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2025-05-29

頚部で動脈拍動と静脈拍動を同時に視認すれば…part 2

息切れで来院した症例(座位)

👼 解説
  • 頚部全体が周期的に隆起(動脈 or 静脈)
  • 下部~上部がほぼ同時の隆起で動脈の疑い
  • 吸気で外頚静脈の怒張(膨隆+拍動なし)
  • クスマウル徴候陽性→右房圧の上昇の疑い
  • 最終的に中等度のARを伴う心不全と診断

👳 独り言
  • 先日,頚部で収縮期に動脈拍動(隆起=コリガン脈)と静脈拍動(陥凹=右房圧の上昇)を同時に視認した高心拍出性の心不全例を経験(ココ
  • 本例は少し違うパターンの動脈拍動と静脈拍動が併存した高心拍出性の心不全です.この2例は一週間ほど間に連続して当科を紹介受診しました.
  • 臨床現場では不思議と「このように稀な症例が続くんだ~」と感じることがあります.しかし実は今まで気づいてなかっただけかもしれません...😅

松下記念病院 川崎達也)

2025-05-26

フィジカルクイズ(No. 5 & 6)

  • 循環器Physical Examination講習会は故・吉川純一先生が2003年に立ち上げられた身体所見に関する研究会です.「生きた physical examination」を体感・習得して,「感動できる」ものにしていきたいと思っています.
  • 2025年4月から毎週金曜日に循環器に関するフィジカルクイズを2題ずつX(旧Twitter)で発信しているので,よろしければフォローしてみてください(@PhysicalExamin1).こちらにも2週分ずつまとめてアップします.



👻「フィジカルクイズ」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

松下記念病院 川崎達也)

2025-05-22

2PとS3の聴き比べ

倦怠感を自覚している症例

😎 解説
  • 第3肋間胸骨左縁(3L)でS2が明瞭に分裂している。健康な成人でもしばしば分裂するが(特に吸気時)、通常は前半(2A、大動脈弁成分)が後半(2P、肺動脈弁成分)よりも大きい。本例のように2Pが2Aよりも大きい場合、肺高血圧が示唆される。肺高血圧で2Pが亢進する機序は、収縮末期に肺動脈と右室間の圧較差が大きくなり肺動脈弁の閉鎖速度および閉鎖後の振動が増加するためと考えられている。本例では心尖部で大きなS3も認め、最終的に拡張型心筋症による左心不全と診断された。
😛 深堀
  • 2Pは高調成分が主体であるため、その聴取には特別な技術は要らない。エルプ領域(2L~3L)で聴診器の膜を用いて評価すればよい。しかし2Pが亢進していると判断するにはある程度の慣れが必要である(英語の疑問文のように上がり調子↗)。S3が鑑別に含まれるが、通常S3は心尖部に限局する低調音で聴診器の膜では聴取できない。また2PとS3は出現するタイミングも異なる(目安:2A-2P間隔は~70ms、2A-S3間隔は100~200ms)。2P亢進とS3が共存する本例で、その音感やタイミング、出現場所の違いを実感して欲しい。繰り返すが聴診のコツは耳で覚えること。お気に入りの曲のイントロと同じ😊

松下記念病院 川崎達也)

2025-05-19

腹部大動脈瘤による重複脈(Dicrotic Pulse)

  • 定義 大動脈瘤に関連し,1心周期中に2つの異なる脈波が発生した状態(収縮期上昇+低い重複切痕+顕著な拡張期上昇)
  • 機序 正常大動脈と大動脈瘤のインピーダンスの急激な変化により、瘤の近位端と遠位端の両方で脈波の反射が発生する
  • 成分 心収縮によって生成される前方脈波および大動脈瘤から反射された後方脈波との相互作用による異常な動脈圧波形
  • 病態 重複脈(または重拍脈)を示す他の病態には重症の心不全や心タンポナーデ、循環血液量減少、敗血症などがある

- 腹部大動脈瘤の66歳男性の術前(左)と術後(右)-


松下記念病院 川崎達也)

2025-05-15

ギャロップ → ギャロップ

呼吸困難感を訴える症例(来院時と治療2週間後)

