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2023-06-29

フロッグサイン

突然生じた動悸でERを受診した症例(仰臥位)

🚑 現場実況
  • 血圧低下はないが頻脈(動画中のモニター音に注目)
  • 内頸静脈は視認できないが外頸静脈(陥凹)は明瞭
  • 拍動パターン解析は困難であるが静脈圧上昇はなし
  • 頸動脈の拍動(もちろん隆起)も僅かに観察できる
  • 吸気負荷で外頸静脈は怒張(隆起して拍動が消失)
  • PSVTと診断:修正バルサルバ法は無効でATPで停止

🐸 追加コメント
  • 本例はおそらく房室回帰性頻拍(AVRT/WPW症候群)と考えられました.外頸静脈の拍動であるため,単なる洞頻脈でも同様の所見になると思われます.房室結節回帰性頻拍(AVNRT)で有名なフロッグサイン(frog sign)とは少し異なる身体所見です(右房と右室がほぼ同時に収縮するため内頸静脈に出現).ただしこのカエル徴候はAVRTや心房頻拍(AT)でも出現することがあるので(自験例),AVNRTとイコール関係ではありませんが...

松下記念病院 川崎達也)

2023-06-26

分かりにくかった頸動脈二峰性拍動

全身浮腫と息切れで受診した化学療法中の担癌症例(臥床)

👶 解説
  • 左側の頸動脈拍動を伝える舌圧子に明瞭な上下運動あり
  • その動きは二峰性拍動(pulsus bisferiens/biphasic pulse)
  • 心エコーでは左室流出路狭窄,僧帽弁逆流,左室過収縮
  • 抗がん剤による体液貯留で生じた高拍出性心不全と診断

😅 診察室実況
  • 収縮期駆出性雑音(3度)があったため流出路狭窄も鑑別診断には含めたが,初回の頸動脈診察で二峰性拍動とは診断できなかった.心エコー図の結果(左室流出路圧格差>60 mmHg)に驚いて,頸動脈の診察をやり直した時の動画が上記である.
  • 頸動脈の2峰性拍動といえば閉塞性肥大型心筋症(spike and dome型:自験例)と大動脈弁逆流(鋭い2峰:自験例)が有名である.本例の様に反応性の過収縮から生じた左室流出路狭窄による2峰性拍動はあまり明瞭にはならないのだろうか?

松下記念病院 川崎達也)

2023-06-22

プルプル心尖部

端座位の肥大型心筋症例

👀 解説
  • 心尖拍動を視認 ➜ 左乳輪内側で心拡大はなさそう
  • 心尖拍動はとても明瞭 ➜ 抬起性(心肥大)の疑い
  • よくみるとプルプルっとなっていて単峰性ではない
  • 触診でダブルインパルスがあり聴診では巨大Ⅳ音
  • 本例では剣状突起が目立っている(病的意義なし)

👶 独り言
  1. 通常の心尖拍動の他に拍動を認める場合(二峰性心尖拍動)は,心房性隆起(前収縮期)と心室性隆起(拡張早期)が考えられます.前者は聴診のIV音に相当し, 左室のコンプライアンスが低下していると考えられます(例:肥大型心筋症).後者は増大した左室への急速流入波あるいはIII音を反映します(例:高度の僧帽弁逆流).
  2. 個人的な経験では,視認で気づく二峰性心尖拍動の大部分は肥大型心筋症によるatrial kick(心房性隆起)です.マイ感度は触診≧聴診>視診の順です(過去の投稿).一方,ventricular kick(心室性隆起)はともて小さいので触知はできても視認することは極めて稀です.僕の感度は聴診>触診≫視診の順でしょうか?

松下記念病院 川崎達也)

2023-06-19

Twitterで出会った圧波形

診断は?
(投稿者@mandeep_mayo


松下記念病院 川崎達也)

2023-06-15

左上肢挙上:

前日にERで喘息と診断された咳嗽症例

😈 解説
  • 座位で右頸部に内頸静脈の拍動(陥凹)あり(凹矢印)
  • 咳嗽が強いため吸気負荷の代わりに左上肢の挙上負荷
  • 負荷後は頸部陥凹が(おそらく)隆起に変化(凸矢印)
  • 心音で明瞭なギャロップを確認して急性心不全と診断

