はかえって代償的と見られる肥大,拡張を示していることが多い
  5. 頸静脈怒張,肝腫大,下肢浮腫など右心不全症状が見られる
  6. 以上の事柄からこの右心不全は,通常考えられるような左心不全→肺循環負荷→右心不全と言う経過を辿ったものでなく,上述のような右室内腔の狭小化のため,静脈還流が制限され,左心不全,肺循環負荷とは関係なしに,右心不全の状況を来たしたと考えられる

松下記念病院 川崎達也)

2024-02-19

臨床=組合せ

心雑音を指摘された症例(座位)

👻 現場実況
  • 収縮期駆出性雑音あり(鎖骨も)➜ 大動脈弁狭窄の疑い
  • 心エコー図では中等〜重症の大動脈弁狭窄と判断された
  • しかし頸動脈に明瞭な拍動あり(矢印)➜ ASは否定的?
  • エキスパートによるエコー再検で流出路狭窄狭窄と診断
  • 頸部に雑音の放散があったが本例は大動脈弁硬化も合併

💚 組み合わせ
  • 本例は明らかな非対称性中隔肥大やS字状中隔を伴わない非典型的な左室流出路狭窄であったため,診断に少し時間を要したと思われました(もっとも僧帽弁の収縮期前方運動は明瞭でしたが...)
  • 大動脈弁狭窄症の頸動脈拍動は通常,不明瞭です(厳密には緩徐な立上り+上昇脚の小振動).しかし加齢に伴う動脈蛇行で皮下に出現した動脈が明瞭な拍動を示すことがあります(自験例
  • 身体所見では常に組み合わせて考えます(例:聴診+頸動脈).聴診も組合せです(例:駆出性+部位).心エコー図も然り(例:レポート+検者?).臨床も然り(身体所見+心エコー図)

松下記念病院 川崎達也)

2024-01-29

大動脈弁狭窄のS4

研究1Am J Cardiol 1971;28:179-82
  • 大動脈弁狭窄症124例の検討では,重症(最大収縮期勾配≧75 mmHg)ならほとんどの場合Ⅳ音が存在する.一方,成人の大動脈弁狭窄症でⅣ音の存在は,40歳未満では重症を意味する.

研究2Circulation 1975;51:324-7
  • 40歳以上の大動脈弁狭窄例では,S4ギャロップは重症(弁口面積≧0.75 cm2) の85%(65人中55人),中等症までの86%(7人中6人)であった.おそらく大動脈弁狭窄では聴診が不正確であるため,S4の有無はこの評価にはあまり役立たなかった.

研究3Circulation 1962;26:92-8
  • 大動脈弁狭窄症患者46名では,第4音が検出される場合,通常は狭窄が重症(圧較差>70 mmHg,左心室収縮期圧>160 mmHg)と結論付けることができる.

👶 個人的な思い
  • Ⅳ音を有する大動脈弁狭窄は,左室コンプライアンスがより低下しているため重症であることは理にかなっています.しかしさらに進行したステージでは左房が疲労してくるため,おそらくⅣ音は小さくなり最終的に心房細動に移行すると思います(肥大型心筋症でも同様の現象があると予想:当院の論文).
  • 大動脈弁狭窄では大きな雑音のため過剰心音を聴診することが困難です(S1ですら難しい:音響隠蔽現象).そんな時は聴診よりも触診(心尖拍動のA波増高)が有用でしょうか(過去の投稿).もっとも下図の様な極小S4は心機図では検出できても,聴診や触診で認識できるとは到底思えませんが...😐


松下記念病院 川崎達也)

2024-01-15

論文 🏆 こだわりの塊

  • 非常勤医師の先生が当院で経験した症例(少し前😅)
  • 今まで経験したことがない不思議な拡張早期の雑音
  • 心音心機図と心音心エコー図を駆使して音源を追求
  • 最終診断はHCMの拡張期奇異性血流に関連する音

- 図Bと図Eの*が雑音の本体です -

😀 独り言
  • こんなちっぽけな音にこだわっても意味ないだろう〜という声が聞こえてきそうです.肥大型心筋症の拡張期奇異性血流は心事故と関連することが報告されていますが(J Am Coll Cardiol 1992;19:516-24,心エコー図ですらその検出にあまり力を注いでいない施設が多いのではと思います.
  • 確かにとても微妙な音ですが,心臓フィジカルを追求する1人としては決して看過できない所見でした.よって心エコー図のエキスパートと一緒にその音源を追求してみました.興味がある方は是非,論文を読んでみてください.心音心機図や心音心エコー図の美しさを自画自賛しています.