😎 解説
  • 聴診器のベルを用いて心尖部で聴取される独特の音感に注目して欲しい。これは馬が駆けるリズムに似ることからギャロップ(gallop)と呼ばれ、非代償性心不全を示唆する。特に左側臥位で聴こえやすいが、呼吸困難感が強い時に臥床の体位は難しい。荒い呼吸時や騒がしい救急現場での認識は必ずしも容易ではないが、重症心不全を強く示唆するためその臨床的意義は高い。なお治療2週間後にもギャロップは消失していない。
😛 深堀
  • ギャロップを構成する過剰心音にはS3とS4があり、各々S3ギャロップ(心室性奔馬調)やS4ギャロップ(心房性奔馬調)と呼ばれている。S3とS4が重なる重合奔馬調律やS3とS4を同時に認める四部調律という病態もある。本例は来院時は重合奔馬調律で,2週間後は四部調律と考えられた。心不全の治療に伴い心拍数が低下して,重合奔馬調律が四部調律に変化することは臨床現場でしばしば経験される。

松下記念病院 川崎達也)

2025-05-12

フィジカルクイズ(No. 3 & 4)

  • 循環器Physical Examination講習会は故・吉川純一先生が2003年に立ち上げられた身体所見に関する研究会です.「生きた physical examination」を体感・習得して,「感動できる」ものにしていきたいと思っています.
  • 2025年4月から毎週金曜日に循環器に関するフィジカルクイズを2題ずつX(旧Twitter)で発信しているので,よろしければフォローしてみてください(@PhysicalExamin1).こちらにも2週分ずつまとめてアップします.



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松下記念病院 川崎達也)

2025-05-08

いつもと少し違う拡張期雑音

急に息切れを自覚するようになった症例

😎 解説
  • 拡張期雑音が急速に減弱して,Ⅰ音(S1)の手前で終了している点に注目.急性の大動脈弁逆流症では左室拡張期圧が急激に上昇するため,拡張期雑音が速やかに減弱して拡張早期~中期に終了する.
  • 一方,慢性の大動脈弁逆流症では,雑音が拡張末期(S1)まで持続する(自験例).本例は心エコー図で,右冠尖の逸脱(fenestration破綻の疑い)による急性の大動脈弁逆流(重症)と診断された.
😛 深堀
  • 慢性の大動脈弁逆流では高調成分が主体の穏やかな雑音であるが(自験例),本例のような急性の大動脈弁逆流では低調成分も加わるため荒々しい(harsh)音になることが少なくない.
  • 本例はエルプ領域(3L)で,雑音に埋没するⅡ音肺動脈成分の亢進が疑われた(下図).これは肺高血圧を反映していると思われる.こんなふうに細部にこだわった聴診は面白いと思う.

松下記念病院 川崎達也)

2025-05-05

頚部で動脈拍動と静脈拍動を同時に視認すれば…

下腿浮腫が悪化した症例(座位)

😊 解説
  • 頚部中央に周期的隆起(動脈 or 静脈)
  • よく見ると周期的な二峰性陥凹(矢印)
  • 陥凹は必ず静脈なので頚部中央は動脈!
  • 吸気負荷で陽性波は変化なし(=動脈)
  • 静脈拍動は筋肉の緊張で見えなくなった
  • 最終診断は連合弁膜症の非代償性心不全

💁 コメント
  • 頚部で動脈拍動と静脈拍動を同時に視認すれば,ぜひ時相に注目してください.頚部の隆起時(収縮期)に内頚静脈が陥凹(x谷)しているはずです.そして頚部の隆起の終了後(拡張期)に頚静脈の二つ目の陥凹(y谷)が出現しているはずです.もっとも座位では静脈圧の伝播速度が動脈よりも遅れるためか,本例では少しぎくしゃくした動きになっていますが…
  • 頚部で動脈拍動と静脈拍動を同時に視認すれば,高心拍出性の心不全が疑われます.動脈拍動は大脈であるコリガン脈を示唆し,静脈拍動は右房圧の高度上昇を意味するためです.なお本例では吸気負荷を行っていますが,安静時に拍動を視認すれば,負荷後に見えなくても心不全です

松下記念病院 川崎達也)

2025-05-01

深堀聴診

心雑音を指摘された症例

😎 解説
  • 拡張期すべてに持続する雑音(全拡張期雑音)を認める.本例のような雑音は灌水様あるいは吹鳴すいめい性(blowing)などと表現され,高調成分が主体である(心音図).
  • 急性の大動脈弁逆流では左室拡張期圧が急激に増加するため、逆流音が拡張中期あたりで終了してしまうことが多い.よって本例は慢性の大動脈弁逆流であると判断できる.
😛 深堀
  • 本例ではⅠ音(S1)が分裂しているように聞こえる.その一部は高調成分が主体であるため(心音図),駆出音が疑われた.駆出音は半月弁の開放により生じると考えられ,日常臨床では大動脈二尖弁で有名である(本例は一尖弁).心エコー図を行う前の聴診でこのようなことを考えると,心エコー図の結果をみるのがもっと楽しくなるかも...

松下記念病院 川崎達也)