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2023-03-30

チラ見ならぬチラ耳

労作時の胸部圧迫感で来院した男性

😀 現場中継
  1. オープンクエスチョンで患者さんに胸の症状を表現してもらう
  2. 聴きつつ頸静脈確認 ➜ 座位陰性で非代償性心不全はなさそう
  3. 視線をそっと頸部から耳に移す ➜ 明瞭な外耳道毛の剃り跡😲
  4. 臥床で頸静脈に問題はないが耳垂に斜線(フランク徴候陽性)
  5. 虚血性心疾患の可能性大(ACSではない)➜ 早めのCAG選択


😊 臨床経過
  • 冠動脈造影では右冠動脈と左前下行枝の高度狭窄でした.ちなみに本例の心電図や採血,心エコー図には異常所見はありませんでした.
  • 狭心症の診断では問診がとても重要であることは今更述べるまでもありません.非発作時の基本検査には異常がないことが常だからです.
  • 患者さんの様々な情報から次の検査法(冠動脈CT・負荷シンチグラフィ・負荷心エコー図・冠動脈MRI・冠動脈造影)を選択します.
  • 個人的には外耳道毛や耳垂皺が診断にとても有効だとは思っていませんが,問診ついでに耳をチラ見(チラ耳 😅 勝手に命名)はお薦め
  • 本例は外耳道毛の成長がとても早く,数日毎に電気シェーバーでカットしている様です(鼻下〜顎の毛はあまり濃くありませんでした)
ちら耳
松下記念病院 川崎達也)

2023-03-27

論文 🏆 黄視症 Xanthopsia

  • 当院の初期研修医である春名先生が循環器内科で経験した症例が出版(少し前😅)
  • 心不全で入院 ➜ ジギタリス中毒(7.3 ng/mL)が判明 ➜ 追加問診で黄視症を確認
  • ポイントは視力や視野の異常はなく網膜電図( electroretinography: ERG)で異常

上段は入院時(ERGの反応低下)・下段は回復1月後(すべて正常化)

😀 おまけ
  • 本例は下腿浮腫に対して他院でジギタリスが0.25 mg/日が処方されていました.腎機能障害はなかったようですが,当院搬入時のeGFRは33.5 mL/min/1.73 m2でした(その後に53.6まで回復).
  • 問診で入院直前にバイクによる数回の自損事故を起こしていたことが判明しました.当初はジギタリス中毒による不整脈(特に徐脈:入院時40 bpm)を考えましたが,入院後に不整脈は検出せず.
  • よくよく聞いていくと,道路横の歩道ブロックが見えにくくなりバイクでぶつかっていたことが分かりました.これは夕方に顕著で信号色も不明瞭だったようです.そこから黄視症に辿り着きました.
  • ジゴキシン関連黄視症はジギタリス効果を発見したWitheringが200年以上前に報告しています().強烈な黄色で知られる画家ゴッホなど多くの人に影響を与えたと考えられているようです().

👿「論文」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

松下記念病院 川崎達也)

2023-03-23

ツルゴールの低下ならぬ消失

疲労感で紹介受診した高齢者

💧 解説
  • 座位で手背は心臓よりも低位にあったが静脈は見えず
  • 皮膚の張り(ツルゴール,turgor)が低下(回復≧2秒)
  • 最終的に本例は感染症に伴う脱水と診断され入院した

💦 独り言
  • 簡便な脱水指標としてツルゴールの低下やCRT(capillary refilling time/爪床血流充填時間)の延長が有名ですが,高齢者ではあまり当てになりません.しかし本例のようにツルゴールが消失していれば信頼していいと思います.
  • 脱水の他の身体所見として腋窩の乾燥,口腔・鼻粘膜の乾燥,舌の皺,眼球の陥没などが知られています(過去の投稿).なお脱水ならば血管内脱水(Volume depletion)と血管外脱水(dehydration)を要鑑別(過去の投稿

松下記念病院 川崎達也)

2023-03-20

最近のフィジカル論文から

研究1
Cardiac Physical Exam Skills and Auscultation Session for Pediatric Interns.
MedEdPORTAL. 2022 Dec 20;18:11289.
  • 小児科レジデント25名を対象に小児心臓身体検査に関する2時間のワークショップ(教訓・グループディスカッション・一般的な小児雑音の解釈の練習)を行い,その前後と3ヵ月後にテストで評価.結果は講習前から講習後に平均スコアが有意に増加し,その増加は3ヵ月後も維持された.


研究2
Interrater and intrarater agreement on heart murmurs.
Scand J Prim Health Care. 2022 Dec;40(4):491-497.
  • 心音の録音を用いて医師(家庭医17名と心臓専門医8名)および医学生8名で,心音分類の一致率を調査.一致率は平均81〜83%で,心臓専門医,家庭医,医学生の順であった.一致に関連した因子は,①明確な心雑音,②5年以上の臨床診療,③専門分野が心臓,の三つであった.



👾 個人的な感想
  • 研究1では聴診教育の改善効果が,講習後3月も保たれるとは意外でした.研究2は予想された通りの結果かと思います.
  • 両者を組み合わた結果,つまり講習会で参加者の背景に関わらず聴診力が改善して持続するなら素晴らしいと思います.

