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2025-09-15

フィジカルクイズ(No. 21 & 22)

  • 循環器Physical Examination講習会は故・吉川純一先生が2003年に立ち上げられた身体所見に関する研究会です.「生きた physical examination」を体感・習得して,「感動できる」ものにしていきたいと思っています.
  • 2025年4月から毎週末に循環器に関するフィジカルクイズを2題ずつX(旧Twitter)で発信しているので,よろしければフォローしてみてください(@PhysicalExamin1).こちらにも2週分ずつまとめてアップします.



👻「フィジカルクイズ」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

松下記念病院 川崎達也)

2025-09-11

頚静脈波形

  • 頚静脈拍動と中心静脈圧、ドプラ波形の関連を概説する論文(Ther Adv Pulm Crit Care Med 2025 Jul 16;20:29768675251359700)を眼にしました。
  • 頚静脈の波形の分かりやすいイラストがあったのでアップしておきます。なお図の説明文はAIによる自動翻訳を活用(説明文中の引用論文は割愛)

頸静脈拍動(JVP)および頸静脈血流速度(JVFV)の生理学
(A) 心電図(ECG)、心音図(PCG)、および右心房圧(PRA)の時間的関係を示す。PCG の SX は心音を表す。PRA または JVP の上昇波は本文で説明される a波、c波、v波 である。下降波は x下降、x′下降、y下降 と呼ばれる。IC は等容収縮ノッチを示す。灰色で塗られた領域は JVFV を表し、s波(収縮期) および d波(拡張期) を含む。図解は心周期における右心の変化を示し、RA は右心房、RV は右心室を意味する。 (B) JVP の波形記録は19世紀半ばに初めて発表され、12 世紀末から20世紀初頭にかけて Mackenzie によりさらに詳細に発展した。JVP の陽性波は、その解剖学的・生理学的な起源に基づいて命名され、a波は右心房、c波は総頸動脈、v波は右心室 を反映するとされた。Mackenzie はまた、三尖弁逆流症における JVP の病的変化を記載しており、初期には a(心房型) から v(心室型) へと移行することを示した。疾患の初期段階では、顕著な v波 は心房細動(すなわち「心房性」)により生じる。心房収縮が失われることで右心房がうっ血し、右心房圧(PRA)が収縮後期に上昇するため、機能している三尖弁(TV)が心基部方向へ戻る際に高い v波が発生するためである。しかし疾患が進行すると、v波はさらに顕著になり、収縮期の早期に出現するようになる。これは逆流性の血液量が機能不全の三尖弁から逆流するためであり、いわゆる「心室型 v波優位」と呼ばれる。 同様の進行は、肺高血圧患者において Ranganathan と Sivaciyan によって内頸静脈(IJV)ドプラ超音波で記録された JVFV でも報告されており、以下で述べる。(C) JVFV は 装着型ドプラ超音波 によって測定され、これについても以下で記載する。

Sivaciyan と Ranganathan が提唱した頸静脈血流速度(JVFV)の分類システムの模式図
詳細は本文を参照のこと。ここおよび図1において、右心房方向への JVFV は y軸の下向きに、頭部方向への血流速度は y軸の上向きに示されている。 仰臥位では、最上段のパターン(s > d)が正常であり、持続的な逆行性 a波は認められない。大きな逆行性 a波および v波は、単相性拡張期パターン(ここでは表示されていない)で観察されることがある。 逆行性収縮期速度(最下段のパターン)は、臨床的に重要な**三尖弁逆流(TR)**を示す典型的な所見であるが、房室解離において心房収縮が閉じた三尖弁に対して生じる場合にもみられる。この場合、逆行性収縮期速度は不規則である。 略語: RA = 右心房 RV = 右心室 TAPSE = 三尖弁輪収縮期移動量(tricuspid annular plane systolic excursion)

😇 おまけ

上記論文では当院で行った頚静脈の臨床研究を4編も引用してもらいました 😊 謝謝
  1. Kasai K, Kawasaki T, Hashimoto S, Inami S, Shindo A, Shiraishi H, Matoba S. Response of Jugular Venous Pressure to Exercise in Patients With Heart Failure and Its Prognostic Usefulness. Am J Cardiol 2020;125:1524-1528 ➜ 日本語の解説
  2. Shako D, Kawasaki T, Kasai K, Sato Y, Honda S, Sakai C, Harimoto K, Shiraishi H, Matoba S. Jugular Venous Pressure Response to Inspiration for Risk Assessment of Heart Failure. Am J Cardiol 2022;170:71-75 ➜ 日本語の解説
  3. Kasai K, Kawasaki T, Hashimoto S, Kanehiro C, Yabu S, Shindo A, Matoba S. Jugular Venous Pressure and Kussmaul's Sign as Predictors of Outcome in Heart Failure. Int Heart J 2023;64:1088-1094 ➜ 日本語の解説
  4. Noguchi M, Kasai K, Honda S, Sakai C, Harimoto K, Kawasaki T. Jugular Venous Response for Risk Stratification in Heart Failure. Cureus 2024;16:e58423 日本語の解説

松下記念病院 川崎達也)

2025-09-08

Gerhardt sign ゲルハルト徴候

  • 大動脈弁逆流で出現する左上腹部の拍動(脾臓の収縮期拍動)
  • 命名はドイツの医師 Carl JAC Gerhardt(1833-1902)に由来
  • ただし脾臓の動脈性拍動の初報は Nicolaes Tulp (1594–1674)
  • ザイラー徴候とも呼ばれている(Am Heart J 1928;3:447-53

