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2024-12-30

外頚静脈も大切です

息切れで来院した症例

😐 解説
  • 外頚静脈の隆起が明瞭(ほぼ怒張)
  • 深吸気負荷後は拍動が出現(矢印)
  • 心エコーで心膜液貯留+右心虚脱
  • 心膜液のドレナージを実施(血清)
😀 追加コメント
  • 心不全で重視すべきは内頚静脈で,この場合は怒張という表現は避けるべきです(内頚静脈の怒張→循環停止→死亡).しかし心タンポナーデや緊張性気胸など特殊な病態に対して,外頚静脈の怒張はいまだ有効な身体所見です.
  • 重症の心タンポナーデでは吸気負荷でも外頚静脈の怒張は消失しないことが多いと思います(むしろ悪化:自験例).しかし本例のように軽症例(血圧低下が僅かで頻脈も目立たない)では,吸気負荷で怒張は解除されるようです.
  • 本例の症状は息切れで右心不全よりも左心不全が疑われました.頚部をよくよく観察すると,顎下~頚部中央の皮膚面全体的が拍動していることに気がつきます(きっと内頚静脈の拍動).おまけ 😙 耳垂にフランク徴候もあり

👉 心タンポナーデに関するの過去の投稿は コチラ(PC版なら右下欄から選択可能)

松下記念病院 川崎達也)

2024-12-26

Ehlers–Danlos syndrome エーラス・ダンロス症候群

エーラスダンロス症候群に関する論文が先日,出版されました(Med Genet 2024 Dec 3;36:225-234).図鑑のような体裁で臨床医にはとても分かりやすいと感じました.本ページでも取り上げておきます(全文がネットで読めます)

💚 抄録訳
  • 単一遺伝子性エーラスダンロス症候群(EDS)は、関節過可動性、皮膚過伸展性および/または脆弱性、および全身組織脆弱性を臨床的に特徴とする遺伝性結合組織疾患のグループです。現在、単一遺伝子性EDSタイプの診断を確定するためのゴールドスタンダードは、大規模並列シーケンシングによる遺伝子パネル検査です。遺伝子検査の可能性は大きく進歩しているものの、病歴、家族歴、身体検査を含む徹底した臨床評価が診断プロセスにおいて依然として重要であるため、私たちは、単一遺伝子性EDSタイプの臨床的特徴(の組み合わせ)をテキストと写真で報告し、臨床診断に役立てることを目指しています。さらに、分子診断が不可能な場合でも、臨床診断によって管理と監視を導くことができます。



- 骨格筋の特徴 -



- 皮膚の特徴 -



- その他の臨床的特徴 -

💙 命名までの遍歴
  • エーラス・ダンロス症候群という名称は,オランダの皮膚科医 Edvard Laurits Ehlers (1863-1937) とフランスの皮膚科医 Henri-Alexandre Danlos (1844-1912) に由来しています.しかしヒポクラテスは紀元前400年にこの疾患の特徴に言及し,van Meek'ren が1682年に医学的記述を残しています.1892年には Tschernogubow が発表していますが,ロシア語だったためか西ヨーロッパではほとんど見過ごされたようです.そして1901年と1908年にそれぞれ影響を受けた患者を記述した Ehlers と Danlos にちなんで,1936年に Weber がこの疾患を Ehlers–Danlos syndrome(EDS)と命名したようです.


👉 エーラス・ダンロス症候群に関するの過去の投稿は コチラ

松下記念病院 川崎達也)

2024-12-23

第21回 循環器Physical Examination講習会より


循環器Physical Examination講習会は故・吉川純一先生が2003年に立ち上げられた身体所見に関する研究会です。「生きた physical examination」を体感・習得して、「感動できる」ものにしていきたいと思っています。毎週情報発信をしているので,よければSNSでフォローしてみてください.


