息切れで来院(座位)
VIDEO
😋 解説
首に貼られたシップ で頚静脈評価は困難?
しかしよく見ると頚部の中央に明瞭な隆起
しかも耳垂直下まで陽性拍動を確認できる
その後の検査で非代償性心不全を確認した
😎
現場実況
本例はシップを見た瞬間に「これでは判定できないな」と安直に考えてしまい,頚部中央の明瞭な拍動に気が付くのに少し時間を要した.頚静脈拍動は用手的に圧迫できる弱い拍動であるが,最重症の陽性波(三尖弁逆流によるランチシ徴候が多い)はかなり力強い.実際に,本例も指で押さえてもなかなか消失しなかった.
本例では動画の途中に大きな呼吸をしていることにも注目して欲しい(吸気負荷は未実施である).このように自発的な大きな呼吸も心不全所見の一つと考えられる(特にコロナ以降のマスク装着時).なお通常呼吸時に耳下まで達する陽性波を呈する頚静脈拍動は,深吸気負荷でさらに悪化することは少ないと思われる.
本例は心電図で右脚ブロック+左軸偏位+ウェンケバッハ型2度房室ブロックであった(三枝ブロックならぬ四枝ブロック?😁).心電図検査後にもう一度,頚静脈拍動を見直したが,ウェンケバッハ型2度房室ブロックとは自信をもっては言えなかった(反省:同様の過去の経験 ).理論的にはほとんどすべての不整脈は,頚静脈+頚動脈所見(または橈骨動脈触知)で鑑別できるのだが…(匠の業 )
大動脈弁逆流症による大脈のため膝窩動脈が過度に拍動して下肢が周期的に動く現象
同疾患で頭部が心拍に一致し前後にゆれるド・ミュッセ徴候 (de Musset sign)の足版
命名はこの所見を示した第16代アメリカ合衆国の大統領
Abraham Lincoln (1809-1865)
1863年にガードナーが有名な写真 ビッグフット を撮影し左足のぼやけを指摘(下図)
ジャーナリストのブルックスが膝窩動脈の拍動で脚が僅かに動いた可能性を提唱した
1961年医師ゴードンが身体的特徴からリンカーンはマルファン症候群であったと推測
1964年シュワルツは彼のマルファン症候群の特徴に関する更なる系譜学的証拠を提示
💀
追加コメント
リンカーンがマルファン症候群であったかどうかは今もって不明だそうです(DNAは未公表).著名な遺伝学者ビクター・マキュージックは、その確率を50:50としています(Nature 1991;352:279-81 ).ちなみに彼は暗殺された初めての米大統領です.
本徴候は膝をうまく組んで(体側の膝の真上に膝窩動脈),下肢の力を抜くよう指導など,一定の条件を満たさないと出現しないと予想します.以前に大動脈弁逆流での足背動脈のコリガン脈を記録したことがありますが,とても微妙な所見でした(ココ )
骨シンチグラフィにもリンカーン徴候と呼ばれる所見があるようです.下顎骨への核種の取り込みが過剰に亢進した(まるで黒ひげ)状態で,SAPHO症候群 や骨パジェット病,悪性腫瘍転移,薬剤性顎骨壊死,副甲状腺機能亢進症などで認めるようです.
下腿浮腫で来院した大動脈弁置換術後例(座位)
VIDEO
😋 解説
安静座位で頚部中央に陥凹を認める
深吸気の負荷で一見、拍動が消失?
よく見ると顎下に明瞭な陥凹(矢印)
非代償性心不全と考え利尿薬を追加
😎
コメント
心不全の「シンプル頚静脈© 」は,拍動を視認するか否かの定性法ですが,慣れてくれば定量法にも挑戦してみてください. 本例は中心静脈圧(≒右房圧)の上昇が中等症~重症の心不全と判定できるでしょうか.大まかな目安は下表をご参考に💁
軽症
中等症
重症
拍動の上縁
鎖骨上窩
頚部中央
顎下
負荷の有無
吸気保持で早期のみ拍動
吸気保持で拍動持続
安静時に拍動
拍動の様式
二峰性の陥凹
一峰性の陥凹
隆起
循環器Physical Examination講習会 は故・吉川純一先生が2003年に立ち上げられた身体所見に関する研究会です.「生きた
physical
examination」を体感・習得して,「感動できる」ものにしていきたいと思っています.
2025年4月から毎週金曜日に循環器に関するフィジカルクイズを2題ずつX(旧Twitter)で発信しているので,よろしければフォローしてみてください(@PhysicalExamin1 ).こちらにも2週分ずつまとめてアップします.