 

😐 コメント
  • 上記の動画はローゼンバッハ徴候(大動脈弁逆流による肝拍動)でリンクした動画と同じものです.脈圧の開大(大脈)に伴う肝拍動と脾臓拍動は基本的に同じ現象ですが,ネット上に動画としてはほとんど検索しません.綺麗な動画が記録できたらぜひアップをお願いします(投稿者も努力します) 

松下記念病院 川崎達也)

2025-09-04

今週の一枚 🎯

松下ERランチ・カンファレンスの症例ですがフィジカルが関連するのでこちらにもアップしておきます
 
前日からの胸痛を訴える若者(突然発症で吸気時に増悪/気胸の既往歴あり)



松下記念病院 川崎達也)

2025-09-01

フィジカルクイズ(No. 19 & 20)

  • 循環器Physical Examination講習会は故・吉川純一先生が2003年に立ち上げられた身体所見に関する研究会です.「生きた physical examination」を体感・習得して,「感動できる」ものにしていきたいと思っています.
  • 2025年4月から毎週金曜日に循環器に関するフィジカルクイズを2題ずつX(旧Twitter)で発信しているので,よろしければフォローしてみてください(@PhysicalExamin1).こちらにも2週分ずつまとめてアップします.



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松下記念病院 川崎達也)

2025-08-28

教育ビデオ 📺 収縮期逆流性雑音(Systolic regurgitant murmur)

僧帽弁逆流症(Mitral regurgitation: MR)の一例

🎶 解説
  • Ⅰ音とⅡ音の間にある心雑音なので収縮期雑音
  • 雑音の音量は漸増や漸減に欠く箱型(長方形)
  • Ⅰ音とⅡ音は心雑音に埋没するため認識が困難
  • 僧帽弁逆流,三尖弁逆流,心室中隔欠損の3疾患

🎵 コメント
  • フィジカルの巨匠からのアドバイス(過去の投稿)を元に作成した,心音図をなぞりながら音を聴く教育ビデオです(版権放棄かつ利用時の引用記載も不要)
  • 最初は「実際の心音と心音図上の線の動きをあわせるのが大変だな~」と思いましたが,パワーポイントを用いてやってみると意外に簡単に作成できました.

松下記念病院 川崎達也)

2025-08-25

Rosenbach sign ローゼンバッハ徴候

  • 大動脈弁逆流症で出現する右上腹部の拍動(肝臓の収縮期拍動)
  • 由来はドイツの医師Ottomar Ernst Felix Rosenbach(1851–1907)
  • 報告はÜber arterielle Leberpulsation. 1878:4:498-500(コレ?
  • 甲状腺機能亢進で出現する閉眼時の眼瞼の微細な震えも同名徴候

 

😁 おまけ
  • 個人的には甲状腺クリーゼの若者で肝拍動を視診できたことがあります.もちろんこれもローゼンバッハ徴候(Rosenbach sign)と呼んでいい? 

松下記念病院 川崎達也)

2025-08-21

教育ビデオ 📺 収縮期駆出性雑音(Systolic ejection murmur)

大動脈弁狭窄症(Aortic stenosis: AS)の一例

🎶 解説
  • Ⅰ音とⅡ音の間にある心雑音なので収縮期雑音
  • 雑音は漸増・漸減型(ダイアモンド型 or 菱形)
  • よってⅠ音とⅡ音を聴取できる(特にⅡ音!)
  • 例えば大動脈弁狭窄症やHCMの左室流出路狭窄

🎵 コメント
  • フィジカルの巨匠から以下のような内容のメールをいただきました.「講習会では心音図が心音と一緒に動画として提示される.でも聴衆はとてもそれを目で追えない.心音図をなぞりながら音を聴かせるという風にすればとても理解しやすい.」
  • 「心音図は必ずしも実物でなくて絵でもいいですよ」とも言われましたが,せっかくなので実物を使用してみました.本動画は教育用として作成したので,商業目的を除いてご自由にご活用ください(版権放棄かつ利用時の謝辞記載も不要です)

松下記念病院 川崎達也)

2025-08-18

フィジカルクイズ(No. 17 & 18)

  • 循環器Physical Examination講習会は故・吉川純一先生が2003年に立ち上げられた身体所見に関する研究会です.「生きた physical examination」を体感・習得して,「感動できる」ものにしていきたいと思っています.
  • 2025年4月から毎週金曜日に循環器に関するフィジカルクイズを2題ずつX(旧Twitter)で発信しているので,よろしければフォローしてみてください(@PhysicalExamin1).こちらにも2週分ずつまとめてアップします.



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松下記念病院 川崎達也)

2025-08-14

Ⅳ音の深堀

心電図異常を指摘された無症候例

😎 解説
  • 漸増・漸減する収縮期の駆出性雑音あり
  • 前収縮期(拡張後期)に大きな過剰心音
  • 低調成分が主体であるためS4(赤四角)
  • 本例の最終診断は閉塞性肥大型心筋症

😛 追加コメント
  • 洞調律の肥大型心筋症では肥大部位にかかわらずS4を高頻度(約70%)に認める(Circ J  2023;87:1068-74)。
  • なおS4の生じる前提として、心室コンプライアンスの低下あるいは拡張末期圧の上昇に対する心房機能の亢進が必須
  • 増高した心室流入血流が硬い心室を振動させてS4が発生(Tavel ME. Year Book Medical Publishers;1971:44-63)
  • この振動はA波として触知でき(下図),抬起性拍動と合わせて二峰性心尖拍動(double apical impulse)と呼ばれる.
  • なお心房細動ではⅣ音(第4音)は記録されない.また洞調律であっても心房機能が低下すればS4は減弱~消失(


