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2019-12-30

心機図

👉 定義
  • 心臓・大血管から発生し,かつ耳では聞こえない低周波の振動のうち,胸壁あるいは皮膚を介して認識しうる振動を,変換器(トランスデューサー)と増幅器を用いて波形として記録したもの 

「心疾患の視診・触診・聴診 心エコー・ドプラ所見との対比による新しい考え方」より

  • 肥大型心筋症に特徴的な所見を示した自験例

😶 心尖拍動図の解説
  • 緩徐流入波(SF)に続く大きな心房収縮波(A) ➜ A波とⅣ音(S4)の一致に注目
  • 立ち上がり点(C)は左室収縮の開始点で概ね心電図R波の頂点付近と一致する
  • 駆出点(E)後に収縮後期の小隆起(end-systole shoulder, ESS)を経て急下降
  • 肥大型心筋症ではE〜ESSの隆起が持続する抬起性拍動を形成することが多い
  • 本例は大きなA波と抬起性拍動で二峰性心尖拍動(ダブルインパルス)を形成
  • 拡張早期最低点(O)の後に急速流入波(RF)が続く ➜ Ⅲ音があればRFに一致
  • 本例はⅡ音(S2)後に低調な振動を認めるがRFとは不一致でⅢ音と断定できず

心機図に関連する過去の投稿コチラ(画面右の分類からも選択可能です)
フィジカル 広場 心臓 physical exam examination
松下記念病院 川崎達也)

2019-12-26

傍(だけでない)胸骨拍動

食欲低下と下腿浮腫で来院した女性の胸壁運動(右が頭側でタオルは乳房を覆う)


🐌 解説
  • 明瞭な傍胸骨拍動(というより胸部全体の上下運動)➜ 呼吸は腹式で胸壁運動とは独立
  • 右室が拡大し胸骨裏面に広く張りつくためで,右室収縮期圧は60mmHg以上の予想(
  • 健常者では傍胸骨拍動は触知しない(胸壁の薄い若者ではタッピングを触れることあり)
  • 本例は僧帽弁逆流と三尖弁逆流による両心不全と診断(推定肺動脈収縮期圧は80mmHg)

📌 関連投稿傍胸骨拍動
フィジカル 広場 心臓 physical exam examination
松下記念病院 川崎達也)

2019-12-23

👴 歴史クイズ

(Public Domain)


松下記念病院 川崎達也)

2019-12-19

肺動脈拍動

  • 息切れで来院した中年女性の胸部(第2肋間胸骨左縁に付箋)
  • 抬起性の傍胸骨拍動やⅡ音肺動脈成分の亢進+往復雑音あり


🐥 解説
  • 黄色付箋が周期的に拍動(隆起)している(左右の動画は同時相)
  • 隆起は2LSB〜Erb領域に限局し時相は収縮期 ➜ 肺動脈拍動の疑い
  • 聴診+触診でⅡ音の時相で僅かな振動 ➜ Ⅱ音肺動脈成分の触知
  • 本例の最終的な診断は心房中隔欠損症肺高血圧症+肺動脈拡大

👶 Erbの謎
  • Erb's point (cardiology)は第3肋間胸骨左縁付近でⅡ音が最も聴取しやすい場所として知られています.ドイツの神経内科医 Wilhelm Heinrich Erb (1840–1921)に由来しますが,彼は頸神経叢の皮枝が頸筋膜浅葉を貫通して胸鎖乳突筋の後縁から表層に出現する部位Erb's point (neurology)としての方が有名
  • 意外なことにErb自身の出版物としてErb's point (cardiology)に関する記載はないようです.しかし1890年代にErb自身がドイツのハイデルベルグで行った講義でErb's point (cardiology)について説明し,それ耳にした米国の医師の記録が最近発見されました(Dtsch Med Wochenschr 2018;143:1852-7
  • Erbと書いてエルと発音すると長年信じてきました(ただしエル派も少なくありません).循環器用語集には未登録で,Google Scholarでも同数(エル領域+心臓は4件,エル領域+心臓も4件).米国や英国の発音はアープスと聞こえるし,母国ドイツ人の発音は多様です.是非 ココ で確認してみて下さい.
フィジカル 広場 心臓 physical exam examination
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2019-12-16

手クイズ

  • 発熱で来院した症例の左手掌に有痛性の隆起した紅斑を認めた


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2019-12-12

末梢静脈

  • 息切れで当科を受診した症例で非代償性の左心不全が疑われる
  • 心臓の高さより少し下から右側の上肢をゆっくり挙上している


🔎 解説
  • 上肢の挙上とともに怒張していた前腕の表在静脈が虚脱している
  • 表在静脈が完全に消失した高さと右房との高さの差が中心静脈圧
  • 簡易法では静脈消失が鎖骨上なら中心静脈圧はかなり上昇と判定