👻「フィジカル講習会」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

松下記念病院 川崎達也)

2024-12-19

ブルブルブル

数日前から動悸が持続する症例

🐝 ハミングバード徴候
  • 吸気時に拍動があり?(呼気時なし)
  • 深吸気で内頚静脈の早い拍動が明瞭
  • 左上肢挙上で拍動明瞭化+上縁上昇
  • 最終診断は2:1伝導の心房頻拍(PAT)
  • 再発だったので後日アブレーション

 🐦 追加コメント
  • 本例は発症数日で来院されたため心不全には至っていませんでした.しかしこの状態が2週間ほど持続すると頻拍誘発性心筋症から心不全になります.その時には中心静脈圧が上昇するので安静時でもハミングバード徴候(フロッグ徴候の亜型)が明瞭に観察できると思います(自験例
  • 初期のハミングバード徴候(Hummingbird sign)を見逃さないためにも頻脈を呈する症例では負荷頚静脈評価が重要です.本例では左上肢挙上の方が,深吸気時より拍動が明瞭でした.もっとも負荷前でも吸気時には拍動が見えますが...(今回はすぐ気付きました 😤 プチ自慢)

松下記念病院 川崎達也)

2024-12-16

第21回 循環器Physical Examination講習会より


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松下記念病院 川崎達也)

2024-12-12

今週の一枚 🎯

心不全でフォロー中の男性(他科でホルモン治療中)



松下記念病院 川崎)

2024-12-09

第21回 循環器Physical Examination講習会より


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松下記念病院 川崎達也)

2024-12-05

負荷で改善しているわけではないと思います

弁置換術後の症例(座位)

💧 解説
  • 座位で頚部中央に明瞭な拍動を視認する
  • 陥凹なので静脈拍動 ➜ 非代償性心不全
  • 深吸気負荷で胸鎖乳突筋が明瞭になった
  • それと同時に内頚静脈の拍動は不明瞭に
  • BNP:前回172 pg/ml ➜ 今回305 pg/ml
  • 過労回避と減塩指導で早めのフォローへ

💦 個人的見解
  • 吸気時には胸腔内圧が陰圧になるため,健常者では中心静脈圧が低下します.しかし安静座位で内頚静脈の拍動を視認できるほど中心静脈圧の症状した症例(例えば15 cm水柱 or 11 mmHg以上)では,その圧が正常化することはほぼないと思います.実際に圧の測定はしていませんが,頚静脈所見はほぼ悪化します(拍動上縁の上昇あるいは拍動パターンの変化[陥凹から隆起など])
  • しかし日々の臨床では,吸気負荷で内頚静脈の拍動が逆に不明瞭になる症例に稀ながら遭遇します.本例のように吸気という動作に伴い胸鎖乳突筋が明瞭になることもその一つの理由かと思います.内頚静脈は深部静脈であるがため,胸鎖乳突筋を介した皮膚面の拍動で認識する必要があります.胸鎖乳突筋が緊張すると深部の拍動を認識しにくくなるということは容易に理解できます.
  • そもそも論として「安静時に座位で内頚静脈の拍動を認める症例には負荷が必要なのか?」という問題があります.頚静脈評価の普及を願って作成したアプリ「シンプル頚静脈©」では,安静時に陽性なら負荷は不要と謳っています.負荷で重症度を細分化したいとの想いは分かりますが簡便な半定量評価で十分なのかもしれません(例えば3分割法:拍動上縁が鎖骨上窩・頚部中央・顎下)

松下記念病院 川崎達也)

2024-12-02

心不全の身体所見

  • 心不全の本体は左室充満圧の上昇(左室拡張末期圧ではない)あるいは左房圧の上昇と理解できます.よって肺動脈楔入圧(pulmonary capillary wedge pressure: PCWP)と強い関連を有する指標が心不全管理には有用です.
  • どうやら身体所見(自覚症状を含む)の中では頸静脈の膨隆(≠怒張/回避したい用語)が一番強い関連だったようです.これは個人的な肌感覚にも合っているかなと思います(もっともPCWPは滅多に測定していませんが...)

👀 おまけ
  • 上記論文はDr. Mark Draznerのグループからの報告です.ドレズナー先生はテキサス大学サウスウェスタン医療センターの内科教授で,心臓病学の臨床主任です.
  • 専門は心臓移植を含む重症心不全の治療などと思われます.特に心不全症例での右房圧と左房圧の関係では他の追随を許さない程の業績を挙げられています.
  • ただしX(旧Twitter)ではフォロワーが3,112名と寂しい限りです.あまり発言されていませんが... 2017年3月から計765ポストで,最近では月に一回くらい
Xより(@MarkDrazner

松下記念病院 川崎達也)

2024-11-28

パワフルな静脈拍動

息切れで来院した症例

🐣 解説
  • 右側に加えて左側にも拍動あり
  • ただし拍動は陥凹なので静脈性
  • 吸気負荷で隆起に変化(矢印)
  • 呼吸変動の存在も静脈性に合致
  • しかし用手的圧迫では消失せず
  • 最終的な診断は非代償性心不全