松下記念病院 川崎達也)

2025-08-11

Ⅲ音の深堀

息切れを主訴に受診した症例

😎 解説
  • 心尖部に拡張早期の大きな過剰音を認める
  • S2の約140ms後に出現する低調音(四角)
  • これらの特徴はS3(Ⅲ音/第3音)に合致
  • 本例は最終的に拡張型心筋症と診断された
😛 追加コメント
  • Ⅲ音の機序として,左室充満圧(≒左房圧)の上昇による左室急速流入速度の増大とその突然の停止が推察されている(Jpn Heart J 1976;17:150-62
  • その圧変化は心尖拍動図の急速流入(RF: rapid filling)波として触知することができる(下図参照:上図よりS3が小さいのは心尖に圧端子を置くため)
  • 本例では減弱したS1にも注目(通常は心尖部側でS1>S2).左室収縮力が低下すると左室圧の上昇が緩徐でS1が減弱(Am J Cardiol 1971;28:140-9


松下記念病院 川崎達也)

2025-08-07

頚静脈の座位定性法の弱点

労作時の息切れで来院した症例(座位)


🐝 解説
  • 右頚部腫瘍(30年著変なし)
  • 安静座位で頚静脈は視認せず
  • 深吸気負荷後も頚静脈は陰性
  • 心音は明瞭なギャロップあり
  • BNPは著増(>1000 pg/ml)
  • 心エコー図で左室駆出率18%

🐙 頚静脈の座位定性の弱点

身体所見は診断特異度は高いのですが,感度が少し劣るという共通した問題点があります(評価者のばらつきもですが😑).一方,頚静脈の座位定性(シンプル頚静脈)は感度も特異度も臨床的には十分すぎるくらい高いと思われます.ただし特定の病態では役立たないと感じることもあるので,以下に列記してみます.

松下記念病院 川崎達也)

2025-08-04

フィジカルクイズ(No. 15 & 16)

  • 循環器Physical Examination講習会は故・吉川純一先生が2003年に立ち上げられた身体所見に関する研究会です.「生きた physical examination」を体感・習得して,「感動できる」ものにしていきたいと思っています.
  • 2025年4月から毎週金曜日に循環器に関するフィジカルクイズを2題ずつX(旧Twitter)で発信しているので,よろしければフォローしてみてください(@PhysicalExamin1).こちらにも2週分ずつまとめてアップします.



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松下記念病院 川崎達也)

2025-07-31

サロンパスにも負けず

息切れで来院(座位)

😋 解説
  • 首に貼られたシップで頚静脈評価は困難?
  • しかしよく見ると頚部の中央に明瞭な隆起
  • しかも耳垂直下まで陽性拍動を確認できる
  • その後の検査で非代償性心不全を確認した

😎 現場実況
  • 本例はシップを見た瞬間に「これでは判定できないな」と安直に考えてしまい,頚部中央の明瞭な拍動に気が付くのに少し時間を要した.頚静脈拍動は用手的に圧迫できる弱い拍動であるが,最重症の陽性波(三尖弁逆流によるランチシ徴候が多い)はかなり力強い.実際に,本例も指で押さえてもなかなか消失しなかった.
  • 本例では動画の途中に大きな呼吸をしていることにも注目して欲しい(吸気負荷は未実施である).このように自発的な大きな呼吸も心不全所見の一つと考えられる(特にコロナ以降のマスク装着時).なお通常呼吸時に耳下まで達する陽性波を呈する頚静脈拍動は,深吸気負荷でさらに悪化することは少ないと思われる.
  • 本例は心電図で右脚ブロック+左軸偏位+ウェンケバッハ型2度房室ブロックであった(三枝ブロックならぬ四枝ブロック?😁).心電図検査後にもう一度,頚静脈拍動を見直したが,ウェンケバッハ型2度房室ブロックとは自信をもっては言えなかった(反省:同様の過去の経験).理論的にはほとんどすべての不整脈は,頚静脈+頚動脈所見(または橈骨動脈触知)で鑑別できるのだが…(匠の業

松下記念病院 川崎達也)

2025-07-28

リンカーン徴候 Lincoln sign

  • 大動脈弁逆流症による大脈のため膝窩動脈が過度に拍動して下肢が周期的に動く現象
  • 同疾患で頭部が心拍に一致し前後にゆれるド・ミュッセ徴候(de Musset sign)の足版
  • 命名はこの所見を示した第16代アメリカ合衆国の大統領 Abraham Lincoln(1809-1865)
  • 1863年にガードナーが有名な写真 ビッグフット を撮影し左足のぼやけを指摘(下図)
  • ジャーナリストのブルックスが膝窩動脈の拍動で脚が僅かに動いた可能性を提唱した
  • 1961年医師ゴードンが身体的特徴からリンカーンはマルファン症候群であったと推測
  • 1964年シュワルツは彼のマルファン症候群の特徴に関する更なる系譜学的証拠を提示


左足先のみピントがぼけている点に注目

💀 追加コメント
  • リンカーンがマルファン症候群であったかどうかは今もって不明だそうです(DNAは未公表).著名な遺伝学者ビクター・マキュージックは、その確率を50:50としています(Nature 1991;352:279-81).ちなみに彼は暗殺された初めての米大統領です.
  • 本徴候は膝をうまく組んで(体側の膝の真上に膝窩動脈),下肢の力を抜くよう指導など,一定の条件を満たさないと出現しないと予想します.以前に大動脈弁逆流での足背動脈のコリガン脈を記録したことがありますが,とても微妙な所見でした(ココ
  • 骨シンチグラフィにもリンカーン徴候と呼ばれる所見があるようです.下顎骨への核種の取り込みが過剰に亢進した(まるで黒ひげ)状態で,SAPHO症候群や骨パジェット病,悪性腫瘍転移,薬剤性顎骨壊死,副甲状腺機能亢進症などで認めるようです.

