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2024-04-25

今週の一枚 🎯 一発診断

心電図異常の無症候例(座位)

👭 二峰性心尖拍動(double apical impulse)
  • 左乳輪の下内側に心尖の拍動を視認
  • 健常者のタッピングとは異なる動き
  • ”グニョ グニョ”とした不思議な動き
  • 付箋では二段階モーション(矢印)
  • 最終的に心尖部肥大型心筋症と診断

👶 追加コメント
  • HCMは拡張相に移行しなければ,通常は心拡大を来たしません.よって男性なら本例のように左乳輪の内側に拍動があります(女性では正中より10 cm以内).
  • 肥大型心筋症に対する二峰性心尖拍動の診断感度・特異度・正診率は各々27%,98%,66%です(当院研究).これは心尖部型(APH)に限りません.
  • 2峰性心尖拍動は大きなA波と抬起性拍動(左室肥大を示唆)によって構成されます.よってこの部位では明瞭なⅣ音が聴診できます(もちろん触診も可能).
  • Ⅳ音は聴診よりも触診の方が気付きやすいと言われることがありますが(触ってナンボの法則),個人的には大きな雑音がなければ聴診の方が簡単...(雑音症例

👻「今週の一枚」の過去の投稿は コチラ松下ERランチ・カンファレンスの名物コーナー)

松下記念病院 川崎達也)

2024-04-22

聴診器

Ogawa S, Namino F, Mori T, Sato G, Yamakawa T, Saito S. AI diagnosis of heart sounds differentiated with super StethoScope. J Cardiol. 2024 Apr;83(4):265-271.



心音図検査装置である超聴診器AMI株式会社)は、(1) 心拍数の変動を検出するための心電図と心音の同時収集、(2) 可聴周波数帯域での最適化されたS/N比、および (3) 信号の取得が可能である。不可聴周波数範囲を含む心音データを視覚化する機能により、遠隔聴診中に音質の変化による影響を受けることなく定量的な結果を提供することができる。心臓専門医が確認した心音の8つの一般的な臨床所見(全収縮期雑音、収縮後期雑音、収縮期駆出性雑音、拡張期逆流性雑音、拡張早期雑音、往復雑音、S3、および S4)の正解率は84.4 %で、S3とS4の正解率は100%であった。


😊 独り言
  • 当院で使用している心機図検査装置 MES-1000(フクダ電子株式会社)はとても優れた装置ですが,残念ながら現在は販売されていません.壊れたらどうしよう...😨
  • 上記研究の心音図検査装置AMI‐SSS01シリーズ(AMI株式会社)は当院未導入ですが,デモをしていただいたことがあります.とても使い勝手が良くて本当に驚きました.
  • 本機は心音図のみで心機図(心尖拍動や頸静脈波形,頸動脈拍動など)は記録できませんが,AIの診断サポートはとても魅力的です.今後の発展と普及に期待しています.

松下記念病院 川崎達也)

2024-04-18

座位定性法:より深淵へ

息切れで来院した症例

👉 解説
  • 内頸静脈に陽性波(触診で静脈性:ランチシ徴候)
  • 拍動の上縁は顎下以上であるため定量評価は困難
  • 左上肢の挙上で陽性波の持続時間が延長している
  • 本例の最終診断は高度TRを伴った非代償性心不全

👍 追加コメント
  • 頸静脈の座位定性法は拍動上縁の位置から半定量的な評価も可能です.しかし本例のように内頸静脈の拍動上縁が顎下まで達している症例では,各種負荷に対する反応を上縁変化から判断することは困難です.
  • しかし位置の変化に時間の変化(例:短時間隆起→長時間隆起)も加味するとより深い評価が可能です.もっとも負荷前の所見から中心静脈圧は極めて上昇しているので,それで十分かもしれませんが...😅

松下記念病院 川崎達也)

2024-04-15

第21回 循環器Physical Examination講習会より


循環器Physical Examination講習会は故・吉川純一先生が2003年に立ち上げられた身体所見に関する研究会です。「生きた physical examination」を体感・習得して、「感動できる」ものにしていきたいと思っています。毎週情報発信をしているので,よければSNSでフォローしてみてください.


👻「フィジカル講習会」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

松下記念病院 川崎達也)

2024-04-11

今週の一枚 🎯

肥大型心筋症で通院中の患者さんから相談を受けました

💅  爪甲そうこう剥離症(Onycholysis)
  • 爪剥離は冬に基部から始まり上方へ進行
  • 夏には自然に治癒(この数年繰り返し)
  • 服用薬はなくⅣ音を除き身体所見は正常
  • 栄養や甲状腺機能を含む血液検査は正常
  • 皮膚科的には爪甲剥離を除いて異常なし
  • 職業は通常デスクワークで寒冷刺激なし

👋 本態性爪甲剥離症(Idiopathic onycholysis)
  • 爪甲剥離症の原因としては,感染症(真菌など),乾癬,外傷または損傷,薬物反応(テトラサイクリンなど),栄養不良,甲状腺疾患,紫外線暴露,刺激性反応などがある.
  • 本例は特発性爪甲剥離症(Idiopathic onycholysis)と診断したが,爪甲剥離症が季節的なことから,冬の低温多湿などの環境条件が病状の悪化に関連している可能性がある.
  • 爪甲剥離には下図に示すように様々な型があるが,いずれも爪の先端~中央に生じていることに注目.本例は爪床基部から生じているようであるが,その原因は不明であった.