👾 コメント
  • 深吸気止めで内頸静脈の陥凹が隆起に変化(ランチシ徴候)する症例は散見されます(自験例).本例の主訴は咳嗽であり呼吸負荷が難しいため(多くは咳き込む),代わりに左上肢負荷を行いました.もちろん肝頸静脈逆流(Hepatojugular reflux test)も施行可能ですが,臥床になるためやはり患者さんは咳き込んだと思います.
  • 本例は前日の救急外来で喘息による咳嗽と診断されていました.重症喘息例の頸静脈拍動の代わりに陥没呼吸を認めることがあります(自験例).重症COPDでは下位肋間に内方陥凹(フーバー徴候)を認めます(自験例).もちろん肺疾患を合併した心不全症例もありますが(自験例),安易な咳喘息の診断は慎む必要があります.

👿 上肢挙上負荷の過去投稿 ➜ コチラ

松下記念病院 川崎達也)

2023-06-12

Cole-Cecil murmur コール-セシル雑音

  • 大動脈閉鎖不全(AR)による拡張早期雑音で腋下で最もよく聴取できる
  • 米国の医師ColeCecil(Johns Hopkins Hospital Bulletin 1908;19:353-61)
  • 原因はhigh placed apex(高位に位置する心尖部)によるため?(引用
  • 出現時相と聴診部位がAustin Flint雑音と異なるため両者は同じではない

- 人名が付けられた拡張期雑音 -

💁 心雑音に関する過去の投稿 ➜ コチラ
ColeCarey Coombs Graham Steel Rytand Dock Key Hodgkin Cole-Cecil コール-セシル-Cecil murmur コール-セシル雑音
松下記念病院 川崎達也)

2023-06-08

時々,聞かれます

患者さん 「これ(青矢印って何ですか?」


🔗 剣状突起(Xiphoid process)
  • 胸郭前面の正中部にある扁平骨=胸骨(Sternum)の足側部分(他は頭側から胸骨柄と胸骨体)
  • ギリシア語由来のxiphoidとそれに相当するラテン語のensiformの意味はいずれも「剣のような」
  • 剣状突起は通常,第9胸椎およびT7 dermatome(皮膚分節)のレベルにあると考えられている
  • 15〜29歳頃に剣状突起は線維性関節で胸骨の本体(胸骨体)に融合するためその可動性は消失
  • 40歳頃に剣状突起の骨化が生じるため本例のように「コレなんですか?」と聞かれることあり
  • ちなみに剣状突起に生じうる分岐や穿孔には遺伝性があり遺骨と家族の推定に有用らしい 😮

📎 臨床的意義
  • 剣状突起は横隔膜を含む多くの筋肉の付着に関与し,腹直筋を固定しています.よって心肺蘇生(CPR)時の胸骨圧迫では剣状突起に圧力をかけないようにする必要があります.横隔膜裂傷や肝損傷(致命的内出血)に至ることがあるからです.
  • 剣状突起に関連して生じた痛みは剣状突起痛(Xiphodynia)と呼ばれています.筋骨格障害で明瞭な圧痛を認めるため,その診断に困ることは稀でしょうか.胸骨と剣状突起の間の接合部の炎症によって引き起こされると考えられているようです.

松下記念病院 川崎達也)

2023-06-05

ナクソス病 Naxos disease

  • 概要 羊毛状の毛髪と掌蹠角化症,および心筋症を合併した病態
  • 名称 ギリシャのナクソス島の家系(Br Heart J 1986;56:321-6
  • 原因 デスモソーム蛋白の遺伝子変異(常染色体の劣性遺伝疾患)
  • 心臓 不整脈原性右心室心筋症(多くは小児期に症状が出現する)
  • 疫学 ギリシャの島々で1人/1,000人(他にトルコやイスラエル)
  • 予後 年間の疾患関連死亡率は約3%,突然死は2.3%程度と不良
  • 治療 心不全治療,抗不整脈薬,除細動器植込み,心臓移植など


ナクソス病の皮膚表現型: 羊毛 (A),手掌角化症 (B),足底角化症 (C)

(A) LBBB 形態の心室頻拍,(B) イプシロン波を伴う RBBB (矢印),(C) 拡張した右心室,(D) TAPSE 7 mm(右心室収縮機能が不良)


松下記念病院 川崎達也)

2023-06-01

今週の一枚 🎯 耳毛

労作時の胸痛で来院した男性の両耳



松下記念病院 川崎達也)