🐥 呟き
  • 頚部拍動には動脈性と静脈性があります.静脈性を示唆する所見としては右側優位,陥凹パターン,呼吸変動あり,圧迫で消失などがあります.逆に動脈性なら,左側でも明瞭,隆起パターン,呼吸変化なし,圧迫されずなどです.
  • 本例では右側に加えて左側でも拍動が目立ちましたが,陥凹パターンで呼吸負荷による変化も伴っていたため視診だけで静脈性(内頚静脈)と診断できました.しかし強めの拍動で圧迫にも負けないチカラ強さには驚きました 😮
  • 右側では稀ながらパワフルな静脈拍動を経験しますが,左側では珍しいと思います.通常このような症例では座位であっても外頸静脈が怒張(注意を要する用語:過去の投稿)していることが多いのですが(自験例)... 奥深い

松下記念病院 川崎)

2024-11-25

第21回 循環器Physical Examination講習会より


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松下記念病院 川崎達也)

2024-11-21

たかがリックサック,されど...

慢性左心不全例の定期受診

👜 解説
  • リックサックを背負い診察室に入室(前半)
  • 鎖骨上窩に僅かながら陥凹を認めた(矢印)
  • リックサックを下ろすと拍動は消失(後半)
  • 問診で無理すると息切れがあることが判明

🍙 追加コメント
  • 本例は持続性心房細動を伴うHFpEF症例で,安定期でもBNP値は500 pg/ml前後と高値.リックサックを背負うという行動は仕事であると同時に,静脈の圧迫で血流を変えている可能性あり?
  • 本例がリックサックをして来院したのは初めてなのでそれとなく聞いてみた.すると診察後にお米を買ってリックサックにいれて帰る予定であることが判明.それはオススメしないと伝えた.

松下記念病院 川崎達也)

2024-11-18

運動誘発肺胞出血
Exercise-induced pulmonary hemorrhage (EIPH)

  • 競走馬で有名な病態でレース後は半数以上に出現する
  • 重症例ではレース後のサラブレットで鼻出血を認める
  • 馬は運動でRAP>60mmHg,PCWP>70mmHgに達する
  • ただしEIPHの有無でRAPやPCWPには有意差なし(下図)
  • 予防にはフロセミドが有効(ただし日本では禁止薬物)
  • ヒトでもマラソンなどを契機に発症例の報告あり(

サラブレッド馬の内視鏡的評価(トレーニング終了60分後)

- 競走馬の負荷中の心内圧 -

😋 独り言
  • 先日の心不全学会での講演(杉本匡史先生)で知った病態です.とても興味深かったため調べてみました.こんなにも高圧になった時の頚静脈拍動ってどんなんだろう? 動脈との鑑別は容易ではないと予想します.
  • でもさすがサラブレット 🐎 あらゆる点でヒトとは比べ物にならない循環系でしょうか.だから運動耐容能も桁違いです.健常若者 11.4 METs,オリンピック選手 22.8 METs,サラブレット 57 METs(以前の投稿)

松下記念病院 川崎達也)

2024-11-14

キャノンは見えずとも...

ふらつきを訴える症例

🚑 現場実況
  • 本例は前医の心電図を持参されていたため,診察時には3度房室ブロックが既に分かっていました.さっそく大砲A波(Cannon a wave)を確認しようとしましたが,予想に反してあまりはっきりしません.
  • そこで吸気負荷(前負荷増大)を行ってみました.すると頚部がみるみる膨らんできて(通常のクスマウル徴候よりもはるかに大)ちょっとびっくり 😧 患者さんも苦悶の表情だったので慌てて負荷を解除

 👽 つぶやき
  • 本例でキャノン波が不明瞭であった理由は不明ですが,やはり心房機能の低下でしょうか(特にブースター機能>リザーバー機能の障害?)
  • 完全房室ブロックになると,通常では聞こえないような小さいⅣ音が認識できることが少なくありません(Ⅰ音と分離するため:自験例).
  • しかし本例ではⅣ音は聴取されませんでした(心房の機能低下に合致).心房細動の既往はありませんが,将来発生する確率が高いかも...