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松下記念病院 川崎達也)

2024-04-08

フィジカル忘備録:第21回循環器Physical Examination講習会より

  • 心房中隔欠損では肺高血圧がなくてもⅡ音の肺動脈成分が亢進する(肺動脈の基部が拡大し胸壁に近づく+肺血流が増加するため)
  • 心房中隔欠損では相対的PSによる収縮期駆出性雑音に加えて三尖弁拡張期ランブルを聴取することがある
  • 循環器フィジカルイグザミネーションの実際(2005/9/1,吉川純一編集,文光堂)は青本と言われている
  • Dr.水野のうたう♪心音レクチャー /ケアネットDVD(ケアネット,2017/1/1)がいい
  • 心不全の心機能分類 NYHA ではⅡ度はⅡs(slight limitation of physical activity)とⅡm(moderate limitation of physical activity)に細分するが,Ⅲ度はⅢa(慢性)とⅢb(最近の症状出現:Patients in NYHA class IIIb closely resemble those with a recent history of dyspnea at rest)
  • 心不全の身体所見の要は低還流,肺うっ血,体液貯留の3つである
  • 敗血症の低灌流は膝を見るとより(一番冷たい)
  • 下肢挙上は自己輸血(補液500mlと同じCRT改善効果)
  • 大動脈のRCCとLCCの間に左脚枝があるので手術時には慎重に行う
  • Prosthesis-patient mismatch (PPM) は患者の体格に対して不適切に小さい人工弁が留置され十分な有効弁口面積(EOA)が得られない状態
  • functional MRは雑音が聞こえにくい


当日の風景(少数の現地聴講+全国にWEB配信)

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松下記念病院 川崎達也)

2024-04-04

今週の一枚 🎯

倦怠感があるため紹介された超高齢者


松下記念病院 川崎達也)

2024-04-01

過剰心音の復習

S3(Ⅲ音,第3音)
  • 左室充満圧(左房圧)が20ー25 mmHg以上に上昇 ➜ 左室急速流入速度の増大と突然の停止 ➜ S3出現

S4(Ⅳ音,第4音)
  • 左室拡張末期圧が20ー25 mmHg以上に上昇 ➜ 左房機能が亢進 ➜ S4出現


👹 つぶやき
  • 心不全の定義はいくつか提案されていますが(例:学会の定義),その本質は左室充満圧の上昇と考えられます.よってⅢ音と関連します.一方,左室拡張末期圧の上昇は,心不全とは必ずしもイコールではないことに注意が必要です.肥大や虚血で左室コンプライアンスが低下すると,左室拡張末期圧は意外と容易に上昇します.この場合にⅣ音が出現しますが,左室充満圧(左房圧)が上昇するまでは心不全とは言わない方がいいと思います.

🎵 心音に関する過去の投稿 ➜ コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

松下記念病院 川崎達也)

2024-03-28

ベルンハイム症候群 Bernheim's syndrome

  • 右室内腔の狭小化のため右心不全を呈する左心系の疾患.Bernheim が100年以上前に報告(De l'asystolie veineuse dans l'hypertrophie du coeur gauche par stenose concomitante du ventricule droit. [仏語:右室狭窄を伴う左心肥大の静脈性不全収縮] Rev de WV 1910;30:785-801).
  • ただしベルンハイム症候群に懐疑的な報告も少なくないようで,最近では目にすることはほとんどないと思われる.2000年以降でGoogle scholarの検索ではわずかに33件がヒット(実際の検索).日本語では全期間を通してもわずか数編程度でしょうか?

ベルンハイムのオリジナル論文からの図の転載

👿 深掘り

仁村泰治先生が「肥大型心筋症に伴う右室流出路狭窄と"Bernheim症候群"」という題でeditorial commentを発表されています(心臓 1992;24:1309-12).ベルンハイムの提案した項目をわかりやすくまとめられています(下記).このベルンハイム症候群に対しては少し懐疑的な見方を示しつつ,ベルンハイム効果とういう観念で考えるならば意味はあると述べられておられるところはさすがです.同効果はこの心臓フィジカル広場でも頻出です(ココ).

  1. 左心系の疾患であって,左室肥大ないし拡張が著しい
  2. 肺うっ血はなく,臨床的にも起坐呼吸,咳など,それに相当する症状はない
  3. 直接に右心不全を来たすような右心,肺循環系の疾患はない
  4. 左室の肥大,拡張ないし心室中隔の肥大のため,中隔は右室腔内に凸に膨隆し,そのため,右室,特にその下半は狭小化している.ロート部はかえって代償的と見られる肥大,拡張を示していることが多い
  5. 頸静脈怒張,肝腫大,下肢浮腫など右心不全症状が見られる
  6. 以上の事柄からこの右心不全は,通常考えられるような左心不全→肺循環負荷→右心不全と言う経過を辿ったものでなく,上述のような右室内腔の狭小化のため,静脈還流が制限され,左心不全,肺循環負荷とは関係なしに,右心不全の状況を来たしたと考えられる

松下記念病院 川崎達也)