👿「論文」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

松下記念病院 川崎達也)

2023-11-09

今週の一枚 🎯 ゴニョゴニョ

心電図異常(洞調律・ST-T変化)で来院した男性(座位)

😎 診察室中継
  1. 呼吸時の大きな胸壁の動きにめげずに心尖の拍動を探す
  2. 心尖拍動(矢印)を認識したら次はその位置を確認する
  3. 拍動が左乳輪外側とは言えないため心拡大はないと判断
  4. 次に拍動様式を分析:なにか”ごにょごにょ”している?
  5. 触るってみると二峰性拍動(ダブルインパルス)の疑い
  6. 拍動部位で大きなⅣ音を聴診して肥大型心筋症を疑った
  7. その後に心エコー図で心尖部肥大を確認しAPHと診断

😁 楽しい臨床
  • 二峰性心尖拍動(ダブルインパルス)と言えば肥大型心筋症です(特異度98%:当院の臨床研究).心尖部肥大型心筋症に限らず,巨大Ⅳ音を示唆する所見です.視診・触診・聴診のいずれでも診断できますが慣れが必要でしょうか?
  • 最近は,二峰性またはダブルにはあまりこだわらなくていいのではと思っています.リアルの臨床現場では本例の様に胸壁の動きも加わるため細かい判定はより難しく成ります.「なにかゴニョゴニョしているな〜」程度で十分です.
  • 先月に経験した症例はHCMでギクシャクしている心尖拍動でした.視診から肥大型心筋症を疑い,心エコー図で確認する臨床スタイルは机上の空論ではありません.誰にでも可能で,かつ日常臨床を楽しくする知識だと思います.

👻「今週の一枚」の過去の投稿は コチラ松下ERランチ・カンファレンスの名物コーナー)

松下記念病院 川崎達也)

2023-10-09

これは指腹ではなく指先で!

検診で心電図異常を指摘された無症候例

👥 ダブルインパスルス(二峰性心尖拍動)
  • 左半側臥位で抬起性(持続時間の長い)の心尖拍動(矢印)
  • よく見るとグググといった(スムーズでない)隆起パターン
  • 付箋をつけるとその立ち上がりが一峰性でないことが分かる
  • 最終診断は肥大型心筋症(非閉塞性かつ非対称性中隔肥大)

👤 コメント
  • Double apical impulseとは小さな振れ(atrial kick=A波=心房収縮波)の後に大きな振れ(抬起性)が続く心尖拍動で,肥大型心筋症にかなり特異的です(感度27%・特異度98%)(当院の研究).つまりあればおそらく肥大型心筋症と確定可
  • 問題はダブルインパスルスを認識できるか否かです.視診・触診・聴診の中では視診が最も難しいと思いますが,これは慣れで克服できると思います.本ページには肥大型心筋症の二峰性拍動が多数アップされているので確認してみてください(ココ
  • 視覚の時間分解能は低いと思われますが,指先は超高感度の圧センサーです.何かギクシャクした隆起だと思ったら是非,指先で感じてみてください(触ってなんぼの法則).ポイントは指腹でなくて指先でしょうか.ズズンと伝わってくるでしょう.
  • 個人的にはⅣ音が好きかつ得意なので,ダブルインパスルスよりも巨大Ⅳ音(心房収縮波の音版)を信頼しています.ただし閉塞生の肥大型心筋症では収縮期雑音が過剰心音の聴診を難しくすることが少なくありません(自験例).この時は指先に全集中

松下記念病院 川崎達也)

2023-08-21

🏆 論文:心アミのフィジカル

  • 当院初期研修医の平野先生が循環器内科で経験した症例が出版されました🎉
  • 身体所見が診断契機になったトランスサイレチン型心アミロイドーシスです
  • このATTR型は高齢者に多く簡便なマーカーがないため診断が遅れがちです
  • 本例は著明肥大にも関わらずⅣ音(S4)なし+ポパイ徴候が診断契機でした

非外傷性の上腕二頭筋腱断裂(ポパイ徴候)がら15年後にATTR型心アミロイドーシスと診断された70歳男性

😀 追加コメント
  • 本例の左室駆出率は55%で左室はびまん性に肥厚し(15 mm程度),左室心筋重量係数は111.9 g/ms2(基準: 56〜92 ms2)でした.ドプラ指標はE/A 2.66,E/e' 32.0とグレードⅢの高度拡張障害でした.しかし通常なら存在が予想されるⅣ音を聴取せず,心音図でも記録されませんでした.
  • 心臓アミロイドでは肥大があるのにⅣ音を欠くことは従来から論文に記載されてきました(Am J Cardiol 2000;86:244-6Clin Cardiol 2021;44:322-31).しかしこれらはエキスパートオピニオンです.友人のフィジカル巨匠が実データを現在投稿中と聞いています(出版がとても楽しみです 😄)
  • 心アミ症例でⅣ音(S4)を欠く機序は心房へのアミロイド沈着と考えられます.本例でもピロリン酸が両心室のみならず両心房に集積していました(下図).以前の投稿「問題硬い左室+Ⅳ音なし=?」はいつも頭の片隅に置いておきたい事です.なお肥大型心筋症の心房の辛抱も忘れずに 😁


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松下記念病院 川崎達也)

