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2021-11-29

視診による重症度診断:大動脈弁逆流

拡張期雑音を指摘され来院した症例(症状なし)

📡 視診にこだわった実況中継
  • 臥床で頸部の周期的な隆起があり,静脈性なら巨大v波(三尖弁逆流など)で動脈性ならコリガン脈(大動脈弁逆流)と考えられる.外頸静脈の拍動は臥床+枕ありで頸部中央であるため,明らかな中心静脈圧の上昇はなさそう.つまり静脈性の巨大v波(ランチシ徴候)は否定的.しかし端座位でその陽性波は,臥床よりも不明瞭になっている.コリガン脈であれば通常,重力による虚脱増強のため臥床より座位の方が分かりやすいことが多い(自験例).少し悩んだが肘部内側の反跳脈を確認して,最終的に大動脈弁逆流と視診フィジカル診断した.その後に行った触診では明らかに動脈性拍動で,心エコー図で中等度の大動脈弁逆流を確認した.

本例では体位と陽性波の関係で,フィジカル診断に迷いが生じました.触診あるいは呼吸負荷に対する反応,聴診の併用などで両者の鑑別(動脈性 vs 静脈性)は容易と考えられます.しかし脈に触れたい想いをぐっと我慢して,あくまでも視診にこだわってみました.本例はコリガン脈でありながら臥位でより明瞭であった理由は不明ですが,大動脈弁逆流の程度が一因であった可能性があります.重症であれば重力に抗して大きな陽性波が形成されますが,中等症ではそこまでの拍出量はないのかもしれません.大動脈弁狭窄ではフィジカルで重症度の診断技術が(ある程度)確立されています(過去の投稿).是非,大動脈弁逆流でも挑戦していきたいと思います.

    松下記念病院 川崎達也)

    2021-11-25

    レバイン分類の7度 😊

    胸から音がすると言って来院した症例

    💣 解説
    • 収縮期雑音があり期外収縮の後に著増(概ね10倍以上)
    • 駆出性雑音では先行RR間隔が延長時に音量は増大する
    • しかし大動脈弁狭窄の増大はせいぜい2倍まで(自験例
    • 本例の様に著明に増加する症例は閉塞性肥大型心筋症!
    • 予想通り心エコー図で流出路狭窄を確認した(動画後半)

    👂 独り言
    • 本例は心室期外収縮が散発してたため,患者さん自身が述べるように時々,胸から心雑音が聞こえました.レバイン分類では最も大きい音を6度(聴診器が胸壁に触れなくても聴取可能)に分類します.本例では聴診器すら不要な巨大な雑音でした(勝手にレバイン7度と命名 😊).人工弁の機械音も聴診器なしで聞こえることがありますが,これは雑音ではないのでレバイン分類は適応されません.

    松下記念病院 川崎達也)

    2021-11-22

    レバイン分類

    🔉 世界中で使用されている心雑音の強度の分類(Levine grading scale)

    1度
     極めて弱い雑音で聴診器を当ててもすぐには認識できない
    2度
     弱い雑音であるが聴診器を当てれば即座に気がつく
    3度
     中等度の雑音で振戦(スリル)を伴わない
    4度
     強い雑音で振戦(スリル)を伴う
    5度
     とても強い雑音であるが聴診器を胸壁から離すと聞こえない
    6度
     極めて強い雑音で聴診器が胸壁に触れなくても聞こえる


    👻 おまけ
    • Samuel Albert Levine (1891–1966) はポーランド生まれで3歳で米国へ
    • Levineのオリジナル論文()には,4度に振戦(スリル)の記載はない
    • 当初は収縮期雑音の分類であったが,拡張期雑音への転用を本人も容認
    • ポリオという用語を初めて使用(正確にはPoliomyelitis/急性灰白髄炎)
    • その名は頻脈発作を生じるLGL症候群の Lown–Ganong–Levine にも残る
    • 名前の発音を聞かれた時にレッドワイン(赤ワイン)とお茶目に答えたレバイン

    ※ 以前に松下ERランチカンファレンスに投稿した内容の更新版です 🎶


    松下記念病院 川崎達也)

    2021-11-18

    挑戦は続く!

    心不全が疑われ当院を紹介受診した症例

    👾 解説
    • 収縮期駆出性雑音があり心基部でもⅡ音は不明瞭 ➜ 重症の大動脈弁狭窄の疑い
    • 音量は大きくはない(当院は統一スケール)➜ 必ずしも重症度を反映せず(
    • 頸動脈は緩徐な立上りで上昇脚に小振動(鶏冠状波形/shudder wave)➜ 確診
    • 心エコー図では最高血流速度が5.0m/s以上の超重症の大動脈弁狭窄症であった

    👽 AS vs Physical examination
    • 大動脈弁狭窄症は身体所見で診断すべきですが,その重症度判定にはやはり心エコー図に分があると思います.頸動脈波形は高い特異度(ルールイン=確定)を持っていますが(下表),本例のように明瞭に観察されることは稀です(自分の技術不足もありますが…😂).でも心エコー図には挑み続けたいと思っています.