2024-03-25

指先拍動徴候 Throbbing fingertip sign

息切れと心雑音で受診した症例

😀 解説
  • 無負荷の状態では爪床の色調変化(クインケ徴候)は陰性
  • 爪床圧迫で僅かにQuincke's pulseを認める?(動画中の*)
  • そこでスマホ光源法を追加したがクインケ脈はやはり陰性
  • しかし指先拍動徴候(throbbing fingertip sign)あり(→)
  • 最終診断は中等症MR+軽症〜中等症ARによる慢性心不全

    😄 追加コメント
  • 指先拍動徴候(throbbing fingertip sign)は指先の容積変化で,大脈を反映していると考えられます.非常にわずかな変化なので通常の肉眼で視認することは難しいと思われますが,ライトアップすれば本例のようにわかりやすくなります.
  • 本例の指先拍動徴候は非圧迫で観察できている点がポイントかもしれません(圧迫法で出現したthrobbing fingertip sign).つまりクインケ徴候よりも感度が高い可能性があります.経験された方はコメント欄に記載してもらえると嬉しいです😊

松下記念病院 川崎達也)

2024-03-21

カメラベースの頸静脈評価:レビュー論文

  • Arrow C, et al. Capturing the pulse: a state-of-the-art review on camera-based jugular vein assessment. Biomed Opt Express 2023 Nov 28;14:6470-92
  • ざっくりまとめると「方法論に改善の余地はあるがカメラベースの頸静脈評価は定量的あるいは定性的な特徴付けが可能」だそうです(下表)

😐 独り言
  • Artificial intelligence(AI)のアルゴリズムにかかれば,顔写真から虚血性心疾患の有無や胸部X線から糖尿病の有無が推測できる時代です(過去の投稿).ただ頸静脈評価に関しては,AIを用いたシステムはまだ開発されていないようです(上記論文の著者が本文で言及).
  • 将来的にはスマホで撮影すればAIがすぐに判定してくれるかもしれません(手ブレは気になりますが背景から完璧に補正と予想).ただし頸静脈の座位定性法は簡便なので,わざわざスマホを使わなくても...とも思います(患者さんもカメラを向けられると構えますし)

松下記念病院 川崎達也)

2024-03-18

Advanced but stable HF

慢性左心不全で通院中の症例(座位)

😊 解説
  • 座位で内頸静脈の拍動 ➜ 中心静脈圧は高度に上昇
  • 拍動は陥凹でなく隆起で上縁は下顎角より上(矢印)
  • 左上肢垂直挙上負荷を行うが所見にあまり変化なし
  • 外頸静脈の拍動上縁も安静・負荷ともに頸部の中央
  • 本例の症状は安定し労作時の増悪もあまり認めない

😎 独り言
  • 座位で内頸静脈拍動を視認(座位陽性)なら,中心静脈圧の高度上昇が疑われます(>15 cm水柱).本例のように上縁が高くかつ隆起型ならほぼ確定です.このような症例には通常何らかの対策が必要です(利尿薬追加や入院加療).しかし治療抵抗性の座位陽性例も臨床現場では稀ながら経験します.
  • 左上肢の挙上負荷は吸気負荷よりも心負荷が大きいと思われます(機序:過去の投稿).座位陽性心不全症例で,その高負荷に対する頸静脈所見の増悪が乏しければ,労作時の症状増悪が少ないような気がします.つまり悪いながら安定している心不全(advanced but stable HFかもしれません.

松下記念病院 川崎達也)

2024-03-14

傍胸骨拍動の吸気負荷

CTEPH外来通院中の症例(仰臥位で左が頭側)

🐳 解説
  • 傍胸骨に置いた聴診器に明らかな拍動なし
  • 吸気に伴い聴診器に上下運動が出現(矢印)
  • 拍動は数拍持続しその後に不明瞭になった
  • 本例は状態は安定し日常生活で息切れなし
  • ただし心エコー図で軽度の肺高血圧は残存

🐟 復習
  • 抬起性の傍胸骨拍動は肺高血圧に伴う右室圧負荷を示唆します.稀に左房負荷(自験例)や肺動脈拍動(自験例)もあります.本例で認めた吸気負荷に伴う傍胸骨拍動の出現は潜在的な肺高血圧を示唆していると思っています.
  • 吸気中は中心静脈圧に加えて肺動脈圧や体血圧も上昇するため(過去の投稿),理論的には吸気負荷で傍胸骨拍動は増強されるはず.しかし同時に胸腔容積も増大して右室と胸骨の密着度の低下から相殺される可能性もあり?

松下記念病院 川崎達也)

2024-03-11

👴 歴史クイズ:番外編




松下記念病院 川崎達也)

2024-03-07

AR:指先拍動徴候(throbbing fingertip sign)

重症の大動脈弁逆流例(症状なし)

💅 解説
  • 無負荷状態ではクインケ徴候陰性(陽性例
  • 爪床圧迫を追加したがそれも陰性(陽性例
  • そこでスマホ法を追加したが陰性(陽性例
  • さらにスマホ法に圧迫法を追加したが陰性
  • しかし照明の境界部分が明瞭に拍動(矢印)

 😎 解釈
  • 大動脈弁逆流症は一回拍出量が増大する大脈です.これが指先の大きな容積変化を生じ,拍動として観察されているのではと推測します.
  • 被検者ではなくて検者(つまり指を抑えている本人)の拍動が伝わっているのかなとも思いましたが,自分の拍動とは異なるリズムでした.
  • この症例は個人的に指先拍動(throbbing fingertip)と呼んでいます.ARの新たな(?)身体所見として有用かは症例の集積が必要ですが...