👻「フィジカルクイズ」の過去の投稿は
コチラ (PC版なら画面右の分類からも選択可)
健診で心雑音を指摘された症例
VIDEO
😎 解説
心尖部で収縮期雑音を聴取する
Ⅱ音(S2)不明瞭で逆流性雑音
右鎖骨(上)では雑音は不明瞭
心エコーで僧帽弁逆流を認めた
😛
追加コメント
大動脈弁狭窄の収縮期駆出性雑音と異なり(自験例)、僧帽弁逆流の雑音は鎖骨にあまり放散しない。息止めをしない聴診では、呼吸音に埋もれて雑音を認識することが難しい。是非ASとの鑑別に利用したい。
MRでは逆流性雑音がⅡ音を超えるため、Ⅱ音の認識が困難になる。ただしこの原則は心尖部では当てはまるが、肺動脈弁領域ではあてにならない。その理由はⅡ音の肺動脈成分(2P)を聴取するためである。
心電図異常+労作時の息切れ(座位)
VIDEO
👼 解説
安静呼吸時には頚部に拍動を視認せず
ただし稀に陽性波? ➜ キャノンa波 ?
深吸気保持で陽性波が連続出現(矢印)
脈触診併用で同波は収縮期直前(a波)
本例の最終診断は両心室肥大型心筋症
👳
独り言
肥大型心筋症ではa波が明瞭になることが多いと思います.当院の研究 でも7割以上の症例でa波を視認しています.ただしこの数値は臥床 であって(典型的な自験例 ),座位 でa波を認める症例は10%にすぎません.座位のa波視認は,HCMのフィジカル診断に対して感度10%ながら特異度は100%
座位でa波を認める他疾患は3度房室ブロック(自験例 )や期外収縮(自験例 )によるキャノンa波 です.その機序は右房収縮時に三尖弁が閉鎖しているためです(この場合はa波が規則正しく出現しないので視診でも鑑別可能).三尖弁狭窄では規則正しいa波ですが超稀(腫瘍による類似病態の自験例 )
HCMでa波が目立つ機序は右房の後負荷増大(≒右室のコンプライアンス低下)です.よって右室肥大を有する肥大型心筋症ではa波が目立ちやすい と思います(左室肥大のみでもベルンハイム効果 のため右室コンプライアンスは低下).右室肥大を伴うHCMの頻度は1~2%と稀ですが(PLoS One 2017;12:e0174118 ),ぜひ右心系HCMのフィジカル診断に挑戦してみてください.
健診で心雑音を指摘された症例
VIDEO
😎 解説
心尖部で収縮期の雑音を聴取
Ⅱ音(S2)明瞭で駆出性雑音
右鎖骨(上)でも雑音は明瞭
心エコーで大動脈弁狭窄あり
😛
追加コメント
大動脈弁狭窄の収縮期駆出性雑音は鎖骨や頚部に放散する(ことが多い)。頚部は呼吸止めをしないと聴診が難しいが、鎖骨では息止めは不要。呼吸音にかき消されない大きな雑音があればASが多い。
やり方は聴診器の膜部を鎖骨上にのせるだけ(左右どちらでもOK)。MR雑音では鎖骨への放散が小さいため(雑音が呼吸音に埋もれる)、両者の鑑別に役立つ。ちなみに本例では大きなⅣ音あり。
循環器Physical Examination講習会 は故・吉川純一先生が2003年に立ち上げられた身体所見に関する研究会です.「生きた
physical
examination」を体感・習得して,「感動できる」ものにしていきたいと思っています.
2025年4月から毎週金曜日に循環器に関するフィジカルクイズを2題ずつX(旧Twitter)で発信しているので,よろしければフォローしてみてください(@PhysicalExamin1 ).こちらにも2週分ずつまとめてアップします.
👻「フィジカルクイズ」の過去の投稿は
コチラ (PC版なら画面右の分類からも選択可)
心不全で通院中の症例(座位)
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😋 解説
安静で頚部に拍動なし(重症心不全なし)
深吸気負荷で鎖骨上窩に拍動出現(矢印)
深吸気を保持したが拍動は速やかに消失
本例はHFpEFで症状は長年安定している
😎
コメント
心不全の「シンプル頚静脈© 」では,拍動を視認するか否かの定性法を採用しています.しかし拍動上縁の位置を考慮した半定量評価も可能です(鎖骨上窩=軽症,頚部中央=中等症,顎下=重症:過去の投稿 )
上記の位置に基づく半定量法に加えて,本例のように拍動の持続時間を考慮した半定量法も可能です.つまり安静時に拍動=重症,深吸気後に拍動持続=中等症,深吸気持続で早期のみ拍動=軽症 (本例)です.