🏈 コメント
  • 左側上肢よりも右側上肢で判定したい(理由).中心静脈圧の信頼度はおそらく内頸静脈,外頸静脈,表在静脈の順に低下(静脈径や静脈弁,右房からの距離などが影響).よって表在静脈による中心静脈圧の推定はあくまでも参考程度に.
  • 上肢の挙上に対する表在静脈の反応は少し遅延するため,静脈怒張に変化があれば暫くその高さで維持.また上肢の挙上は筋収縮の影響を減らすために受動的に行いたい.ただし静脈を目立たせるため拳は軽く握った方がいい?
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2019-12-09

疼痛は皮疹に先行!

  • 帯状疱疹は皮疹がないからといって否定できない ➜ 皮疹が出現前の前駆痛
  • 皮疹が消失した後の帯状疱疹後神経痛は有名(PHN, post-herpetic neuralgia)

(アメナリーフ錠200mg 臨床に関する概括評価 より)


💀 反省すべき自験例
  • 不安定狭心症を疑い緊急カテーテル検査を行なったが,冠動脈に狭窄病変を認めなかった.その後に肋間神経に沿った皮疹が顕性化し,帯状疱疹に伴う胸痛であったことが判明した.カテーテル検査を行った右正肘動脈の穿刺部位に装着されている止血器具が物悲しい.

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2019-12-05

駆出音

  • 半月弁の開放音で大動脈二尖弁や大動脈弁逆流,大動脈瘤などで出現
  • Ⅰ音直後に出現する高調かつ鋭音で,Ⅳ音やⅠ音分裂との鑑別が必要



(Ⅰ音直後の赤矢印が駆出音/拡張期の逆流性雑音にも注目)


👶 おまけ
  • 本例は大動脈一尖弁による大動脈弁逆流と考えられた.大動脈弁疾患を示唆する雑音を聴取したら駆出音の有無を確認したい(大動脈二尖弁の頻度は全人口の約1%と少なくない)

🔊 関連投稿 (稀な過剰心編)
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2019-12-02

眼周囲クイズ

  • 体重増加で来院した慢性左心不全例の右眼周囲(座位)



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2019-11-28

心不全?

  • 呼吸困難感を訴えてERに搬入された症例
  • 来院時には起座呼吸で会話は不能であった


🔎 解説
  • ビデオ前半では鎖骨上に周期的な陥凹があり,ビデオ後半では消失している
  • 本例の陥凹は1峰性である ➜ 頸静脈の拍動は通常2峰性(正常波形はコチラ
  • y下降が目立たない症例もあるが(実例),x下降は本例のように持続しない
  • 本例はウィーズを聴取したため陥没呼吸(吸気時の鎖骨上窩の陥凹)と判断
  • 気管支喘息の重症発作と診断 ➜ 幸い短時間作用型吸入β刺激薬のみで改善

🚑 臨床現場
  • 一緒に対応した初期研修医に「鎖骨上の所見をどう判断する?」と質問したら,「心不全ではなくて陥没呼吸と思います」とすぐに答えてくれた.彼らの成長は常に指導医の励みです.

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松下記念病院 川崎達也)

2019-11-25

👴 歴史クイズ

(Wellcome Images)


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2019-11-21

負荷心電図ならぬ負荷頸静脈!

  • 僧帽弁逆流による慢性左心不全症例で直近のBNP値は800pg/ml余
  • 心臓リハビリテーションの運動処方のため心肺運動負荷試験を施行


🐤 解説
  • 負荷前に認めなかった右外頸静脈の拍動が運動負荷中に観察できる
  • よく見ると鎖骨上窩にも新たな内頸静脈の拍動(陥凹)がありそう
  • 嫌気性代謝閾値ATの前に認めることは稀で通常は症候限界の少し前
  • このような反応の出現頻度は高くないが認めた場合は注意を要する
  • 座位で鎖骨上の頸静脈視認の有無を判定する方法の応用範囲は広い

🏃 関連投稿頸静脈 vs 運動負荷
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2019-11-18

📣 心音クイズ

【問題】胸痛を訴えて来院した症例の心音(第3肋間胸骨左縁).診断と予想される疾患は?