松下記念病院 川崎達也)

2025-07-24

本例は中等症~重症の心不全

下腿浮腫で来院した大動脈弁置換術後例(座位)

😋 解説
  • 安静座位で頚部中央に陥凹を認める
  • 深吸気の負荷で一見、拍動が消失?
  • よく見ると顎下に明瞭な陥凹(矢印)
  • 非代償性心不全と考え利尿薬を追加

😎 コメント
  • 心不全の「シンプル頚静脈©」は,拍動を視認するか否かの定性法ですが,慣れてくれば定量法にも挑戦してみてください.
  • 本例は中心静脈圧(≒右房圧)の上昇が中等症~重症の心不全と判定できるでしょうか.大まかな目安は下表をご参考に💁

軽症 中等症 重症
拍動の上縁 鎖骨上窩 頚部中央 顎下
負荷の有無 吸気保持で早期のみ拍動 吸気保持で拍動持続 安静時に拍動
拍動の様式 二峰性の陥凹 一峰性の陥凹 隆起



松下記念病院 川崎達也)

2025-07-21

フィジカルクイズ(No. 13 & 14)

  • 循環器Physical Examination講習会は故・吉川純一先生が2003年に立ち上げられた身体所見に関する研究会です.「生きた physical examination」を体感・習得して,「感動できる」ものにしていきたいと思っています.
  • 2025年4月から毎週金曜日に循環器に関するフィジカルクイズを2題ずつX(旧Twitter)で発信しているので,よろしければフォローしてみてください(@PhysicalExamin1).こちらにも2週分ずつまとめてアップします.



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松下記念病院 川崎達也)

2025-07-17

MR=鎖骨放散・小

健診で心雑音を指摘された症例

😎 解説
  • 心尖部で収縮期雑音を聴取する
  • Ⅱ音(S2)不明瞭で逆流性雑音
  • 右鎖骨(上)では雑音は不明瞭
  • 心エコーで僧帽弁逆流を認めた
😛 追加コメント
  • 大動脈弁狭窄の収縮期駆出性雑音と異なり(自験例)、僧帽弁逆流の雑音は鎖骨にあまり放散しない。息止めをしない聴診では、呼吸音に埋もれて雑音を認識することが難しい。是非ASとの鑑別に利用したい。
  • MRでは逆流性雑音がⅡ音を超えるため、Ⅱ音の認識が困難になる。ただしこの原則は心尖部では当てはまるが、肺動脈弁領域ではあてにならない。その理由はⅡ音の肺動脈成分(2P)を聴取するためである。

松下記念病院 川崎達也)

2025-07-14

もし座位で認めれば…(フィジカルの高み)

心電図異常+労作時の息切れ(座位)

👼 解説
  • 安静呼吸時には頚部に拍動を視認せず
  • ただし稀に陽性波? ➜ キャノンa波
  • 深吸気保持で陽性波が連続出現(矢印)
  • 脈触診併用で同波は収縮期直前(a波)
  • 本例の最終診断は両心室肥大型心筋症

👳 独り言
  • 肥大型心筋症ではa波が明瞭になることが多いと思います.当院の研究でも7割以上の症例でa波を視認しています.ただしこの数値は臥床であって(典型的な自験例),座位でa波を認める症例は10%にすぎません.座位のa波視認は,HCMのフィジカル診断に対して感度10%ながら特異度は100%
  • 座位でa波を認める他疾患は3度房室ブロック(自験例)や期外収縮(自験例)によるキャノンa波です.その機序は右房収縮時に三尖弁が閉鎖しているためです(この場合はa波が規則正しく出現しないので視診でも鑑別可能).三尖弁狭窄では規則正しいa波ですが超稀(腫瘍による類似病態の自験例
  • HCMでa波が目立つ機序は右房の後負荷増大(≒右室のコンプライアンス低下)です.よって右室肥大を有する肥大型心筋症ではa波が目立ちやすいと思います(左室肥大のみでもベルンハイム効果のため右室コンプライアンスは低下).右室肥大を伴うHCMの頻度は1~2%と稀ですが(PLoS One 2017;12:e0174118),ぜひ右心系HCMのフィジカル診断に挑戦してみてください.

