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2022-07-28

踊る頸

心電図異常(非特異的ST-T変化)を指摘され来院した症例

💃 解説
  • 頸部の力強い周期的隆起(ダンシングパルス)➜ 動脈性の疑い
  • その拍動は右側だけでなく左側でも観察できる ➜ 動脈性の疑い
  • 拍動は吸気時には不明瞭になっている ➜ 静脈性の拍動は否定的
  • 触診と時相解析から動脈性拍動であることを確認(コリガン脈
  • 心エコー図では大動脈弁逆流(中等症)+僧帽弁逆流(中等症)

 🔗 つぶやき
  • 拍動が動脈性か静脈性かは触診すればすぐに区別できますが,そこはちょっと我慢するようにしています.基本ルールは呼吸性変動があれば静脈性(動脈性ではあまり変化しませんが,本例は吸気時に首に力が入ったためか拍動が不明瞭に)
  • 本例は視診のみで動脈性拍動を確信できたので,重症の大動脈弁逆流を疑いました.聴診では予想通り往復雑音(相対的な大動脈弁狭窄:他の自験例)でしたが,ランブル(オースチン・フリント雑音)はなく,爪床にクインケ徴候もなし.
  • しかし大動脈弁逆流は中等度にとどまり,息切れなどの症状もありませんでした.詳細は不明ですが,僧帽弁逆流を合併したため頸部の拍動が通常より目立ったのかもしれません.なお心エコー図後に再度行った聴診では収縮期雑音は逆流性でした.

松下記念病院 川崎達也)

2022-07-25

🏆 論文:ABI簡易心音計

  • 川俣先生が当院の循環器内科で行なった研究が出版されました
  • ABI 測定器が心音計(現在は販売なし)の代用になるかを検討
  • ポイントはABIの心音マイクを通常の胸骨左縁から心尖部に移動
  • 肥大型心筋症のⅣ音検出は心音図>ABI代用>聴診の順に良好
  • なお心尖部の心音マイクでもABI検査の異常(<0.9)に差はなし
同一症例での記録(矢印と矢頭はⅣ音)
A:心音図,B:通常のABI,C:心尖マイクで記録したABI

😀 追加コメント
  • 残念ながら心機図検査装置(例:フクダ電子MES-1000)は,もはや手に入れることができません.一方ABIの測定は多くの病院で実施されていると思われます.よって本研究の結果は,心音に興味があるが心音計をもっていない方にとっては朗報ではないかと思います.ちなみにフクダ電子の血圧脈波検査装置とMES-1000は同じマイクを使用しているようです(未確認情報).
  • ABIを用いた簡易心音計は低音〜高音の区別ができないため,本物の心音計には勝てないことは納得できます.しかし聴診(しかも経験ある検者)に勝るとは意外でした.理由はいろいろ考えられますが,肥大型心筋症のⅣ音はⅠ音に近接することがあり,幅広Ⅰ音と認識されることが少なくないかもしれません(もっともこれもベルの押し付けで鑑別できるはずですが...)

👿「論文」の過去の投稿は コチラ(ウェブ版なら画面右の分類からも選択可)

松下記念病院 川崎達也)

2022-07-21

前屈は意外に高負荷?

労作時の息切れを訴える症例

🐦 解説
  • 座位の安静時に右鎖骨上に頸静脈の拍動を視認しない(座位陰性)
  • 吸気負荷を追加後も頸静脈拍動の出現なし(クスマウル徴候陰性)
  • しかし少し前かがみになると内頸静脈の拍動が出現(前屈負荷陽性)
  • 拍動は陽性波(ランチージ徴候陽性)かつ不規則(心房細動を示唆)
  • 最終的に本例は,持続性心房細動を伴った慢性左心不全と診断した

🐤 臨床現場
  • 安静端座位で頸静脈拍動がないため著明な中心静脈圧の上昇(目安は15cm水柱)はないと判断.吸気負荷(クスマウル徴候)も陰性であるため「中等度の上昇もなさそうだな〜」と思っていました.
  • しかし症状が心不全のまさしく”short of breath”であったため,前かがみ(頭部前方位姿勢)になってもらったら陽性波が出現してびっくり 😮 前屈による胸腔内圧上昇は(僕が)思っているより高負荷?
  • 蹲踞は前負荷増大+後負荷増大でかなりの負荷量です.蹲踞+前屈負荷は旧最強負荷でいわゆるトリプル負荷.蹲踞+前屈負荷+吸気負荷が新最強負荷でいわゆる負荷の四重奏.すべて勝手に命名ですが...😅