松下記念病院 川崎達也)

2024-11-11

第21回 循環器Physical Examination講習会より


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松下記念病院 川崎達也)

2024-11-07

心音クイズ(Q5・Q6)

  • 持田製薬さんと作成している心音クイズの第三弾です(GROUP T inc.さんにも感謝 🙏).今回は拡張期雑音を呈した2症例で,5領域(2R, 2L, 3L, 4L, 心尖部)の心音+2領域の心音図です.心音の高みを目指してかなり攻めてみました.
  • 今後も3ヵ月毎に2症例ずつアップする予定です(次回は2025年1月の予定).無料なのでよろしければご覧ください(※Q3以降は簡単な登録が必要).一緒に聴診学の楽しさと奥深さを共有できれば作成者としては嬉しい限りです 😁


松下記念病院 川崎達也)

2024-11-04

👴 歴史クイズ

CC BY 4.0



松下記念病院 川崎達也)

2024-10-31

ベンドニア Bendopnea 

前かがみが苦しいと訴える緻密化障害例

🐤 前屈時呼吸困難症
  • 安静座位で鎖骨上に頸静脈の拍動なし
  • 吸気負荷を追加したが拍動は出現せず
  • 前屈位で頚静脈の拍動が出現(矢印)
  • それと同時に主訴の苦しさが出現した
🐥 系統的レビュー(6研究/891名)
  • ベンドプネアは呼吸困難 [オッズ比(OR)69.70(17.35-280.07); p <0.001],起座呼吸 [OR 3.02(2.02-4.52); p <0.001],発作性夜間呼吸困難 [OR 2.76(1.76-4.32); p <0.001],腹部膨満感 [OR 7.50(4.15-13.58); p <0.001] と関連
  • ニューヨーク心臓協会(NYHA)機能クラスIVは.ベンドプネア患者でより多く [OR 7.58(4.35-13.22); p <0.001],下図の様に死亡率の上昇とも関連 [OR 2.21(1.34-3.66); p <0.002].2つの研究では頸静脈圧の上昇とも関連あり.


松下記念病院 川崎達也)

2024-10-28

第21回 循環器Physical Examination講習会より


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松下記念病院 川崎達也)

2024-10-24

頻脈は止めたいが...

動悸を訴える症例(モニター音に注目

😎 解説
  • 座位で鎖骨上に周期の短い陥凹(外頚静脈)
  • モニター音と拍動が一致(陥凹は多分 x谷
  • 吸気負荷で静脈膨隆(クスマウル徴候陽性)
  • 突然生じた動悸が約2週間持続していた様子
  • 本例の最終診断は頻脈の持続による心不全
😑 独り言
  • PSVTなど頻脈性不整脈を停止すること自体はそれほど難しいことはありません.しかし本例のように頻脈誘発性心筋症などから心不全に至った例には注意が必要です.徐脈化に伴い血行動態が破綻することがあります(ショックに陥った自験例あり).
  • よって本例のように中心静脈圧の上昇が疑われる症例(座位で頚静脈視認あるいはクスマウル徴候陽性など)では不整脈の停止よりも心不全加療が優先されると思われます.もちろん類似した頻脈の心房粗動などでは左房血栓の有無の検索も重要です.
  • 頚静脈拍動から各種不整脈の診断は可能です(a波=P波,x谷=収縮期など:過去の報告).ただし頻脈時にはフロック・サインを除き不整脈の鑑別は容易ではありません.むしろ中心静脈圧上昇の有無に注視してもいいように個人的には思っています 😐

松下記念病院 川崎達也)

2024-10-21

S3:ASとMR

  • 先日の学会(フィジカル教育セッション)で大動脈弁狭窄(AS)ではⅢ音(S3)があまり聴取されないことを知りました.演者の施設では40余例でS3は1例のみでした.同様の結果を示す論文(下図左)も提示されていました.あまり考えたことはなかったのですが,確かに心不全を発症したASでS3を耳にした記憶は乏しいかもしれません.
  • やはりS3といえば僧帽弁逆流(MR)でしょうか.その重症度に伴ってS3の頻度は増加する様です(下図右).ただし発表の結論の一つに「MRではS3を認めても必ずしも左房圧が上昇しているとは限らない」というものがありました.また「HFrEFではS3の大きさとPAWP値と相関する」とも述べられていました.とても勉強になります.
  • 座長をされていた先生(フィジカルの匠)が興味深い表現をされていました.思い出せる範囲で記録しておきます.「S3はバチと太鼓の関係です.バチが鋭く太鼓の皮が薄いほど響く.つまり左室の急速流入血(E波)が高くて左室肥大がないMRでは出現しやすい.一方,ASではバチは鋭くないし,おまけに太鼓の皮もぶ厚い」 なるほどです😐