松下記念病院 川崎達也)

2024-03-04

🔍 最新論文:流し読み

📍 Cannon A wave validation as a diagnostic tool in paroxysmal supraventricular tachycardias



  • 背景 房室結節回帰性頻拍(AVNRT)のフロッグ徴候(キャノン A波)は伝統的に知られているが体系的評価はされていない
  • 対象 短いVA間隔(AVNRT+中隔副経路AVRT)と長いVA間隔(非定型AVNRT+左自由壁副経路AVRT)に分類した100名
  • 結果 キャノンA波はAVNRTと関連しないが(p = 0.058),短いVA間隔と関連(p<0.001).CVPはVA間隔と反比例(p<0.001)
  • 結論 キャノンA波の存在は短いVA間隔の頻脈という最終診断と関連する

CVPとVA間隔は逆相関
CE-542-03(同グループの発表抄録)

👽 追加コメント
  • フロッグ徴候の機序(房室弁の閉鎖時に右房収縮)を考えれば本研究の結果は理にかなっています.きっと症例数が増えればフロッグサインとAVNRTは有意に関連してくると推測します(本研究では100症例の検討でp = 0.058).
  • 中心静脈圧の上昇は頻脈期間や基礎心疾患とも関連しそうです.心不全を伴えば中心静脈圧が上昇し頸静脈拍動がより明瞭になるからです(自験例).このカエルサインハミングバード徴候(当院提唱)の普及に期待しています.

松下記念病院 川崎達也)

2024-02-29

今週の一枚 🎯

昨夜からの胸痛でERに搬入された症例

👂 解説
  • 座位で右耳垂に45度の皺あり(フランク徴候
  • 耳垂の皺は二本あり(double earlobe crease
  • よくみると外耳道の毛(ear-canal hair)あり
  • 心電図にはST変化なし(後壁誘導 V7-9 含む)
  • 心エコー図では下壁に軽度の壁運動低下あり
  • 緊急CAGで回旋枝(#13)に99%の狭窄を確認
  • 引き続きPCIで治療(治療中もST-T変化なし)

👀 フランク徴候あれこれ
  • 45度の耳垂皺(フランク徴候/Frank's sign)が冠動脈疾患と関連することはメタ解析でも確認されています(Int J Cardiol 2014;175:171-5).
  • 本例のように外耳道毛が合併した耳垂皺例では冠動脈疾患の確率がより上昇するという報告もあり(Indian Heart J 1989;41:86-91 ➜ 典型自験例
  • しかし「座位皺 vs 臥位皺」や「片側皺 vs 両側皺」の差異はあまり検討されていません.本例のように同一側に複数本ある耳垂皺の追加意義も不明

👻「今週の一枚」の過去の投稿は コチラ松下ERランチ・カンファレンスの名物コーナー)

松下記念病院 川崎達也)

2024-02-26

前屈 😳 スゲー

大腸疾患の術前採血でBNP高値(800台)を指摘された症例

💙 解説
  • 端座位で頸静脈拍動は視認しない
  • 前屈負荷後に頸静脈拍動が出現!
  • 拍動は陥凹でなく隆起と思われた
  • よくみると自然吸気時に隆起明瞭
  • S3はないがS2の肺動脈成分は亢進
  • 胸部X線で肺うっ血や胸水はなし
  • 心エコーでEF 20%+肺高血圧あり
  • 最終的に非代償性左心不全と診断

💚 前屈負荷はユニーク
  • 安静時に頸静脈拍動を認めなくても,各種負荷で拍動が出現することがあります.吸気負荷が最も簡便ですが,左上肢挙上負荷も役にたちます.通常は「拍動なし→陥凹出現」です.安静時に陥凹があれば,負荷後に隆起になる場合もあります(陥凹の消失は原則ない).
  • しかし前屈負荷では本例のように「拍動なし→隆起出現」の変化を経験することがあります(他の自験例).このようなユニークな変化の機序としては,前屈に伴う胸腔内圧の上昇に加えて,息止めの効果や心臓との垂直距離の短縮なども考えられるでしょうか?
  • 本症例は当初「胸部症状はない」と言われました.しかし頸静脈所見を確認後に再度問うと,「数年前から労作時に息切れがするようになったため日常生活を抑えている」と述べられました.自覚症状の有無に加えて,年齢相応の活動的な生活か否かの確認も大切です.

