手クイズ

難治性心不全（ステージD）で低拍出症候群と悪液質の症例

🍧 解説

• 爪床の蒼白とチアノーゼ，手指のうっ滞性チアノーゼ，蒼白な手掌と明瞭な静脈
• 一言で述べると”とても冷たそうな手” ➜ 実際にびっくりするほど冷たかった 😱
• 心不全の治療でこれらの所見は改善し，手の冷感も消失（患者さんも自覚できた）

臨床現場 💦

• 本例は座位で頸静脈はまったく視認できなかった．心不全はコントロールできていると思い安心していたが，手を見て👀触って🙏びっくりした．
• 低拍出症候群の場合は中心静脈圧を下げすぎると前方駆出ができないことを再確認しておく必要がある．おおむね低血圧も必発してくる．
• 本例では利尿薬を大幅に削減して，カテコラミン投与下でβ遮断薬を再導入・漸増した．最終的にカテコラミンから離脱することに成功した．

🉐 関連投稿 ➜ 過去の末梢の投稿（ウェブ版なら画面右の分類からも選択可）
フィジカル　広場　心臓　physical exam examination

（松下記念病院 川崎達也）

再登場：触ってナンボの法則

心電図異常を指摘された無症状の症例

🔗 肥大型心筋症

• 触診では典型的な二峰性の抬起性心尖拍動であった．しかし視診や舌圧子（収縮期に左方移動）では分かりにくい．抬起性拍動は明瞭であるが，その直前にあるatrial kickはあまり伝わらない．
• これも”触ってナンボの法則”が当てはまる．右手の第2〜3指腹を拍動部に当ててみる．ダブルインパルスは肥大型心筋症の特徴であるが，視診で明瞭に認識できる例は決して多くない（自験例）．
• 視診はわずかな色調差の認識は得意であるが，微妙な凹凸の判定は苦手である．一方，指腹は超高精度の圧センサーである．フィジカルをとるときには，視診・聴診・触診をうまく使い分けたい．

🉐 関連投稿（ダブルインパルス編）

• 肥大型心筋症の二峰性心尖拍動
• 心機図
• 心尖拍動クイズ

フィジカル　広場　心臓　physical exam examination

（松下記念病院　川崎達也）

大きなギャップ

増悪する左下腿の浮腫で来院した症例

👾 深部静脈血栓症

• 手術歴や骨盤腫瘍，リンパ節腫脹はなく，血液で炎症反応も僅か ➜ リンパ浮腫や蜂窩織炎は否定的
• 左総腸骨静脈が右総腸骨動脈の背面を通過する部位から血栓が存在 ➜ メイ・ターナー症候群の疑い
• 同症候群の血栓の機序は単なる静脈圧迫ではなく慢性的な動脈拍動による左総腸骨静脈の内膜損傷
• 本例には発症前の長期臥床などの病歴はなかったが，血液素因としてプロテインC欠乏症の合併あり
• 同欠乏症は先天性でも0.1-0.5％と意外に多い（産生と消費のバランスによる後天性も少なくない）

🚑 臨床現場

• 見た目は痛々しく，壊死性筋膜炎やウォーターハウス・フリードリヒセン症候群などの致死性疾患も考慮すべき緊迫した状態．しかしご本人は自覚症状に乏しく，歩きながら笑顔で診察室に入って来られた．ズボンをとって足を見てとてもびっくりした 😱 下肢の左右差以上に，症状と見た目の大きなギャップが印象に残った．

フィジカル　広場　心臓　physical exam examination　身体所見

（松下記念病院 川崎達也）

改良版指輪っかテスト Modified finger-ring test

重症心不全で悪液質の症例

👌 改良版指輪っかテスト陽性

• 指輪っかテスト（finger-ring test）はサルコペニアの有無を判断する簡便なテストで，下腿の最大径部を患者さん自身の母指と示指で作った指の輪っかで囲めれば陽性（以前の投稿）．本動画のように足首から膝下まで指輪っかを移動できるかどうかで判定するとより分かりやすいと思う．

😸 独り言

• 指輪っかテストは下腿の最大径部を指で囲むだけであるが，最大の部位が意外に分かりにくい．しかし，この改良版ならより簡単に判定することができると思う．リハビリテーションの効果をみる方法として患者さんに伝えれば，モチベーション維持に役立つかも．

フィジカル　広場　心臓　physical exam examination

（松下記念病院 川崎達也）

👴 歴史クイズ

(Public Domain)

🍛 マルファン

• フランスの臨床医Antoine Bernard-Jean Marfan（1858–1942）で，特徴的な身体的所見を呈する常染色体優性遺伝の結合組織病（マルファン症候群）を発見した（Bulletins et memoires de la Société medicale des hôspitaux de Paris 1896;13:220–6）．
• ただしその症例（ガブリエルという5歳の少女）は実はマルファン症候群ではなくて，先天性拘縮性くも状指趾症（ビールス症候群）であったと現在では考えられているようである（※）．
  

🉐 関連投稿 ➜ 過去の歴史クイズ（ウェブ版なら画面右の分類からも選択可）
フィジカル　広場　心臓　physical exam examination

（松下記念病院 川崎達也）

😗 これは心電図でいいね！

心電図異常を指摘され紹介受診した無症状の症例

🙇 解説不能（すいません）

• 内頸静脈が不規則に拍動しているため不整脈がありそうです．また仰臥位で外頸静脈が虚脱していないため高度の脱水はなさそうです．でもそれ以上は僕には分かりませんでした．
• 諦めて心電図を確認するとウェンケバッハ型の2度房室ブロックでした（下図）．診断が分かった上で（橈骨動脈を触知しながら）頸静脈をじっくり見直しましたが，やはり理解できませんでした 😂