- 弁膜症とS3の頻度 -

松下記念病院 川崎達也)

2024-10-17

本人・家族も一緒に

慢性左心不全の高齢者

💙 解説
  • 3ヵ月ぶりの受診でご本人は変わりないと述べた
  • 安静座位で頸部に明らかな拍動は認められない
  • しかし吸気時には鎖骨上窩に陥凹が出現(矢頭)
  • 吸気保持を解除した後には拍動は消失している
  • 採血でBNPは前値197から362に上昇していた

😶 独り言
  • 本例には明らかな息切れはなかったが,中心静脈圧は少し上昇していると考えられる.このような場合,安易な利尿薬投与は慎みたいかも...特に高齢者で今回のような夏場では容易に脱水.減塩指導も有効であるが食欲低下のリスクもある.
  • どういう対応が正解かは分からないが,ご本人と付き添いの娘さんに心不全の増悪が疑われることをお伝えた.次回予約を早めるのと同時に,撮影した動画を見ていただき増悪時(特に安静座位で出現時)には早期受診していただくよう指導

松下記念病院 川崎達也)

2024-10-14

第21回 循環器Physical Examination講習会より


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松下記念病院 川崎達也)

2024-10-10

広義の耳ウインク・サイン

慢性心不全増悪で入院中の症例(座位)

👿 解説
  • 頸部に明瞭な拍動(陥凹ではなく隆起)を視認する
  • 下から上への緩徐な陽性波 ➜ 静脈性(ランチシ徴候)
  • 外頚より内頚静脈の拍動上縁が高い(内頚を信頼!)
  • 左上肢の挙上に伴い内頸静脈の拍動上縁は上昇
  • 耳垂に揺れはないがその背面には拍動あり(矢印)
  • 本例の心エコー図は重症の三尖弁逆流+肺高血圧

💀 広義の耳ウインクサイン
  • 狭義の winking earlobe sign といえば耳たぶの揺れが必要です(英語の文言通り).でも本例のように耳朶後方の皮膚面が拍動していれば広義の耳ウインクサインとしてもいいと思います.
  • 本例には明瞭な三尖弁逆流がありました.しかし三尖弁逆流がほとんどないにも関わらず,明瞭な内頸静脈の陽性波を認めることが少なからずあります.特に開心術後の症例に多く経験します.
  • 心臓病診断学の実際(吉川純一著)には,その機序として「心膜の閉鎖にからんだ三尖弁輪下降の制限」が提案されています.左心膜完全欠損でも同様の所見が観察されると記載されています.
  • 個人的には,静脈コンンプライアンスの低下あるいは静脈キャパシティーの限界を反映している症例も散見されるのではと思います.よってv波が容易に圧上昇につながるのではないのかな~😐

🉐 上肢挙上負荷の過去投稿 ➜ コチラ

松下記念病院 川崎達也)

2024-10-07

シンプル頚静脈© Simple JVP©

  • 頚静脈評価が心不全管理に役立つことは疑いありませんが,あまり現場では活用されていません.その大きな理由に複雑な方法論の問題があると思われます.本邦のガイドラインには「45度の半座位で内頸静脈の拍動上縁と胸骨角の垂直距離が3cm以上で静脈圧上昇」と記載されています.しかし臨床現場では患者さんに45度の半座位という姿勢をとってもらうことは容易ではありません.さらに内頸静脈は深部静脈であるため,その拍動上縁を見極めることも難しいと思われます.
  • 当院では頚静脈のシンプルな評価方法を追求してきました.まぁこれ位でいいかな〜という段階に達したので,その手法を「シンプルJVP」としてアプリ化(WEB版)してみました.ポイントは,座位の姿勢で頸静脈拍動が視認できるか否かの定性法です.そして軽度〜中等度の中心静脈圧上昇を見逃さないために各種負荷を併用します.当院では患者さん自身やそのご家族にも活用していただいています.将来,ガイドラインに記載されたらすてきだな〜なんて思っています 😊

(シンプルJVP:日本語版 / English edition

松下記念病院 川崎達也)

2024-10-03

偽クスマウル徴候②

脳神経内科に通院中の症例(以前と同一症例

😗 解説
  1. 安静時には頚静脈の拍動を座位で視認せず
  2. 吸気後での胸鎖乳突筋の萎縮に注目(矢印)
  3. その後は外頚静脈が視認可能である(矢頭)
  4. 本例はBNPと心エコーも正常で心不全なし
  5. 診断は筋強直性(筋緊張性)ジストロフィー