松下記念病院 川崎達也)

2024-02-22

今週の一枚 🎯

心不全増悪に対して利尿薬を追加した症例
外来の再診時には手がとても冷たくなっていた

👽 解説
  • 再診時には内頸静脈の拍動は完全に消失
  • 手指や爪床に末梢チアノーゼは認めない
  • 症状に関して特に言及なし(元々乏しい)
  • 採血ではCr上昇,BUN上昇,BNP大幅低下
  • 利尿薬の過剰投与 ➜ 血管内脱水と判断
  • 利尿薬を減量して早期のフォローを予定

💣 WRF (worsening renal function)
  • 心不全例では利尿薬(特にループ系)の追加で血清クレアチニンの上昇を認めることがあります.WRF(腎機能悪化)と呼ばれ,その定義は48時間以内に絶対値で0.3mg/dL以上あるいは前値より50%以上の上昇などです.
  • 機序は交感神経/RAA系の亢進による末梢血管のトーヌス亢進や体液量減少による心拍出量の減少などが考えられます.このWRFは心腎連関の一つですが,予後悪化の指標であることが知られているため注意が必要です.
  • 本例のように座位で内頸静脈拍動が明瞭だった症例(=中心静脈圧が高度上昇)で,利尿薬の追加後に頸静脈拍動が綺麗さっぱり消失した時には要注意です.必ず手を触ってみて冷たくなっていないか確認してください.

👻「今週の一枚」の過去の投稿は コチラ松下ERランチ・カンファレンスの名物コーナー)

松下記念病院 川崎達也)

2024-02-19

臨床=組合せ

心雑音を指摘された症例(座位)

👻 現場実況
  • 収縮期駆出性雑音あり(鎖骨も)➜ 大動脈弁狭窄の疑い
  • 心エコー図では中等〜重症の大動脈弁狭窄と判断された
  • しかし頸動脈に明瞭な拍動あり(矢印)➜ ASは否定的?
  • エキスパートによるエコー再検で流出路狭窄狭窄と診断
  • 頸部に雑音の放散があったが本例は大動脈弁硬化も合併

💚 組み合わせ
  • 本例は明らかな非対称性中隔肥大やS字状中隔を伴わない非典型的な左室流出路狭窄であったため,診断に少し時間を要したと思われました(もっとも僧帽弁の収縮期前方運動は明瞭でしたが...)
  • 大動脈弁狭窄症の頸動脈拍動は通常,不明瞭です(厳密には緩徐な立上り+上昇脚の小振動).しかし加齢に伴う動脈蛇行で皮下に出現した動脈が明瞭な拍動を示すことがあります(自験例
  • 身体所見では常に組み合わせて考えます(例:聴診+頸動脈).聴診も組合せです(例:駆出性+部位).心エコー図も然り(例:レポート+検者?).臨床も然り(身体所見+心エコー図)

松下記念病院 川崎達也)

2024-02-15

定量の外頸静脈・定性の内頸静脈

息切れで紹介された症例(座位)

👶 解説
  • 座位で外頸静脈の上下運動を明瞭に視認できる
  • 上縁は頸部中央で右房からの垂直距離は20 cm
  • 中心静脈圧は確実に上昇と判断(約20 cm水柱)
  • もちろん内頸静脈の拍動も視認できる(動画*)
  • ただ内頸静脈の拍動上縁の判定は難(定量困難)
  • 本例の最終診断は非代償性の左心不全であった

 😎 独り言
  • 中心静脈圧の評価に対する外頸静脈の信頼度は決して高くありません(自験例).やはり内頸静脈に重きをおくべきです(その理由).しかし外頸静脈でも本例のように明瞭な上下運動を認める場合は大いに信頼しています.
  • 外頸静脈は詳細な評価を可能にします.例えば収縮性心膜炎に特徴的な急峻y下行(フリードライヒ徴候)や不整脈の診断(過去の投稿)です.個人的には外頸静脈は定量評価向きで内頸静脈は定性評価向きと思っています.

松下記念病院 川崎達也)

2024-02-12

🏆 論文

  • 当院初期研修医の大江先生が循環器内科で経験した症例が出版されました🎉
  • 右室拡大があり身体所見は心房中隔欠損に合致するも短絡が見当たらない例
  • 経胸壁心エコー図の攪拌生理食塩水によるコントラスト造影でシャント確認
  • 経食道心エコー図で上大静脈と左房の短絡を確認し上位静脈洞型ASDと診断

🙊 秘密情報
  • 本論文にはWeb版もPDF版も”Published: January 01, 2024”と記載されています.つまり元日に出版されたことになります.実はCureusは採択された論文の出版日を著者がある程度コントロールできるため,日本との時差を考えらがら狙ってみました.
  • Cureusは2009年に創設されスプリンガー ネイチャーから出版されています.投稿方法が従来誌とは異なるため少し慣れが必要ですが査読は迅速です.(うまくいけば)コストはかからずPubMedに収載されインパクトファクターもつくのは魅力的です.