判定



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2019-11-14

お腹を触る

  • 検診で心電図異常を指摘され循環器内科を受診した高齢者
  • 臥床で記録した腹部(自然呼吸下で左の白いタオルが尾側)

🐥 解説
  • 呼吸に伴う腹壁の上下運動と異なった規則正しい拍動がある(軽く指を添えると拍動はより明白)
  • 腹部CTで腎動脈下〜総腸骨分岐部に紡錘型の腹部大動脈瘤(外径の最大短径が70mm)を認めた

👶 呟き
  • 拍動=大動脈瘤ではない(特に痩せた女性)が,破裂すれば致命的になる疾患である.治療可能な病態であるため,破裂するまでに診断することが外来担当医の責務と考えられる.初診時は必ず,定期受診時にも時々はお腹を触っておきたい.
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2019-11-11

末梢クイズ

  • 不明熱で当院を紹介受診した症例


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2019-11-07

心エコー図よりも身体所見で診断!

  • 腹部膨満感で消化器内科を受診した開心術の既往がある症例
  • 座位の頸静脈所見の記録(前半は通常呼吸 ➜ 後半は深吸気)


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2019-11-04

肥大型心筋症の心尖拍動図


😶 解説
  • 駆出波(E波)の後に収縮期膨隆が続く ➜ 持続時間の長い抬起性の心尖拍動
  • よく見ると抬起性心尖拍動の直前に心房収縮波(A波)あり ➜ Ⅳ音の触知
  • P波に関連するⅣ音と二峰性心尖拍動を視診・触診・聴診でしっかり感じたい

関連投稿 👴
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2019-10-31

前頸静脈 Anterior jugular vein

  • 僧帽弁狭窄・心房細動を有する症例の頸静脈(仰臥位,枕あり,呼吸調整なし)

🔎 解説
  • 外頸静脈は目立たないが,内頸静脈の収縮期陽性波が耳垂まで達している(ウインクサイン/耳朶サイン).一般に心房細動があればx谷がy谷より浅くなるが,三尖弁逆流の重症度が上がるにつれx谷の閉塞(x谷<y谷),v波の増高,収縮期陽性波と変化する.
  • 本例では頤(おとがい)隆起〜喉頭隆起の拍動にも注目.頸静脈には内頸・外頸に加えて前頸静脈 Anterior jugular vein(下図)もある.前頸静脈は最終的に外頸静脈の末端(一部は内頸?)に合流する.
  • (Public domain Wiki)

おまけ 😎 意外かも知れないけど本例のような僧帽弁狭窄症では特異的な頸静脈波形はないようです 🐥
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2019-10-28

👴 歴史クイズ

(Wellcome Images)


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2019-10-24

開放音

  • 房室弁の開放で多くが僧帽弁狭窄時の僧帽弁由来
  • Ⅱ音直後に出現する高調音で,広範囲で聴取可能
  • 鑑別はⅡ音分裂,ノック音,腫瘍プロップ,Ⅲ音



(Ⅱ音後の赤矢印が開放音/Ⅰ音の亢進にも注目/本例ではランブルは目立たない)


👶 おまけ
  • 僧帽弁狭窄は少なくなったけど今でも臨床で時々遭遇します.心エコー図の前に聴診で診断したいという想いは皆同じ.この(大きなⅠ音から始まる)特徴的なリズムを耳で覚えておくと,聴診器を胸に当てたときにピンときます.

🔊 関連投稿 (稀な過剰心編)
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2019-10-21

脈拍:虎の巻

邦名 英名 代表的な疾患
交互脈 pulsus alternans 重症心不全
二峰性脈 pulsus bisferiens 閉塞性肥大型心筋症,大動脈弁閉鎖不全
重複脈 dicrotic pulse 重症心不全(特に若者,低血圧)
遅脈 pulsus tardus 大動脈弁狭窄
速脈 pulsus celer 大動脈弁閉鎖不全,甲状腺機能亢進症
奇脈 pulsus paradoxus 心タンポナーデ

おまけ 👻
  • 二峰性脈=収縮期に二つのピークを触知
  • 重複脈=収縮期と拡張期にそれぞれ触知

松下ERランチ・カンファレンスとのマルチポストです 🎶
速脈 大脈 遅脈
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2019-10-17

頸静脈クイズ

  • 息切れで来院した中年女性の頸静脈(臥床+枕あり)
  • 若い頃に先天性心疾患を指摘されるが放置していた


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2019-10-10

二峰性拍動 Biphasic pulse

  • 検診で心電図異常を指摘された症例の頸動脈(舌圧子は収縮期に上方に移動)

😶 解説
  • 舌圧子の鋭い上昇(spike)➜ 急峻な衝撃波(percussion wave)
  • その後の小さな隆起(dome)➜ 二峰性拍動(spike and dome型)
  • 同波形は閉塞性肥大型心筋症に特徴的 ➜ 心エコー図で確定診断
(本例の心機図:頸動脈波 👶 各要素の時間的な関連がとても美しい)

おまけ 👅 Pulsus bisferiensはBiphasic pulse(二峰性拍動)の別名です
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2019-10-07

逆なら逆!