松下記念病院 川崎達也)

2023-03-16

下腿浮腫:圧痕の有無と回復時間

下腿浮腫で紹介受診した症例

🐤 解説
  • 靴下を脱いだ時点でゴム跡(sock marks)➜ 浮腫の疑い
  • 脛骨前面を母指を用いて5~10秒間,約5mmの深さで圧迫
  • 圧痕 ➜ リンパ浮腫・甲状腺機能低下・蜂窩織炎は否定的
  • 圧痕回復の遅いslow edema(≧40秒)➜ 低ALBは否定的
  • 最終的に本例のpitting edemaの原因は心不全と診断した

🐦 たかが浮腫,されど浮腫
  • 浮腫とは細胞外液が血管外の間質に生理的な代償能を超えて過剰に貯留した状態と定義され,その原因は多岐に渡ります.
  • 主な原因は,静水圧の上昇(A),膠質浸透圧の低下(B),血管透過性の亢進(C),リンパ系の還流障害(D)

松下記念病院 川崎達也)

2023-03-13

女性化乳房 & ディスコ

DISCO女性化乳房を引き起こす代表的な薬物 
  • Digitalis(ジギタリス)
  • INH(イソニアジド)
  • Spironolactone(スピロノラクトン)
  • Cimetidine(シメチジン)
  • Oestrogen(エストロゲン)

🐦 AntiandrogensとMetoclopramide(プリンペラン他)を加えDISCO AMなどのバリエーションあり

重症度分類Plast Reconstr Surg 1973;51:48-52
  • Grade I ➜ 皮膚過剰を伴わない小さな腫脹
  • Grade IIa ➜ 中程度の腫大で皮膚に余剰がないもの
  • Grade IIb ➜ 中程度の腫大で軽度の皮膚過剰を伴う
  • Grade III ➜ 女性特有の乳房下垂のような皮膚過剰の著しい腫脹

🐤上記分類は一例で計10種類以上の分類法あり(ココ

松下記念病院 川崎達也)

2023-03-09

頸部は心のみにあらず

息切れで来院した症例(端座位)

🐦 解説
  • 胸鎖乳突筋と斜角筋の肥大 ➜ 慢性閉塞性肺疾患COPDに合致
  • 明瞭な鎖骨上窩と吸気時の陥凹 ➜ 陥没呼吸もCOPDに矛盾せず
  • 気管短縮(甲状軟骨下縁〜胸骨上縁:通常は>3横指 or 4cm)
  • 鎖骨上窩に呼吸と無関係の周期的な陥凹 ➜ 中心静脈圧の上昇
  • 座位で視認する外頸静脈が吸気負荷で明瞭化(クスマウル徴候)
  • 吸気保持で内頸静脈の拍動上縁も上昇 ➜ 心不全に矛盾しない
  • 本例はCOPDに伴う第3群の肺高血圧症(肺性心)と診断した

😀 ひとり言
  • COPDには多くの身体所見が知られています.本例で認めた所見以外にも,フーバー徴候や樽状胸郭,るい痩,口すぼめ呼吸,呼気相延長などがあります.ただしこれらの身体所見はるい痩を除き重症化するまで出現しにくい点に要注意
  • 肺疾患による心不全を以前は肺性心cor pulmonale)と言っていましたが,最近ではあまり耳にしません.Google Scholar検索でも”肺性心”は1980-2000年に1270件,2000-2020年は800件と減少してます.
  • cor はラテン語も同じ綴りで心臓を意味するそうです.命名はWPW症候群の発見者として有名なPD WhiteJAMA 1935;104:1473-80).最近は第3群PHと呼ぶことが多くなってきましたが,あまり味わいがないような...

松下記念病院 川崎達也)

2023-03-06

👴 歴史クイズ

(Public Domain)



松下記念病院 川崎達也)

2023-03-02

頸静脈評価の思考プロセス

息使いが荒くなった症例

🐤 臨床現場
  • 呼吸は荒く外頸静脈を座位で視認 ➜ 中心静脈圧は上昇?
  • 呼気より吸気で外頸静脈の隆起が明瞭 ➜ 静脈圧は上昇!
  • よく見ると耳垂の下に拍動する部分がある(陥凹っぽい)
  • 深吸気を保持した後は拍動はより明瞭へ(おそらく隆起)
  • 僅かながら耳垂の拍動もあり(イアウインクサイン陽性)
  • 最終的に内頸静脈のランチシ徴候を伴った心不全と判断

🔗 思考プロセス
  • 心音は頭で考えてもダメだと思っています.歌謡曲のイントロクイズと同様に,耳にした瞬間に反応できるまで聴き込むべきです(英語耳ならぬ心音耳👂の作成)
  • 一方,頸静脈に関しては本例の様にじっくり考える方がいいと思います(個人的な経験論).これは聴覚に比べて,視覚はあまりにも多くの情報を含むからです.
  • ただし匠の業を極めたフィジカルの達人であれば一見で判断できるかもしれませんが...😅 いずれにしても百聞は一見に如かず:多くの動画に接してください.

松下記念病院 川崎達也)