👥 偽クスマウル徴候
  • 胸鎖乳突筋が目立つことによる偽クスマウル徴候の症例は経験済みです(安静時吸気後).ただし筋肉は拍動しないのでその鑑別は容易と思われます.
  • 今回,胸鎖乳突筋が萎縮する病態でも偽クスマウル徴候が出現することを初めて知りました.こちらは実際の静脈なので拍動があり,触診でも静脈です.
  • 本例はクスマウル徴候が陽性から心不全(≠重症)と誤診される可能性があります.その意味でも筋萎縮による偽クスマウル徴候を覚えておきたいです.

松下記念病院 川崎)

2024-09-30

第21回 循環器Physical Examination講習会より


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松下記念病院 川崎達也)

2024-09-26

今更かも...

右側の血圧は下肢>上肢なのにABIは低下?


👲 ABI測定(オシロメトリック法)
  • 分子は左右各々の足関節の収縮期血圧
  • 分母は左右高い方の上肢の収縮期血圧
  • 右ABI=131(右足)/149 (腕)=0.88
  • 左ABI=117(右足)/149 (左腕)=0.79
👳 コメント
  • 実は「ABIはの上腕-足関節-血圧比,ABIはの上腕-足関節-血圧比」と思っていました.よってレポートの血圧値を見ながら「右ABIがなんで低値なんだろう?」といまさらながら思ってしまいました.
  • 生理検査室のスタッフに聞いたら,これはABIあるあるだそうです.「よく勘違いされています」と笑いながら教えてくれました.ちなみにCAVIの計算方法も教えてもらいましたが,これは複雑すぎて断念 😓
  • 本例の様に上肢血圧の左右差が10 mmHg以上ならば鎖骨下動脈狭窄の可能性があります.ざっくりとした目安は正常(~10),要注意(10~20),病的(20~).本例は自覚症状なく未精査ですが…

松下記念病院 川崎達也)

2024-09-23

心音クイズ(Q3・Q4)

  • 持田製薬さんと作成している心音クイズの第二弾です(GROUP T inc.さんにも感謝 🙏).今回は過剰心音を呈した2症例で,5領域(2R, 2L, 3L, 4L, 心尖部)の実際の心音+2領域の心音図です.前回同様,基本解説と踏み込んだコメントです.
  • 今後も3ヵ月毎に2症例ずつアップする予定です(次回は2024年10月の予定).無料なのでよろしければ是非ご覧ください(ただしQ3・Q4以降は簡単な登録が必要).一緒に聴診学の高みを目指せれば作成者としては嬉しい限りです 😁


松下記念病院 川崎達也)

2024-09-19

今週の一枚 🎯

検診でNT-proBNP上昇を指摘された症例



松下記念病院 川崎)

2024-09-16

第21回 循環器Physical Examination講習会より


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松下記念病院 川崎達也)

2024-09-12

循環器と無関係ではありません

脳神経内科に通院中の症例

👤 解説
  1. 前半:握った手がすぐには開かない(grip myotonia)
  2. 後半:母指球の叩打で筋強直(percussion myotonia)
  3. 本症例の診断は筋強直性(筋緊張性)ジストロフィー

👥 頚静脈評価に要注意
  • 呼吸調節筋の障害や骨格筋の萎縮で息切れを生じることがあります.心不全の有無を判定するため頚静脈拍動を確認しますが,同疾患では胸鎖乳突筋も萎縮することを認識しておく必要があります.
  • 本例でもまるで腱(あるいはスジ?)のような胸鎖乳突筋でした(下図,矢印).このような状況では通常よりもはるかに内頚静脈の拍動が見やすくなるため,心不全と誤認する可能性があります.

松下記念病院 川崎)

2024-09-09

聴診器 四方山話

  • 手持ち聴診器の一つ,ステレオタイプのベル部分のゴムが劣化で以前からひび割れていました(上図左).そして先日,ついに断裂してはずれてしまいました(上図右).するとどうでしょう(🎼 大改造!!劇的ビフォーアフターのノリ),とてもよく聞こえるようになりました(個人的感想).まるでウェルチアレン社のハーベーDLX(もともとベルにゴムが付いていない)レベルです(あくまでも個人的感想).