松下記念病院 川崎達也)

2025-07-10

AS=鎖骨放散・大

健診で心雑音を指摘された症例

😎 解説
  • 心尖部で収縮期の雑音を聴取
  • Ⅱ音(S2)明瞭で駆出性雑音
  • 右鎖骨(上)でも雑音は明瞭
  • 心エコーで大動脈弁狭窄あり
😛 追加コメント
  • 大動脈弁狭窄の収縮期駆出性雑音は鎖骨や頚部に放散する(ことが多い)。頚部は呼吸止めをしないと聴診が難しいが、鎖骨では息止めは不要。呼吸音にかき消されない大きな雑音があればASが多い。
  • やり方は聴診器の膜部を鎖骨上にのせるだけ(左右どちらでもOK)。MR雑音では鎖骨への放散が小さいため(雑音が呼吸音に埋もれる)、両者の鑑別に役立つ。ちなみに本例では大きなⅣ音あり。

松下記念病院 川崎達也)

2025-07-07

フィジカルクイズ(No. 11 & 12)

  • 循環器Physical Examination講習会は故・吉川純一先生が2003年に立ち上げられた身体所見に関する研究会です.「生きた physical examination」を体感・習得して,「感動できる」ものにしていきたいと思っています.
  • 2025年4月から毎週金曜日に循環器に関するフィジカルクイズを2題ずつX(旧Twitter)で発信しているので,よろしければフォローしてみてください(@PhysicalExamin1).こちらにも2週分ずつまとめてアップします.



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松下記念病院 川崎達也)

2025-07-03

シンプル頚静脈の半定量評価:時間編

心不全で通院中の症例(座位)

😋 解説
  • 安静で頚部に拍動なし(重症心不全なし)
  • 深吸気負荷で鎖骨上窩に拍動出現(矢印)
  • 深吸気を保持したが拍動は速やかに消失
  • 本例はHFpEFで症状は長年安定している

😎 コメント
  • 心不全の「シンプル頚静脈©」では,拍動を視認するか否かの定性法を採用しています.しかし拍動上縁の位置を考慮した半定量評価も可能です(鎖骨上窩=軽症,頚部中央=中等症,顎下=重症:過去の投稿
  • 上記の位置に基づく半定量法に加えて,本例のように拍動の持続時間を考慮した半定量法も可能です.つまり安静時に拍動=重症,深吸気後に拍動持続=中等症,深吸気持続で早期のみ拍動=軽症(本例)です.

松下記念病院 川崎達也)

2025-06-30

夢叶う2 Dreams come true 2

  • 心不全臨床では負荷を併用した頚静脈の座位定性法がとても有用です
  • 5-ステップで学ぶ無料アプリ「シンプル頚静脈」を昨年公開しました
  • 日本語版は総説やSNS,講演などで宣伝する機会がある程度ありました
  • 実は海外展開を念頭に英語版も同時にリリースしていました(コチラ
  • 今回,国際誌にアプリが掲載されました(ESC Heart Fail 2025 May 27

😎 舞台裏
  • はじめに米国の雑誌に投稿しましたが,あっさりreject.でもこれは想定内でした.(内容はともかく)アプリの掲載はとてもリスクがあるからです(スパムを組み込むことも技術的に可能).今回の雑誌にも期待せずに投稿しました.3日後に返事があったので「やっぱりダメだな」と思っていたら,ともて高評価.実際にその1週間後(投稿10日後)に出版されました.
  • 本邦の心不全ガイドライン(2025.3更新)への収載が一つ目「夢叶う Dreams come true」で,今回の海外展開が二つ目の「夢叶う Dreams come true」です.そしていつか,海外のガイドライン収載へ…これは三つ目の「夢叶う Dreams come true」になるでしょうか😃

松下記念病院 川崎達也)

2025-06-26

「とりあえず吸気負荷」

久しぶりに外来を受診した心不全例(座位)

🐤 解説
  • 息遣いが荒く頚部拍動の有無は判定難
  • 吸気で鎖骨上窩に明瞭な拍動(矢印)
  • 本例はHFrEFで怠薬後に息切れを自覚
  • その後の精査で心不全増悪を確認した
🐣 独り言
  • 負荷を併用した頚静脈の座位定性法(シンプル頚静脈)では,安静時に拍動を認めれば負荷を追加する必要はありません.ただし本例のように頚静脈の拍動なのか呼吸に伴う変化なのか分からない症例を時々経験します.そのようなときには「とりあえず負荷をかけてみる」のがいいと思います.特に吸気負荷なら手間もかからず,負荷に対するリスクもほとんどありません.


松下記念病院 川崎達也)

2025-06-23

フィジカルクイズ(No. 9 & 10)

  • 循環器Physical Examination講習会は故・吉川純一先生が2003年に立ち上げられた身体所見に関する研究会です.「生きた physical examination」を体感・習得して,「感動できる」ものにしていきたいと思っています.
  • 2025年4月から毎週金曜日に循環器に関するフィジカルクイズを2題ずつX(旧Twitter)で発信しているので,よろしければフォローしてみてください(@PhysicalExamin1).こちらにも2週分ずつまとめてアップします.



👻「フィジカルクイズ」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

松下記念病院 川崎達也)

2025-06-19

今週の一枚 🎯

心不全で入院中の男性



松下記念病院 川崎)

2025-06-16

心音クイズ(Q9・Q10)

  • 持田製薬さんと作成している心音クイズのシーズン2 第一弾です(GROUP T inc.さんにも感謝 🙏).今回は「怠けていると言われていた若者」と「検診で心雑音を指摘された無症候例」の2症例です.現場で役立つコツにも触れています.
  • 今後も3ヵ月毎に2症例ずつアップする予定です(次回は2025年8月の予定).無料なのでよろしければご覧ください(※Q3以降は初回のみ簡単な登録が必要).一緒に聴診学の楽しさと奥深さを共有できれば作成者としては嬉しい限りです 😁


松下記念病院 川崎達也)

2025-06-12

Ⅳ音消失し頚静脈出現

急に息遣いが荒くなった症例(座位)