  • 上部尿路系感染と診断され入院した症例の左右の頸静脈(臥床+枕あり)

通常なら頸静脈は右側でより明瞭に認識される(実例1実例2).これは右房との位置関係に起因する(直線性+距離)➜ 解剖図.では本例で外頸静脈が右側よりも左側で目立っている理由は?


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2019-10-03

不整脈にも応用!

  • 慢性心不全例の頸静脈(座位で呼吸調整なし)


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2019-09-30

匠の業

  • 頸静脈拍動のa波は心電図のP波に対応 ➜ 下図の心房収縮(AS)
  • 頸静脈拍動のx下降は右房の拡張に対応 ➜ 下図の心室収縮(VS)
  • よって理論的には頸静脈拍動から不整脈を類推することができる


😶 頭の整理
  1. a波が消失 ➜ 心房細動や洞停止
  2. a波とx下降の関係 ➜ ウェンケバッハ型2度房室ブロックやモビッツII型2度房室ブロック,2:1房室ブロック
  3. 間欠的に巨大a波(cannon wave)➜ 3度房室ブロック

👶 おまけ
  • 頻脈になると波形解析は困難であるが,房室結節リエントリー性頻拍で出現するフロッグ・サイン 🐸 は覚えておきたい ➜ 自験例1自験例2

関連投稿 💣
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2019-09-26

頸静脈波のa波は(多分)特異度が高くない

  • 心電図で期外収縮を指摘された青年の頸静脈(枕あり臥床)

😶 解説
  1. 頸静脈波のa波が目立つ(右の拡大像で黒子の隆起に注目)➜ 一見,肥大型心筋症を疑った
  2. y下降が目立たない点も同疾患に合致 ➜ ただ健常者でy下降が目立たないことは少なくない
  3. 抬起性 or 二峰性心尖拍動やⅣ音はなかった ➜ 肥大型心筋症は否定的(心エコー図で確認)
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2019-09-23

👴 歴史クイズ



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2019-09-19

一目瞭然 やっぱり右!

  • 虚血性心疾患による慢性心不全症例が2:1伝導の心房粗動を発症した

👿 再確認
  1. 右房圧や中心静脈圧(=上大静脈圧など)の推定には右側の頸静脈を使用(その直線的位置関係から)
  2. 右側では外頸静脈よりも内頸静脈の方が望ましい(より内側に存在かつ有効な逆流防止弁を欠くため)
(オリジナル図)
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2019-09-16

頸静脈拍動の復習

  • 頸静脈波は基本的に3つの陽性波(a,c,v)と2つの陰性波(x,y)から成る

主たる成因
  1. a波 ➜ 右房の収縮
  2. c波 ➜ 三尖弁の右房側への膨隆
  3. x下降 ➜ 右房の拡張
  4. v波 ➜ 静脈還流による右房の充満
  5. y下降 ➜ 三尖弁の開放による右房圧の低下

👿 再確認
  • 動脈は隆起として触知されるが,頸静脈は陥凹として視認されることが多い.健常者は収縮期のx下降と拡張期のy下降の二峰性陥凹を示すが,y下降が明瞭でない症例も少なくないので注意が必要である(実例

🐳 厳密に言えば…
  • a波以降がx下降で,その最下点がx谷である.同様にv波に続くy下降の最下点がy谷である.x下降の内c波以降はx'(エックスプライム)下降と呼ばれるが,c波は通常視認できないためx下降と呼ぶことが多い.ちなみにc波の"c"はcarotidの"c"である.
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2019-09-12

肥大型心筋症の二峰性心尖拍動

  • 心室中部閉塞性肥大型心筋症の心尖拍動(左半側臥位)

🔎 解説
  • 心尖拍動は小さな振れ(atrial kick=A波=心房収縮波)の後に大きな振れ(抬起性)が続く二峰性のダブルインパルス(舌圧子は収縮期に画面右方に移動)
  • 左半側臥位での心尖拍動が左乳房下あたりなので心拡大はなさそう(心尖拍動は左半側臥位では仰臥位よりも左外側に1-2横指以上移動するため注意を要する)

  • ダブルインパルスの分かりやすさ ➜ 触診>舌圧子>視診(👴 個人的意見です)
  • 肥大型心筋症の抬起性および二峰性心尖拍動の頻度は以下(当院自験例より)
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2019-09-09

サパイラ先生 Dr. Joseph D. Sapira



📕 独特で個性的な英語あるいはとても難解な英語と評されることがあるようです(毒舌との噂も…).でも実際は無駄のないとても分かりやすい英語だと思います(投稿者もオリジナルの初版を所有:上図).随所に挿入されている”ボールド書体”の部分は,まるでサパイラ先生が隣でつぶやいているような錯覚に陥ります.表紙はとても印象的です(特に色と写真).