👉「論文」の過去の投稿は コチラ(ウェブ版なら画面右の分類からも選択可)

松下記念病院 川崎達也)

2024-02-08

頸静脈の陽性波:a波 vs v波

転居に伴い当科を紹介受診した症例(座位)

🐤 解説
  • 陽性波あり(矢印)➜ 動脈または静脈(a波 or v波)
  • この陽性波は吸気で消失している ➜ 動脈性ではない
  • 吸気で外頸静脈怒張(クスマウル徴候陽性)(矢頭)
  • 橈骨動脈の触診による時相判定で同波形をa波と診断
  • 本例は虚血性心疾患による慢性心不全状態であった

🐦 追加コメント
  • 頸静脈拍動が呼吸性に変化すれば動脈性よりも静脈性を考えます(過去の投稿:twitter).吸気で胸腔内圧は低下しますが,本例のようにクスマウル徴候が陽性になる症例では頸静脈拍動の所見はまず正常化しません(ほとんどの症例で悪化:過去の投稿).よって本例では視認するv波(ランチシ徴候,CV merger)はおおむね否定できると思います.
  • 座位でa波を視認するということは,心室コンプライアンスが相当低下していることを意味します(肥大型心筋症でも10%程度:過去の投稿).しかしこのa波が吸気で消失することを少なからず経験します.おまけ 🐧 クスマウル徴候を発見したドイツ人医師のAdolf Kussmaul(1822-1902)は1869年に金属管を用いて生きた人の胃内を世界で初めて観察

松下記念病院 川崎達也)

2024-02-05

光と影:レンブラント

動悸+息切れを訴える症例

🐝 ハミングバード徴候(Hummingbird sign)
  • 座位で右頸部に細かい拍動あり(前回と同一症例)
  • ペンライトで照らすことで生じた影の動きにも注意
  • 吸気負荷で外頸静脈が怒張 ➜ その影の振動に注目
  • 最終の診断は2:1伝導の心房頻拍+非代償性心不全

🔦 光と影
  • オランダの画家 レンブラント(Rembrandt Harmenszoon van Rijn, 1606-1669)は光と影の魔術師として知られています.その人生も光と影のような壮絶だったようですが...(詳細
  • 本例のように,フィジカル診察にもこの光と影を大いに活用して下さい.光源としてはペンライト(自験例)やスマホ(自験例)だけでなく,太陽の自然光も利用できます(自験例).

松下記念病院 川崎達也)

2024-02-01

ハミングバード徴候 Hummingbird sign

ひと月前に突然出現した動悸とその後の息切れ(座位)

👶 解説
  • よく見ると右側の頸部が細かく振動している
  • 深い吸気の保持中に外頸静脈が怒張(矢頭)
  • 病歴+フィジカル診断は頻拍誘発の心不全
  • 最終診断は2:1伝導のAT+頻拍誘発性心筋症

🐝 ハミングバード徴候(Hummingbird sign)
  • 同徴候はハチドリの激しい羽ばたきを想定して命名しました(当科論文).房室結節回帰性頻拍(AVNRT)によるフロッグサイン(frog sign)のおよそ2倍の周期で振動します.
  • 頸部の拍動では動脈性か静脈性かの鑑別が必要ですが,このような早い拍動(>200 bpm)なら静脈性と考えられます.安静時に生じる超頻脈では動脈圧が低下するためです.
  • 静脈性拍動には隆起と陥凹の二通りありますが,本例のように周期が極めて短い場合は隆起が多いと思います.x谷とy谷の2峰性陥凹は早ても100 bpm程度でしょうか(自験例).

松下記念病院 川崎達也)

2024-01-29

大動脈弁狭窄のS4

研究1Am J Cardiol 1971;28:179-82
  • 大動脈弁狭窄症124例の検討では,重症(最大収縮期勾配≧75 mmHg)ならほとんどの場合Ⅳ音が存在する.一方,成人の大動脈弁狭窄症でⅣ音の存在は,40歳未満では重症を意味する.

研究2Circulation 1975;51:324-7
  • 40歳以上の大動脈弁狭窄例では,S4ギャロップは重症(弁口面積≧0.75 cm2) の85%(65人中55人),中等症までの86%(7人中6人)であった.おそらく大動脈弁狭窄では聴診が不正確であるため,S4の有無はこの評価にはあまり役立たなかった.

研究3Circulation 1962;26:92-8
  • 大動脈弁狭窄症患者46名では,第4音が検出される場合,通常は狭窄が重症(圧較差>70 mmHg,左心室収縮期圧>160 mmHg)と結論付けることができる.

👶 個人的な思い
  • Ⅳ音を有する大動脈弁狭窄は,左室コンプライアンスがより低下しているため重症であることは理にかなっています.しかしさらに進行したステージでは左房が疲労してくるため,おそらくⅣ音は小さくなり最終的に心房細動に移行すると思います(肥大型心筋症でも同様の現象があると予想:当院の論文).
  • 大動脈弁狭窄では大きな雑音のため過剰心音を聴診することが困難です(S1ですら難しい:音響隠蔽現象).そんな時は聴診よりも触診(心尖拍動のA波増高)が有用でしょうか(過去の投稿).もっとも下図の様な極小S4は心機図では検出できても,聴診や触診で認識できるとは到底思えませんが...😐


松下記念病院 川崎達也)

2024-01-25

今週の一枚 🎯

- 4ヵ月ほど息切れが続く肝硬変の症例 -

👽 解説
  • 心窩部に膨張した静脈を認めた(上図の矢印)
  • 同部位から連続性雑音を聴取した(上図の下)
  • 同雑音は吸気時に増強した(下動画に音あり)
  • 心電図と胸部X線、心エコー図は正常であった
  • 最終診断は Cruveilhier-Baumgarten 静脈雑音
  • 自覚症状の息切れは門脈圧亢進症に起因する?