👽 つぶやき
  • かってヒューレット・パッカード社(hp)のブランドでラパポート・スプラーグ聴診器が販売されていました.史上最高の聴診器とも評されていましたが,企業部門の売却などを経て2005年に販売終了になりました.
  • その後に日本のケンツメディコがラパポート型の聴診器復刻版を販売するようになりました.私もさっそく購入しましたが,オリジナルのhp版を手に入れたいと願っているマニアの先生方も少なくないと思います.
  • 先日オリジナルを販売しているページを見つけました(下記写真).しかもなんと3万以下 😱 すぐに申し込んで指示通り振り込みも行いましたが,その後はご想像通り音信不通です.皆様も気を付けてください 😭

松下記念病院 川崎達也)

2024-09-05

動脈と静脈の共演

息切れで来院した症例(端座位)

🐤 解説
  • 座位で周期的隆起あり(矢頭)➜ 動脈性?
  • 外頚静脈は視認できるが拍動なく評価保留
  • その内側はピクピクと僅かに陥凹 ➜ 静脈?
  • 吸気で隆起性拍動に変化なし ➜ 動脈確定
  • 外頚静脈の虚脱なし ➜ 広義クスマウル陽性
  • 陥凹は深吸気でより明瞭+上縁上昇(矢印)
  • 最終診断は弁膜症を伴った高拍出性心不全
🐥 現場実況
  • 自己紹介を済ませて病歴聴取をしていると,やたらと忙しい頚部に眼がクギ付けになりました.しかし動静脈鑑別のための触診は今しばらくグッと我慢.身体所見の確認中に待ちかねたように呼吸負荷を行なった次第です.
  • 頚動脈と頚静脈の鑑別には,①触診による拍動の強さ,②呼吸性変動の有無,③脈触知を併用した時相判定,④圧迫による消失の有無などがあります(過去の投稿).しかし触れずに診断がフィジカルの高みでしょうか?

松下記念病院 川崎達也)

2024-09-02

第21回 循環器Physical Examination講習会より


循環器Physical Examination講習会は故・吉川純一先生が2003年に立ち上げられた身体所見に関する研究会です。「生きた physical examination」を体感・習得して、「感動できる」ものにしていきたいと思っています。毎週情報発信をしているので,よければSNSでフォローしてみてください.


👻「フィジカル講習会」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

松下記念病院 川崎達也)

2024-08-29

今週の一枚 🎯

利尿薬抵抗性の下腿浮腫を訴える症例

✋ 末梢表在静脈の怒張
  • 机上で手背静脈が怒張 ➜ 中心静脈圧上昇?
  • ただし第二関節(PIP関節)に皺 ➜ 脱水?
  • 挙上(心臓より上)で手背静脈の怒張消失
  • いわゆる座位アンサム徴候は陰性と判断
  • 本例の最終的な診断は肺高血圧(CTEPH
😀 コメント
  • 末梢表在静脈は静脈弁や筋肉の影響などで,頚静脈ほど中心静脈圧を正確に反映しないと思われています(多分).
  • しかし末梢静脈圧と中心静脈圧を侵襲的に同時測定した研究では両者の差はわずか<1 mmHgでした(過去の投稿
  • 本例では利尿薬である程度コントロールされた肺高血圧の病態を,末梢静脈が比較的忠実に反映していたと思われます.

👻「今週の一枚」の過去の投稿は コチラ松下ERランチ・カンファレンスの名物コーナー)

松下記念病院 川崎達也)

2024-08-26

ついにデータが...

  • 心臓アミロイドーシスでは左室肥大を呈するにも関わらずⅣ音(S4)があまり認められません.おそらく心房筋にもアミロイドが沈着して心房の機能が低下しているためと考えられます.ただしいずれもエキスパートオピニオン 😐
  • 今回,高知大学の山崎先生らのグループがこの問題に対する自験例での解析結果を報告されました(ESC Heart Fail 2024 Aug 1. Online ahead of print).とても素晴らしい臨床研究なので本コンテンツにもアップしておきます😁

  • 対象 心音図を施行したATTRwt-CM患者76名(平均80歳)を後向きに評価
  • 方法 S4あり洞調律(SR),S4なしのSR,非SRの3群の臨床背景と予後を検討
  • 結果 SR患者でS4あり例はS4なし例よりBNPが低値で左房の収縮機能が保持
  • 予後 S4なしSR例は他2群と比較し短期予後不良(一般化ウィルコクソン検定)
  • 結論 S4の欠如(SR患者の53%)はATTRwt-CM患者の短期予後不良の前兆



👉「論文」の過去の投稿は コチラ(ウェブ版なら画面右の分類からも選択可)

松下記念病院 川崎達也)

2024-08-22

酷暑もあと少し?