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2019-09-05

心窩部拍動

  • 慢性心不全(ステージ4)の症例の座位の胸部所見(呼吸調整なし)
  • 左前胸部には両室ペーシング機能付き植込み型除細動器(CRTD)

👿 解釈
  • 心尖拍動(左乳房下)に加えて心窩部の拍動にも注目.本例はCTで拡大した右室が前胸部と広い範囲で接していたため,心窩部の拍動は右室によると考えられた.通常は左室収縮が右室収縮よりも少し先行するが,本例での拍動は心尖部と心窩部は同時と考えられる.本例は両室ペーシングの植込み後で,右室と左室の収縮のタイミングを同時(VV delay = 0 ms)に設定してあることが影響しているのであろうか...(👴CRTの調整方法 ➜ コチラ
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2019-09-02

50/50 murmur

  • 50歳より高齢の症例では50%に硬化した大動脈弁由来の収縮期駆出性雑音を聴取すること

👿 出典?(Constant Jのbedside Cardiology, 5th ed, p 219)
  • What percentage of patients over age 50 have an easily audible aortic ejection murmur without valvular stenosis? ➜ About 50%. Therefore, we have called this the "50 over 50" (50/50) murmur.

👶 おまけ
  • 陳旧性心筋梗塞の既往や心電図で左室肥大を有する高血圧症例を除外すれば,その雑音の頻度は30%に低下する(J Am Geriatr Soc 1976;24:29-31

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2019-08-29

外頸静脈の流れ

  • 慢性左心不全症例の外頸静脈(拡大動画)


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2019-08-26

高度肥満

  • 高度肥満(BMI>60)の症例が呼吸困難感でER室に搬入された


💁 現場
  • 酸素飽和度は低下し心不全も鑑別に含まれるが頼みの頸静脈は評価不能
  • 心音は聴診できずベットサイド心エコー図で心臓の描出も困難であった
  • BNPは100 pg/ml(ただし高度肥満例のBNPは低値になり要注意:参照
 ➜ 最終的に肥満低換気症候群 OHSと診断(心不全ではないと判断)

👻 独り言
  • 本例では上肢より下肢の収縮期血圧が100mmHgほど高値でした(=ヒル徴候 Hill’s sign 陽性).脂肪組織は血管床が豊富であるため肥満低換気症候群 OHSに生じた心不全は高心拍出状態になるようです(Am J Med 1976;60:645-53).
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2019-08-22

右 vs 左(心尖拍動の舌圧子)

  • 連合弁膜症による慢性左心不全例の心尖拍動

🔎 解釈
  • 心尖拍動は収縮期に陥凹している(中央動画).同所見は収縮性心膜炎で有名であるが本例にはない.左動画では舌圧子が収縮期に体側に移動しているが,右動画では舌圧子が収縮期に外側に動いていることに注目
  • 舌圧子を用いた心尖拍動の評価は”てこの原理”の応用であるため,支点と力点によって作用点の方向や程度が大きく変化することに注意が必要.常に収縮時間>拡張時間を意識(Ⅰ音とⅡ音でも同じ ➜ コチラ).
  • 本例は聴診でⅣ音とⅢ音あり.視診では心房収縮によるatrial kick(抬起性拍動の直前でⅣ音を反映)は分かりやすいが,左室急速流入によるventricular kick(拍動直後でⅢ音を反映)ははっきりしない(と思う).
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2019-08-19

👴 歴史クイズ

(Public Domain)


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2019-08-15

a波と枕の有無

  • 心尖部肥大型心筋症として無投薬でフォローしている症例の頸静脈(左=枕なし/右=枕あり)

👿 解釈
  • いずれの動画でも内頸静脈で増高したa波が目立つ.これは肥大型心筋症の特徴で,コンプライアンスの低下した心室に対する心房の頑張りを反映している.高さ約10cmの枕(≒10cm血柱)をもろともしない心房のパワーに脱帽.x谷やy谷は枕あり(右動画)の方が観察しやすいと思われるが,これには枕による圧勾配が影響している(と思う).一方,外頸静脈は枕なし(左動画)の方が明瞭に観察できる.

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