増悪する息切れで来院した症例(座位)
😐 解説
- 頚部に内頚静脈の拍動を認める(矢印)
- 不規則なので心房細動 AF?(時折大?)
- 安静で陽性なので吸気などの負荷は不要
- 隆起性 ➜ v波なら重症三尖弁逆流 TR?
- その後の精査で予想通り非代償性心不全
- ただしAFではなくて3度房室ブロック 😮
😓
独り言
- 完全房室ブロックの頚静脈所見では間欠的に出現する巨大a波(キャノンa波)が有名です(自験例)。その機序は右房収縮時に三尖弁が閉鎖しているためです。よって期外収縮でも出現することがあります(自験例)
- 本例はもともと活動性が低いためか、房室ブロックによる立ち眩みやふらつきはなかったようです。しかし徐脈が暫く(1-2週間以上?)続き非代償性心不全に至り、床上でも症状が出現するようになって来院と予想
- 本例の頚静脈拍動は陽性波なのでa波に加えv波も見えていると思われます(よって視診で徐脈を見抜くのは困難)。a波の大きさがQRSとのタイミングで変化し絶対不整に見えるので、AF+高度TRの誤診もやむなし?
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循環器Physical Examination講習会は故・吉川純一先生が2003年に立ち上げられた身体所見に関する研究会です.「生きた
physical
examination」を体感・習得して,「感動できる」ものにしていきたいと思っています.
- 2025年4月から毎週末に循環器に関するフィジカルクイズをX(旧Twitter)で発信しているので,よろしければフォローしてみてください(@PhysicalExamin1).こちらのページには2週分ずつまとめてアップします.
👻「フィジカルクイズ」の過去の投稿は
コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)
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先日,循環器 Physical Examination 研究会が主催するフィジカル合宿に参加してきました。身体所見のマイスターたちが興味深い症例を持ち寄って議論するというとても充実した2日間でした(夜の宴会も😉)。ディスカッションの中で耳にした巨匠達の貴重な言葉をここに記録しておきます。聞き違いがあればすいません。
- 高心拍出状態での収縮期雑音はスクラッチ様(scratch murmur)
- 甲状腺雑音はバセドウ病で出現するが破壊性甲状腺では通常なし
- 破壊性甲状腺は症状で亜急性甲状腺炎と無痛性甲状腺炎へ大別可
- 甲状腺中毒では雑音の有無で方針(破壊性へのメルカゾール回避)
- 破壊性甲状腺炎ではサイログロブリンが病態と並行して増減する
- 傍胸骨で右室拍動は心機図でRF有、左房拍動は収縮後期にピーク
- シャイエ症候群(ムコ多糖症Ⅰ型の軽症)では沈着による弁膜症
- 重症の僧帽弁逆流(MR)は頚動脈の立ち上がりが早く持続が短い
- 重症MRでは駆出が早く済むから右脚ブロックがなくてもⅡ音分裂
- 純粋なMRでは重症でもランブルは稀(狭窄が多少でもあると出る)
- 4LSBで汎収縮期雑音でもTRとは言えない(MR雑音の伝播がある)
- 急性肺血栓塞栓の肺高血圧は40-50mmHgまで(それ以上なら虚脱)
- 一方、慢性やacute on chronicは70-80 mmHg以上可(例:CTEPH)
- 急性肺塞栓症で頚静脈陰性なのは発症時に体液量が多くないため?
- 心室からの駆出流波形と開始が合致する心音は駆出音と考えられる
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数年前ですが講演後に「肥大型心筋症で明瞭なⅣ音を認めるのに心エコー図のA波が低いのはどうしてですか?」と質問を受けました.残念ながらその場ではうまく答えることができませんでした.そのやり取りをWEBでご覧になっていた身体所見の巨匠から解説メールをいただきました.
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先日,Ⅳ音とその機序に関してX(旧Twitter)に投稿を行いました(ココ).しかし私の理解および文章が不正確であったため,翌日に同じ巨匠から再度,解説メールをいただきました(とても反省).同じ過ちを繰り返さないためにも,忘備録として下記にまとめをアップしておきます.
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巨匠の指導内容の要約
- 左室拡張末期圧(EDP)上昇例の左室流入A波はすべて増高するわけではない。EDPが中等度以上に上昇すると心房機能は亢進しているにも拘わらずA波は減高する(いわゆる偽正常化)。この場合でも立派なⅣ音を聴取(HCMの大半はこのパターン)
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その原因は左室が硬すぎるあるいはEDPが高すぎるため心房機能は亢進しているのに左室側には少ししか流入できないためで、大半は肺静脈側に逆流している。実際このような例の肺静脈血流波形を記録するとA波が著明に増高している。
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以上のことから、Ⅳ音が出現する病態は、左室流入A波増高・肺静脈血流A波正常と左室流入A波減高・肺静脈血流A波増高の2つがあり、後者の方がより進行した状態で予後不良と言える。
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左室流入A波は小さくても、心房機能は亢進しているため左室圧A波は増大している(これが心尖拍動のA
kickとして触れる)。すなわち、左室流入A波は小さくても左室を振動させるパワーとしては十分に働いている。
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僧帽弁口血流速波形と違って心尖拍動のA波は偽正常化しにくい
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LVEDPが約20mmHgを超えると僧帽弁口血流速波形(MVF)は偽正常化し始めるが(下図左)、心尖拍動のA波率(A/H)は偽正常化せずLVEDPが30~35mmHgくらいまで増大し続ける(下図右)。
- A/Hは、それ以上の著明な上昇(LV-preA圧の中等度上昇も同時に伴う状態)になって初めて減高に向かう。この時点にまで至ればMVF-A波・PVF-A波ともに減高し、Ⅳ音も当然弱くなる。
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肥大心や拡大心においてMVFが一見正常パターンで正常か偽正常かの判断に迷った時にACG-A波を触れるかあるいは記録したACGのA波増高を確認できたならばMVFが偽正常であると判断できる。
無理すると息切れがあるという男性(座位)
👀
解説
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安静座位で内頚静脈の拍動なし
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吸気負荷で一瞬,僅かに拍動?
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診察室内を2周歩いてもらった
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すると座位で明瞭な拍動(➢)
- 最終診断は非代償性の心不全
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コメント
- 頚静脈の座位定性法の可能性は無限です.様々な負荷が追加できるからです.吸気負荷が最も簡便ですが,前屈負荷や蹲踞負荷,左上肢挙上負荷,立位負荷なども可能です.そしてそれらを組み合わせることも有用です.
- 当院で最初に行った負荷頚静脈法は6分間歩行でした(論文).しかし診察室やベットサイドでは実施が困難で活用範囲が限定されます.今回行った診察室内を少し歩きまわってもらう負荷はベットサイドでも可能です.