😊 解説
  • 呼吸と嚥下に伴う頚部の動きが目立つ
  • 内頚静脈の拍動を判定することは困難
  • 吸気負荷後も内頚静脈はやはり難しい
  • しかし外頚静脈の拍動は明瞭(矢印)
  • 最終診断は心房細動による心不全悪化

💁 独り言
  • 本例の基礎疾患は肥大型心筋症でした.同疾患では左室コンプライアンスが低しているため,心房は常に過負荷状態です.左室への血液充満に対する心房の果たす役割が大きく,心房細動を生じたときのダメージは他の疾患より大と思われます.いわゆる「HCMでS4消失し頚静脈出現」というやつです.
  • 肥大型心筋症では洞調律にも関わらずⅣ音を認めない症例が少なからず存在します.このような症例では運動耐容能が低下し(当院の臨床研究),心血管事故も多い(当院の臨床研究)と思われます.でもⅣ音が明瞭でも油断は禁物です.心房に頼る血行動態が,細動で一気に破綻することがあります.

松下記念病院 川崎達也)

2025-06-09

フィジカルクイズ(No. 7 & 8)

  • 循環器Physical Examination講習会は故・吉川純一先生が2003年に立ち上げられた身体所見に関する研究会です.「生きた physical examination」を体感・習得して,「感動できる」ものにしていきたいと思っています.
  • 2025年4月から毎週金曜日に循環器に関するフィジカルクイズを2題ずつX(旧Twitter)で発信しているので,よろしければフォローしてみてください(@PhysicalExamin1).こちらにも2週分ずつまとめてアップします.



👻「フィジカルクイズ」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

松下記念病院 川崎達也)

2025-06-05

息切れ:心 vs 肺

労作時の息切れで受診した症例(座位)

解説 💨
  • 胸鎖乳突筋の肥大・発達(他部は陥凹)
  • 吸気で頚部が全体的に陥凹(陥没呼吸)
  • 気管短縮と呼気時間延長もありそう?
  • 通常呼吸で内頚静脈の拍動は視認せず
  • 吸気負荷でも内頚静脈の拍動は見えず
  • 最終診断は肺疾患(非心原性)息切れ

肺疾患の身体所見 💦
  • 慢性閉塞性肺疾患 COPD などの肺疾患では,胸鎖乳突筋の肥大・発達,気管短縮,呼気時間延長,陥没呼吸フーバー徴候などが知られています.
  • 経過の長い例では胸はビール樽状胸(barrel-shaped thorax)や後彎(kyphosis)を伴うこともあります.もっとも日本人では稀なようですが...
  • 胸郭の伸展性低下も重要だそうです.親指を棘突起に向けて手をあて深吸気による可動性を確認(正常では4~6cmは拡大するがCOPDでは低下します)


松下記念病院 川崎達也)

2025-06-02

心尖拍動の呼吸負荷(座位)

心機能の評価目的で来院(座位)

👉 解説
  • 座位で明瞭な心尖の拍動を認める(矢印)
  • 持続時間の長い抬起性拍動で心肥大の疑い
  • 拍動の最外側部は左乳輪外で心拡大の疑い
  • 矢印の上下肋間にも拍動あり心拡大に合致
  • 拍動は吸気で不明瞭化,呼気で明瞭化した
  • 本例はLVEF 20%で遠心性心肥大を認めた

👍 現場実況
  • 患者さんとの初診時の挨拶前,頚静脈に注目していたが拍動を視認しなった.「心不全であっても代償されているのかな~」と思っていた.実際にご本人も,「日常生活では息切れなどの自覚症状はない」と述べた.
  • しかし(動画から分かるように)荒い息遣いが気になった.こういう場合は,日常生活を無意識に制限しているか,認知症を合併してることが多い(非代償性心不全でも自覚症状がないという認知症の自験例 → ココ
  • 本例には明らかな認知機能障害はないようなので,極めて狭い範囲での生活が予想された.心不全(HFrEF)に対するGDMT(guideline-directed medical therapy/診療ガイドラインに基づく標準的治療)を開始
  • 本例の心尖拍動は吸気時に不明瞭化し,呼気時に(少し?)明瞭化している.これは呼吸に伴う胸郭容積の変化を考慮すれば納得いく変化.心尖拍動の評価時には,頚静脈と異なり呼吸負荷は不要(と思っています)

松下記念病院 川崎達也)

2025-05-29

頚部で動脈拍動と静脈拍動を同時に視認すれば…part 2

息切れで来院した症例(座位)

👼 解説
  • 頚部全体が周期的に隆起(動脈 or 静脈)
  • 下部~上部がほぼ同時の隆起で動脈の疑い
  • 吸気で外頚静脈の怒張(膨隆+拍動なし)
  • クスマウル徴候陽性→右房圧の上昇の疑い
  • 最終的に中等度のARを伴う心不全と診断

👳 独り言
  • 先日,頚部で収縮期に動脈拍動(隆起=コリガン脈)と静脈拍動(陥凹=右房圧の上昇)を同時に視認した高心拍出性の心不全例を経験(ココ
  • 本例は少し違うパターンの動脈拍動と静脈拍動が併存した高心拍出性の心不全です.この2例は一週間ほど間に連続して当科を紹介受診しました.
  • 臨床現場では不思議と「このように稀な症例が続くんだ~」と感じることがあります.しかし実は今まで気づいてなかっただけかもしれません...😅

松下記念病院 川崎達也)

2025-05-26

フィジカルクイズ(No. 5 & 6)