虚血性心疾患でフォロー中の症例(座位)

😊 解説
  • 外頚静脈を明瞭に視認(矢印) ➜ 静脈圧上昇?
  • ネックックーラーを外すと外頚静脈は視認不能
  • 深吸気負荷で内頚・外頚静脈ともに視認できず
  • フィジカル所見から心不全状態ではないと判定
  • 自覚症状はなく予定採血のBNP値も正常範囲内
  • 最終的に首掛けクーラーによる偽陽性と考えた
👔 ネッククーラー
  • このneck coolerがいつ頃から使われているのか知りませんが(首かけ扇風機よりは後発?),今年は特に見かけるようになりました.保冷剤による冷却効果だけではなくて,冷却プレートへの通電で直接冷やすタイプもあるようです.
  • 本症例には心不全の既往はなかったのですが,今までなかった外頚静脈が目立ち「あれっ?」と思いました.しかしネッククーラをしたままで吸気負荷を追加したら外頚静脈は見えなくなりました(上記動画には含まれていません).
  • 長い歴史をかけて磨き上げられた身体所見ですが,時代とともにアップデートしていく必要があります.コロナ禍以降は診察室でもマスク装着がスタンダードになったため,それを加味した判定などです(一例:マスクでマスク

松下記念病院 川崎達也)

2024-08-19

第21回 循環器Physical Examination講習会より


循環器Physical Examination講習会は故・吉川純一先生が2003年に立ち上げられた身体所見に関する研究会です。「生きた physical examination」を体感・習得して、「感動できる」ものにしていきたいと思っています。毎週情報発信をしているので,よければSNSでフォローしてみてください.


👻「フィジカル講習会」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

松下記念病院 川崎達也)

2024-08-15

左優位② Lefty JVP (part 2)

労作時の息切れを訴える女性(座位)

😐 解説
  • 頸部の左側が周期的に拍動している(矢印)
  • 触診で静脈性の拍動を確認(心不全と診断)
  • 深吸気で右側にも明瞭な拍動が出現(矢頭)
  • 本例は最終的に心不全(PEF)と診断された

💙 なぜ左?
  • 左側優位の内頚静脈拍動は稀です.今までに内臓逆位(ココ)やペースメーカ(ココ)に関連した症例を経験したことがあります.
  • 本例には乳がんの手術歴がありました(ただし術式は未確認).また胸部CTでは右腋窩〜頚部のリンパ節郭清が示唆されました.
  • 本例ではこれらの影響で安静時に左側の内頚静脈の拍動が目立ったのかもしれません(もっとも吸気後は右側が目立ちましたが...😯)

松下記念病院 川崎達也)

2024-08-12

👴 歴史クイズ

(Public Domain)



松下記念病院 川崎達也)

2024-08-08

👺 低下だけではありません

心雑音と動悸で受診した症例

💀 解説
  • ABI(足関節上腕血圧比)低下なし(むしろ高値)
  • 下肢血圧が高値(通常は下肢が10~20mmHg↑)
  • その差>20mmHgでヒル徴候(Hill's sign)陽性
  • 心エコー図では右冠尖bending+重症AR(下図)


👀 ヒル徴候(Hill's sign)
  • 英国の生理学者Sir Leonard Erskine Hill(1866–1952)が発見(過去の投稿).一回拍出が増加した速脈で出現することがある.ただしその機序はシンプルではない(過去の投稿).
  • 臨床現場ではヒル徴候は大動脈弁逆流に多い(60mmHg以上の差なら重症AR).肥満低換気症候群 OHS に生じた高心拍出性の心不全でヒル徴候が陽性だった症例の経験あり(ココ).
  • ABI低下の有無を見る検査のため,実際の血圧値をあまり見ていない方も少なくないのでは?(投稿者を含む😓)本例のような症例もあるためABI値だけでなくて実測値も要確認.
  • なおABI検査は心音マイクを装備しているので簡易な心音計として活用可能です.特にマイクを心尖部に置けば,過剰心音を描出してくれます(当院の研究).ただし雑音は苦手?

松下記念病院 川崎達也)