🐦 トリビア

• 2度房室ブロックの初報はイギリスの医師 John Hay（1873-1959）です． 徐脈を有する65歳男性で，頸静脈波形のa波とc波の関連および動脈拍動から同疾患を診断しています（Lancet 1906;167(4299):139-43）．
• 同報告の3年前（1903年）にはウィレム・アイントホーフェン（Willem Einthoven, 1860-1927）によって心電計が発明されていますが，当時の心電計は巨大で臨床的な普及には時間がかかったと思います．John Hayの歴史的な論文は ココ から全文が読めるので是非ご覧ください．
• その18年後にドイツの医師 Woldemar Mobitz（1889–1951）が2度房室ブロックをMobitz type I（ウェンケバッハ型）とMobitz type IIに分類しました（Zeitschrift für die gesamte experimentelle Medizin volume 1924;41:180–237）．

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（松下記念病院 川崎達也）

心臓番外編パート2

数日前から左耳に違和感（ポコポコという音）を自覚する循環器内科医の外耳道～鼓膜

👂 外耳道異物

• 外耳道に長い毛髪があって，その先端が鼓膜に接している ➜ 鑷子で毛髪を取り除いたら違和感は消失＋再発なし
• 通常は散髪後に多いらしい ➜ 名前はない様子なので勝手にヘアカット後症候群（Post-Haircut Syndrome）と命名
• もっとも本例では散髪後ではなかった（むしろ散髪屋さんに行く少し前）／短髪の男性に多いと思うがデータなし？

🐝 外耳道異物83症例の検討（耳鼻臨床 1998;91:899-904）

• 平均23歳（1～85歳）で10歳未満が46例（55.4%）／有生異物20例（23.5%）, 無生異物65例（76.5%）
• 動物性異物：虫20例（コガネ虫6例, 蛾4例, イモ虫3例. 他に蜂・蜘蛛・蝿など），毛髪2例
• 植物性異物：穂5例，種4例，紙片4例，他に豆類・綿棒の先・米粒・楊子の破片・小ガーゼなど
• 鉱物性異物：玩具の玉19例，玉以外の玩具9例，石5例，他に消しゴム・菓子・ガム・粘土・磁石・香料玉・ゴム製耳栓など
• 異物挿入の自覚あり48例（57.8%）／ 自覚症状あり56例（67.5%）, 自覚症状なし27例（32.5%）／症状は耳痛10例，異物感8例，耳鳴7例など

😅 内緒話

• 実は本例は本ページの管理人です．以前にも経験したことがあって，その時は散髪後でした（まさにヘアカット後症候群）．入浴後などの耳掃除が好きなので，今回は抜けた髪の毛を綿棒で耳奥に押し込んでしまったのかな〜と思っています．
• 今回は毛髪の抜去時に強い痛みを感じました（前回はなし）．症状が出現してから暫く放置しておいたので，毛髪と鼓膜が少し癒着していたのではないかと予想しています．散髪後でないヘアカット後症候群はより重症化することがあるのかも…

👂 耳に関する過去の投稿は コチラ（ウェブ版なら画面右の分類からも選択可）

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（松下記念病院 川崎達也）

🎯 一発診断

心臓リハビリテーション目的に当院を紹介受診した症例（頸部拍動は橈骨拍動に遅れていた）

😺 高度三尖弁逆流を伴う重症心不全

• 橈骨拍動に遅れる頸部拍動 ➜ 頸静脈の拍動（頸動脈拍動なら同時）
• 頸静脈の陽性波 ➜ 高度三尖弁逆流の存在を示唆（ランチージ徴候）
• 外頸静脈の怒張（拍動や呼吸性変動が消失）➜ 重症心不全を示唆

🐹 臨床現場

• 頸部の陽性拍動には頸動脈のコリガン脈（大動脈弁逆流を示唆）と頸静脈のランチージ徴候（三尖弁逆流を示唆）があります．通常は用手圧迫による拍動の消失あるいは拍動の呼吸性変動があれば頸静脈拍動と診断できます．
• しかし本例ではともに認められず，まるで動脈のような力強い拍動でした．このような時には脈拍を取りながら頸部を見ればどちらであるかは鑑別できます．もっとも聴診すれば一発ですが… 😉（ポケット心音）
• 学会や論文でおきまりの表現「頸静脈の怒張なし」は安易に用いる表現ではないと思います（その理由）．しかし本例の外頸静脈はまさしく怒張という表現がぴったりです．また怒張を座位で観察することはとても珍しいと思います．

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（松下記念病院 川崎達也）

📣 心音クイズ：動悸と息切れで来院した症例

👾 解説

• 心房細動時の心音は難解であるが収縮期だけでなく拡張期にも雑音？
• 洞調律時は収縮期駆出性雑音と拡張中期雑音から成る往復雑音である
• 心エコー図は心室中隔中部に肥大を伴う心室中部閉塞性肥大型心筋症
• 収縮期雑音は収縮期に狭小化した心室中部の血流通過音と考えられる
• 拡張期雑音も同部位を通過する急速流入血流音(カラーMモードの矢印)

👶 現場中継　

• 実は本例は心室中部閉塞生肥大型心筋症のため定期受診している患者さん．いつもは洞調律で，拡張期中期に雑音を伴う特徴的な往復雑音であった．眼を閉じると心音や心音図が再現できるほど聴き慣れていた．
• ある日，息切れと動悸を訴えて予約外で来院した時に，聴診してとても驚いた😵心房細動が生じていたことはすぐに分かったが，心音はうまく理解できなかった．いまだに心音図を見ても頭に音が鳴らない…

🉐 関連投稿 ➜ 心音（※ウェブ版なら画面右にあるラベル一覧からも選択可能です）

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（松下記念病院　川崎達也）