  • 循環器Physical Examination講習会は故・吉川純一先生が2003年に立ち上げられた身体所見に関する研究会です.「生きた physical examination」を体感・習得して,「感動できる」ものにしていきたいと思っています.
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松下記念病院 川崎達也)

2025-05-22

2PとS3の聴き比べ

倦怠感を自覚している症例

😎 解説
  • 第3肋間胸骨左縁(3L)でS2が明瞭に分裂している。健康な成人でもしばしば分裂するが(特に吸気時)、通常は前半(2A、大動脈弁成分)が後半(2P、肺動脈弁成分)よりも大きい。本例のように2Pが2Aよりも大きい場合、肺高血圧が示唆される。肺高血圧で2Pが亢進する機序は、収縮末期に肺動脈と右室間の圧較差が大きくなり肺動脈弁の閉鎖速度および閉鎖後の振動が増加するためと考えられている。本例では心尖部で大きなS3も認め、最終的に拡張型心筋症による左心不全と診断された。
😛 深堀
  • 2Pは高調成分が主体であるため、その聴取には特別な技術は要らない。エルプ領域(2L~3L)で聴診器の膜を用いて評価すればよい。しかし2Pが亢進していると判断するにはある程度の慣れが必要である(英語の疑問文のように上がり調子↗)。S3が鑑別に含まれるが、通常S3は心尖部に限局する低調音で聴診器の膜では聴取できない。また2PとS3は出現するタイミングも異なる(目安:2A-2P間隔は~70ms、2A-S3間隔は100~200ms)。2P亢進とS3が共存する本例で、その音感やタイミング、出現場所の違いを実感して欲しい。繰り返すが聴診のコツは耳で覚えること。お気に入りの曲のイントロと同じ😊

松下記念病院 川崎達也)

2025-05-19

腹部大動脈瘤による重複脈(Dicrotic Pulse)

  • 定義 大動脈瘤に関連し,1心周期中に2つの異なる脈波が発生した状態(収縮期上昇+低い重複切痕+顕著な拡張期上昇)
  • 機序 正常大動脈と大動脈瘤のインピーダンスの急激な変化により、瘤の近位端と遠位端の両方で脈波の反射が発生する
  • 成分 心収縮によって生成される前方脈波および大動脈瘤から反射された後方脈波との相互作用による異常な動脈圧波形
  • 病態 重複脈(または重拍脈)を示す他の病態には重症の心不全や心タンポナーデ、循環血液量減少、敗血症などがある

- 腹部大動脈瘤の66歳男性の術前(左)と術後(右)-


松下記念病院 川崎達也)

2025-05-15

ギャロップ → ギャロップ

呼吸困難感を訴える症例(来院時と治療2週間後)

😎 解説
  • 聴診器のベルを用いて心尖部で聴取される独特の音感に注目して欲しい。これは馬が駆けるリズムに似ることからギャロップ(gallop)と呼ばれ、非代償性心不全を示唆する。特に左側臥位で聴こえやすいが、呼吸困難感が強い時に臥床の体位は難しい。荒い呼吸時や騒がしい救急現場での認識は必ずしも容易ではないが、重症心不全を強く示唆するためその臨床的意義は高い。なお治療2週間後にもギャロップは消失していない。
😛 深堀
  • ギャロップを構成する過剰心音にはS3とS4があり、各々S3ギャロップ(心室性奔馬調)やS4ギャロップ(心房性奔馬調)と呼ばれている。S3とS4が重なる重合奔馬調律やS3とS4を同時に認める四部調律という病態もある。本例は来院時は重合奔馬調律で,2週間後は四部調律と考えられた。心不全の治療に伴い心拍数が低下して,重合奔馬調律が四部調律に変化することは臨床現場でしばしば経験される。

松下記念病院 川崎達也)

2025-05-12

フィジカルクイズ(No. 3 & 4)

  • 循環器Physical Examination講習会は故・吉川純一先生が2003年に立ち上げられた身体所見に関する研究会です.「生きた physical examination」を体感・習得して,「感動できる」ものにしていきたいと思っています.
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松下記念病院 川崎達也)

2025-05-08

いつもと少し違う拡張期雑音

急に息切れを自覚するようになった症例

😎 解説
  • 拡張期雑音が急速に減弱して,Ⅰ音(S1)の手前で終了している点に注目.急性の大動脈弁逆流症では左室拡張期圧が急激に上昇するため,拡張期雑音が速やかに減弱して拡張早期~中期に終了する.
  • 一方,慢性の大動脈弁逆流症では,雑音が拡張末期(S1)まで持続する(自験例).本例は心エコー図で,右冠尖の逸脱(fenestration破綻の疑い)による急性の大動脈弁逆流(重症)と診断された.
😛 深堀
  • 慢性の大動脈弁逆流では高調成分が主体の穏やかな雑音であるが(自験例),本例のような急性の大動脈弁逆流では低調成分も加わるため荒々しい(harsh)音になることが少なくない.
  • 本例はエルプ領域(3L)で,雑音に埋没するⅡ音肺動脈成分の亢進が疑われた(下図).これは肺高血圧を反映していると思われる.こんなふうに細部にこだわった聴診は面白いと思う.