    💁 大動脈弁狭窄に関する過去の投稿 ➜ コチラ

    松下記念病院 川崎達也)

    2021-11-15

    大動脈弁狭窄の重症度と音量

    📖 弁膜症治療ガイドライン2020年改訂版)の63ページ
    • 「なお,ASが進行して左室機能障害をきたし一回拍出量が低下すると収縮期雑音は小さくなるので,収縮期雑音の強弱で病態の重症度を判断するのは誤りである.」

    😟 呟き
    • 左室駆出率が低下してくれば,いわゆる”Low-Flow/Low-Gradient Aortic Stenosis(低流量低圧較差大動脈弁狭窄)”になるため雑音の音量が低下することは理にかなっています.しかし収縮力が保たれている症例でもあまり音量が大きくない重症例をしばしば経験します.そこで手持ちの心音図を比較してみました(当院の心音図はすべて同一のスケールで記録/選択バイアスは否定できませんが作為的な操作は一切なし/左室駆出率は全症例で正常)


    松下記念病院 川崎達也)

    2021-11-11

    🏆 論文

    • 当院の循環器内科に勤務されている車古先生が執筆した論文が出版されました
    • 人名が冠せられた複数のフィジカル所見を有した大動脈弁逆流症例の一例です
    • 網膜動脈の拍動であるベッカー徴候(Becker's sign)が美しく記録できました
    • 速脈(pulsus celer)を反映し大動脈弁逆流以外に甲状腺機能亢進などで出現


    👀 おまけ
    • ベッカー徴候は有名な身体所見の割には,論文やYouTubeを検索しても動画を見つけることができませんでした.眼底動脈をムービーとして記録する方法が確立されていないことが一因かもしれません.
    • 本例ではOCTを撮影する装置のモニター画面をスマホで動画として記録しています(OCT像ではありません).世界初(?!)かもしれない動画なので,よければご覧ください ➜ ココのVideo 2をクリック
    • 眼底鏡でも眼底動脈のダイナミックな拍動がカラー像で観察できましたが,こちらはうまく記録できませんでした(接眼部とスマホカメラのピントが合わず 😥).協力していただいた眼科の皆様には本当に感謝

    👿「論文」の過去の投稿は コチラ(ウェブ版なら画面右の分類からも選択可)

    松下記念病院 川崎達也)

    2021-11-08

    意外に都合よく出ています

    息切れで来院した症例の心音(心尖部

    🐤 解説
    • 高調な収縮期雑音(楽音様)でⅡ音は不明瞭 ➜ 僧帽弁逆流?
    • 先行RRが長い3つ目の音は音量が少し大きい ➜ 駆出性の雑音
    • よって本例はガラヴァルダン現象を伴う大動脈弁狭窄の疑い
    • 実際にその後の心エコー図で重症の大動脈弁狭窄を確認した

    🐦 独り言
    • 聴診で大動脈弁狭窄と僧帽弁逆流の鑑別に悩むケースが少なくありません.Ⅱ音の有無が最大のポイント(前者では明瞭で後者では不明瞭:実例)ですが,例外も散見されます.
    • 重症の僧帽弁逆流症では収縮期雑音がダイアモンド型になり,Ⅲ音も高調化してⅡ音に似ることがあります.そのような症例ではますます大動脈弁狭窄と鑑別が難しくなります.
    • そんな時には下図で示す様に期外収縮後の音量変化が鑑別診断には有用です.収縮期雑音は,駆出性なら音量が増加しますが,逆流性雑音では変化しません(心房細動症例で耳を訓練😊)
    • 洞調律例では「そんなにタイミングよくPVCはでないよ」という声も聞こえてきそうですが,来院するような症例では意外に出ています(むしろ気づいてないほうが多いのでは…😗)


    松下記念病院 川崎達也)

    2021-11-04

    爪には爪を A nail for a nail

    数ヵ月前から労作時の息切れを感じるようになった症例



    松下記念病院 川崎達也)

    2021-11-01

    ココでは聴診より触診

    胸痛で来院した症例の心音(心尖部)と心尖拍動

    🍘 臨床現場
    • 収縮期に雑音があり明瞭なⅡ音を認識できるため,逆流性雑音ではなくて駆出性雑音と判断.雑音が鎖骨や頸部にも放散しているため,閉塞性肥大型心筋症ではなくて大動脈弁狭窄と予想.引き続き行った心エコー図で大動脈弁狭窄(中等度)を確認して一安心(僧帽弁逆流であることは稀でない).
    • ただし心音図をみてビックリ.大きなⅣ音(赤四角)と心尖拍動のA波増高(赤矢印)が記録されていた.もう一度聴診をやり直したが,Ⅳ音はうまく聞き取れなかった.一方,心尖部を丹念に探ると二峰性拍動が指先に伝わってきた.Ⅳ音はしばしば聴診より触診である(いわゆる触ってナンボの法則
    • このダブルインパルス(A波+抬起性拍動)は触知するⅣ音+左室肥大を反映する所見で,肥大に伴った心筋コンプライアンスの低下を生じる病態で出現しやすいことが知られている.その代表疾患は肥大型心筋症(自験例)であるが,大動脈弁狭窄に加えて高血圧性心疾患(自験例)などでも認める.

    🍙 独り言
    • 大動脈弁狭窄のような大きな駆出性雑音では耳に(勝手に)フィルターがかかります.音柱の宇髄天元になったつもりで全集中しても,Ⅳ音の有無の判定は困難です(Ⅰ音すら不明瞭 😅)
    • こんな時は聴診にこだわらずに,触診に切り替えてください.指先は超高感度の圧センサーです.二峰性心尖拍動なら触診>舌圧子>視診の順に分かりやすいと思います(個人的感想 😋)
    • 一方,閉塞性肥大型心筋症のⅣ音は,心雑音があっても大動脈弁狭窄より認識しやすいと思います(自験例).雑音の直前に引っ掛かりがあります(これも個人的な感覚ですが 😤)

    松下記念病院 川崎達也)