💫 クリュヴェーリエ・バウムガルテン症候群(Cruveilhier-Baumgarten syndrome)
  • 肝硬変や特発性門脈圧亢進症などで臍静脈または臍傍静脈が拡張した病態(自然発生的な門脈側副血行路形成)で,静脈周囲で雑音(クリュヴェーリエ・バウムガルテン静脈ハム)やスリルを認め,肝萎縮や脾腫なども伴う.
  • 名前の由来はフランスの解剖学者 Cruveilhier(1791-1874)の報告(Human JB Bailiere 1829-1835;1:16)とドイツの病理学者 Baumgarten(1848-1928)の報告(Arb Geb Pathol Anat Inst Tubingen 1907;6:93)
  • 同雑音を認めれば門脈圧亢進ありと判断できる().なおこの古典的な静脈性ハム音が吸気時に増強する機序は,心臓右側への静脈血流の増加によって説明可能(吸気時に三尖弁逆流が増加するリベロ・カルバイヨ徴候と同様)

山本内科循環器科 山本正治)

2024-01-22

心不全と難聴

時々息遣いが荒くなる難聴例(端座位)

👂 解説
  • 指示が通らないため安静の頸静脈所見は判定困難
  • 左上肢挙上で内頸静脈の明瞭な陥凹が出現(矢印)
  • 本人の発語が混入して心音は十分には評価できず
  • 最終的に収縮の保たれた心不全(HFPEF)であった

🙉 追加コメント
  • 米国の70歳以上の横断的な国民健康栄養調査では,難聴の有病率は心不全症例で74.4%と,非心不全症例の63.3%より高率です(JAMA Otolaryngol Head Neck Surg 2018;144:273-5).さらに心不全のある高齢者では難聴が強いほど活動性が低下することも報告されています(Clin Interv Aging 2020:15:635-43).
  • 上記の全米調査で心不全および難聴のある参加者のうち補聴器を着用しているのはわずか16.3%でした.聴力障害なら筆談で対応すればいいのではと思われますが,心不全患者では認知症が43%とかなり高率です(J Card Fail 2017;23:464-75).そんな時こそ左上肢の挙上負荷が役立つかもしれないので追加してみてください.

松下記念病院 川崎達也)

2024-01-18

🏆 論文:ハミングバード徴候

  • 当院で実習された医学部6年生の方が経験した症例が出版 🎉
  • 主訴は1月前から持続する動悸感と継時的に増悪する息切れ
  • 心拍数は123 bpmで頸静脈から判定した中心静脈圧は上昇
  • ユニークなのは頸静脈拍動が肘動脈拍動の倍程あり(動画
  • 脈波図はキャノンa波(下図C矢頭)と通常a波(*)の疑い
  • 最終的な診断は2:1伝導の心房頻拍による頻脈性心不全です


🐝 ハチドリ徴候/Hummingbird sign
  • 本例の頸静脈所見のようにすごい速さの振動を,当院ではハミングバード・サインと呼んでいました(過去の投稿).このフィジカル所見にはまだ名前はない様なので,本論文のタイトルを”Hummingbird-like cannon a-waves”としました.フロッグ・サインの亜型として普及するといいのですが...
  • 身体所見に興味を有する医師にとって,新たなフィジカルを発見し報告することは何事にも勝る喜びだと思います(命名できればなおのこと).当院が関与できた新報告には"Atrial cannon sound"や"Diastolic paradoxical jet flow murmur"などがあります.もっともこの命名が普及しているとは思えませんが...

👉「論文」の過去の投稿は コチラ(ウェブ版なら画面右の分類からも選択可)

松下記念病院 川崎達也)

2024-01-15

論文 🏆 こだわりの塊

  • 非常勤医師の先生が当院で経験した症例(少し前😅)
  • 今まで経験したことがない不思議な拡張早期の雑音
  • 心音心機図と心音心エコー図を駆使して音源を追求
  • 最終診断はHCMの拡張期奇異性血流に関連する音

- 図Bと図Eの*が雑音の本体です -

😀 独り言
  • こんなちっぽけな音にこだわっても意味ないだろう〜という声が聞こえてきそうです.肥大型心筋症の拡張期奇異性血流は心事故と関連することが報告されていますが(J Am Coll Cardiol 1992;19:516-24,心エコー図ですらその検出にあまり力を注いでいない施設が多いのではと思います.
  • 確かにとても微妙な音ですが,心臓フィジカルを追求する1人としては決して看過できない所見でした.よって心エコー図のエキスパートと一緒にその音源を追求してみました.興味がある方は是非,論文を読んでみてください.心音心機図や心音心エコー図の美しさを自画自賛しています.