2023-08-07

🏆 論文:HCMのフィジカル意義

  • 肥大型心筋症は多くのユニークな身体所見が知られています
  • 本研究では HCM 症例で身体所見の臨床的意義を検討しました
  • 診断能は臥位の頸静脈a波+Ⅳ音聴診で特異度94%、感度57%
  • Ⅳ音の消失が死亡または入院の増加に繋がることも示しました
典型例(論文の動画 ➜ コチラから下スクロール)

😎 独自路線
  • 肥大型心筋症は心室の肥大が特徴的ですが,フィジカルでは心房が主役です.これは硬い心室に血液を無理やり押し込んでいる心房の頑張り(心房の辛抱)です.この頑張りが続かなくなったとき(例:Ⅳ音の消失)が運動耐容能の低下や心血管事故の増加(本論文)に関係することは理にかなっています.
  • 身体所見から肥大型心筋症を疑い,その後に画像検査で確認する臨床スタイルは,充分に可能で楽しいと思います.「忙しい新患外来でそんなめんどくさいことできないよ~」という意見にも大いに同意しますが...😅 いずれにしても遅ればせながらライフワークの1つが形になって本当に良かったです.

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松下記念病院 川崎達也)

2023-07-03

心尖拍動も体位依存

肥大型心筋症でフォロー中の症例(症状なし)

🐤 解説
  • 左半側臥位では明瞭な抬起性心尖拍動あり
  • よく見ると付箋の振動から二峰性心尖拍動
  • ただし仰臥位では心尖拍動は不明瞭になる
  • もちろん本例では巨大Ⅳ音を聴取かつ触知

🔗 復習
  • 心尖拍動は,その位置(心拡大と関連)や様式(心肥大と関連)などを評価することが大切です.ただし頸静脈と同様に,体位によってその所見が変化します(視認性や触知率も含む)
  • 感度的には左半側臥位がベストですが,座位も簡便で悪くないと思います(必要に応じて呼吸調整).最も分かりにくい(感度が低い)のは仰臥位ですが,逆に特異度は良好でしょうか

松下記念病院 川崎達也)

2023-06-22

プルプル心尖部

端座位の肥大型心筋症例

👀 解説
  • 心尖拍動を視認 ➜ 左乳輪内側で心拡大はなさそう
  • 心尖拍動はとても明瞭 ➜ 抬起性(心肥大)の疑い
  • よくみるとプルプルっとなっていて単峰性ではない
  • 触診でダブルインパルスがあり聴診では巨大Ⅳ音
  • 本例では剣状突起が目立っている(病的意義なし)

👶 独り言
  1. 通常の心尖拍動の他に拍動を認める場合(二峰性心尖拍動)は,心房性隆起(前収縮期)と心室性隆起(拡張早期)が考えられます.前者は聴診のIV音に相当し, 左室のコンプライアンスが低下していると考えられます(例:肥大型心筋症).後者は増大した左室への急速流入波あるいはIII音を反映します(例:高度の僧帽弁逆流).
  2. 個人的な経験では,視認で気づく二峰性心尖拍動の大部分は肥大型心筋症によるatrial kick(心房性隆起)です.マイ感度は触診≧聴診>視診の順です(過去の投稿).一方,ventricular kick(心室性隆起)はともて小さいので触知はできても視認することは極めて稀です.僕の感度は聴診>触診≫視診の順でしょうか?

松下記念病院 川崎達也)

2023-06-19

Twitterで出会った圧波形

診断は?
(投稿者@mandeep_mayo


松下記念病院 川崎達也)

2023-05-25

論文 🏆 HOCMの身体所見

  • 当院の循環器内科専攻医である野口先生が経験した症例が出版されました
  • 典型的なフィジカル所見を示した閉塞性肥大型心筋症(HOCM)の1例です
  • 頸動脈は二峰性拍動(pulsus bisferiens)でspike and dome型の波形でした
  • 心尖もatrial kickと抬起性拍動のダブルインパルス(double apical impulse)
  • 心音は収縮中期の過剰音(偽駆出音/SAM音)およびそれに続く収縮期雑音


😀 追加コメント
  • 僧帽弁が収縮期に前方運動(SAM; systolic anterior motion)して非対称性中隔肥大と接触する時に生じる偽駆出音は是非とも覚えておきたい過剰音です.駆出性雑音が続く音感は独特であり,フィジカル診断の大きな武器になります.
  • 僕自身も外来でフォロー中のHOCM例で心音をもう一度注意して聞きなおしてみると,この音が決して稀でないことが分かりました.論文には音声ファイルが添付されていますが,ダウンロードや解凍が手間なので下記にアップしておきます.

👉「論文」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

松下記念病院 川崎達也)

2023-02-20

閉塞性肥大型心筋症の身体所見:まとめ


😀 実際の所見

 😙 独り言
  • 頸静脈の増高a波や心尖のダブルインパルス力強い第4音の存在は(閉塞機転の有無に関わらず)肥大型心筋症の画像検査診断に間違いなく役立ちます.
  • 頸動脈のスパイク・ドーム波形は有名ですが僕は自信がありません.一方,偽駆出音は稀ですが独特のリズムなので,耳コピしておけば一発診断が可能です.

松下記念病院 川崎達也)