松下記念病院 川崎達也)

2022-07-18

👴 歴史クイズ

CC BY 4.0



松下記念病院 川崎達也)

2022-07-14

この組み合わせを見たら…

非心臓手術の術前評価で循環器内科を受診した症例

🐔 解説
  • 座位で内頸静脈と(僅かに)外頸静脈の拍動を視認 ➜ 中心静脈圧の上昇
  • 吸気で外頸静脈が怒張している(動画中の矢印)➜ クスマウル徴候陽性
  • 内頸静脈は吸気で拍動が明瞭化(動画の✳︎) ➜ (広義のクスマウル徴候)
  • 拍動は二峰性陥凹でx下行よりy下行が大かつ急峻(フリードライヒ徴候)
  • 本例は他院で収縮性心膜炎と診断され経過観察されている症例であった
  • 心不全は概ね代償されているため当院で予定の非心臓手術は可能と判断

🐓 独り言
  • 急峻y下行(フリードライヒ徴候)と深吸気時怒張(クスマウル徴候)の組み合わせは収縮性心膜炎を疑うきっかけになります(典型例).本例では通常呼吸時の外頸静脈で(よくみると)y谷が急峻であることから”ピン”ときました.
  • 心エコー図で収縮性心膜炎に関する所見をルーチンに評価することはないと思います.よって身体所見で収縮性心膜炎を疑い,そのことをエコー検者に伝えることが重要です(フィジカルと心エコー図が手を組めば鬼に金棒以前の投稿

松下記念病院 川崎達也)

2022-07-11

😳 手根管症候群だけではないようです

  • 上腕二頭筋の腱断裂(biceps tendon rupture)後に腕を屈曲すると出現する所見
  • ほうれん草を食べると超人的なパワーを出すポパイ(Popeye)の力こぶから命名
  • 保存療法も可能であるが筋力が30〜50%低下するために通常は外科的修復が推奨
  • 最近ではアミロイドーシス(ATTR)でも注目Eur Heart J 2022 Jun 25;ehac330


💪 余談
  • かの有名なポパイは,およそ100年前にニューヨークの新聞で掲載が始まった漫画『シンブル・シアター(Thimble Theatre)』に登場するキャラクターです.このギャグマンガの連載開始10年目に一度きりの端役として登場した不死身の小男ポパイですが,一躍人気者となり主役の座を奪い去ったようです(出典

松下記念病院 川崎達也)

2022-07-07

お腹は吸気より呼気

心機能の評価目的で循環器内科を受診した症例

🐤 解説
  • 通常呼吸や吸気止めでは分かりにくいが呼気止めで臍周囲の上下運動(矢印)
  • 触診では動脈性の拍動で圧痛やスリルはなかった(聴診でも血管雑音はなし)
  • CTで腹部大動脈瘤を認めた(腎動脈下〜分岐部の紡錘型で最大短径は50mm)

🐣 独り言
  • 頸静脈では吸気負荷が大切で,呼気負荷の意義は乏しいと思われます(過去の投稿).一方,呼気負荷は聴診や心尖拍動(自験例)で役立ちます.腹部動脈瘤でも有用かもしれませんが,触診には完敗です(自験例).やはり”お腹は触るもの”です.
  • 腹部で拍動の視認または触知=腹部大動脈瘤ではありませんが,初診時には必ず一度はお腹を触っておくようにしています.「動脈瘤の破裂を回避することは外来担当医の責務です」と信頼している友人医師に教えてもらいました 😊


松下記念病院 川崎達也)

2022-07-04

心尖拍動:凹と凸

労作時の息切れで来院した女性の心尖拍動(白タオルは乳房上)

🐤 解説
  • 持続時間の長い心尖拍動+外側偏位の疑い(≒ 心肥大+心拡大)
  • 心尖拍動は収縮期に陥凹(systolic retraction)➜ 収縮性心膜炎?
  • よく見ると内側陥凹(↓)と同じタイミングで外側は隆起(▽)
  • 本例の最終診断は複数の弁膜症による慢性心不全(肺高血圧あり)

🐦 独り言
  • 本例は右室拡大や右室肥大はなく,左室の心尖拍動(隆起=凸)の牽引による右心尖周囲の偏位(陥没=凹)かな〜と考えました.
  • 凹と凸の時間関係に注目すると,先に凸が生じて少し遅れて凹が続いているようです 😳 心室収縮は左心ファーストが基本ですし...

松下記念病院 川崎達也)