松下記念病院 川崎達也)

2025-05-05

頚部で動脈拍動と静脈拍動を同時に視認すれば…

下腿浮腫が悪化した症例(座位)

😊 解説
  • 頚部中央に周期的隆起(動脈 or 静脈)
  • よく見ると周期的な二峰性陥凹(矢印)
  • 陥凹は必ず静脈なので頚部中央は動脈!
  • 吸気負荷で陽性波は変化なし(=動脈)
  • 静脈拍動は筋肉の緊張で見えなくなった
  • 最終診断は連合弁膜症の非代償性心不全

💁 コメント
  • 頚部で動脈拍動と静脈拍動を同時に視認すれば,ぜひ時相に注目してください.頚部の隆起時(収縮期)に内頚静脈が陥凹(x谷)しているはずです.そして頚部の隆起の終了後(拡張期)に頚静脈の二つ目の陥凹(y谷)が出現しているはずです.もっとも座位では静脈圧の伝播速度が動脈よりも遅れるためか,本例では少しぎくしゃくした動きになっていますが…
  • 頚部で動脈拍動と静脈拍動を同時に視認すれば,高心拍出性の心不全が疑われます.動脈拍動は大脈であるコリガン脈を示唆し,静脈拍動は右房圧の高度上昇を意味するためです.なお本例では吸気負荷を行っていますが,安静時に拍動を視認すれば,負荷後に見えなくても心不全です

松下記念病院 川崎達也)

2025-05-01

深堀聴診

心雑音を指摘された症例

😎 解説
  • 拡張期すべてに持続する雑音(全拡張期雑音)を認める.本例のような雑音は灌水様あるいは吹鳴すいめい性(blowing)などと表現され,高調成分が主体である(心音図).
  • 急性の大動脈弁逆流では左室拡張期圧が急激に増加するため、逆流音が拡張中期あたりで終了してしまうことが多い.よって本例は慢性の大動脈弁逆流であると判断できる.
😛 深堀
  • 本例ではⅠ音(S1)が分裂しているように聞こえる.その一部は高調成分が主体であるため(心音図),駆出音が疑われた.駆出音は半月弁の開放により生じると考えられ,日常臨床では大動脈二尖弁で有名である(本例は一尖弁).心エコー図を行う前の聴診でこのようなことを考えると,心エコー図の結果をみるのがもっと楽しくなるかも...

松下記念病院 川崎達也)

2025-04-28

フィジカルクイズ(No. 1 & 2)

  • 循環器Physical Examination講習会は故・吉川純一先生が2003年に立ち上げられた身体所見に関する研究会です.「生きた physical examination」を体感・習得して,「感動できる」ものにしていきたいと思っています.
  • 2025年4月から毎週金曜日に循環器に関するフィジカルクイズを2題ずつX(旧Twitter)で発信しているので,よろしければフォローしてみてください(@PhysicalExamin1).こちらにも2週分ずつまとめてアップします.



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松下記念病院 川崎達也)

2025-04-24

二重罠

息切れでERに搬入された男性(座位)

😐 解説
  • 頚部に周期的に陥凹あり(矢印)
  • 呼吸と同調しているため陥没呼吸
  • 頚静脈の明らかな拍動は視認せず
  • 最終診断は初発心不全(PEF, CS1)
👺 つぶやき
  • 本例の肥満の程度は軽度ですが,顎下や顎のラインが不明瞭なことに要注意.このような症例では,内頚静脈の拍動が観察困難なことが少なくありません(同様の自験例).これは内頚静脈が深部静脈であり,胸鎖乳突筋を介した皮膚面の拍動として描出される以上,不可避です.
  • 陥没呼吸は努力呼吸時に出現する身体所見の一つで,喘息発作時(自験例)や慢性閉塞性肺疾患(COPD)症例(自験例)などの呼吸器疾患で出てくることが多いと思います.本例ではしっかり見ないと「頚部の陥凹で心不全」となり結果は正解ですが...(プロセスは🙅)


松下記念病院 川崎達也)

2025-04-21

感染性心内膜炎:末梢サインの頻度

  • 感染性心内膜炎の身体所見では心雑音と末梢サインに注目します.心雑音や音質変化は感染性心内膜炎を示唆しますが,初診の症例でその判定は困難です.心雑音を認めない症例も3~4割あります(Eur Heart J 2023;44:3948-4042).
  • 一方,末梢サインの感度は低めですが,とても高い特異度を有しています.月間心エコーで原稿依頼を受けたときに,その出現頻度を調べたのでここに記載しておきます(調査した論文は心エコー 2025;26:22-6を参照してください).

末梢サイン 出現頻度
点状出血 0.6~30%
オスラー結節 1.9~10%
ジェインウェイ病変 1.6~10%
スプリンター出血 10~26%

😊 おまけ
  • 感染性心内膜炎のDuke診断基準が2023年に更新(Duke ISCVID基準:Clin Infect Dis 2023;77:518-26)され,末梢サインは臨床診断の小基準として今回も明記されています.心雑音に関しては新規の逆流性雑音に限ると記載
  • 末梢サインは,出現や消退が病期や病勢に影響され,塞栓に由来する所見は左心系の病態に限られますが,高い特異性を有しています.鑑別診断に感染性心内膜炎が含まれる病態ではエコー前に是非,確認したい所見です


松下記念病院 川崎達也)

2025-04-17

今週の一枚 🎯

大動脈瘤を指摘された男性



松下記念病院 川崎)

2025-04-14

フィジカル検定

  • 第22回循環器Physical Examination講習会(2025.3.22-23)で実施した特別企画『フィジカル検定』の解答ホームをリンクします(主催者の許諾を取得済).
  • 実際の問題(身体所見)は供覧できませんが,解答フォームだけでも役立つかと思います(正答と簡単なフィードバックあり).よろしければご覧ください.



松下記念病院 川崎達也)