👿「論文」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

松下記念病院 川崎達也)

2024-01-11

❌とりあえずBNP測定

いつもより少し脈が早い慢性心不全例(座位)

😀 解説
  • 安静時に右頸部に内頸静脈の拍動を視認せず
  • 左上肢の垂直挙上でも内頸静脈の拍動は陰性
  • 左上肢挙上のまま吸気負荷を追加したが陰性
  • そのまま前屈してもらっても内頸静脈は陰性
  • 本例では慢性心不全の増悪はなしと判断した

 🐲 独り言
  • 慢性心不全の増悪を考えなければならないバイタルサインは様々です.酸素飽和度の低下はもちろんですが,体重の増加や血圧の上昇,心拍数の増加などでしょうか.
  • 慢性左心不全例で増悪が疑われたら,やはり頸静脈所見の変化の確認が大切です.心音の変化(例:ギャロップやⅢ音,Ⅱ音肺動脈成分の亢進)よりも高感度です.
  • 本例の様に安静+3つの負荷が陰性なら概ね大丈夫と判断しています.「とりあえずBNP測定」はあまり好きではないので...(とりあえず生中🍺は大好きですが 😚)

松下記念病院 川崎達也)

2024-01-08

循環器 Best Teacher Series

  • 「5分でわかる循環器Best Teacher Series」は日本循環器学会が主導する学習動画です.医学部生を主な対象とする無料のe-ラーニングコンテンツで,会員登録なしにすべて視聴することができます.
  • 今回,本ページの管理人が『心不全の身体所見~すぐに役立つ頸静脈と心音~』を担当しました.よろしければ一度ご覧ください.収録時にちょっと風邪気味だったので,鼻声が気になりますが 😅


 😎 追加コメント
  • 同シリーズでは動画作成前に予定内容を学会に提出し審査を受ける必要があります.今回は出だしで日循ガイドラインが推奨する方法の問題点を指摘し,未記載の別方法を勧めました.訂正を指示されると思いきや,逆にお褒めの言葉で驚きました.
  • この循環器Best Teacher Seriesは全国の医学部生を対象にしているとうたっています.しかし今回担当した心不全の身体所見コンテンツは,むしろ臨床現場で日々,心不全診療を担われている先生方に見ていただければいいな〜と思っております.

松下記念病院 川崎達也)

2024-01-04

今週の一枚 🎯

倦怠感で来院した症例

🔒 解説
  • 左手の掌握時にMP関節(第3関節)が不明
  • いわゆる手背浮腫(≒puffy hand syndrome)
  • 本例では右側よりも左側で浮腫が目立った
  • 下腿も2+の浮腫あり(判定量評価はコチラ
  • いずれも圧痕性浮腫でslow edemaであった
  • 最終的に慢性心不全による浮腫と判断した

🔓 Puffy hand syndrome(😊 手むっちり症候群?)
  • 鑑別診断にはネフローゼ症候群や肝硬変,重度の低アルブミン血症,上肢静脈血栓症,深在性手掌腔感染症,複合性局所疼痛症候群,腋窩リンパ節切除や放射線照射後に生じるリンパ浮腫,フィラリア症,薬剤・アレルギー,リウマチ性疾患(例:関節リウマチ・全身性硬化症・RS3PE症候群)などがあります(Cleveland Clinic Journal of Medicine 2021;88:210-2
  • 同症候群の厳密な定義は(おそらく)未確立で,手の所見から漠然と呼ばれているような気がします(英名もそんな感じ?) 浮腫と言えば心不全ですが,手背の浮腫は決して多くはないと思います.本例も最初はネフローゼなどを疑いましたが,座位で頸静脈拍動が視認できました.左側に目立った理由は不明ですが,右利きのため左手の使用頻度が少ないのかも...

👻「今週の一枚」の過去の投稿は コチラ松下ERランチ・カンファレンスの名物コーナー)

松下記念病院 川崎達也)

2024-01-01

急性MR vs 心雑音

  • 急性の大動脈弁逆流 AR では左室の拡張期圧が急速に上昇します.その結果,逆流が早期に終了するため,心雑音を認識することがますます難しくなります(自験例).実際に心エコー図でも逆流シグナルの検出が容易ではない症例があります(自験例).
  • 急性の僧帽弁逆流 MR でも同様の現象が推察されますが,ARは拡張期でMRは収縮期と根本的に異なります.以前経験した検索断裂による急性 MR の自験例ではとても大きな雑音でした(拡張期クリックもあり).そこでこの疑問の答えを確かめてみました 👶

🔎 Acute MR vs murmurs
  • 心筋梗塞を発症30日以内に心エコー図を行った773例の検討では,中等度または重度のMR患者の1/3は聴診で心雑音を認めなかった(Circulation 2005;111:295-301
  • 急性心筋梗塞時に乳頭筋断裂による重症の僧帽弁逆流を発症したにも関わらず,心雑音を呈さなかった2例報告(Ann Thorac Surg 1991;52:296-9
  • 急性MRで血行動態が著しく悪化した場合,収縮中期に左心室圧と左房圧が等しくなるため雑音は減弱あるいは消失しうる.重症の呼吸困難患者の救急状態で減弱した心雑音を認識することは困難である(Heart 2019;105:671-7
  • 心筋梗塞に伴う急性MR雑音の強さとMRの重症度には直接的な相関はない.心拍出量の低下した患者では収縮期のLVとLA間の圧勾配が低下するため雑音はソフトあるいは消失することもある(Journal of Acute Disease 2016;5:96-101
  • 急性MRでは収縮期早期の短い雑音のみで診断が臨床的に困難になる.これは非コンプライアントの左房で大きなv波が発生し,LAとLVの圧が収縮期で基本的に等しくなり収縮期初期以降に僧帽弁を横切る逆勾配がなくなるためである(European Society of Cardiology, E-Journal of Cardiology Practice - 2018;16

松下記念病院 川崎達也)